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達人 ~能ある鷹は爪隠す~

うつ病で薬漬けになり、投薬での治療に限界をむかえていた時、私を救ってくれたのは、気功だった。

およそ達人とは思えない、若干薄くなった髪の毛が印象的なヘラヘラしたおじさん(失礼!)に「まず体内に溜まった毒素を外に出すことから始めるので、薬は一切止めて下さい。それが不安なら、うちでは治療できません。治療を始めても、薬を飲みたくなったらそれでもいいですが、その場合もうちでは治療を中止します。どちらを選ぶかは、あなたが決めて下さい」と言われた。

当時の私は気功が何だか知らなかったし、それでよくなるとも思えなかった。もっとも、そんなことをじっくり考えられるほど、頭は回転していなかったが。

ただ、数か月前にたまたま目にした新聞に『長期に服用すると依存症になることがわかった薬』という記事に、自分の飲んでいる薬が数種類含まれていた。

偶然にもその少し前、大量の薬を服用していたため、実家に帰る際に何種類かを忘れてしまった。他の薬は飲んでいたので大丈夫かと思い一週間ほど飲まずにいたら、ものすごく体調が悪くなって、しばらく寝たきりになった。

新聞の記事を見た時、どうしてあれほど体調が悪くなったのかが分かった。依存していた薬を突然止めたので、その副作用…離脱症状だったのだ。
ところが、次の受診日に医者は今までと同じく、それらの薬を処方してきた。不信感が募ったが、私も他に方法がなく、薬を飲み続けていた。

そんなことがあった後だったので、気功の先生に薬を止めるという話を聴いた時、やってみようと思った。行き止まりかと思ったら、その先に光がさしてきたようだった。

一日おきに気功治療院に通う日々が始まった。それは、離脱症状・好転反応との闘いだった。

めまいに発熱、頭痛に吐き気、倦怠感。15分おきのトイレ…自分の体からいったい何が出たのかと思うほど、便や尿は強烈で異常な臭いがした。汗も臭いや色が強くなり、下着の脇の下や背中など、良く汗をかくところは黄色くなって、洗濯しても取れなかった。

達人に「いつまでこれ続くんですか?」と聞いても、「どのくらい毒素が溜まっているかも、どのくらいづつ出ているかも、わからないからなぁ」と言う。(今思えば、達人にはある程度わかっていたんだろうと思う)

耐えきれずに薬に戻る人も結構いるらしく、それでもいいよと言う。
だが、私は一度決めたらけっこう我慢強いので、3か月は耐えようと決めて、フラフラしながら通い続けた。

そして、決めていた3ヵ月が近くなったある日『何だか身体が違う!!』と、感じた。軽くなってきたというか、今まで重苦しくぼやけていたものが、霧が晴れるようにはっきりしてきたというか…そんな感じだった。

そこから良くなっていき、うつ症状はまだあったものの、何もできないような状態から、少しづつ立ち直っていった。

はっきり言うが、このようなやり方は、危険なのでお勧めしない。というか、止めた方が良い。危ない。減薬は医師の管理のもと進めるべきだ。まあ…私が言うのもおかしいが…経験者は語ると言うべきか。


私は運良く、達人と出会えたが(まあ、気功なんてまやかしと言う人もいるだろうが、そこらへんは置いといて)いわゆる代替医療は、施術者の腕にバラツキが大きく、特に国家試験のない治療法は、本人が意識しているか否かに関わらず偽者も多い。私もとんでもないのに会ったことがある。

余談だけれど――
気功の達人なんて言うと、白い長~いひげを蓄えたいかめしい老人のイメージだが、それとかけ離れた風貌のその先生は、とてもユニークな人物だった。

治療院の玄関を開けると、カウンター越しの手の届くところに現金が置いてある。誰もいない時、先生はいつも、カーテンを引いて施術台に寝ている。

あまりに不用心なので「盗まれるよ~」と私が言うと、ヘラヘラしながら「大丈夫。大丈夫」と言う。「盗もうとしたら、犯人を気功で吹っ飛ばせるの?」と尋ねると、またヘラヘラしてる。たぶん、できるんだろうな~という雰囲気。全然強そうには見えないが(ごめん)

また「人を治せるってことは、殺せるんだよね?証拠のない完全犯罪できるよね?」と冗談混じりに言うと、「そんなことしないよ」と言う。ちょっと粘って「しないだろうけど、できるよね?」と訊くと、またヘラヘラ笑っている。やっぱり…できるんだろうな~という雰囲気(!)

本当の金持ちは、金持ちであることを隠すというけど、本当にできる人はいちいちできるって言わないんだろうな…やっぱり、能ある鷹は爪隠すんだ。


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