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なるほどなあ!って、仕組みに感心──『リテールメディア』読書感想文

最近、マーケティング界隈でよく聞く単語。
いまいちどんなものなのか掴めなくて、日経さんの宣伝広告の口車に乗って買ってしまいました笑

以下、本書を読む前のわたしの疑問を追う形で、内容をダイジェストでご紹介します。


リテールメディアとは?

本書ではこのように定義される。

  • 小売を主体とした、顧客と接点を持つメディア、またはプラットフォーム
    →主な例を挙げると、店頭サイネージ、EC系サイト・アプリなど。

  • コンテンツ/広告の配信管理および検証が可能なもの

なぜ注目されているのか

メーカー(広告主)側のメリット

マーケティングの費用対効果が、従来の手法の広告より高いこと──これが、リテールメディアが注目される理由。

リテールメディアは従来の広告よりも、ユーザーとの接点がより「購買シーン」に近いということが特徴として挙げられる。ユーザーがリテールメディアに接触している時とは、すなわち「買い物をしている瞬間」「買い物を検討している時」だからだ。

人が”お買い物モード”になっている時、つまりその商品が属するカテゴリーの何かを買おうと考えている時にまさに探している商品に近しい商品の広告が(しかもプッシュコンテンツやクーポン付きで)表示されれば、購入の検討の俎上に上がりやすいのは当然といえる。
購買に限りなく近いモードの消費者にアプローチできることは、次の段で述べるようにメーカー(広告主)側の大きなメリットだ。

広告主のメリットはもう一つある。
それが、広告と購買データとを連携できる点だ。
従来の広告だと、広告がクリックされるまでのデータ(購買データはECを介してのごく一部)しか取れなかったものが、リテールメディアでは実店舗での購買実績までを追えるようになった。このように広告接触から購買までを一気通貫で分析可能になったことが画期的だと本書では述べられる。

小売側のメリット

一方、メディアを提供する小売側のメリットはというと、一番はやはり広告収入(しかも高い利益率を上げる事業として)を得られるという点だ。
「小売事業」と「広告事業」という収益構造の全く違う事業を持てることは、企業経営の強化にもつながる。

もともとメーカーと小売は商品を顧客に提供するパートナー関係であるため、従来の商流や関係性に逆らうことなく、より強固なパートナーシップを組む要因になるリテールメディアはプラットフォームの技術さえ整えば現場に受け入れられやすいメディアであったのだともいえる。

日本でのリテールメディアは発展途上

顧客プライバシー

リテールメディアでは基本的にポイントカードやECサイト等の顧客IDを用いて広告と購買情報を連携する。ウェブサイト広告のようにCookieを利用する必要がないため、昨今の厳しい規制による広告精度の低下を招く懸念がないと本書では述べられている。
本書では特に穿った指摘はないが、法規制がないからといってデータの扱いに対し顧客プライバシーに配慮しなくていいかといえばそうではないはずなので、これに関して何かしらの法規制がかかるのは時間の問題なのではないかとも思う。

アメリカと日本の小売事情の違い

先行市場であるアメリカは日本に比べ圧倒的に小売の市場規模が大きく、寡占率も高い。一方日本は中小規模の企業がひしめくような市場形態のため、リテールメディアの導入にあたっては広告の分散化を避けられない。そのため、広告単価自体が上がらないという旨味のない構図になる。

ここからは私見だが、例えば複数の企業が共同で活用できるプラットフォームが開発されるとまた事情が異なるのかなとも思う。しかし問題は誰が開発主体になるか、だ。ベンダーであれば、開発後に継続的に収益を回収できるようなモデルにはしにくそうだから、個別開発の方がお金になるだろしなあ……。
さらに、そのプラットフォーム開発には先立つものが必要だが、そこまでコミットできる体力のある小売企業も日本には少ないという。

広告主側の組織構造も最適化が必要

日本のメーカーでは一般的に小売企業の商品部(バイヤー)に商品を営業する役割を担う「営業部門」と、ブランドの認知/マーケティングを担当する役割を担う「宣伝部門」に分けられることが多い。テレビCMなどマス広告やオンライン広告をはじめとしたメディアへの出稿は宣伝部門が担っているが、リテールメディアは小売企業が展開しているため、同じ「メディア」でも管轄は営業部門というケースがほとんどである。

このような組織構造が、予算や人的リソースの融通やノウハウの共有などがしづらく、リテールメディアへの参入の適正な判断を阻む障壁になっているという。
先ほど挙げた小売側のリテールメディア事業への組織のコミットなども同様だが、ある程度トップダウンでの組織改革が必要な部分なのだろう。

リテールメディアを取り巻く今

リテールメディアを支援するサービスとしては、IDを連携するためのポイントカード決済を提供する企業、媒体であるデジタルサイネージを提供・運営する企業、広告配信技術を提供する企業、アプリの開発・運営をする企業、広告代理店などが挙げられる。

この新しい市場にチャンスを見出し参入を進めている企業は、よくいえばそれぞれに特色のあるサービスを打ち出しているということでもあるし、悪くいえば手探りの乱立状態であるともいえる。どこがどこまでの領域をカバーをしてくれるのかも、よくわからない。
小売側にしてみれば、慣れない戦場で一緒に戦うパートナーを探すのは死活問題であり、しかもその知見も判断材料も不足しているというのが実情ではないかと思う。

結果、何が変わるのか

本書の最後は、リテールメディアの市場浸透により、小売事業に起こり得る5つの変化について触れられている。詳しくは触れないが、リテールメディアが浸透すれば、小売業界・企業の考え方や構造に大きな変革をもたらすきっかけになることは間違いない。

さらにメーカーにとっては、直販とはまた異なった方向から、ユーザーにダイレクトに商品の良さを伝えられるメディアとなるのではないかと著者は述べる。


感想

本書を読んだことで、リテールメディアのことをざっくり把握できました。
新しい仕組み。
プラットフォームの開発にせよ、コンテンツの運用にせよ、データの集計や効果測定についてだって、おそらくメーカー・小売それぞれの現場では試行錯誤の日々が続いているのだろうと思います。
課題は山積しつつも、新しいことに果敢に挑戦し、時に古い考え方をリセットし、少しずつ前に進んでいく方々に敬意を表します。

「小売業が広告事業をはじめる」っていうところに、とにかくインパクトを感じます。

日本においての課題は、本書にもある通り市場において多くの割合をしめる"中小規模の小売店"を巻き込めるか否か。
すでに企業独自ではなく統一(もちろんセミカスタマイズくらいは可能)プラットフォーム開発のうごきがあったりするのでしょうか。
リサーチ、開発、営業、導入支援、運用、費用回収……。莫大なリソースが必要になるし、開発主体の体力がある程度ないとできないし、他の新規事業同様にうまくいくかはわからない。ここをビジネス化できると日本のリテールメディアはぐっと成長する気がします。
しかしこの際は、誰が旗振り役になるんだろうと。これこそDXだと思うけど、その規模と難易度にぞっとするのが本音です。


カオスマップだって。まさに。


#マーケティング
#ビジネス書

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