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欧米では高級肉、美容と健康にも良い、ラム(羊肉)の基礎知識 1


世界中で最も多くの人々が食べる事ができる食肉

子羊肉(ラム肉)は、実は欧米では高級肉である。ヨーロッパや北米の高級レストランや一流ホテルのメインダイニングのメニューには、必ずといって良いほどラムのステーキやローストがある。また、宗教上の理由から世界中で最も多くの地域で食されているのが羊肉である。イスラム教のハラルミート、ユダヤ教のコーシャー、ヒンドゥ教もキリスト教も羊肉を禁忌としてはいない。世界中で最も多くの人々が食べる事ができる食肉である。
 
我国においては、長年マトン臭がするという事で、牛肉や豚肉、鶏肉のようにメジャーな食肉にはなれなかった羊肉であるが、15年程前にテレビ番組でダイエットに良いとして脚光を浴びブームになったことがあった。この時のラムブームは、ダイエットに良い成分のLカルニチンが多く含まれる事をテレビなどマスコミが取り上げたために若い女性を中心に大幅にファンを増やし、首都圏ではほとんどの居酒屋でジンギスカンがメニューに入る程の大ブレークとなった事をご記憶の方もおられるだろう。 
 
さて、なぜ羊肉がダイエットに良いのだろうか? ラムに多く含まれるL-カルニチンとは何か? L-カルニチンとは、筋肉内に存在するアミノ酸の一種で、脂肪を燃焼させるのに欠かせない成分である。 細胞内でエネルギー代謝はミトコンドリアが行っているが、このミトコンドリアに脂肪酸を運び燃焼させる働きがある。L-カルニチンはヒトの体内でも作られているのだが、合成量は非常に少ないため、食事によって補わなければならない。
 
そこで出てくるのが、L-カルニチンが多く含まれているラム肉である。 その含有量は100g当り85.6mgと豚肉の18.8mgの4.5倍となっている。 ラムなど羊肉は、漢方では大熱といって身体(特にお腹)を温める作用があると言われ、脂肪を燃焼させエネルギーを発生させるL-カルニチンの効果が、身体を温める作用となっているのではないかと考えられている。ラム肉は美容と健康に良い食肉と言えるのである。

ラムとマトンの違い 

羊肉には、ラム肉とマトン肉がある。 ラム(Lamb)とは、永久歯が生える前の月齢12ヶ月未満の子羊を言い、12ヶ月齢以上のウール用の綿羊をマトン(Mutton)と言う。 ラムは、食肉用に飼育した肉用種が大部分であり、柔らかく、ほど良いフレーバーがあり、高価格である。
 
それに対して、マトンは元々ウール(羊毛)を取るために飼育している綿羊が、高年齢(5~7年齢)となり羊毛が取れなくなったために食肉用とされた言わば羊毛の副産物であるため、硬くマトン臭が強く低価格である。 すなわち、産乳量が減少した経産牛や卵を産まなくなった廃鶏と同じ様なものがマトンである。 

写真: メリノ種の綿羊 毛糸用のウールを産出 出典:Charles Esson at en.wikipedia

 ジンギスカン料理とプレスハム

昔、昭和30~40年代には食肉の価格が高く、ステーキ(ビフテキ)はもちろんオールポークのロースハム・ボンレスハムなども庶民の口に入らなかった頃、北海道、東北、長野や新潟の一部では、安価なマトンの独特のにおいを緩和するためにニンニクやショウガ、タマネギなどを薬味に入れたタレに漬けたマトンをジンギスカン料理として野菜と一緒に鉄鍋で焼いて食べていた。今日ではほとんどが高級食肉のラム(子羊)でジンギスカン料理が作られているが、ジンギスカン料理の発祥は北日本のタレ漬けマトン焼肉であったのである。
 
また、マトンと言えば、今ではほとんどお目にかかる事の少なくなったものが、原料の一部にマトンを使用したプレスハムやカルパス(ドライソーセージ)である。豚肉自由化以前の昭和40年代半ば迄は、ハムといえばプレスハムであり、サラミと言えばカルパスであった。(今は表示の問題で、マトンを使用したドライソーセージはサラミとは呼べない)
 
当時は主としてプレスハムの原料として年間10万トン以上のマトンが輸入され、大手ハムソー会社は、豪州やNZからマトンを輸入するための数千トン規模の冷凍食肉運搬船を就航させたほどであった。このように当時、多くの日本人は貴重なたんぱく源として羊肉を食べていたのである。ラム肉ブームが来る以前より長年に渡り日本人は、羊肉を食べていたのである。

高価な穀物肥育ホゲットとミルクフェッドラム

ところで、ラムやマトン以外に12ヶ月以上24ヶ月未満の羊をホゲットと呼ぶことをご存じだろうか。米国・豪州などでは、一定期間穀物肥育されたグレインフェッドのホゲット(永久歯が1~2本)もあるが、非常に高価であり我国ではほとんど流通していない。逆に生後4~6週間のベビーラムを欧米ではミルクフェッドラムと呼ぶが、これも非常に高価であり、見かける事は少ない。
 
また、羊にも牛と同じように乳用羊があり、牛乳アレルギーの方が安心して食べられるため、そのまま飲用にされるほかアイスクリームやチーズなどにも利用されている。筆者もイーストフリージアン種の羊乳アイスクリームを食べた事があったが、脂肪分が高く濃厚な味わいであったと記憶している。
 

写真:ヒツジのホルスタインと言われる乳用羊、イーストフリージアン種
出典: EwigLernender at German Wikipedia


写真: 濃厚な羊乳で作ったギリシャ産のフェタチーズ  出典:Dominik Hundhammer wiki

羊の家畜化が始まったのは古代メソポタミアで、紀元前7000-6000年ごろといわれている。それ以来、今日まで羊毛、羊肉、羊乳、ソーセージの天然ケーシング(ソーセージの皮、羊腸から作られるためソーセージは腸詰と言われる)として、羊は人類の役に立ってきた。次回は、1000種以上あると言われる羊の中から、主な品種をピックアップして解説すると共に羊肉の名称と規格について解説したい。 

 


 



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