堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして…

堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして、自分なりに解読してみたいと思います。めざすはあっと驚くような大発見ですが、果たしてどうなりますやら。みなさまもご一緒に楽しんでいただけますと幸いです。

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  • note クラシック音楽の普遍化を達成する

    • 1,344本

    クラシック音楽の歴史や作曲家、作品について、哲学的な視点から分析し、その普遍性や深さを探求する和田大貴のnoteです。クラシック音楽について語り合えることを楽しみにしています。参加希望の方はマガジンの固定記事でコメントしてください。

記事一覧

アナログ派の愉しみ/本◎松本清張 著『天城越え』

わたしは実は過去に ひとを殺しているのではないか?  私は、自分のところで刷ったこの本を何気なく読んで、はからずも遠い少年時代の天城越えを思いだした。トンネルを向…

堀間善憲
1日前
26

アナログ派の愉しみ/音楽◎『ホルショフスキー・カザルスホール・ライヴ1987』

かれにとって音楽と 哲学はひとつのものだった ピアニストは手指をさかんに運動させるからだろう、他の楽器のプレイヤー以上に年齢を重ねても心身の衰えをきたさないケー…

堀間善憲
1日前
18

アナログ派の愉しみ/映画◎メリアン・C・クーパー監督『キング・コング』

トランプ前大統領と 類人猿の怪獣とのこれだけの接点 アメリカのトランプ前大統領が今秋(2024年)の返り咲きをめざし、大集会であれこれの訴訟沙汰について「魔女狩りだ…

堀間善憲
1日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎上西雄大 監督・主演『ひとくず』

子どもの虐待への 新たな視角がそこに 鉛を呑んだよう、と形容すればいいのだろうか。子どもの虐待を伝えるニュースに接するたび、胃袋のあたりが痺れたような感覚に襲わ…

堀間善憲
3日前
20

アナログ派の愉しみ/音楽◎プレヴィン指揮『くるみ割り人形』

映画音楽・ジャズからクラシックまで 百戦錬磨の手腕ならではの アンドレ・プレヴィンは、わたしが同じ時代を過ごすことができて幸せだったと思う音楽家のひとりだ。 19…

堀間善憲
3日前
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アナログ派の愉しみ/本◎フォン・シーラッハ著『コリーニ事件』

こうした真摯なミステリー小説が 日本に出現する可能性は 2001年の初夏、東京・帝国ホテルの一室で殺人事件が起こった。被害者は87歳の大手機械メーカー元社長で、気さく…

堀間善憲
3日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎セシル・B・デミル監督『サムソンとデリラ』

イスラエルとガザが 舞台の狂おしい恋愛劇 往年のスペクタクル史劇、セシル・B・デミル監督の『サムソンとデリラ』(1949年)が、現代のCG技術に馴染んだ目には子ども…

堀間善憲
5日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎シューベルト作曲『ピアノ五重奏曲〈鱒〉』

ふさわしいのは青春の輝きか、 それとも…… フランツ・シューベルトは1817年の春、20歳のときに、詩人シューバルト(紛らわしい名前だけれど)の寓意詩「鱒」に曲をつけ…

堀間善憲
5日前
40

アナログ派の愉しみ/本◎尾崎紅葉 著『金色夜叉』

だれもが真人間で いられなくなった時代に 尾崎紅葉の『金色夜叉』については未完の大作と説明されるのがつねだけれど、本当にそうだろうか? わたしは疑問なのだ。もし…

堀間善憲
5日前
28

アナログ派の愉しみ/映画◎ヘンリー・フォンダ主演『十二人の怒れる男』

そのとき裁判員たちは どのように判断したのか きわめて興味深いケースと言うべきだろう。2016年8月、東京・文京区で4人の子どもを持つ母親が窒息死の状態で見つかり、講…

堀間善憲
8日前
43

アナログ派の愉しみ/本◎井伏鱒二 著『コタツ花』『おふくろ』

ぬめぬめと掴みどころのないものを 描写して天下一品の技 井伏鱒二という作家は、ずっと謎めいた存在だった。どうにも掴みどころがないのだ。20代で書いた『山椒魚』(192…

堀間善憲
8日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎シスタースマイル歌唱『ドミニク』

ザ・ビートルズを超えた ヒットソングの真実  ドミニカ ニカ ニカ この呪文のような言葉を舌の上にのせたとたん、たちまち半世紀ほど前に刷り込まれたメロディがよ…

堀間善憲
8日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎宮崎 駿 監督『風の谷のナウシカ』

あしたはたくさん飛ばなきゃ―― 少女が政治を変革するとき 宮崎駿監督のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年)が目の前に新しい扉を開いたときの衝撃は、いまも鮮や…

堀間善憲
10日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎ベルリオーズ作曲『幻想交響曲』

芸術家とは 一体、何者だろうか? 芸術家とは一体、何者だろうか? 詩人、画家、音楽家……といった職種の呼称とは別に、そこにはもっと根本的な創作態度への問いかけが…

堀間善憲
10日前
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アナログ派の愉しみ/本◎E・H・カー著『歴史とは何か』

歴史とは過去と現在の対話である―― そこに日韓両国の現状打開のヒントが 開いた口がふさがらなかった。ヤン・ウソク監督の映画『弁護人』(2013年)を観ていたときのこ…

堀間善憲
10日前
18

アナログ派の愉しみ/音楽◎ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』

その音楽には 魔性が棲みついている クラシック音楽において、男と女の性愛の闇に最も奥深くまで分け入ったのはリヒャルト・ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』(1865…

堀間善憲
12日前
38

アナログ派の愉しみ/本◎松本清張 著『天城越え』

わたしは実は過去に
ひとを殺しているのではないか?
 私は、自分のところで刷ったこの本を何気なく読んで、はからずも遠い少年時代の天城越えを思いだした。トンネルを向こうに越えた見知らぬ他国、湯ヶ島の途中まで連れになった菓子屋と呉服屋、とぼとぼ歩いてくる振分け荷物と番傘を肩にした大男の土工、きれいな着物をきた若い女、白粉の匂いと柔らかい声、蒼然と暮れゆく天城の山中、その中に小さく咲いた、夕顔のような女

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アナログ派の愉しみ/音楽◎『ホルショフスキー・カザルスホール・ライヴ1987』

かれにとって音楽と
哲学はひとつのものだった

ピアニストは手指をさかんに運動させるからだろう、他の楽器のプレイヤー以上に年齢を重ねても心身の衰えをきたさないケースが多いように見受けられる。往年のコルトー、バックハウス、ルービンシュタイン、ホロヴィッツ、リヒテル……といった名手から、現役のバレンボイムやアルゲリッチなどのスターまで、きわめて長い活動期間を誇っていることは周知のとおりだ。とは言っても

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アナログ派の愉しみ/映画◎メリアン・C・クーパー監督『キング・コング』

トランプ前大統領と
類人猿の怪獣とのこれだけの接点

アメリカのトランプ前大統領が今秋(2024年)の返り咲きをめざし、大集会であれこれの訴訟沙汰について「魔女狩りだ!」と主張するニュース映像を見て、強いデジャヴ(既視感)にとらわれるのはわたしだけだろうか。真紅のキャップとネクタイをトレードマークにして雄叫びをあげる巨体が、あの類人猿の怪獣キング・コングと重なって見えてしまうのである。


メリ

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アナログ派の愉しみ/映画◎上西雄大 監督・主演『ひとくず』

子どもの虐待への
新たな視角がそこに

鉛を呑んだよう、と形容すればいいのだろうか。子どもの虐待を伝えるニュースに接するたび、胃袋のあたりが痺れたような感覚に襲われる。圧倒的に非力な存在に向かって暴力をふるうとは最も卑劣な犯罪ではないか。しかも、そこにある種の快感を味わっているらしいと想像するにつけ吐き気さえ催すのだ。したがって、これまで児童虐待をテーマにした映画も遠ざけてきたところ、レンタルショ

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アナログ派の愉しみ/音楽◎プレヴィン指揮『くるみ割り人形』

映画音楽・ジャズからクラシックまで
百戦錬磨の手腕ならではの
アンドレ・プレヴィンは、わたしが同じ時代を過ごすことができて幸せだったと思う音楽家のひとりだ。


1929年にユダヤ系ロシア人としてドイツに生まれ、ナチスの政権掌握にともなってアメリカへと逃れる。第二次世界大戦の終結後、ハリウッドで映画音楽に携わったり、ウエストコースト・ジャズのピアニストとして活躍したりして(ミュージカル『マイ・フ

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アナログ派の愉しみ/本◎フォン・シーラッハ著『コリーニ事件』

こうした真摯なミステリー小説が
日本に出現する可能性は

2001年の初夏、東京・帝国ホテルの一室で殺人事件が起こった。被害者は87歳の大手機械メーカー元社長で、気さくな人柄で知られ、この日も財界の重鎮として雑誌の取材を受ける予定だった。犯人は67歳の中国人の男で、インタビュアーを装って部屋に侵入するなり4発の銃弾を浴びせて相手を即死させたあと、現場にとどまっていたところを逮捕された。新米弁護士の

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アナログ派の愉しみ/映画◎セシル・B・デミル監督『サムソンとデリラ』

イスラエルとガザが
舞台の狂おしい恋愛劇

往年のスペクタクル史劇、セシル・B・デミル監督の『サムソンとデリラ』(1949年)が、現代のCG技術に馴染んだ目には子どもだましの映画のように映るのも無理ないのかもしれない。しかし、わたしは最近久しぶりに鑑賞して、それはまったくの見当違いだと思い知らされた。すっかり肝をつぶしてしまったのである。


その舞台となっているのがイスラエルとガザで、しかも映

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アナログ派の愉しみ/音楽◎シューベルト作曲『ピアノ五重奏曲〈鱒〉』

ふさわしいのは青春の輝きか、
それとも……

フランツ・シューベルトは1817年の春、20歳のときに、詩人シューバルト(紛らわしい名前だけれど)の寓意詩「鱒」に曲をつけた。内容は、明るい小川を楽しげに泳ぎまわっていた鱒が、漁師のずる賢い手管にだまされて釣り上げられてしまう情景をうたったもの。そのユーモラスで皮肉を利かせたメロディを作曲家自身も気に入ったのだろう、2年後の1819年にピアノ、ヴァイオ

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アナログ派の愉しみ/本◎尾崎紅葉 著『金色夜叉』

だれもが真人間で
いられなくなった時代に

尾崎紅葉の『金色夜叉』については未完の大作と説明されるのがつねだけれど、本当にそうだろうか? わたしは疑問なのだ。もしもそんな決まり文句のために、まるで欠陥品かのように受け止められて読まないひとがいたら惜しいと思う。


紅葉は東大在学中に読売新聞社に入って以降、『三人妻』『多情多恨』などを発表して流行作家となり、29歳のときに満を持して『金色夜叉』に

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アナログ派の愉しみ/映画◎ヘンリー・フォンダ主演『十二人の怒れる男』

そのとき裁判員たちは
どのように判断したのか

きわめて興味深いケースと言うべきだろう。2016年8月、東京・文京区で4人の子どもを持つ母親が窒息死の状態で見つかり、講談社のやり手のマンガ編集者だった夫が逮捕された。その朴鐘顕(パク・チョンヒョン)被告は、裁判で妻の佳菜子さんの自殺を主張しながら、一審・二審で懲役11年の有罪判決が下されたのち、2022年11月21日に最高裁が「重大な事実誤認の疑い

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アナログ派の愉しみ/本◎井伏鱒二 著『コタツ花』『おふくろ』

ぬめぬめと掴みどころのないものを
描写して天下一品の技

井伏鱒二という作家は、ずっと謎めいた存在だった。どうにも掴みどころがないのだ。20代で書いた『山椒魚』(1923年『幽閉』の題で初出)が処女作にして近代文学の古典となってしまうとは、はなはだ異例だろう。日本国民のたいていは教科書で一度は読んでいるのではないか。と同時に、井伏の以後のおびただしい作品を、たいていは一度も読まないでいるのではない

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アナログ派の愉しみ/音楽◎シスタースマイル歌唱『ドミニク』

ザ・ビートルズを超えた
ヒットソングの真実

 ドミニカ ニカ ニカ


この呪文のような言葉を舌の上にのせたとたん、たちまち半世紀ほど前に刷り込まれたメロディがよみがえってくるのはわたしだけではないはずだ。双子の女性デュオ、ザ・ピーナッツが世界的なヒットソングをカバーした『ドミニク』はかつて一世を風靡したにもかかわらず、今日まったく耳にしなくなったのは、歌詞につぎのような一節が含まれているから

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アナログ派の愉しみ/映画◎宮崎 駿 監督『風の谷のナウシカ』

あしたはたくさん飛ばなきゃ――
少女が政治を変革するとき

宮崎駿監督のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年)が目の前に新しい扉を開いたときの衝撃は、いまも鮮やかに記憶している。ごく簡単にストーリーに触れておこう。人類の文明社会を焼き払った最終戦争「火の7日間」から1000年後、世界は環境汚染がもたらした「腐海」の侵食に脅かされながら、なおも覇権をめぐって争いが絶えず、ふたつの列強国にはさま

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アナログ派の愉しみ/音楽◎ベルリオーズ作曲『幻想交響曲』

芸術家とは
一体、何者だろうか?

芸術家とは一体、何者だろうか? 詩人、画家、音楽家……といった職種の呼称とは別に、そこにはもっと根本的な創作態度への問いかけが含まれているようだ。おそらく近代日本でこのテーマに最も鋭敏な問題意識を持っていた芥川龍之介は、アフォリズム風のエッセイ『芸術その他』(1919年)をこう書き出している。


「芸術家は何よりも作品の完成を期せねばならぬ。さもなければ、芸

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アナログ派の愉しみ/本◎E・H・カー著『歴史とは何か』

歴史とは過去と現在の対話である――
そこに日韓両国の現状打開のヒントが

開いた口がふさがらなかった。ヤン・ウソク監督の映画『弁護人』(2013年)を観ていたときのことだ。これは、韓国で1981年に国家保安法の罪名のもとに22人の学生が不法逮捕・拘禁された「釜林(プリム)事件」について、のちに大統領となる盧武鉉(ノ・ムヒョン)がモデルの弁護士の目をとおして、その内実を赤裸々に暴きだしたものだ。わた

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アナログ派の愉しみ/音楽◎ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』

その音楽には
魔性が棲みついている

クラシック音楽において、男と女の性愛の闇に最も奥深くまで分け入ったのはリヒャルト・ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』(1865年初演)だろう。この白日夢のような楽劇に、わたしはただならぬ魔性が棲みついているとしか思えない。


そもそも、ワーグナーがこの作品をつくりあげたのは、ドイツ国内での革命運動に失敗してスイスへの亡命を余儀なくされ、新たな地で庇護の手

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