【Destination】第35話 天罰
因果応報
「因果応報」は約2500年前、ローラシア大陸にあるドウインという国で誕生した、仏教における概念。仏教はコクチュウ、北ショウセン半島を経てジャポルへと伝来。
文字どおり「因」(原因)となる行動から「果」(結果)が生まれ、「報」(報い)が訪れるという考え方。人間の日常生活は、さまざまな選択とその結果によって形成されている。
「原因と結果の法則」
この法則はすべての行動にはそれに応じた結果が生じるというもの。仏教の教えにおいて中心的な役割を果たし、その思想は世界中の多くの文化や哲学に影響を与えてきた。
悪い行動(悪行)をとれば悪い結果が生じる可能性が高くなり、善い行い(善行)をすれば、それに見合ったよい結果が必ずや訪れるというのが「因果応報」という言葉の意味。
因果は良くも悪くも自らの人生、日々の生活や行動のなかで溜まっていく。
人とのコミュニケーションが円滑にいき、今、現在、人生が良好であったとしても、歩きタバコのポイ捨て、道にツバを吐く、ゴミをまき散らすなど、社会で生きていくうえで、当たり前を無視した行動をとり続けると因果がたまっていく。
これは自分の行動から生まれた結果が、綺麗にしてくれている人の想いを踏みにじっているため。
人生のなかで道徳を欠いた因果をため込んでいくと、未来になんらかの影響を与え、いつかどこかで爆発。自分では予想もできないような、いろんな形となって返ってくる。本人が気づくまで。
社会のルール厳守はもちろん、ちょっとした譲り合い、他人への思いやり、ゴミが落ちていれば可能な限り拾うなど、大切なのはこれまでの自分ならやらなかったであろうことから、一歩ずつ精進していくこと。
これまでの悪い因果を解消するためにも、自分のなかにある当たり前の基準を高くもち、これまでとはちがう生き方をはじめる。「これが因果だ」と気づける器を、生きていくなかで自ら育てていかなければならない。以上が仏教の教え。
「因果応報」宗教的な信念にとどまらず、現代の心理学や行動科学においても重要な概念としてとりあげられている。
因果応報など起こらない。
やさしい人、気のよい人ほど苦労をし、つらい目に合う。自分勝手な人ほど人生を楽しんでいる。
他人をむやみに信じて思いやれば詐欺にあい、人生を壊される。嘘をつくのがうまい人、憎らしく強欲で悪行をはたらく者ほど人をひきつけ、金持ちになり繁栄。長生きして人生を面白おかしく生きる。
神など存在しない。
神とは心の弱い者、なにかにすがりたいという弱者が生みだした愚の産物にすぎない。もし神がいるのなら、罪のない幼児が戦乱に巻き込まれ、飢えに苦しみ、暴力によって日々命を落とすのはなぜか。本当に神がいるなら世の中の不条理は起こらないはず。
人を試すためだけに、その尊い命を奪っているなら、それは神ではなく悪魔。よって、この世に神は存在しない。信じるだけムダ。悪こそが正議。
その発想から、人の道を踏みはずし、弱者を蔑んで悔し涙を流させ、多くの人命を奪って悲しみや苦痛を与えてきた、器の小さい男に天罰がくだされる。
「どんなに強くとも所詮は女」そう軽視していたルカから。
ルカの強烈な拳は、防御につかわれた呪われし妖刀をへし折り、ケイジのあばらを粉砕した。
「なん……、だ……、この衝撃……。なっ……、なにが起こった……。トラックが追突してきた……」
「いや、ちがう……。こんな……、荒野の真んなかで車が走ってるワケが……」
「そうだ……。オレは殴られた……。コイツに……。こっ、この女に……」
「とんでもない重さの拳……。まちがいない……。コイツは人間じゃない……」
「相手にしてはいけなかった……。絶対に……。死神に目をつけられちまった」
「ウッ、ウソだろ……!!ケイジさんが一撃くらっただけで立てなくなるなんて!」
「あの女……、素手で鋼鉄の刀を砕きやがった。ランマルはジャポルに伝わる伝説の宝刀。それをこうもあっさりと」
にわかには受け入れがたい現実。ケイジはもちろん、周りで戦況を見守っていた者たちのあいだに戦慄がはしる。
「せっかくの業物も、使い手がおまえじゃオモチャ同然。刀が泣いてるぞ」
「!!!!!!」
「吐血した……。ヤバい!内蔵のどこかを傷めたんだ」
「まだ意識はあるみたいだね。いいぞ、よく耐えた。一発で死なれたんじゃクソつまらない」
「………………」
「わかってるとは思うけど、処刑はまだ終わっていない。あと一発残ってる。この程度で楽にしてもらえると思うなよ」
「こっ……、殺される……」
「こんなもん、もう一度くらったら確実に死んでしまう」
「ホラッ!座ってないで立ちな!」
「立てないなら立たせてやる!アタシを殺すんじゃなかったのか?早く殴りかかってきなよ」
「オイッ、女っ!」
「そのくらいでいいだろ!ケイジさんはもう戦えねぇ。勘弁してくれ」
「じゃあ、おまえらも土下座しろ!ひざまづいて、泣きながら許しを乞うんだね。そうすれば、アタシの気が変わるかもしれない」
「………………」
「どうしてもコイツを助けたいなら全員でかかってくればいい。アタシに恐怖を覚えたおまえらに、できるとは思えないけど」
「………………」
「………………」
「厄介事に関わりたくない。痛い目に合いたくない。余計な手出しをして自分がターゲットになるのが恐い。被害が拡大するのを恐れている」
「止めに入ったところでムダ死にする。弱者にこの状況をおさめる術はない。所詮、人間は自分が一番大事でそれが本性!」
「………………」
「アンタ、確かそう言ってたよね?そのとおりだと思う。見てのとおり、だれひとり助けようとしない」
「面識のない他人ならまだしも、自分の仲間が殺されかけているのに、声すらあげなくなった。薄情なヤツらだね」
「………………」
「なかなかいい顔するじゃないか。絶望に満ちたその表情、本当に不様で惨めだ」
「人がいかに冷たいか、どれだけおまえに人望がないか思い知っただろう」
「これ以上、その汚い顔を見ていたくない。トドメを刺させてもらう。生き地獄を味わえ」
「お願いだ……。やめろ、やめてくれ……。頼む」
「!!!!!!」
「背骨を砕いて神経を絶った。おまえはもう、悪さどころか自力で立って歩くことすらできない。これからの人生、寝たきりで過ごせ」
「ケイジさんが……、やられた……。たかが女に……」
「心配なら腕のいい外科医でも探してやれ」
「いや、探すなら先に歯医者か。やっぱり息が臭い。臭すぎる。歯も背骨も手遅れだろうけど」
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