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【Destination】第34話 策


ルカが提案した屈辱的な3つの選択、ケイジはそのすべてを拒否して、殺人刀「トモキリランマル」を手にとりルカとの戦闘を選ぶ。

生死を懸けた極限の緊張状態。

しかし、ルカは相変わらずの無表情。刀を構える男性を前に、臆するどころか眉ひとつ動かさず。

上着のポケットに手をいれたまま、ジッと立っているだけで身構えもしない。戦う気があるのかも疑わしい。

一方、そんなルカとは対照的なケイジ。

強く刀を握りしめた右手は異常なまでに手汗をかき、額に冷や汗を滲ませ、眉をしかめた険しい表情。鋭い目つきでルカを睨みつけ、全神経を彼女の動きに集中させる。

部下たちは睨み合う両者の一挙手一投足に注目。ただならぬ緊張感にだれひとりとして微動だにせず、声を発する者すらいない。

「………………」

「これでハッキリする。あの女の余裕が強さからくるものなのかどうか……。ケイジさんが負けるとは思えないが」

「丸腰の人間……、ましてや女が武器を持った男に敵うわけがねぇ。どれだけ武道に長けていたとしてもだ」

「小手先の技なんぞ、正面から戦うときはなんの役にもたたねぇ。体がデカく力があってタフなほうが勝つに決まってる」

「ケイジさんはあの刀を使って一度も負けたことはねぇ。相手にしたヤツを全員斬り殺してきた。勝負は一瞬、まばたきする間に終わるだろう」

「女が攻撃をしかけようと動いたときがチャンス!ケイジさんは、そのタイミングを絶対に逃さない」

「このお姉ちゃん、どうしちゃったんだろう……。まったく動こうとしない」

「まさか……、怖くて身動きがとれないんじゃ……」

「オレと女の距離は3mといったところ」

「リュウと戦って敗れたオレは悟った」 

「どんな武術にも得意とする間合いがあり、真剣勝負においてそれがいかに大事か」

「コイツが使う空手は、相手の懐に飛び込んでの近距離攻撃を得意としている」

「一見、リーチの長い刀のほうが圧倒的有利に見えるが、空手より距離を必要とするのがオレの剣術」

「どんなに優れた刀を持っていようと、剣を振り回す間合いを殺されたら相手を斬れない」

「距離を詰められ、女の有利な状況で戦うのは避けるべき。急所のアゴに一発もらえば、万にひとつということも考えられる」

「オレが狙うのは、ヤツが攻撃をしかけようと二歩前にでて拳を引いた瞬間。攻撃の準備に入ったそのときに首を飛ばす」

「もし、オレの振りが間に合わず、刀の間合いよりなかに入られたら、すかさず体当たりでぶっ飛ばす。強制的に突き放してから体を切断。それが必勝法」

「この短い時間で最悪の事態の対処法も考えぬいたオレは戦いの天才。勝利への道筋は完璧に見えた」

「タイマンでの真剣勝負。久々だがやはりいいモンだ。ランマルに女の血をぞんぶんに吸わせてやる」

「………………」

「しかしコイツ、突っ立ったまま構えもしねぇ。なにを考えてんだ」

「余裕かましてるだけか。それともオレの出方をうかがってやがるのか……。これじゃラチが開かねぇ。ここはひとつ……」

「オイッ、どうした。ビビって動けねぇのか?」

「テメェからかかってきていいんだぜ。レディファーストよ」

「ビビってんのはそっちだろ」

「ていうか、おまえがレディファーストを口にするな!似合わないしキモい」

「それとさ、腐った脳ミソでいろいろ考えてるみたいだけどやめな。ムダだから」

「………………」

「おまえみたいなアホが、どんな策を練ろうと結果は同じ。なにも変わらない」

「………………」

「言ってくれるじゃねぇか!この状況でも、まだへらず口をたたけるとは」

「こうなりゃ作戦変更。こっちからいってやる!先手必勝!先に間合いを制してオレが勝つ」

「死にさらせ、クソアマアァァァァッ!!」

「フッ、バカが」

「自分で考えた作戦を自分でブチ壊すなんて。どうせ、たいしたもんじゃないだろうけど」



「!!!!!!」

「アイツ、地面を蹴って砂を巻きあげやがった!目眩ましか!」

「まずい!今、ヤツから目を離したら確実にやられ……」

「………………」

「なんだコイツ!まったく動いていない。攻撃するには絶好のチャンスだったはず……」

「今のでさすがにわかっただろ?アホがどんな作戦を考えてもムダだってこと、敵は自分の思ったとおりに動かないってことが」

「!!!!!!」

「つまらない策ばかり練っていると、そのとおりにいかなくなったり、相手に予想外の動きをされると対応できなくなる。現におまえはそうなった」

「………………」

「アンタにわかるか?殺ろうと思えば殺れたのに、アタシがそうしなかった理由」

「オレにつまらん説教をしたかった、自分の知識をひけらかしたかったんじゃねぇのか」

「ハイッ、アホ〜。言うと思ったよ」

「せっかく身をもって教えてやったのにムダだった。やっぱり、一から千まで口で説明してあげないとわからないみたいだね」

「プライドをズタズタにしてやりたかったからさ」

「女のアタシを相手に刀まで取りだして、それでも自分から動けない臆病者に、己の弱さを思い知らせてやりたかったから」

「なんだと、テメェッ!!」

「確実に勝てる相手だけを選んでケンカを売り、弱い者ばかりいじめて、自分は強いとイキがってる」

「バカにもほどがあるだろ。大の男がそんなことして嬉しいか?おまえのみっともない生きざまを想像すると笑いがこみあげてくる」

「そこまでオレをバカにしたのはテメェが初めてだ。あの世に逝って後悔しろ!バカは……、自分だったと……」

「なああアアアァァァッ!!」

「逃げんじゃねええぇぇえっ!」

「アイツッ!ケイジさんの二連撃をかわした!」

「まだじゃあああぁぁぁぁっ!!」

「きっ、消えたっ!ヤツはどこに……」

「横か縦に振りまわしてるだけで、アタシを斬れると思ってるなら大まちがい」

「おまえ、さては剣術をかじったこともないだろ。太刀筋がまるでド素人。そんなんで本当に人を殺してきたのか?」

「まぁ、殺したって言っても女と子ども。自分より弱い人間だけを相手にしてきたんだ。ムリもないけどね」

「うるせぇあああぁぁぁぁっ!!」

「もういい、からかうのも飽きたよ。そろそろ処刑の時間だ!」





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