ひとりぼっちは誰のせい?
最後に彼女と飲んだのは後輩たち主催の忘年会だった。
二人ともアウェイな飲み会だったから、それぞれ場を盛り上げるのに必死で、結局、お互いにほとんど話すことが出来なかった。
帰り際、そんな彼女が僕に話しかけてきた。
「近々、またいつものメンバーで飲み直しましょう!」
「りょーかい!」
と僕は明るく答えたけど、結局、これが彼女との最後の飲み会となってしまった。
当時、僕はずっと彼女に対して大きな隠し事をしていた。
実は2年前に社内公募に手を挙げて異動した新しい部署で、僕はまったく仕事が出来ず、そんな自分に嫌気がさして毎日をとても憂鬱に過ごしていた。
気づいたら週末はまるで廃人のようにずっと床に臥すようになっていた。
けど、このときも含めて僕は彼女の前ではそんな自分をお首にも出さなかった。
「N.O.T.Eさんのこと、尊敬してます。」
と言っていた彼女のことを失望させたくなかったからだ。
いや、彼女に愛想をつかされて嫌われるのが怖かったのだ。
そして、僕は年明けすぐに、上司に対して、
「もう精神的に限界なので、休ませてください。」
と泣きながら頼み込み、2ヶ月間、会社を休職することになったのだった。
それから数日経ったある日、約束どおり彼女から飲みの誘いのメールが届いた。
けど、この期に及んでも僕は本当のことを彼女に言えずに、「ちょっと今、忙しいから、また今度にしよう。」
と答えただけだった。
そして、2ヶ月の休職期間を経て、恐る恐る僕は仕事に復帰した。
そして、その日、偶然、会社の階段で彼女とすれ違ったのだった。
そのときのことは、今だによく覚えている。
彼女は僕を一瞥した後、何も言わないまま、足早に階段を駆け降りていったのだった。
とてもショックを受けた僕は、その彼女の態度の豹変ぶりを、自分ではなく他人のせいにした。
彼女は当時の僕の上司と仕事で絡む機会が多かったから、僕の休職期間中に、きっと彼から
本当の僕の姿、まったく仕事が出来ず挙げ句の果てに泣いて逃げ出した事実を
暴露されて、そんな僕に呆れてしまったに違いない、と。
でも、今は、本当の理由はそれじゃなかった、と確信している。
あのときの僕はずっと自分のことしか考えられず、彼女の気持ちに思いを馳せることが出来なかったから、分からなかっただけなのだ。
彼女は確かに僕に激しく失望したと思う。
でも、それは決して僕が仕事が出来なくなってしまったから、ではない。
いちばんの親友だとお互いに思っていた、そんな彼女に対して、自分のメンツばかり気にして、ずっと本音を告白できないまま大丈夫なふりをしていた
そんな自分勝手な嘘つき人間
な僕だったから、愛想を尽かされたのである。
そのことになぜか昨日、tofubeatsの新曲を聴いていたときに、ふと僕は気づいたのだった。
そして、あのとき彼女がどれだけかなしくてどれだけやるせない気持ちになっていたか、ということにも。
まあかれこれ7年くらい前の話だから、今更、僕に謝られても、きっとキョトンとされるだけだろう。
そんな僕ができることは、これから同じ過ちを繰り返さないように気をつけることだけである。
ダメな自分の時こそ、そんな自分じゃなくて、周りにいる大切な人たちの気持ちを想像しなければ、いづれ僕の周りには誰もいなくなるのだろう。
それは、やはりとてもとてもかなしいことだから、
どうにかしてこんな自分を変えたいって
今、本気で考えている。
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