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映画「赤と白とロイヤルブルー」のセリフから考えたこと。

公開から半年以上たち、感想を書くのは遅いかなとも思いつつこの映画を見て考えたことを整理するためにもこのnoteを書くことにした。


LGBTQ+について

いきなりで恐縮だが、わたしはバイセクシュアルである。それについても記事を書いてみたので読んで頂けたら嬉しい。


赤と白とロイヤルブルー

 

IMDbより引用

 あらすじをAmazonprime公式ホームページから引用すると「ニューヨー・タイムズ誌ベストセラー小説を原作とする「赤と白とロイヤルブルー」の主人公は、アメリカ大統領の息子アレックスとイギリスのヘンリー王子。2人の長期にわたる確執は両国間に亀裂を生じさせかねない事態となり、表向きの和解を余儀なくされる。すると凍りついていた関係は解け始め、心の奥に秘めた思いに火をつけることになる。」である。ちなみに写真左がアレックスで右がヘンリー王子である。
 この映画でやはり特筆すべきはやはりテンポ感であろう。二人が恋に落ちるまで、そして恋に落ちてからアメリカ大統領選まで無駄なシーンが一切なくサクサクと見ることができる。(そのために削除されたシーンも多くあるそうだが) いわゆるロマコメ作品だが、LGBTQ+や公人の恋愛、大統領選挙など多くのことを網羅しており様々なことを学べる作品でもある。まだ見ていないという方は是非Amazonprimeで見ることができるので視聴をおすすめする。

セリフから思ったこと、考えたこと

Not a silent letter


さて本題に入るが、私がこの映画を見て最も印象的だったのがアレックスが、母でありアメリカ大統領であるエレンにバイセクシュアルであるとカミングアウトするシーンでエレンが言った次のセリフである。
「the B in the LGBTQ is not a silent letter. LGBTQのBにもちゃんと声があるわ。」 
時間にして僅か数秒のセリフであり、多くの方はエレンは性的マイノリティにも知見がありさすがアメリカ大統領、そしてなんて温かい母親なのだと思っただろう。もちろんそれも感じたがそれと共に、当事者でもある自分は自分も救われたかつ、どれだけの人がこのセリフに救われ勇気づけられたのだろうと感慨深くなった。そしてやっとこのような表象が映画に出てきた、つまり我々の存在が「存在しないもの」として扱われていた時代から変化したということに少しばかりの喜びを覚えた。よくマイノリティが書籍や映画、ドラマ等で描かれるようになった際に使う表現として「やっとrepresentされた」があるがまさにそれである。

ここで質問をするが、LGBTQ+と聞いた際に一番最初に思い浮かんだのはどんなセクシュアリティだろうか。もちろんどれを選んだから正しくて、選ばなかったから間違っているというつもりは一切ない。だがおそらくゲイやレズビアン、トランスジェンダーが思い浮かんでもバイセクシュアルを思い浮かべた人は少ないだろう。やはり、男性女性どちらも恋愛対象に入るというのは理解できないという人が多いと考える。

次にこの動画も参考にしながらバイセクシュアルに対する誤解を挙げていこうと思う。
・まだ混乱しているだけ、そういう過程にいるだけ→もちろん思春期などで単なる同性への憧れを恋愛的な感情だと「混乱」する時もあるだろう。だが、ずっと混乱しているのではなく本当に男性女性どちらにも恋愛的・性的に惹かれるのだ。またそのような「時期」で成長したらヘテロセクシュアルに「ちゃんと」戻るということではない。また異性と結婚したらバイセクシュアルではなくなって、ヘテロセクシュアルに戻るということではない。

・恋愛対象が2倍だから尻軽、誰とでも恋をする、性欲が強くて誰とでもセックスをする→これは性的志向は一切関係なく好みのタイプというのは存在するはずだ。性欲を満たせれば誰でもいい、性別もどうでもいいというわけではない。また性欲の強さというのは性的志向によって変わるのではなくあくまでも人それぞれである。また性欲が全くない人世の中には存在する。

・「俺のこと襲うなよww、私のことそういう目でみてたんだ、、好きにならないでよね笑」(言い方は多々あるのであくまでも一例であり、また語尾もあえてであることはご了承ください)
→先程も述べたが人には好きなタイプがあり、出会った人全員に恋愛感情や性的感情を抱くことはないので安心してほしい。もしこれを読んでいるあなたがヘテロセクシュアルだと仮定した場合、異性の知り合いや友人を誰彼構わず好きになるだろうか。やはり違うだろう。自分の恋愛トークでは延々と自分の好きなタイプを話すのに、隣にいる人がバイセクシュアル(またはゲイ・レズビアン)だと分かると、あたかも自分も当然のように恋愛対象に入っていると勘違いする。はっきり言うならば、勘違いも甚だしい。もちろん好きなタイプに該当する可能性もあるが、同意なしで性的行為に及ぶことはそもそも犯罪であるし、倫理的にも絶対にありえない。セクシュアルマイノリティであるからと言って「普通」の恋愛の過程を経ずにことが進むことはない。我々は可哀想な存在でも、立場が下であり見下される存在でもなくまた恥ずかしい存在でも、weird・odd な存在でもないのだ。


バイセクシュアルはLGBTQ+の中でも最も割合が多いというデータがあるが、それと同時に理解されにくいセクシュアリティでもある。

ヘテロセクシュアルの人には「結局どっちなの?ゲイ・レズビアンだってカミングアウトしづらいからどっちも好きって言ってるの?恋愛経験が無いからそう思っているなら俺が女を教えてあげる。反対に、私が男を教えてあげる。(最後の文言はゲイ・レズビアン・アロマンティック・アセクシュアルだとカミングアウトした後もよく言われるそうだ)」と言われ、ゲイ・レズビアンの人には「私たちの仲間なの?本当はヘテロセクシュアルなんじゃない?じゃないなら早くゲイ・レズビアンって認めなよ」といったことを言われる人も少なくない。(もちろん全員がそうなのではないのは百も承知だ。)

 異性と付き合えば、ヘテロセクシュアルの人からは「やっぱり勘違いだったんだね。ちゃんと普通だったじゃん。」、ゲイ・レズビアンの人からは「結局ヘテロかよ」と言われ、同性と付き合えばヘテロセクシュアルの人からは「やっぱりゲイ/レズビアンだったんだ」、ゲイ・レズビアンの人からは同様に「やっぱり同性が好きなんだね」のようなことを言われる。繰り返すが、全員がこのような発言をしたり、逆に言われたりしているわけではなくほんの一部の人が理解しようとせずに自分の価値観を押し付けようとしているだけである。自分が性的マイノリティの立場だとしても違うセクシュアリティのことは否定したり、認めなかったりすることがあるのはなんという皮肉なのだろうか。以上のことを述べたが、私は決してLGBTQ+コミュニティー内を分断したいわけでも、誰かを悪者に仕立て上げたいわけではない。このことはご留意ください。

 つまりバイセクシュアルが可視化されず、LGBTQ+のコミュニティーにも属しづらいのは以上の理由が挙げられ、よって「存在しないもの」として扱われることが非常に多かったことやあらゆる作品の中で扱われることも極端に少なかったことなどから、not a silent letterとエレンは息子であるアレックスに述べたのであろう。

ツルバダとは

※以下を読む前に留意していただきたいこと。
国立感染症研究所等の公的な機関が発表している、極めて正確なデータもきちんと参照しこの記事を書いたが、誤っている可能性も否定できないため医療知識に関する一切の責任は負わないこととします。

エレンがその後述べた言葉の中に「抗HIV薬も用意できる」があった。日本語訳では抗HIV薬となっていたが原文だとツルバダ(Truvada)となっている。そもそもツルバダ(Truvada)とはHIV感染症及びエイズの治療薬の一つで、一日一回一錠を飲むことでHIVの活動を抑制する働きがある薬である。エイズやHIVについて初めて聞いた人やよくわからない人は以下のページを参照してほしい。

非常に簡潔に説明すると、HIV(ヒト免疫不全ウイルス Human immunodeficiency virus)に感染した後に、本人が気付かずに長年放置し、治療をいっさいしないと免疫不全に陥り、健康な時ではかからない感染症や悪性腫瘍などを引き起こしてしまう状態のことが、エイズ(後天性免疫不全症候群 Acquired immunodeficiency syndrome, AIDS)である。エイズと聞くととてつもなく恐ろしい病気で、罹患すると100%死に至ると思われる節があるが近年では研究も進み、進行を抑制させることのできる治療法が多々ある。その一つがツルバダの服用である。だが、一度HIVに感染するとそのウイルスの値を0にする、つまりほかの病気でいえば完治することは今の技術をもってしても不可能である。だからこそコンドーム等を用いたセーフセックスが非常に重要なのだ。(コンドームの使用は他の性感染症も防ぐことができる)
 ●HIVの主な感染経路3つ
〇性的感染 感染経路の中でも、圧倒的割合を占める。血液、精液、膣分泌液等が、体の粘膜(口、性器、肛門など)や傷口に触れると感染リスクがある。つまりセックスを一回でもすれば誰でもかかる可能性があるということだ。特に男性同性間のセックスは肛門を使用する場合があり、肛門はもともとは性器ではなく排泄器官で傷つきやすいため感染リスクが非常に高くなる。よって感染経路として高い割合を占める。

〇血液感染 注射の使いまわし・回し打ち(医療現場ではありえないが、違法ドラッグを使用する際に感染する可能性がある)、医療現場での針刺し事故、輸血による感染(高水準な技術で処理が施されているためほぼあり得ないが、100%あり得ないとは断言できないらしい)がある。

〇母子感染 HIVに感染した母親から妊娠時や出産時、母乳等から感染する場合がある。だがHIVに母親が感染しているからと言って、子供に100%うつるということではない。これも医療技術の発展により、例えば妊娠時の検査や治療を行ったり、帝王切開に切り替える、また母乳ではなく人工母乳を与えたりするなどして先進国を中心に母子感染は減ってきている。


さて、ここで疑問となるのが、なぜエレンはアレックスにツルバダについて述べたのだろうかということだ。ヘンリーとアレックスがHIVに感染している又はエイズにかかっているという描写は作中にはないし、またかかっていたとしたらすでに服用しているはずでありエレンが改めて言及していることへの説明が付かない。ここから推察されるのはPrEPを行うことで性的行為での感染のリスクを格段に下げるため、ではないかということだ。

そもそもPrEPとは、セックスをする前からHIVの薬を内服し、HIV感染のリスクを減らすというHIVの予防方法である。残念ながら日本でツルバダをPrEPに用いることは認められていない。しかし海外では認められている国もあることから、海外ドラマや映画に登場する同性愛者がよく「PrEPやってる?じゃあゴムはいらないね」「ツルバダ飲んでる?じゃあ大丈夫だね」という会話をしているのを見かけることがある。だが、PrEPをしていてもほかの感染症を防ぐためにコンドームはつけるのが望ましいとされているため本来は不適切な発言である。(実際、PrEPが普及したことでゴムをつけなくなる人が増え、結果他の性感染症にかかる人が増加したという報告もあるそうだ。)以下の記事にとても詳しく載っている。
 https://shclinic.ncgm.go.jp/prep.html

もちろん日本のホームページ(記事上)にも詳しく載っているが、アメリカのCDCのホームページ(記事下)の方がより詳しく載っているのでそれも参考にして欲しい。

●PrEPで使用される薬
〇ツルバダ セックスや薬物静注を通して感染のリスクがある人であれば、特に対象者として制限なし。

〇デシコビ セックスを通して感染のリスクがある男性のみ。(トランスジェンダー女性も含まれる。生まれた時の性別が女性であればデシコビ服用の対象外)

ここで非常に興味深いのが、男女間のセックスでの女性側とアナルセックスでのボトム側には薬の有効性が確認されているが、男女間のセックスでの男性側とアナルセックスでのトップ側、つまりは挿入する行為での薬の有効性は天下のCDCをもってしても、有効なデータが確認されていないという点だ。だが、セックスとは「挿入」のみではないし、先ほど述べたように粘膜での感染であるため一度でも性的行為をする人は感染に十分気を付けなければならない。つまりどんな時でも、どんな相手でもゴムは付けろ!というのが誇張なしで非常に重要であるのだ。(当然だが二人とも妊娠を望んでいる場合は除く)

ボトム側の方が肛門内に挿入されるため感染のリスクは高くなるとはいうにせよ、男性と性的行為をするという点で、抗HIV薬であり、PrEPでも使用される「ツルバダ」の話題をエレンは出したのであろう。やはりアメリカ大統領まで登りつめた人間は知識の幅がとてつもなく広い。

HPVとは

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000901220.pdf  (HPVワクチンを打つ人向けだが、非常にわかりやすいため貼っておく)
女性であれば、子宮頸がんの原因として一度は聞いたことがあるであろうHPV(ヒトパピローマウイルス)。日本ではワクチンの後遺症問題でかなり有名になったことも記憶に新しい。ここでは絶対に接種すべきとも接種すべきでないとも言わないことにするが、赤と白とロイヤルブルーの舞台はアメリカ及びイギリスであるため海外の事情を基に次からHPVについて述べようと思う。

 HPVは子宮頸がんを引き起こす→女性のみがワクチンを打てばいいという認識を持つ人が圧倒的に多いと思う。私自身もそう思っていたが、近年ではどうやら違うらしい。そもそもHPVは子宮頸がんだけを引き起こす単一種のウイルスではなく、百種類以上の型があり、その一部ががんを引き起こす要因となる。そして、先程述べたHIVと同様に、セックスを一度でもした人間ならかかる可能性が出てくるため、ほぼ全員が生涯で一度は罹るとも言われることもあるそうだ。そしてがんの中でも、子宮頸がんの原因になることは多くよく知られているが、最新の研究によってそれ以外の肛門や性器のがんの原因となることもあるということがわかってきているらしい。またワクチンの種類によっては尖圭コンジローマも予防できると判明していること、女性だけが対策するのではなくパートナーも共に対策することで子宮頸がんの予防効果をさらに高めることができることから、男性への接種も推奨され始めている。ちなみに男性への接種は令和2年に国によって承認されたばかりで、今でも全額自己負担である。2024年になって自治体の対応も追いつきつつあり、接種費用の助成を今年から始めたという自治体のニュースも最近見かけるようになってきた。

引用したCDCのホームページには、男性と性的関係を持つ男性(MSM)にも積極的にHPVワクチンの接種を勧めている。またオーストラリア、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツといった国では男性のワクチン接種が既に行われており、男女ともに高い接種率を誇る国もある。赤と白とロイヤルブルーでは、エレンが「If you're bottoming~,」「もしあなたが挿入される側なら」(意訳です)と言っていたが、残念ながら私の知りうる限り、そして調べた限りエレンがそう言っていたことへの根拠は見つからなかった。だが先程述べたように、女性だけでなく男性も接種することが推奨されてきたことや、厚生労働省が女性の積極的接種の推奨を再開したことから、今後はセクシュアリティや性別関係なくワクチン接種を頭の片隅に入れておくべきだろう。

厚生労働省が接種の呼びかけを控えていた時期に本来は対象だった女性の方(平成9年度~19年度生まれの方)はキャッチアップ接種について一度知っておくのも良いかもしれません。
 
 

ここまでずっと性感染症などの危険性を語ってきたが、セックス自体が「悪」なわけでも「危険」なわけでもない。ただ、がんにつながる可能性やその他の重篤な病気に移行する可能性も0ではないためコンドームをつける(望まない妊娠も防げる)、感染症について知る、パートナーとよく話し合うなど自分たちができることをしていくべきだと思うし、自分もしていこうと思う。


 

アレックスのスピーチ

一部をAmazonprime videoの赤と白とロイヤルブルーから抜粋して紹介する。
Every queer person has the right to come out on their own terms and on their own timeline. They also have the right to choose not to come out at all. The forced conformity of the closet cannot be answered with forced conformity in coming out of it. This isn't about shame. This is about privacy and the fundamental right of self-determination ,which are exactly the principles on which the struggle for queer liberation has always been fought. I hope one day we'll have the opportunity to be public about our relation on our own terms.

このアレックスのスピーチに全てが詰まっているので、新しく言うことはない。ここからは補足説明を。

この演説を聞いて、欧米は比較的LGBTQ+に寛容なはずなのにどうしてここまで言及するのだろうかと思った人もいるだろう。無論、同性婚やLGBTQ+の法的な権利に関しては日本よりもはるかに進んでいる。だが、アメリカ全土で同性婚が合法化つまり認められたのはいつかご存じだろうか。2015年、約9年前である。連邦最高裁判所が同性婚に関する裁判で、同性婚を認めた判決を下したのは2015年だが、同性婚の権利を連邦レベルで保護する法律を施行したのはなんと2022年、たった二年前である。(アメリカは連邦制であるため州ごとにばらつきがあったそうだ)

ここではアメリカを例にあげたが、世界で初めて同性婚を認めたオランダも2001年であることも鑑みても、人類が自分が愛する人と性別関係なく婚姻できるようになったのはたったこの20年の間の出来事なのである。また、同性愛は1990年までは正式にWHOの「精神疾患リスト」に載っていた。それだけでもありえないと今では思われているが、さらに酷いのは3,40年ほど前までは同性間の性的行為が犯罪だった国もあるということだ。いや、今も犯罪とされ、最高刑が死刑の国(イスラム教徒が多い中東が中心に)もあるため「だった」という言い方は不適切かもしれない。


話は戻り、同性間の性的行為が犯罪だとされていたのは通称ソドミー法と呼ばれる法律である。これは詳しい性的行為について言及して禁止しているわけではないが、「自然に反する性行動」つまり異性同士の「普通」の性行為以外(口内性交、同性間の性交、獣姦など)が性犯罪とされていた。特に同性間の性交で捕まる人が多く、刑務所送りにされたり、半強制的なホルモン治療等を受けさせられたりと屈辱的な扱いを受けていたのだ。日本のBLドラマ等では2024年現在でも「禁断の」という言葉が使われることがあるが(言いたいことは理解できるが、私はこの手の表現は少々苦手である)、過去にソドミー法が存在した国では文字通り禁断の行為だったのである。そしてあまりにも有名なストーンウォールの反乱や、アメリカ初の、ゲイだとカミングアウトした政治家であるハーヴェイ・ミルクの活躍や差別に対して闘ってきた数々の先人たちによってLGBTQ+の認知やその権利が向上してきた。しかしそれと同時に、同性愛矯正施設に送り込まれる若者、カミングアウトした後拒絶され、家を追い出される若者が欧米ではまだまだ多いらしい。だからこそ作中のヘンリーは原作で、LGBTQ+の若者のシェルターに関心があり運営の手伝いをするのだろう。同性愛者やトランスジェンダーの人に対する転向療法、いわゆるコンバージョン・セラピーについて詳しく知りたい方は「ある少年の告白」という作品を強く勧める。

 

 そして同性愛が犯罪であった時代がどのようであったかを感じられる作品としておすすめするのが「僕の巡査」、同性愛が主軸ではないが「コンピューターの父」と言われており、彼がいなければ世界大戦の終結が遅れていたといわれるほどの天才学者であるアラン・チューリングを描いた作品「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」という作品が非常におすすめだ。
 

Amazonprime公式より引用

 そしてクィア解放運動のきっかけとなったストーンウォールの物語も見てておいて損はない。(ちなみに、主人公妹を演じるのが、テイラーさんと仲の良いジョーイ・キングさんです)

Amazonprime公式より引用

余談

おすすめ映画を上げたこの流れでさらに、LGBTQ+の中でも主に男性のことに関連する作品を挙げてみようと思う。

エイズに関する作品は世の中に数多くあるが、私が特におすすめしたい映画は「ノーマル・ハート」、「ダラス・バイヤーズクラブ」だ。
 

Amazonprime公式より引用

エイズについては先程述べたが、さらに補足する。エイズ流行の黎明期にはやはりゲイの方の感染そして死亡が目立ち、エイズで亡くなったという訃報が流れたことで、この人は同性愛者だったんだという噂が広まることもあったそうだ。よって、「GAY CANCER」つまり「ゲイの癌」と呼ばれ、同性愛者への偏見や差別が助長されていった。そしてあまりにもゲイばかりがエイズに懸かる(ことが目立つ)ため、政府によるゲイの排除だという陰謀論さえ広まり、情報が錯綜していった。続きはこの映画を、ぜひあなたの目で見てほしい。この映画はテレビ映画であるため、劇場公開されなかったことが残念でならない。

LGBTQ+映画の金字塔と呼ばれ、様々な賞を獲得し非常な有名な作品であろう「ブロークバック・マウンテン」がある。これほど評価されている作品でさえ、2005年公開当時は「ゲイ・カウボーイ・ムービー」と評されることもあった。これらのことからアメリカやその他の国におけるLGBTQ+に対する偏見や差別が根深いことが推察されるだろう。

何度も繰り返し述べているが、エイズに関する映画は圧倒的にゲイが主軸となることが多い。だが、エイズは性別やセクシュアリティ関係なく誰でも罹りうる疾患だ。ダラス・バイヤーズクラブでは主人公はヘテロセクシュアルとして、HIV陽性であることが判明する。最初は全く信じられず、受け入れられない。親しくしていた友人も、主人公が陽性だとわかった瞬間、「お前ゲイだったのかよ」と態度を180度変える。だが、余命1ヶ月だと医師から宣告されても、そこで絶望せずにアメリカでは承認されていない薬を求めて、世界中を飛び回り自分の生きる権利を求めて奮闘していく。何かの瀬戸際となると人はここまで行動できるのだと、どんな境遇にいる人でも非常に勇気づけられるはずだ。

 

Amazonprime公式より引用

 

カミングアウトと自己決定権

アレックスのスピーチでも言及されていた、カミングアウトするかしないかの決定やその時期というのは、絶対に強制されるべきではない。ここで一部の「ファンダム」が引き起こした、一つの悲しい事例を紹介する。
 

詳しくは記事を見てほしいが、バイセクシュアルの役を演じた彼がプライベートで女性と手をつないでいるところがファンによってネット上で拡散され、一部の「ファン」がクィアベイティングだと彼を非難した。そもそもクィアベイティングという言葉は、人を攻撃するための言葉として使うべきではない。ちなみに彼は当時、18歳の高校生である。LGBTQ+に寄り添ったハートストッパーという作品の「ファン」がセクシュアリティというプライベートなことを、詮索し俳優の強制カミングアウトにつながってしまった。このニュースを見たとき、言葉がでなかった。我々が目指した「LGBTQ+に寛容な社会」はこんな社会ではなかったはずだ。

赤と白とロイヤルブルーでも少しインターネット上を検索すると、「Is he a gay???」「He is dating a man????」といったセクシュアリティを詮索するコメントが少なくない。この作品をみた人は作品から何を学んだのだろう。アレックスのスピーチをきちんと理解しているのなら、俳優のセクシュアリティを詮索したり、はたまた喜んだり落胆したりすること、そして勝手に広めることはしないだろう。特にヘンリー王子を演じたニコラス・ガリツィンはヘテロセクシュアルだと何かのインタビューで言及していたが、未だにセクシュアルマイノリティであってほしいと願う人たちから、同性愛者「疑惑」が出ていることに非常に嫌悪感を感じる。

 男性俳優がゲイ役をやればその作品はハネると言われた例や、マイノリティの役を演じればオスカーを取れると言われていたことも実際にあった時代と比べると、ハリウッドなどの映画、ドラマ業界はかなり変わったと思う。だが、それと同時に、先程述べたクィアベイティングという言葉を俳優への攻撃として使われることが増えていることを踏まえると、スタッフやキャストだけではなく我々も早く変わらなければならないと強く思う。もちろん我々は人間だから、有名人の恋愛事情が気になり、想像し、願ってしまうことはあるはずだ。(私も含めて) だが、本人が見ているかもしれないネット上でそれを噂として広めたり、役者自身を攻撃することは断じて許されない。なぜならそれは、プライバシーだから。


 

BLとクィア作品

この話題については話すときりがないため簡潔に話すとする。そもそもBLとはなんだろうか。これに関しては出典が不明な記事が多く、引用することは避けるが、男性同士の恋愛という意味であることは間違いはないだろう。Juneや耽美、やおいと呼ばれコアジャンルとされていた時代と比較すると社会的な立ち位置はずいぶんと変わったように思う。例えば、「おっさんずラブ」や「きのう何食べた?」、「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」といったドラマが流行し、普段はBLを見ない人にも広まるきっかけとなった。そして、アジア圏を中心にBLドラマや漫画、アニメも非常に人気となっていることも最近ではよく知られているだろう。

だが、昔から感じていたことがある。それは、日本においてLGBTQ+作品(特にゲイに関する作品)とBLとの境界線はどこにあるのかということだ。赤と白とロイヤルブルーの宣伝文句として、他の国ではLGBTQ+作品として扱われていたが、日本の公式はBLとして宣伝していた。男性同士の恋愛ものとして、BLという言葉は形式的な言葉として非常に広がっていてかつ、わかりやすいことからその言葉を使用したかもしれない。もちろん海外にはBLという概念や言葉がなく(もちろん海外でも知っている人がいることは前提として)、同性間の恋愛ものを全てLGBTQ+ものとしている節もあるだろう。しかし、本音で言うと、少し違和感を覚えたというのは私だけだろうか。ここで、注意してほしいのは私自身商業BLを複数嗜み、最近では二次創作にも足を踏み入れたということからもわかると思うが、「BLは悪であり根絶すべきだ」なんてまったく思ってもいないし、あくまでも日本発祥の一つのジャンルであると認識しているということである。この作品を見る人に、性別や国籍、人種や年齢、セクシュアリティは関係ないし、作品をどんな見方をしてもそれは自由である。

しかし、感想として見る中でやはり個人的に気になってしまうのは「イケメンだから全然許せる〜」「現実じゃないから楽しめる」「バイとかゲイだなんてもったいない、女性と恋愛してる方が絶対いいに決まってる」「これ逆だったら良かったのに、、残念すぎる、、」「男性同士とかマジ禁断だわ」「現実では気持ちわるいかも」「これは私たち普通の人間が見ても萌える」「BLはファンタジーだから許せるよね、現実では無理」「綺麗なBLはいいけどねぇ笑笑」と言った意見だ。(この作品に限らず)

そして最近、「現実のLGBTの問題をBLという場に持ち込むのは政治的だからやめて」という主張がTwitter上で話題となった。この主張は昔からあり、特に日本ではBL作品だけでなく、作品に政治的なことやLGBTQ+などのいわゆるマイノリティに関するような「思想が強い話題」(この言葉は好きではない)が絡むことに拒否反応が出ることが非常に多い。だが、同性間の恋愛や結婚の権利を主張することは政治的で、思想が強めなのだろうか。私はそうは思わない。人の恋愛を許せない、気持ちが悪い、というのはマジョリティの傲慢であり、楽しむだけ楽しんでおいて同性愛を安易に消費するだけなのは違うと私は思う。だからと言って全ての作品を政治的な目で見ろ、発言には全て気をつけろ、声を上げろ、弱者を優遇しろ、それらをできない奴は社会的に許されないなんて思ったりしないし、BLという言葉に固執し言葉狩りをしたいわけではない。

私が言いたいのは、せっかく赤と白とロイヤルブルーという素晴らしい作品に出会えて様々なことを学べたのだから、頭の片隅に入れておいて、現実で自分が差別的な発言をしそうになった時には気をつけよう、ということだ。
繰り返すが、BLという見方がダメという意図は全くなく、現実のLGBTQ+については蔑むような発言をするのに「萌える」部分だけを享受するというのは違うだろう、というのが私の見解である。

すべての人に結婚の権利を

作中のアレックスとヘンリーは、原作の英語版のコレクターズエディションにおいては婚約するらしい。(日本でも今年中に翻訳版が発売されるそうです!)よって、結婚について述べてこの文を締めくくろうと思う。

 このスピーチを聞いたことがない人は、ぜひ聞いてほしい。絶対に損はさせない。このスピーチで特に共感したのが「当事者にとっては素晴らしいことだが、残りの私たちからすれば昨日と同じ日々が続くだけ」という言葉だ。去年、同性婚について社会が変わってしまうと述べた人がいた。だが、同性婚の法制化によって、既に結婚していた人がみな離婚し、同性と結婚するのだろうか。絶対に違うだろう。結婚したいが法律という壁でできなかった人が、幸せになるだけだ。一日でも早く、結婚を望むすべての人が法的に結婚できますように。私が主張したいのはそれだけだ。

補足説明:よく同性婚に反対する人が主張することに対して、引用した記事にとても詳しく書いてあるのでぜひ参照してほしい。そして少しだけ付け足すことにする。

・多様性ってそんなに叫ぶなら、気持ち悪いと思ったりLGBTQ+について認めないことも多様性ですよね?→これは寛容のパラドックスと非常に関係があると考える。説明が難しいので詳しくは調べてほしいのだが、とにかくそのような主張は暴論ではないだろうかと考える。確かに人間だからそう思うこともあるだろう。だがその主張を軸として、関係ない他人の権利を「認めてあげる・認めてあげない」と考えること自体がマジョリティ側の傲慢であり、ある種の悪い意味での「特権」ではなかろうか。自分とは一切関係のない同性の人間同士が、恋愛をし結婚することがあなたの不利益となることは絶対にない。

・友達同士で結婚できるようになってしまう、他国のスパイが同性結婚できてしまい国家的にも非常に危険だ→そもそもそれらは同性婚に一切関係ない。今でも友達同士から恋愛に発展し結婚する人だってたくさんいるし、それが「同性同士」になった瞬間、ダメなものに変化するのか。(無論、詐欺目当ての偽装結婚等は許されないことは当然として) スパイに関してはスパイが問題であって同性婚は問題ないはずだ。ましてや同性婚という言ってしまえば目立つ行為をするよりも、異性と結婚して活動する方が諜報活動が容易にできるはずだ。(諜報活動を支持しているわけでは一切ない。)

・日本は昔からLGBTQ+について寛容だから結婚制度なんて必要ない、パートナーシップで十分でしょ。→寛容ならばなぜ、公表している公人や芸能人がこれほど少ないのだろうか。もちろん公表するかは本人の自由だが、これほどカミングアウトしない人が多いということは何かしらのデメリットや社会的な空気があることは想像に難くない。よく、昔から寛容だという人の根拠として戦国や江戸時代の男色文化があげられることが多いが、なぜ男性同士の文化が盛んだったという事実だけで日本は寛容だった、と判断できるのだろう。LGBTQ+はゲイだけではない。また、パートナーシップすら全国的な制度がないのにも関わらずそれで十分だと勝手に決めるのは少々、極論であるのではなかろうか。そして、パートナーシップには法的な保護がないことも多いため、だったらいらないと思う人当事者も多いそうだ。

・子供は男女の両親の愛情をもらってこそちゃんと育つ。同性カップルの子供が可哀想すぎる。→確かに子供は男女からしか生まれない。これは生物学上絶対に変えることのできない不変的な事実であることは疑わない。ただ、男女の両親の愛情がないとダメだというのは、全世界のシングルマザーやシングルファザー、そしてその子供、何かしらの事情により両親がいない人全員を傷つけていることを忘れないでほしい。ここで話は変わるが、同性カップルが子供も持ちたいと思った時に、案として出てくるのが、代理母出産によって子供をもうけることだ。これに関しては全世界で議論が巻き起こっていること、そしてこの文章を書いている私は女性ということもあり、女性をまるで子供を産む機械のように考えビジネスの利益だけしか考えない人間もいるため100%賛同できるわけではない。ただ、調べていくと自ら進んで代理母になりたい方もいらっしゃり、この手の話題の解決には一筋縄ではいかないことから、まずはとにかく議論を始めることが大事なのだと思った。

最後に

ここまで読んでいただいた方は果たしているのだろうかと思うほど、駄文を1.5万字も書き綴ってしまったことに自分でも驚いている。もしここまで辿り着いた方がいれば、感謝を申し上げたい。ありがとうございます!この手の話題をすると日常生活では、「面倒くさい人間」「思想強い」「政治的すぎる」「うるさい人間」と言われることが容易に想像がつくため話したことは一度もない。(特に地方の閉塞的な街出身であることも大きい) だが、赤と白とロイヤルブルーという作品に出会い、辛く暗いラブストーリーやカミングアウトが物語の肝となる作品が圧倒的に多いこの世の中で、まるで平成のラブコメのようなキラキラ、ラブラブな作品が作られ始めたことに言葉では表せないほど喜びを覚えた。ネットフリックス等の学生ものの作品では、そのような作品も増えてきているが、大人が主人公の作品では見かけることはほぼない。

 宗教的な事情から徹底的な差別や誹謗中傷、酷いと殺人まで起き、そしてセクシュアリティに悩んで自ら命を絶つことも多い海外と比較すると日本は比較的、住みやすく生きやすいと思う。だが、誰もが生きやすい社会かと言われれば少し違うのではないか。日本で性的マイノリティの権利について述べられる際に、欧米は何倍も進んでいる!といわれることが多い。しかし、DON’T SAY GAY法が制定されたり、今年もLGBTQ+の若者が殺された欧米社会が日本より何倍も勝っているのかと言われればそれも違う。回りくどい言い方をしたが、要は誰もが自分のアイデンティティを恥じることなく生きやすい社会になってほしい。そんなの綺麗事だといわれても構わない。なぜなら主張しないと社会が変わることはないと思うから。

最後に、ここで述べたことは客観的・科学的事実以外はすべて私の考え及び考察である。よって考えが全く異なる人も多いだろうが、あなたの考えを変えたりする必要性は全くない。あくまでも一つの意見として認識してほしいと思う。それでは、ここまでお読みいただきありがとうございます。すべての人が幸せに暮らせますように。


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