アイチャイム
おさななじみとの再会を願う、高校生たちの物語。 そこには小さな謎解きが待っています。
元旦の朝、というより昼。 実家の一室で目を覚ました俺は、布団の脇に気配を感じて起きた。 高校生の晶がちゃぶ台に向かって筆を動かしていた。 「書き初めか?」 煙草に火をつけながら覗き込む。 そこそこ達筆でこう書いてあった。 〈 油揚げ〉 ………俺は黙って布団を畳んだ。 Z世代にしか通じない流行語かもしれない。 余計な質問をすると地雷を踏みそうだ。 たまにしか帰省しないが理解のある叔父としての立場を維持したい。 質問する代わりにポチ袋を渡した。 「ほれ、お年玉」 晶は嬉しそ
《あらすじ 高校生の深海と駿は久しぶりの交流をきっかけに、共通の幼馴染であり11才で音信不通になった芦名魁人が残した心のわだかまりと向き合い始めた。当時の交換ノートに伝言を発見した二人は災害用伝言ダイヤルを使って彼に会おうとするが、再会の条件として謎解きゲームを提案されてしまう。新しい親友たちと共に箱根の街を歩いて謎解きのヒントを探しながら、それぞれ魁人との記憶をたどっていく。》 冒険ダイヤル 第1話 カニかまと幼馴染 「ねえ、ふかみ。あの子、なんて言ったっけ?望遠鏡が好き
春の日は油断がならない。 やつらはいつも狙いすましたように休日にやってくる。 「クール便で〜す」 いやな予感がした。 頼んだ覚えのない宅急便。 湿った重たいダンボール箱。 敵の襲来だ。 箱の中には土にまみれた怪物がみっちりと封じ込められていた。 毛むくじゃらの表皮に覆われ、固く尖った角の先は猛禽類の爪に似ている。 紫色のイボが下部にずらりと並んでいて禍々しい。 生まれたての赤ん坊くらいのずっしりしたやつが、いち、にい、さん、しい、ご。 まじか… 私は頭を抱えた。 なぜ今日
朝ぼーっとして服を選んだからTシャツも靴下もボーダーになってたことにさっき気付いた。意図せずにそろっちゃうのはダサいかも。風呂に行って脱いだらおパンツもボーダーだった。三つそろったら当たりでアイス一本もらえる銭湯があればいいのに
毛筆で大きな文字を書くときゲシュタルト崩壊おこすたちだと自認してるけど、今日は「整頓」と「集中」の字を間違えたショックでさすがに立ち直れない
腹の立つことがあったら思いのたけを紙に書いてビリビリ破いて捨てるとストレスが軽減するという、ある有名人の秘策を思い出して実践してみた。効きますように。なむなむ
バスタオルを使って手軽に作れるお雛さまを紹介します 好きな柄のバスタオルを用意しましょう 長方形のバスタオルを中心に向かって両端を少し重ねるように折り、 なるべく正方形に近くします ふちどりの部分は着物の襟です 襟を深く合わせたい場合はもう少しふちどりを右寄りにすると良いです 手前のゴロッと重なった部分をしっかり持ち、画面の上方向に折ります 両手親指を黒い印のすき間に入れ、 上にはみ出している赤い印の部分を、残りの指でかき寄せるようにつかみ、 靴下を丸める時の要
朝陽がさす頃、ベッドの脇に気配を感じて寝返りを打った。 夫が誰かにささやいている。 「ほら謝っておいで」 お腹の上に乗ってきたのは我が家の愛犬だ。 「おはようハーマイオニー」 なでてやると口に咥えた物を頬に押し付けてくる。 ゴロンと目の前に転がってきたのは雛人形の首だった。 至近距離で人形と目が合って「ひッ」と変な声が出てしまった。 ホラー映画さながらの目覚めである。 「叱らないでやってくれよ」 夫はか細い声を出した。 雛祭りまであと十日あまり。 桐箱から出しかけたまま、
寒い日曜日の朝、ベッドの脇に気配を感じて僕は目を閉じたまま布団のへりに手をのばした。 フサフサしたものが手に触れたので「おはようハーマニ」となでてやると、「犬じゃねえし」と聞き覚えのある男性の声がした。 起き上がってみると僕が触ったのは愛犬のハーマイオニーではなく、スーツを着たままで寝袋にくるまった成人男性の頭だった。 まぎらわしいな。 「みつるくん、うちで何してるの?」 「ゆうべ飲み会でさ。終電を逃したんだ」 彼は上半身だけベッドの脚に寄りかかり、芋虫のように膝を曲げ伸
「まだ次の電車まで時間あるのに、すごい速さで行っちゃったね」 陸と絵馬は折り鶴を前にして頬杖をついていた。 「エマちゃん、ずいぶん口うるさくしてたけど、そんなに心配しなくてもよかったんじゃないかな」 「あたしもそう思うけど、なんだか悔しいじゃない」 「だからってお金貸すなとか書類にサインするなとか宗教の勧誘に乗るなとか、脅かすようなことばっかり言ってさ」 絵馬は眉をつり上げて言い返す。 「りっくんだって個人情報は教えちゃ駄目だって言ってたじゃない」 「うん、それはまあ、嫉
ちぐはぐな印象のもとはこれだったのかと駿は思った。 「二枚目を何回も書き直したんだ」 陸はそれを聞いているのかいないのか、次はペーパーナプキンで鶴を折り始めた。考え事をするときの癖かもしれない。 手元を見ながらつぶやいている。 「魁人くんの本音は何なんだろうね」 深海はテーブルにかがみ込んで穴のあくほど手紙を凝視した。 本音? 本音ってなんだろう。 本音かどうかなんて誰が決めるのだろう。 何が本音なのか魁人自身にだってわからないかもしれない。 店員がコーヒーを運んでき
あと少しで今やってる長編小説の投稿が終わっちゃうので寂しい 自分の小説が終わってロスになるとか我ながら意味不明です 早く新しい登場人物たちに会いたいな〜 まだ冬眠してるのか、なかなか出てきてくれません
子供のころ薬屋を経営していた親戚を訪ねると「おやつだよ」と言って出されるのはいつも肝油ドロップでした。 その後さらに「ジュースだよ」と渡される子供用の黄色い栄養ドリンクもおやつだと信じていました。 乳酸菌入りの整腸剤もおやつでした。 ポリポリとラムネ感覚で噛むと粉っぽいけどまあまあ美味しかったです。 もっとねだると「用量を守らないと」などと言われ、それはただの薬なのでは?と勘付いたのですが都合の悪いことは追求しない知恵がそこで身に付きました。 とある友人は幼児の頃、ス
「おれはどっちかっていうと犬のほうが好きなんだけどな」 「かいちゃんは犬飼わないの?」 「飼ってみたいけどおれの家はちょっと無理だなあ」 「うちで飼ってたマロン、僕が幼稚園の時に大きくなりすぎておばさんに引き取られていっちゃったの。飼うなら大きくならない犬がいいよ」 「そうか。じゃあチワワとかがいいだろうな」 「かいちゃんにチワワは似合わないよ。もっとメンタル強そうな犬じゃないと犬がかわいそう」 「おい…」 ゼリーを食べ終えた弟が奥に引っ込んでいくのを見届けてから魁人が尋ね
「のろけていい?」 「おう」 「うちの人、たとえ熟睡してても無意識に、脚の間のあたしを踏まずに寝返りうてるの」 「すげーな」 「あんたのとこはどう?」 「おれの写真撮るためにハイスピードカメラ買ってきた」 「………それはちょっと引くわ」 「お前んとこだって毎日写真撮ってSNSに出してるじゃんよ」 「あたしを撮るために動体視力が上がったらしいの」 「うちも床に落ちた猫砂を感知する足裏センサーが発達した」 「進化してるわね」 「進化だよな」 「あたしGPS付けられてんのよ」 「
鶯町の住宅街は実に探検しがいのあるところだった。 瓦屋根の旧家の塀に沿って歩いていくと周辺の新築住宅との間におかしな段差や通路があり、子供しか通れないような隙間があちこちにある。 そういう抜け道をひたすら選んで歩くと見たこともない場所へたどり着いたりする。 駿と魁人はそれを迷子ごっこと呼んで、あえてわからない道を通って遊んでいた。 本物の迷子にならなかったのは魁人の並外れた方向感覚のおかげだった。 どんなに周囲が見えない所に迷い込んでも、魁人はほとんど直感で帰り道を探り