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教科書では教えてくれない「大江山」小式部内侍の親孝行と、10年後の親不孝。【現役ライターの古典授業04】

最近、この記事のアクセスが多いな・・・と思ったら、そうか、「大江山」の授業を学校でやる季節なんですね(多分)。

ともあれ、「現役ライターの古典授業」シリーズです。
(↓以下が今まで書いた記事のまとめです。興味ありましたらどうぞ)


例によって「これを読めば大江山のテストもばっちり!記述対策や中間・期末もどんとこい!」という、進●ゼミ的な展開とはかけはなれてますが、超個人的な古典解釈で古文を読む!というシリーズ。

大江山いくのの道の遠ければまだふみも見ず天の橋立

百人一首でも有名な、この和歌。
今では授業でカルタをやる学校もあるくらいなので、小中学生の頃から耳慣れている人も多いのではないでしょうか。
(かくいう私も小学校のときに百人一首を習いました。百首覚えたのも懐かしい思い出・・・)

この和歌は小式部内侍と呼ばれる女性が詠んだものですが、どういう経緯で生まれたかは「金葉集」もしくは「十訓抄」に詳しいです。
教科書では「大江山いくのの道」というタイトルで載っていることが多いかと思います。

ちょっと見てみましょう。

和泉式部、保昌が妻にて丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるを、小式部内侍、歌詠みにとられて歌を詠みけるに、定頼の中納言たはぶれて、小式部内侍ありけるに
「丹後へ遣はしける人は参りたりや。いかに心もとなく思すらむ。」
と言ひて、局の前を過ぎられけるを、御簾より半らばかり出でて、わづかに直衣の袖を控へて   
「 大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立 」
と詠みかけけり。・・・
ーー『十訓抄』より

これ、結構有名なエピソードなので、ご存じの人もいると思います。
要は「おじさんのイヤミに対して、さらっと上手な歌で返した」という内容なのですが、対応といい振る舞いといい、非常に学ぶことが多いです。

ただ、彼女について調べていく中で、教科書では書かれないエピソードも知ることとなりました。

「和歌の上手」であるがゆえの、小式部内侍の光と影。

今日は、この「大江山いくのの道」を取り上げつつ、小式部内侍について触れた部分を紹介したいと思います。

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今日は「大江山」の続きやな。

和泉式部、保昌が妻にて丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるを、小式部内侍、歌詠みにとられて歌を詠みけるに

てことで、小式部内侍は、歌詠みに「とられた」んやったな。これは漢字で書くと「採られた」、つまり「選ばれた」ってことや。

これ、さらっと書いてあるけど、めっっっちゃ凄いことなんやで。

当時の女性にとってな、「和歌が上手い」っていうんは、仕事でも恋でも結婚でも、めちゃめちゃ大事やったんや。
だってな、ほら、ここにも書いてあるやん。

(中略)局の前を過ぎられけるを、御簾より・・・

な。御簾
昔の貴族の女性ってな、基本みんな「御簾のむこう」やねん。年がら年中ブラインド降りてる状態。顔なんか全然わからん。

唯一、下だけちょーっとのぞけたやろうか。
そしたら何が見えるやろ。わかる?

生徒「ーーえーと、服の端?とか、髪とか・・・」

おー! ええ想像力してるやん。
そうや。十二単みたいな、足下ずるずる引きずる和服やないと見えんよな。
あと髪の毛。御簾の下からでもわかるほど「長い髪の毛」が大事ってことや。ふっさふさで長くてまっすぐなんは、美人の証拠。
ま、あとは「香り」とかな。現代のお香ブームどころやないで。姿もわからん相手やから、嗅覚で相手をかぎ分けるレベルや。

そんでな、顔も見えん相手とやり取りするんは、和歌ぐらいしかない。

電話も、ケータイもスマホもない。ていうか、相手の姿も見たらあかんときた。
手紙で和歌をやり取りするから、和歌がうまけりゃ結婚できるし、下手だと相手は離れてまう
ほかにも字の上手下手、紙質、手紙に添えた草木、焚きしめた香りなんかもポイント左右するわな。
仕事も、和歌ができるとな、女官として仕えたり姫様の家庭教師みたいなことできたりすんねん。

そんな時代に「和歌がめっちゃ上手くて美人」って評判やったんが、和泉式部。
その娘が小式部内侍、っちゅうわけや。

てことで、この「宮中の歌詠みに選ばれる」ってな、「オリンピック選手に選ばれる」レベルの話なんや。
しかも小式部内侍、当時12~15歳やったと言われてるし、史上最年少のオリンピック選手あらわる!ぐらいの騒ぎやったんちゃうかな。

けど、宮中では「ホンマかいな」「どーせ親のコネやろ、コネ」「歌も親が作ってんちゃう?」って言うやつもおったらしい。

やから、この定頼中納言は言うわけや。

定頼中納言たはぶれて、小式部内侍ありけるに
「丹後へ遣はしける人は参りたりや。いかに心もとなく思すらむ。」
と言ひて、局の前を過ぎられけるを・・・

これなー。「小式部内侍ありける」ってことやから、そこに小式部内侍がいるのを分かってて、わざわざ言ったわけやな。聞こえよがしに。

「ママのところへ『助けてーママー』って送った手紙の返事来たん?返事がないゆうて不安がってるんちゃう(笑)」
※意訳

いつの時代も、やっかみ・ねたみはあるもんや。
ま、しゃーない。親が凄かったらな、絶対「親の七光り」って言われんねん。1000年前も一緒。

けど、それを超える実力をつけるんが、腕の見せ所ってもんや。
小式部内侍は絶妙なタイミングで、即座に歌で返して、「七光りちゃうわ、私の実力や」って証明したんやな。

親にとってな。「子供が親を超える」って、めちゃ嬉しいことやねん。
我が子がな、自分の力で世間に認められて、自分の足で立って歩いていくんは、ほんまに誇らしい。

和泉式部にとってみたら、このエピソード、最高の親孝行やったんちゃうかな。


ただ・・・

教科書には書かれてへんけど、小式部内侍はこの10年後、亡くなるねん。

子供を出産したときにな。母親の和泉式部より先に。


ちょっと脱線するけど、こっから先は教科書には載ってない『十訓抄』や。ちょっと紹介するな。

小式部内侍はもともと病弱やったんか、病気で伏せるねん。
お母さんの和泉式部がそばにおった。

和泉式部、かたはらにそひて、額をおさへて泣きけるに、目をわづかに見開けて、母が顔をつくづくと見て、息の下に、

いかにせんいくべき方も思ほえず親に先立つ道を知らねば
ーー『十訓抄』より

もうなー。ありありと浮かぶ描写やで。

お母さんが、かたわらにずっとついてるんやけど、我が子があまりにつらそうで、泣いてしまうんや。

そんな泣いてるお母さんを、布団の中から見る。
それも何とか「わづかに」、つまりほんの少しだけ、目を開いて見るんや。

そしてお母さんの顔を「つくづくと」見つめて、言うんや。

「私はこれから、どこに行けばいいでしょう。親に先立つ道も分からないから・・・」

お母さん。私は、先には死なないよ。ね、大丈夫だから・・・」と、息も絶え絶えに言うわけやな。

このときは、何とか持ち直すんや。
けど「親に先立つ道も知らねば」の歌を歌ったはずの小式部内侍が、結局、親より先に死んでしまう。

何人目かの子供を出産するときに、産後数日で亡くなってしまうんや。
25歳ぐらいやと言われてる。

そんとき、和泉式部が詠んだ歌がこれや。

小式部内侍亡くなりて後、孫どものはべりけるを見て、詠みはべりける

とどめおきて誰をあはれと思ふらむ子はまさるらむ子はまさりけり

ーー『後拾遺和歌集』より

娘が命をかけて残した孫を、おばあちゃんの和泉式部は、抱っこしてるシチュエーションや。

「娘は、私たちを残してあの世に旅立っていった。
一体、誰を愛しく想っているだろうか。

きっと、何にもまさる、我が子のことだろう。
そう。子どもは、何にもまさるのだ・・・

これな。助動詞「らむ(現在推量)」と、「けり(詠嘆)」を絶妙に使い分けた、屈指の和歌やと思う。

最初の「子はまさるらむ」の「子」は、自分以外の対象の“今”を推し量る「現在推量の『らむ』」やから、娘である小式部内侍から見た「子」。つまり和泉式部から見たら、今まさに自分の腕に抱いてる孫のことを指してるんやな。
一方、最後の「子はまさりけり」の「子」は、読み手の和泉式部の実感「けり」がついてるから、和泉式部本人の子ども、つまり小式部内侍を指す。

「死んだ娘が、愛しくてならない。
 きっと無念だったろう。悲しかったろう。
 何より『幼い我が子を残して死んでしまった』ことは、さぞ無念だったに違いない。
 だって実際、私が今想っているのも、娘のことばかりだからだ・・・」

子供が死んで、子供のことばっかり考えてしまう。
きっとあの世にいる娘も、子供のことばっかり考えてるんやろうな・・・って。

子を思う心。
それはほんまに、何にもまさるんや。

やからな、『親より先に死ぬのは、最大の親不孝』やとよく言われる。

別に反抗期で親にババアとか言ったり、粋がって悪さしたりは、どうってことないねん。
親にとっちゃ、痛くもかゆくもない。

健康で生きてたら、それでええねん。
ええねんで。ほんまにな。
覚えときや。


ま、けど生きてること前提で、親を超えるっていうんは大事やで。

健康で。好きなこと見つけて。社会の役に立って。
そのうえで、親の自分ができんことをしてくれる。
そらーうれしいわなぁ。

小式部内侍は15歳かそこらで、オリンピック選手レベルに選ばれて、ちゃあんと実力を発揮した。

もし親がすごくて、尊敬してんのやったら、その親を超えてやれや。
親は嬉しいで。

そんでな。
絶対、親よりも長生きするんやで。


(キーンコーンカーンコーン)


あかん。今回えらい脱線してしもた(笑)

ではまた、次回。


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