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”令和=beautiful harmony”!トランプ大統領の宮中晩餐会スピーチに学ぶ、「令和」を英語で簡単に説明したい!【現役ライターの古典授業・番外編03】

先日、トランプ大統領が令和最初の国賓として、宮中に招かれていました。

その夜の晩餐会がテレビ中継され、私もテレビの前でスピーチを拝聴していました。
(※なお、我が家では英語のスピーチがあるとき、テレビを副音声モードにします。日本語の同時通訳と実際の英語が同時に聞けるので、なかなか面白いです。オススメ!)

そこで、すごーく驚いたのが。

トランプ大統領、令和、くわしい・・・!(゚◇゜;

アメリカでは「スピーチライター」なる専門職があるため、トランプ大統領が実際の原稿を全て執筆したわけではないでしょう。
なにせ、万葉集について詳しすぎる。
万葉集第五巻、大伴旅人、山上憶良・・・それらの名前を列挙するだけでなく、その内容や、和歌の特徴までも捉えているのです。

(ちなみに、令和の由来になった万葉集の序文については、以下の記事にまとめています。興味のある方はどうぞ↓)

日本人ですら、いや、国語教師ですら(汗)知らないような深い部分まで読み込んだ内容となっています。

でも、だからこそ、思いました。

「アメリカからお越しになったお客様が、ここまで日本のことを知ってくださっているのだ。私たち日本人が、令和の由来や説明ができなくてどうするのか!

と。

そこで、実際のスピーチを引用させていただきながら、

もし海外の人に『令和ってどういう意味?』と尋ねられたとき、どう答えればいいのか

ということを考えてみたいと思います!

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まず、スピーチ内で「令和」は、なんと表現されたのかを見てみましょう。

日本の新しい元号は令和で、美しい調和を意味します。
ーThe name of Japan’s new Imperial Era is Reiwa or beautiful harmony.

そう、Beautiful harmony(ビューティフル・ハーモニー)!

なんと簡潔で、わかりやすい英語でしょうか。
この一文だけでも、頭に入れておく価値はあると思います。

そしてもし「令和の由来はどこからきたの?」と聞かれたら、以下の部分が当てはまります。

この言葉は、万葉集と呼ばれる日本古来の和歌集に由来していると聞いています。
ーI have been told that it comes from a collection of ancient Japanese poetry called the Manyoshu. 

come from =由来する、ですね。

万葉集は「ancient Japanese poetry」と言えば、「昔からある日本の詩集」という風に理解してもらえるということです。

この2文を参考にすると・・・

The name of Japan’s new Imperial Era is Reiwa or beautiful harmony. It comes from a collection of ancient Japanese poetry called the Manyoshu. 
ー日本の新しい元号は令和で、美しい調和を意味します。
この言葉は、万葉集と呼ばれる日本古来の和歌集に由来しています。

うん! もうこれでバッチリです。
さすがアメリカ屈指のスピーチライターさん、平易な英語で、わかりやすく説明してくださっています(助かる~!)。

ただ、トランプ大統領のスピーチでは、以下のような内容にも触れていました。

令和がその由来をもつ万葉集の第5巻には、2人の歌人によって書かれた文章の中に、この瞬間に関する重要な洞察を与える記述があります。
その歌人の一人は、大伴旅人ですが、春がもつ潜在的な可能性について書いています。
もう一人の歌人は山上憶良で、1人目の歌人の良き友人であり、家族や将来の世代に対する私たちの厳粛なる責任を想起させます。
これらはいずれも古来の叡知から受け継がれてきた美しい教えです。
In the fifth book of the Manyoshu, where the term Reiwa originates, the writings of two poets offer important insights for this moment. The first poet, Otomo no Tabito, writes of the potential and possibilities of spring. The second poet, Yamanoue no Okura, a good friend of the first, reminds us of our solemn responsibilities to family and future generations.
Both are beautiful lessons, passed down from ancient wisdom.

ここ・・・一体、何のことを言っているかわかるでしょうか。

まずは、令和の由来となった第五巻の序文は「大伴旅人の邸宅に友人たちが集まった様子を、山上憶良が書いたもの」という前提があります。

なので、序文の中にある「時に、初春の令月にして、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後の香を薫す」から続く文章は、春が持つ潜在的な可能性を示したとも言えるでしょう。
また「もし翰苑にあらずは、何をもちてか情を述べむ。詩に落梅の篇を紀す、古今それ何ぞ異ならむ。よろしく園梅を賦して、いささかに短詠を成すべし」という箇所は、昔と今を見据えた一言と言えるかもしれません。

ただ、この執筆者は山上憶良1人ですし、スピーチ内にある「家族と将来への厳粛な責任」というニュアンスを考えると、序文だけなく第五巻の和歌まで読み込んだ内容であると考える必要がありそうです。

この「梅の段」のとき、大伴旅人は以下のような和歌を詠っています。

わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
ーわが家の庭に、梅の花が散る。まるではるか遠い天から、雪が流れて来るようだ。

いいですねー。「ひさかたの天より、雪の流れ来るかも」だなんて、なんと美しい表現でしょう。
私は雪国育ちなのですが、「舞い散る花びらが雪のようだ」とは、春になれば何度も思うことです。
それが悠久の彼方、遠い遠い空から流れてきたように見えるだなんて、空間と時間の広がりを感じさせます。

そして山上憶良は、以下のような和歌です。

春さればまづ咲く庭の梅の花独り見つつや春日暮(はるひくら)さむ
ー春になると、最初に咲く梅の花を、どうして私ひとりで見ながら春の日を過ごすなど出来ようか(いや、最初の花こそ、たくさんの人と見たいものだ)。

うわぁ。これも素敵です。
家族や仲間を愛する山上憶良らしく「美しいものは、みんなで愛でる方が何倍も楽しい」という感想を、率直に和歌にしています。

そうなんですよね。特にお花見なんて、一人で眺めるのも確かにいいんだけれど、誰かと「きれいだねぇ」「春っていいなぁ」なんて言いながら見る方が、何倍も良さを感じられます。
仲間・家族大好き山上憶良は、独り占めするよりもたくさんの人とみる方が大好きだったんですね。まさに、今回の企画(大伴旅人さんちで梅を愛でようの会)にピッタリの和歌です。

特に山上憶良は「憶良らは今はまからむ子泣くらむ」で有名ですが、第五巻では以下のような長歌を詠んでいます。
ちょっと長いですけど見てみましょう。

父母を見れば尊し 妻子(めこ)見ればまぐし愛(うつく)し
世の中はかくぞ道理(ことわり)黐鳥(もちどり)のかからはしもよ 行方知らねば
穿沓(うげぐつ)を脱き棄る如く 踏み脱きて行くちふ人は 石木より生り出し人か
汝が名告らさね 天へ行かば汝がまにまに 地ならば大君います この照らす日月の下は 天雲の向伏す極み 谷蟆(たにぐく)のさ渡る極み 聞し食す国のまほらぞ
かにかくに 欲しきまにまに 然にはあらじか

ー父や母を見ると尊く思われる。妻や子を見ると愛しいと思われる。世の中はこれが道理だ。糯にかかった鳥のように逃れられないものである。
破れたくつを脱ぎ捨てるように家族を踏み捨ててゆくという人は、石や木から生まれた心ない人か。
お前の名前を言え。天に行くのならお前の思うままに。地上にいるのなら大君(天皇)がいらっしゃるこの天の下は、雲のずっと向こうまで、すべて大君がお治めになっている素晴らしき国である。
とにかく、君の好きにすればいいが、私が言ったことが自然ではないか。

これは、当時学問や精神世界に向かうがあまり、父母や子供を顧みない者が出てきて、それに対して憶良がつくったものです。

「父母、子供が尊い、愛しいのは当然だ」と言うとともに「この地は天皇が治めている素晴らしい国だ」と断言しています。
要は「自分のことばかり考えず、身近にいる家族や、自分の生きる国を大切にしなさい」ということを言っているのです。

本当に、これらの和歌が1300年前に詠まれたとは思えないくらい、身につまされるような歌ばかりです。
これらを踏まえてトランプ大統領のスピーチがあるとすれば、本当にすごいことです。

また、スピーチには以下のようなコメントもあります。

We also remember that our alliance is a rich inheritance, and a gift we must pass on to our children, just as the sons and daughters of Japan preserve the ancient poetry of the Manyoshu.
ーそして、万葉集の古い和歌を日本の子供たちが受け継いできたように、私たちの同盟も受け継がれてきた豊かな財産であり、子供たちに受け継いでいかなければならないものであることを心にとどめています。

こう言われていますが、ここにあるような「日本の子供たちが万葉集を受け継いでいる」状況であると、果たして言えるのでしょうか。

歴史では習うけれど、古典では習うけれど・・・万葉集の内容を、私たちはどのくらい知り、その味わい深さをどれだけ理解しているか。
それに対しては、恥ずかしいことに、疑問が残ります。

1300年前に、たった31文字で気持ちを表したり、リズムに乗って長い調べを詠ったりした当時の心を、今に伝える万葉集。
その素晴らしさを、令和元年の今こそ、見直すときがきているのかもしれません。


・・・って、かなりまた脱線してしまいましたが汗

英語で令和を説明するなら「ビューティフル・ハーモニー!(Beautiful harmony!)」と答えましょう!

そして願わくば、万葉集の内容も味わったうえで、知ったかぶりでなく説明できるようになれるといいですね。


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