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ニッポン人の差別・偏見意識を扇動し助長するケント・ギルバートは,日本の道徳・倫理が高く中韓のそれが低いと愚考する「アメリカ人の仮面」をかぶったエセ日本人(後編)

【断わり】 「本稿(後編)」は,つぎの住所の前編の続編である。できればさきにこの前編から読んでもらえれば好都合に思う。
  ⇒ https://note.com/brainy_turntable/n/n2deb06d19450

 ※-1 ニッポン人の白人コンプレックスがとても気に入り,この国における自分なりの居心地がとてもよくなったケント・ギルバートの日本体験記の行き着いた地点

 若いときのリベラルな口調が,加齢とともに溶融・崩壊してきた,そして,極右のネトウヨ集団に仲間入りしてからは「ニッポン,イイネ!」を強調したがる白人系外国人としてならば,それなりにこちらの方面からはもてはやされる事実に気をよくしたこのケント・ギルバートは,「本稿(前編)」でも紹介したつぎの本の書名によく表現されているように,日本大好き人間に変身していた。

いまは落ち目の「発展途上」にあるこの日本であるが
自分の寿命が尽きるまでの
これからの人生の途中で
海外に逃げたりしないように希望したい

 ケント・ギルバートがまだ青年の容貌を維持していた大昔のころは,それなりに好感をもてる「自由・闊達な頭脳の持ち主」に映っていたはずだが,何十年もこの日本に住んで暮らしているうちに,いつの間にかネトウヨ的なエセ観念論に凝り固まったかのような人物に変貌した。

ケント・ギルバートの干支はなにか
調べればすぐに分かるが
論旨には関係なし

 補注)ケント・ギルバートの『X』には岡山理科大学客員教授だと記されている。この大学の経営者は,安倍晋三の幼少期からの親友加計孝太郎であるゆえ,アベチャンとのご縁も間接的(?)に有していたことになる。

 この「本稿(後編)」は前編につづいて,「差別・偏見意識を扇動し助長する」がごときに,あたかも「日本の道徳・倫理が高く中韓のそれが低い」といったふうに愚考(単純思考が)できる,それも「アメリカ人の仮面」をかぶっただけの,

 つまりは,在日アメリカ人歴がすでに何十年にもなっており,いまとなれば「元アメリカ人であったいうしかない程度」での,いわば「アメリカン・コーヒー」風の米国人としての中身しかない,しかも同時に,エセ日本人だとみなすほかない人物,ケント・ギルバートに対する批評をおこなってみたい。

 以下につづく記述は初め,「2018年3月24日」に書いてあった,それも一度はほかのブログサイトに公表していたが,その後,未公表になっていた文章である。本日の再掲・復活に当たっては,補正や追論のための加筆も,必要に応じてなされている。

 この「本稿(後編)」において基調となる問題意識は,つぎの2点にひとまず表現できる。

 ▼-1 かつて好青年のイメージをもてたケントの印象を記憶しているけれども,いまでは,落日的な「面相」にも反映されているその「退廃・堕落」ぶりは,ネトウヨ的な受けばかりを意識した人間としての面相の「形成」にも,大きく関与・形成したというべき強い印象を抱く。

 ▼-2 現状の日本社会は,まだまだ差別・偏見をまともになくせない時代の事情をかかえているなかで,元アメリカ人が「日本人の差別・偏見意識」(時代精神の弱点面)を促進させるための扇動本を盛んに公刊してきたが,これに “たやすく応じてすぐに乗りたがる側” にも「心もとない歴史認識」がある。

この記述における問題意識

 

 ※-2「熱視線女子柔道 ラファエラ・シルバ(下) 黒人,LGBT…消えない差別 /『少数派の星に』連覇誓い始動」『日本経済新聞』2018年3月20日夕刊「社会1・スポーツ」

 「猿がオリを出て,五輪の勝者になった」。リオデジャネイロ五輪柔道女子57キロ級の覇者ラファエラ・シルバは,メダル授与式の直後,テレビのインタビュー取材にこう答えた。なぜなのか。話は2012年のロンドン五輪にさかのぼる。

ラファエラ・シルバ

 2011年の世界選手権で銀メダルを獲得し,期待を背に臨んだロンドンは2回戦で反則負けに終わった。直後にネットでは「猿はオリのなかにいればいい」などと露骨に差別的な書きこみをされた。

 シルバは「くそったれ,ばか野郎」と反論してしまった。「とてつもないストレスにさらされ,気持を整理しないまま書いてしまった。反省している」。4年の間,差別的な言葉を投げかけられた。

 人口2億人を抱えるブラジルは欧州やアジアからの移民でなりたち,混血も進んでいる。柔道の普及に貢献した日本からの移民の子孫は190万人を数える。多様性を大事にする移民国家だが,「心のなかでは黒人への差別意識が残っている人は多い」と考える。

 「この人種差別はなんなの」

 突然ツイッターに連続投稿したのは,今〔2018〕年2月22日のことだった。リオの空港でタクシーに乗車し,自宅に向かう道筋で警察から突然止められた。泥棒を捜していた警察官は運転手を外に出して尋問し,乗車していたシルバについて「ファベーラ(貧民街)の住人かなにかだと思ったよ」と話したのだという。

 五輪を機に知名度は急上昇した。飛行機に乗れば拍手が起こり,道を歩けば写真撮影大会となる。それでも差別は消えてはいない。シルバは自身がLGBT(性的少数者)であることも隠していない。元柔道家のタマラとの付きあいは8年に及び,同居もしている。「両親は受け入れてくれ,友人たちもしっている。それでもむずかしいときはある」と話す。

 シルバがふだん練習するのは非政府組織(NGO)の財団が運営する道場だ。代表のフラビオ・カントはアテネ五輪男子81キロ級銅メダリスト。柔道を通じた人格教育をかかげ,無料で指導している。五輪後には「シルバに憧れた子どもたちがつぎつぎやってきた」といい,生徒は1400人に倍増した。シルバには「将来的には指導者になりたい」との思いも芽生えてきた。

 五輪後は練習不足もたたり,国際大会で一度も優勝していない。今〔2018〕年から本格的に練習を再開し始めたところだ。20年東京五輪での目標を問うと,急に目線が鋭くなり「金」と力強く答えた。(引用終わり)

 オリンピックは通常,こう表現されている。オリンピックは平和の祭典です。オリンピックの旗は五輪旗ともいうが,この5つの輪は世界の5つの大陸,アジア・ヨーロッパ・南北アメリカ・アフリカ・オセアニアを表わしている。 それがつながって世界がひとつになっているという意味をもっていると。

 もちろん,前段の説明文句はオリンピックを宣伝するためのキレイごとの決まり文句であり,単に理想論でしかありえない言明である。もちろんまた,こういった主張:提唱がなされないで,なにも強調されれないよりは,ずっとましだとはいえる。だ

 が,現実におけるオリンピック史を回顧すれば気づかされるように,女性差別・有色人種差別そのもの(実は,広義における人間差別全般そのものの意味あいをもった「負の過去」)を背負ってきている。

 補注)以上のような五輪理解は,2020東京オリンピック(コロナ禍のために1年遅れで開催したが)のさいにも,より明解になっていた。

 とくにJOC内部における腐敗・汚職的な体質はこのうえなく程度が悪く,オリンピックという美名のもとに完全に汚濁した人間組織・集団が記録した醜悪さだけが,前面に躍りでたかのような顛末になっていた。

 さらにいえば,IOCのバッハ会長となると,単に銅臭感覚が金メダル級に鋭敏である人物にしか映っていなかった。

補注記述

 前段(本文)の指摘についてくわしくは,ジュールズ・ボイコフ,中島由華訳『オリンピック秘史-120年の覇権と利権-』早川書房,2018年1月の一読を勧めたいが,ここでは,ひとまず本書に対するつぎのごとき論評の一段落を参照しておけば,本ブログ筆者の訴えたい要点を,関連的に理解してもらえると思う。

 第1回から続く悪習が現在にまで続いてしまっているわけだが,その後も莫大な開催費用を負担したくない市民による抗議と,実態としてそれでは支払い切れない現実。

 女性差別,人種差別(ヒトラーとゲッベルスはオリンピックを利用することでドイツ人[アーリア人]の優秀さを広くしらしめようとした)など多数の問題を抱えながらも,オリンピックは定期的に開催されていき,著者の宣言どおりに一貫してそこが政治的な場として機能していたことが明かされてゆく。

 冷戦期は超大国の威信をかけた代理戦争の様相を呈し,台湾と中国の「2つの中国」問題ではおたがいの国が相手をオリンピックから追放するようIOCに宣言。

 アパルトヘイトに対する抗議としてのボイコットによって南アフリカは2大会連続でオリンピックに招待されないことが決定され,競技のテレビ放映がはじまるとその放映権料が莫大な収入となって,

 IOCが企業体へと変化していき,とそこに巨大な金と権力が集中するのならば,政治から切り離すことはできないという単純な事実が歴史を読みこむことでよく分かってくるのだ。

 註記)「オリンピックの運営費はなぜ当初予算の何十倍にもなるのか」『オリンピック秘史:120年の覇権と利権』『DIAMOND online』2018年2月16日 5:06,https://diamond.jp/articles/-/159943

 補注)以上の記述がなされていた時期の話となるが,2020年に東京で開催予定のオリンピックが準備段階にあったころ,以上ののように描写された事態,とくに「巨大な金と権力が集中するのならば,政治から切り離すことはできないという単純な事実」が,まさしくそのとおりに展開されている最中になっていた。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森 喜朗(元首相)と開催都市東京都知事(緑のたぬきオバサン)とのバトルは,いったいなにをめぐっての醜い争いであったかという点は,2024年のこの1月にもなってみればさらによく理解できる点となっている。すなわち,その舞台裏では銅臭が濃厚に漂っていた事実以外,注目に値しえた創造的な「スポーツの思想・立場」など,そもそもからして皆無であった。  

 つぎの※-3の話題に移ると,インターネットなどなかった時代にはじまった近代オリンピック史から一挙に,現代の21世紀における「人権侵害」の問題に移る。

 差別や偏見の問題はオリンピックの領域にかぎらず,根強く時代を超えて生きつづけており,その時代ごとの状況を違えながらも実は,いまも「再生産され」つづけている。尽きまじき「差別・偏見」の潮流は強いままであり,いいかえれると,それは,いつでも巧妙に隠される細工までほどこされてもきたわけである。

 換言すれば「かたちを変え,品を変えて」は,その種の潮流が繰り返し再登場しつづけている。だから,それに毅然と対抗し,批判し克服するためには,いつも意識的に対処できる勇気ある立場,そしてさらには,そのための冷静な理論づけ(反論)が要請される。

 

 ※-3「ネットの人権侵害2000件超 5年連続で最多更新『名誉毀損』が48%増加」『日本経済新聞』2018年3月20日夕刊「社会1・スポーツ」

 法務省は〔2018年3月〕20日,2017年に全国の法務局が救済手続を始めた人権侵害の状況を公表した。無断で個人情報を掲載するなどのインターネット上の人権侵害は前年比16.1%増の2217件と5年連続で過去最多を更新し,初めて2千件を上回った。ネット以外も含む全体の人権侵害は0.5%増の1万9533件だった。

法務省人権ポスター
令和5年とは 2023年 平成30年とは 2018年


 インターネット上の人権侵害のうち,無断で個人情報などを掲載する「プライバシー侵害」が前年比4%減の1141件。誹謗(ひぼう)中傷などを掲載する「名誉毀損」が48.9%増の746件に達した。この2つで全体の85.1%を占めた。

 具体的には,刑事事件の容疑者の関係者だとする虚偽の情報がブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS),動画投稿サイトに掲載されたり,SNS上に勝手に上半身裸の画像を掲載されたりする事案があったという。

 ネット以外も含む全体の人権侵害の内訳は,「学校でのいじめ」が前年比6%減の3169件と7年連続で3千件を超えた。「労働問題関係」は同 2.6%減の2064件で,そのうち職場などでのパワーハラスメントが1290件と6割を占めた。「妻に対する夫の暴行・虐待」は 1145件,「児童虐待」は 486件あった。

 国籍や性別,障害などで差別されたりする「差別待遇事案」も前年比14.9%増の785件。性同一性障害に関するものが17件,性的指向に関するものが6件あった。

 法務局は窓口や電話,インターネットなどで被害者からの相談を受け,調査した結果,人権侵害の疑いがあると判断した場合には,加害者に改善を求めたり,当事者同士の話し合いの場を設けたりしている。(引用終わり)

 前項の※-2に登場した女性柔道選手ラファエラ・シルバの場合,ネット上に登場する人権侵害の問題に照らして判断するとしたら,いくつもの,該当事項が発生する点はいうもまでもない。日本では従来「型」とでも形容すべき各種の「差別・偏見」問題が,新たなネット空間において増・繁殖する傾向をみせてきた。

 しかもくわえて,従来「型」と基本から異なる様相がネット空間では形成されている。その特性がどのような展開をみせているかといえば,引用した記事のとおりであって,不特定多数の他者に対して,ネットの世界を介する情報の伝達・公表であるから,世間に対して大々的なその流布が可能になっている。弁護士の業界では,この新手の問題を商売のネタにして稼ぐ商域ができているくらいである。

 

 ※-4「〈ニュースQ3〉ケント・ギルバート氏の中韓本,売れる理由は」『朝日新聞』2018年3月6日朝刊

 米国人弁護士ケント・ギルバート氏の著書『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)が昨〔2017〕年の新書・ノンフィクション部門で最多の発行部数になった。2月には続編も出た。日本人の「高い道徳規範」を評価する一方,中韓の人について「『禽獣(きんじゅう)以下』の社会道徳」などと評する。なぜ,売れるのか?

中韓の人間を禽獣「視」したギルバートの「眼」は
野獣のそれか?


 1)米国人「目線」に興味
 本は昨〔2017〕年2月に出版され,発行部数は47万部を超えた。同氏は人気クイズ番組「世界まるごとHOWマッチ」などへの出演でしられ,近年は右派・保守系雑誌に寄稿。憲法や日本人に関する著作も多い。初版をみると,中韓では「儒教精神から道徳心や倫理観が失われ」「自分中心主義が現れて」きたと指摘。

 一方,「日本人には高い道徳規範である『利他』の精神」があるなどと書く。ネットなどでは当初から「嫌中・嫌韓本だ」との批判が相次いだ。中国人や韓国人に対して「『禽獣以下』の社会道徳」「自尊心を保つためには,平気で嘘(うそ)をつく」などの表現があり,差別意識にもとづくとの指摘も。複数の講談社社員によると,社内からも疑念の声が上がったという。

 補注)素朴な疑問。「『利他』の精神」を保有する「日本人には高い道徳規範である」と定義(?)するケント・ギルバートは,まさか日本人は「全然,ウソ,つきません」とまでは定義していないと思いたいが,この人(ケント)は〈自分のトンデモ本〉が売れるのであれば,なんでもいい,ともかく「日本人受け」する執筆をすればいいのだという姿勢が露骨であった。

〔記事に戻る→〕 それでも売れたのはなぜか。都内の大手書店のベテラン店員は「中韓が嫌いな人が買ったというだけでは説明しきれない」とみる。大阪府の男性会社員(56歳)は日本礼賛が強すぎると思いつつ「自分の周りには尊敬する在日の人が多いが,ネットはヘイト発言であふれ,日韓関係もこじれている。このギャップについて第三者である米国人の意見をしり,考えたいと思った」。日中,日韓関係の当事者でない,「第三者」の視点も受けているようだ。

 補注)のちにも言及されているが,アメリカ人〔だったケント・ギルバートは1981年に再来日してから日本に居住〕の意見だから,日本人向けに説得力があるかのように感じられる故をもって,多分,多いに売れている本であった。

 ケント・ギルバートが自分自身について説明していたのは,つぎのような生活の実態であった。

 「私はアメリカにも日本にも家があるので,当然,両方の場所に自分の荷物が置いてあり,旅をするときに,それほど多くの荷物をもちません」。

 註記)「いつ帰るのですか? Part 2(二カ国語)」『ケント・ギルバートの知っているつもり』2014-06-10 15:55:55,https://ameblo.jp/workingkent/entry-11875435607.html 

 だが,たとえば,古谷経衡(ふるや・つねひら)「買ってはいけない『儒教本』お粗末な中身 40万部超の中身は間違いだらけ」『PRESIDENT Online』2017/08/23 9:00,https://president.jp/articles/-/22895 は,ギルバートの文筆内容がいかにデタラメ三昧であるかを,つぎのように批判していた。

 古谷経衡のこの文章を以下に引用するが,全体が長めの文章なので,まず冒頭段落を引用し,そのあとは途中の見出し文句のみ拾いだしておく(ただし2カ所だけからは,少し紹介しておくが)。

 古谷の提示したこの指摘:批判に接しただけでも,ケント・ギルバートには「知識人・失格」の烙印が押されても異論はない。そうであるとしか判断する以外の材料がない。

〔記事に戻る→〕 今〔2017〕年2月に発売以来,瞬く間にベストセラーになり,増刷に増刷を重ねてついに43万部を突破。ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+ α 新書)が,いまだに売れつづけている。しかし,中身は疑問符がつくことばかりだ。保守派の論客である古谷経衡氏が,その “罪” を問う。

 「ネット右翼本」が異例の大ヒット。ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+ α 新書)という本が,43万部も売れているらしい--そう最初に聞いたときは,4万3000部の聞き間違いだと思った。

 タイトルからして「ネット右翼」が好む嫌韓・嫌中本の一種。この手の本の瞬間最大風速(MAX部数)は,せいぜい5万~8万部ということを経験則でしっているからだ。

 しかしなんど聞いても43万部だというし,書店には「40万部突破!」のポップが掲出されている。1冊当たりの売り上げが漸減している苦境の出版業界にあって,43万部は間違いなく大ヒットの部類だ。いったいどんな本なのか,がぜん気になって買い求めた。

 結論からいうと,遅読の悪癖がある私でも27分で読み終わってしまうとんでもなく薄い内容であった。ストップウオッチで計ったのだから正確な数字だ。びっくりするほど,ゼロ年代中盤に隆盛したネット右翼の中国・韓国観をただトレースしたモノで,目新しいものはなにもない。

 引用「文献」といえば,倉山 満,石 平,櫻井よしこ,山際澄夫,ペマ・ギャルポ,青山繁晴……。どこかで見聞きしたことのある保守「論客」の名前が並ぶ。ただし引用箇所の明示は不明瞭であり,「石 平さんから聞いた話によると~」など,伝聞のかたちをとっていることが多い。引用にしてはあまりにも誠実さを欠く。

 強いていえば「儒教」という単語と嫌韓・嫌中を絡めた点がオリジナルといえる要素だろうか。しかし,この水準で43万部なら正直いってうらやましい。(← 以上「冒頭段落」から引用)

 (また, ↓ 次段では,それ以降につづく文章から見出し文句だけを抜き出し列記するが,#1と#2の本文箇所からは,どうしても1カ所ずつだけは引用してみたくなったので,そうしている)

 『見出しの一覧』は,こうなっている。

     冒頭からトンデモ論が展開
     儒教の説明はほとんどない
     大間違いの「小中華思想」認識
     高校レベルの歴史知識も怪しい
     日本も「小中華思想」の国だった
     水準は推して知るべし〔#1〕
     トンデモ陰謀論が並ぶ
     まるで平行世界の中韓の話〔#2〕

      註記)以上について古谷経衡の文章全体は,                 以下の住所を参照されたい。
        ⇒ http://president.jp/articles/-/22895
        

〔#1〕  事前に断わっておくが,やや水準の高い〔というか,まともな議論を保持しようしても,この「ケント的なデタラメさ加減」にはだいぶ苦しめられていたような〕古谷経衡が示した批判が,まずこういっていた。

 そもそも “ネット右翼ユーチューバー” の発言であったのに,それを神戸大学の梶谷 懐(かじたに・かい)教授の発言であると誤記して,自著『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(PHP研究所)に掲載。
 
 のちに梶谷教授自身に抗議されるとこれを撤回し,版元が正式に謝罪・内容訂正する騒動に発展した経緯をもつ著者なのだから,本書の水準も推してしるべしなのは道理というところであろう。

 註記)古谷経衡,http://president.jp/articles/-/22895?page=4

〔#2〕 本書『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』も,この「切腹都市」のロバーツ(この人物に関する説明は割愛するが,ケント・ギルバートをたとえるために登場させていた人物)の赴任先を中国と韓国に置きかえれば,そのまま皮肉が成立する。

 「儒教」という概念をてことして,本当はありもしない架空の中国と韓国の姿がこの本のなかには描かれている。

 韓国にいけば,近代化されたソウルのなかに儒教の痕跡をみつけることはできない。そもそも韓国はアジア最大のプロテスタント教国(信徒数約1000万人弱)という事実も,本書のなかからは欠落している。

 中国社会の腐敗や中国人のモラルのなさを「儒教」によって必死に説明しようとしているが,政治の腐敗と人心の荒廃は共産国特有の現象であり,わざわざ「儒教」をもち出す蓋然性を感じない。

 本当はそんな国ではない,と十分しっているにもかかわらず,著者はいまだロバーツ〔前段でも説明したように,ここではケント・ギルバートを意味させている〕を演じているだけなのではないか。そんな気さえする読後感の悪さだ。

 註記)古谷経衡,http://president.jp/articles/-/22895?page=6 〔 〕内補足は引用者。

 以上,古谷経衡がケント・ギルバートに突きつけた批判は,このアメリカ人は文筆家であるという以前に,完璧にその無資格者だとみなす判定を下していた。つまり,物書きとしては不適格者であった「元アメリカ人」(アメリカ某州の弁護士資格者)が,売らんがためなのであれば,

 日本人の「一部」というか「かなりの部分」にひどく受けて(共鳴され支持されて!),その本が大いに売れたとなれば,実際に書いてあったその中身に関する「真贋の問題」や「事実認識の正誤」など,もうなんでもかんでもがどうでもよかったことになっていた。ケント君の文筆家として立っていた「足場の軟弱性」は,いわば形容しがたいほどに程度が悪かった。

 しかし,その本の中身がデタラメ満載であってもかまわぬ。ともかく「嫌韓・嫌中路線」のトンデモ本を制作し発売したら,しかも実際にベストセラーになってドンドン売れまくったのだから,ケント君の鼻息はもうとても荒かった,という始末にあいなっていた。

すっかり神道教徒の気分になっていたのか?
モルモン教は棄教した?

 なんといっても「43万部も売れたんだぞ,オマエたちに,文句なんぞいわれる筋合いはない!」というなりゆきになっていた。ましてや,その内容がデタラメなどいった批判・非難が飛びこんで来たところで,それがなんだっていうんだ,トンデモないいいがかりだ……ということになっていたのかもしれない。

 要するに,なんといわれようとケント・ギルバートは,自著がすごい売れゆきなっていて,トンデモないほどにまで空高く「飛んだ気分」(ハイ!)になれていたはずである。そのように推察しておけばよい。

 ケント・ギルバートがもしも,日本でも暮らすアメリカ人の1人として本当に,以上のような精神状態にもなれて,しかも自信と矜持をもった在日外国人として生きられてきたのであれば,この人は,ジャパン・ハンドラーズというアメリカ側の一群よりも,もっと “たちの悪い,好ましからざる人物” に仕上がっていたことになる

 もっとも,ケント・ギルバートはそもそも,日米軍事同盟関係に関して,まともに基礎知識をもちあわせていない事情を告白してもいたから,この米日安保関連法については,素人の範囲を出ない,このアメリカ某州の弁護士資格保有者から聞くべきものがあるとは思えない。

 売るほうも売るほうだが,買うほうも買うほうであったが,ケント・ギルバートの書いた本を読みたいと欲求する側は,それによってわずかでもいいカタルシス(日本語では「浄化」のこと,⇒ “他者の悲劇” を観察することで惹起される情緒体験が,日ごろから自分のなかに鬱積している同種の感情を解放してくれ,これにより快感がえられる関係)に浸れれば,それはそれでもって,この本が多くの読者(日本人・民族?)に対して「自己満足を与えること」に成功していたことになる。

 というしだいでありえれば,ギルバートがデタラメな話法でいい加減な本を書いているとかなんとかいった事情は,ここではひとまず問題外だと排除できなくはない。

 いずれにせよ「自分たちの内側にも実は存在する」はずの,あの特定の表現しがたい感情(日本・日本人の側に隠されている劣等感や差別・偏見の気持などにまつわるそれ)は,ともかく『嫌韓・嫌中』の気分を高揚・鼓舞してくれるケント・ギルバートの本を読むことによって,そんなもの(!)即座に「飛んでイケ--!!」の境地にさせてくれていたのかもしれない。

 「そうなれれば」なったで,〈自分たち〉の気持のなかに別にまた確かに鬱積していたはずの《なにか辛いもの》は,忘れることが「できる気分」になれる。つまり,それは別のまた「ある種のカタルシス」に過ぎないけれども,とりあえず当面はそういった具合になれるということで,これはこれで一時的にはひとまず主観的にハッピーな気分は取りもどせる。

〔ここでようやく『朝日新聞』の記事に戻る ↓ 〕
 2)「読者の欲 応えた」
 講談社の担当編集者・間渕 隆さん(56歳)は,原発をめぐる政官財の利権構造を描いて話題になった小説『原発ホワイトアウト』を担当したベテランだ。「差別意識はない。読者のしりたい欲望に応えた」と話す。

 東京・新橋の居酒屋で,周りの客が中国人や韓国人への違和感を語っているのを聞き,企画を思いついた。「中韓から日本への観光客が増えるなか,中韓は日本と『違う』という実感が強いのではないか」と考えた。

ケント・ギルバートのこの本を出版した講談社の社員自身が
このような批判を提示していた

ケントのことを「無自覚なレイシスト」と指称していた

 そこで日本滞在が長いギルバート氏に「彼らと日本人がどう違うか言葉にしてほしい」と依頼。間渕さんは「日本人は白人からいわれるのに弱い。ギルバートさんがいうほうが説得力が増すと考えた」という。朝日新聞はギルバート氏にも取材を申しこんだが,取材方法をめぐって相互に折りあえなかった。

 補注)テレビで各種放送されている “日本スゴイ番組” のそれぞれでも,この日本や日本人を褒める役目で出演する人物は,その大部分が白人系である。

〔記事に戻る→〕 この傾向がわけても「日本的な特殊事情」を特徴づけているかぎり,「日本スゴイ」系の放送番組のうさん臭さは尽きない。中国人や韓国人(さらに,アジアおよびアフリカ系の人びと)が,この種の番組にたくさん出てきて同じことを褒める場面は,あまりというか,ほとんど「観たことがない」(ただし本ブログ筆者の体験:場合だが)。そうではなく,たくさん観たことのある人がいたら教えてほしい。

 補注)ネット上にはいろいろな国々の人びとが日本に対して幅広く発言する時代になっているが,「日本ヨイショ,スゴい」ともちあげるユーチューブ動画サイトが好まれることはいうまでもない。

 3)「差別意識あおる」

 ギルバート氏の著作に限らず,中韓の国民性に踏みこんで批判する本は多い。こうした本に詳しいライターの永江 朗さんは,どの出版社も「売れるから作るという意識が強いのが特徴だ。『うそはいっていない。ひとつの見方を提示しているだけ』との意識が著者にも編集者にも根強い」と指摘する。

 補注)出版社も営利原則は無視できないし,無視していたら “会社の維持,企業の存続” がなりたたない。だからといって,出版業における「社会的責任の倫理」感に関して,ずいぶん無神経かつ無責任な態度がみてとれる。会社が儲からねば,もしかしてつぶれたりしたらたまらない,よりたくさん儲けてなにが悪いという次元の話題であった。

〔記事に戻る→〕 差別表現に詳しい明戸(あけど)隆浩・関東学院大非常勤講師(多文化社会論)は,同書を「嫌韓・嫌中本のひとつ」と批判。「日本をもち上げるだけなら単純なナショナリズムだが,中韓をおとしめることで,自分たちの立ち位置を高めようとしているのが特徴だ。あからさまな攻撃的表現もあるが,一見『上品』にみえ,手にとりやすい。それでいて実際には差別意識をあおっているのが問題だ」とみる。

 

 ※-5「BPO『人権侵害』と認定…在日差別扇動の『ニュース女子』」『民団新聞』2018年3月16日,https://www.mindan.org/old/front/newsDetail4960.html

 「ケント・ギルバートの中韓ヘイト本がひどい! 『禽獣以下』『病的』など民族差別連発,出版元の講談社の責任は?」『リテラ』2017年6月18日,https://lite-ra.com/2017/06/post-3254.html という記事もあったが,これはここでは引照しない。興味ある人はこの住所(リンク)から検索して読んでほしい。なお長文である。

 『民団新聞』のその記事の関連で本ブログ(当時)は以前,2017年11月1日であったが,「日本はいま『日本,スゴイと外国人〔主に白人〕にいわせている』が,ナチス・ドイツにも似て『人間生来の特徴の相違』を許さない『偏見と差別の国』か?」という題目でもって,ギルバートを批判する論評をくわえていた。現在は公表されていない本ブログ筆者の文章であるが,そこで論じていた点を踏まえてさらに,つぎの記述にすすみたい。
 
 東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ,千代田区)が放送した「ニュース女子」によって,人権と名誉を傷つけられたと申し立てていた辛 淑玉さん(「のりこえねっと」共同代表)に対し,BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会は〔2018年3月〕8日,「人権侵害」と認定。名誉毀損であることを決定し,再発を防止するよう勧告した。辛さんは東京MXテレビに謝罪,訂正,名誉回復を求めている。

向かって左側に辛叔玉
右側に金竜介弁護士(日本国籍)


 1)東京MXに再発防止勧告

 問題となったのは沖縄米軍基地反対運動について伝えた同番組の「沖縄基地反対派はいま」(〔2018年〕1月2日放送)。

 番組では沖縄・高江のヘリパッド建設問題について,反対運動の参加者の多くに対して金銭による報酬が支払われているかのような揶揄に満ちた報道をおこなった。また,辛共同代表に対しては「韓国人がなぜ反対運動に参加するのか」「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の黒幕」といった人種差別にもとづくヘイトスピーチ(憎悪扇動表現)もおこなった。

 「のりこえねっと」は放送直後,「事前にまったく取材を受けていなかった」と明かしたうえで「本番組はヘリパッド建設に反対する住民を誹謗中傷するものであり,その前提となる事実が虚偽のものであることが明らか。しかも,共同代表が外国人であることをことさらに強調するなど,人種差別を扇動するもの」と同委員会に申し立てていた。

 BPO放送倫理検証委員会は沖縄で独自の調査をおこなった。審理の結果「テロリストの黒幕」や「金銭による報酬が支払われている」という報道について「それら事実の真実性は立証されていない」という結論に達したという。

 同番組は化粧品大手DHCの関連会社「DHCシアター(現在はDHCテレビジョン)」と「ボーイズ」が制作。DHCシアターがスポンサーとなって2015年10月から放送されている。

 補注)DHCはいまもなお,いわくつきの差別主義者,それも最高経営者の地位にいる人物が,とくに韓国人・朝鮮人に対してひどい差別発言をしてきている。その間,裁判などを介してこのDHCとこの社長は,警告・指導される顛末になっていたが,その後もあいかわらず差別的な言辞を発散しつづけることを,けっして止めようとはしない。

〔記事に戻る→〕 BPOの調査によれば,東京MXテレビはスポンサーに配慮して番組を放送前に視聴するなどの適正なチェックを怠っていた。同放送倫理検証委員会は昨〔2017〕年12月14日,「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を発表した。東京MXテレビは1日,DHC側との話し合いが決裂し,番組「ニュース女子」を3月末で終了すると発表した。

 2)「謝罪と訂正,名誉回復を」「のりこえねっと」辛淑玉共同代表

 辛さんのもとには番組放送後から手紙やメールを通じた脅迫や嫌がらせが届いたという。心をずたずたにされ,癒えることのない「複雑骨折」を負った。ヘイトクライム(憎悪犯罪)から身を守るため昨〔2017〕年11月からドイツに「亡命」している。

 一時帰国して〔2月〕8日,衆議院第2議員会館で記者会見した辛さんは「東京MXテレビのやったことは罪が深い。デマに保険をつけて社会に飛び立たせたのだから。 

 インターネットは散弾銃だ。打ちこまれたら八つ裂きになり,平穏な日常生活がなくなる」と指摘した。東京MXテレビが3月で番組を終了してもネット上にはいまも画像が垂れ流されている。DHCは「ニュース女子」の制作を継続するとし,ローカル31局では放送を続けている。

 記者会見に同席した金 竜介主任弁護士〔前段にかかげた写真では向かって右側の人物〕は「DHCからのもちこみ番組をうっかり放送したでは済まされない。昨〔2017〕年12月にBPO放送倫理検証委員会から『重大な放送倫理違反があった』と指摘された段階で,なんらかの対応ができたはずだ」と憤りが治まらない表情。 

 東京MXには謝罪と番組内容の訂正,辛さん個人と「のりこえねっと」に対する名誉回復を求めている。話し合いに応じなければ裁判に訴えることもあると明言。DHCに対しては番組をインターネット上で流さないよう呼びかけている。(引用終わり)

 以上,日本社会のなかで最近ではけっこう有名人で,顔も売れている「辛淑玉」であった。だがその間,だいぶ精神的な打撃を受ける体験をさせられたと訴えていた。そこで,ケント・ギルバート流の「嫌韓・嫌中」路線を思いおこす必要が出てくる。辛 淑玉が受けた差別・偏見の行為は,ケントのごとき執筆活動によってこど,大いに “力:エネルギーをえてきた” はずだからである。

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