『桑の実』(鈴木三重吉)を読む
『桑の実』(鈴木三重吉)を読む
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「どうです。気に入りましたか。」と、青木さんも自分の画の前へいらっして、おくみの左手へ立ってお出でになる。
「私なぞには解りませんけど好きでございますわ。」
「その布の色なぞが?」
「ええ。――布もでございますが、画のすっかりが。(略)」(鈴木三重吉『桑の実』より)
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「画のすっかり」で、わたしは止まりました。
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おくみはぽつりぽつりいい加減な事を言って聞かせて上げながら、不断に締める夏帯の悪いのをくけた。(『桑の実』より)
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「夏帯の悪いの」で、わたしは止まりました。
それから、
「くけた」で、わたしは止まりました。
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坊ちゃんは、話の一と区切りごとにそう仰るので、段々引っぱって行く内に、しまいにつづまりが附かなくなった。(『桑の実』より)
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「一と区切り」の「と」で、わたしは止まりました。
それから、「つづまり」で、わたしは止まりました。
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「気乗りのしないような顔をして、本の小口を剥(めく)ってお出でになる。」(『桑の実』より)
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もちろん「小口」で、わたしは止まりました。
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「じっとこの画を見ているとどんな気がします?」と煙草を取って火をおつけになって、おくみの方へ迷うて行こうとする煙りを口でわきへお吹きになる。(『桑の実』より)
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「おくみの方へ迷うて行こうとする煙」で、わたしは止まりました。
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青木さんは、長まっていられて、おくみがそれを注いで上げるのに目を止めながら(『桑の実』より)
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やっぱり、「長まっていられて」で、わたしは止まりました。
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「今度は砂糖を入れないで山羊乳(ちち)ばかり飲んで見ようかな。乳だけの方が木の実を食べるのによくうつるようだね。」(『桑の実』より)
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「よくうつる」で、わたしは止まりました。
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「坊ちゃん、はい、ってお返事をなさいましな。」とおくみは涙になりそうな心持を隠しながらこう言った。(『桑の実』より)
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「涙になりそうな心持」で、わたしは止まりました。
それから、「心持を隠しながら」で、すこしもどって、止まりました。
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「おくみは自分の家というものがないことや、だれ一人しんみりした血つづきの人もいてくれない事なぞが、あじきなく考えつめられた」(「桑の実」より)
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「しんみりした血つづき」て、わたしは止まりました。つづいていることが、しんみりなのかな。連続って、すごく静かなんだ。
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「しまいには、ただ女に生れて来たという事それ自身さえはかないような心持がした。」(「桑の実」より)
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「それ自身さえはかない」で、わたしは止まりました。生きとし生けるもののうちの半分もが、それ自身をはかないという心持をもって、日々のみちをあるいているのか。
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「夜のひまなぞには青木さんの不断着なぞで縫いかえたいものを一枚ずつ解(ほど)いた。(「桑の実」より)
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「不断着」で、わたしは止まりました。「普段着」と書くのかと思っていた。つまらない「普段」に着る服なのだから。
「不断着」と、どうして書くのだろう。これ以上、たえまなく僕に、何をしろと言うのだろう。
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「洗吉さんは六畳の机の前に坐って、インキ壷の口にこびり附いたインキを紙で拭き取っていられる。」(鈴木三重吉『桑の実』より)
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「インキ壷の口にこびり附いたインキを紙で拭き取った」で、わたしは止まりました。こんなこともう長いあいだ、していない。
したい。
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