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どんな感情だった?

何十年経った今も私の中で奥さんに言われた
【泥棒ねこ】が胸に残る。
突き刺さっている。

泥棒ねこか。
何かごめんねぇ。
泥棒しちゃってさ。
人のモノなのに奪ってしまって。
幸せを壊したいんじゃなかったけど
大好きな人が幸せじゃなかったから
幸せにしたかっただけ。

ただそれだけだったんだよ。



そのあとは
何が何だかわからないまま大人達の言う事に従い、先生が来るのを待った。

ぶたれた私を周りが守り、発狂している奥さんがいる。ただそれを呆然と見ていた。

どこかで冷静な自分もいる。
【なんなんだ、この状況は。それに周りも大丈夫らって言ってたじゃん!どこが大丈夫なんだよ。】

【あー娘ちゃん泣いてる。でももう一緒にいてあげられないかも】

【大丈夫かな】

1人で発狂している奥さんをよそにそんな事を考えていた。

少し時が経ち、
先生が勤めている学校に呼ばれた。
校長先生と会った。
叔母も一緒に。

学校に通報がきていた事。

そして先生から校長先生は元々、相談を受けていた事。
私云々の前から。
先生にとって校長先生は元々、信頼している人だったんだろう。

とても優しく庇うように話をしてくれた。

あの場所に行く前に。
私は決断をしていた。

先生が先生をやめなきゃいけなくなるのだけは阻止したい。
離れなければ。ここで最後にする決断を。

先生は先生を辞めると言った。
離婚もして。

責任を全て1人で背負う先生らしい決断。

ありがとうね。先生。

ここからは私が校長先生と約束するよ。

しっかり聞いてね。

『私は先生をやめてほしくありません。
私が先生と別れればいいのならそうします。
どんな条件ですか?』

奥さんからの条件は
私と2年間会わないという事だった。
18歳。
私はその時、試されたんだろうと思った。
自分が悪い事も知ってる。
でも別れたくない。
先生にとって不都合な事を条件に出してきたのだろうから。

受けて立つよ。

私とのこの出来事で先生と先生の家族を
違う人生にしていいのだろうか。
違う気がする。

私は先生をしてる先生が好きなのだから。
私にとって中学での出来事は
大人を信じていいと心から思った。
教師なんて。そんな事も思っていたのに
先生は違ったから。

何かあるとすぐ助けてくれた。
私が我慢している事もすぐに読み取る。
口数が多いわけじゃないけど
なぜか先生は私の気持ちを察する。
そしてどうして欲しいのかわかって先回りして
行動に移してくれる。

先生のお母さんもとても優しく強い女性だった。
【お母さん】と呼び、行くと必ず優しい顔で包んでくれた。
先生はこのお母さんに育てられて生きてきたんだね。
私も大切にするからね。

そう思った。

娘ちゃん。
もう大丈夫。
私が守るよ。
頼りないかもだけど一緒に大きくなろう。
そう思っていた。

また泣かせちゃうなー。

何が幸せでどんなカタチにするのが
正解だったのかあの時はわからなかった。

ただ、よくないそれだけはわかった。

『校長先生、私は先生をしてる先生が好きです。
尊敬もしています。これからもずっと先生でいてほしいです。
もう、先生とは会いません。
これで先生が先生として生きていけるなら。
校長先生、先生の事守ってくれますか?』

校長先生は私の目にきちんと見て頷いた。

先生の目は怒っていたけど。

ねぇ先生、1人でそんなに背負わなくていいよ。
先生はいつも守る側だけど今は信頼できる人に守ってもらってね。

私じゃ先生を守ってあげられないから。

さよなら。


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