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「有価証券報告書の株主総会前の開示」に向けて検討 - 企業の実務への影響が大ですね


有価証券報告書の株主総会前の開示の動き

先日、ツイッターで情報収集をしていたところ、たまたま次の記事を目にしました。

以前から有価証券報告書(以下「有報」といいます)の早期開示の話は出ていましたが、いよいよ本格化に向けて検討が進むような感じですかね。私自身は、社会人になったその年から通算で20年以上、有報の実務に何らかの形で関与していますが(昔は紙で印刷され販売されていました)、昔から、有報は総会の終わった後に開示されることになっていました。
理由は事業年度終了後から3か月以内に提出することが求められており、役員の体制等も掲載する都合上、総会後(当日又は翌日)に開示する企業が多いというのが実情です。

有報を総会前に開示することでの課題

これまで株主総会後に開示していた有報ですが、これが株主総会前に開示となると色々と実務への影響が生じます。以下、企業にとって負担となるであろう主な内容について、2つほどあげたいと思います。

株主総会で株主の質問が増える

有報の特徴の1つは定性情報が充実していることです。つまり、グループ会社の概要、研究開発活動、政策保有株式あたりが大きな記述情報でしょうか。あと人的資本やサステナビリティ関係の記述もありますね。
株主総会で株主が見れる有報は1年前の古い情報ですが、それが直近の会社の定性情報が総会前に分かるわけです。株主総会前に新しいフレッシュな情報が出るわけですから、社長はじめ取締役が勢ぞろいしている株主総会は絶好の機会ですので、質問は確実に増えると予想されます。

政策保有株式の縮減の加速の必要性

ご存じの通り有報には政策保有株式の銘柄が最大60銘柄記載することが義務付けられています。しかし、これも先ほどと同じでこれまで株主が目にするのは1年前の政策保有株式の状況でした。今年のケースであれば、総会日に株主が見れるのは2023年3月末時点の政策保有株式です。1年前の情報なんて古いですよね。これが直近の3月末時点の政策保有株式の銘柄数などが分かるのです。

新聞報道にもあるように「政策保有株式=悪」という認識が定着しつつあります。1年前の有報と見比べて、政策保有株式の縮減があまり進んでいないようであれば「何故?」という質問が当然出るかと思います。

有報の早期開示と英文化

ということで有報が総会前に開示となると企業の実務への影響は大です。企業の経営トップや総会担当の取締役は大変だと思っていると思います。けど、総会日前までには有報は完成しているわけですから、総会日の数日前に有報を開示するということ自体は、実務作業上はまず問題はないはずです。ただ、前述のとおり総会での色々な質問を誘発することになるというのが有報の早期開示について企業側が「嫌だな」と思う点ですね。

そして、有報の早期開示とセットで今後議論されるであろうは有報の英文開示だと思います。海外機関投資家からは有報の英文が見たいという要請が強いです。しかし、日本語と同レベルの分量で英文開示をしている企業は外国人株主比率の高いごく一部の企業にとどまっています。

この有報の英文開示の時期ですが、これはもう少し先になるかなと思います。というのも、決算短信と東証適示開示の英文義務化が25年4月からですので、どんなに早くてもその後だと思います。有報の英訳となると翻訳の分量も膨大ですので、適時開示と同時に有報の英文開示を求めることはまずないでしょう。

ということを考えると結局は、プライム市場にいるとコストばかりかかるということです。これを契機にスタンダード市場に市場区分替えをする企業も今後は増えるのかも知れませんね。プライム市場は、海外投資家にとって魅力を感じる本当の大企業に厳選したいという金融庁、東証の思いが着実に実現に向かっているように思います。