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「見りゃ分かるだろ」が分かる脅威

みなさん、こんにちは。Naseka です。
私は 哲学者・エッセイスト として、
自らを定義しています。

…と言っておいてなんだが、
職業は会社員。
普段は工場の設備の保全や設計なんかを
担当する職場の技術者として働いている。

仕事柄、技術系の製品営業と
話すことが多いのだが、
今日も1件 新商品の紹介に来た。

それは知る人ぞ知る、
頭文字Dに出てくる某豆腐店さながらの
公道最速伝説の営業車でお馴染みの企業。

あるいは三十代で家が建ち、
四十代で墓が立つ
なんて冗談も流れる有名企業。

今回 紹介に持ってきた商品には、
正直 私も感心した。

今回はそんな話。


AI 搭載のスゴイヤツ

あまり専門的な話をしてもアレなので
ざっくりいうと、
画像でいろいろ判別するセンサの
上位機種が出たとのこと。

一番の売りは、
「AI を搭載したので
 従来できなかったような判別もできます」
ってこと。

まぁ従来機種にも AI チックなのは
搭載されていたのだが、
それは正直 私も使ってみてパッとしなかった。

これはメーカー商品が悪いとかいう話ではなく、
単に私の働いている工場の環境との相性が
悪いというだけ。

どんなに高いゴルフクラブだって、
「それ1本でどんな状況でもうまく打てます」
なんてことがあり得ないのと同じ。
そんなゴルフクラブ、
もし作れたら間違いなく売れますよ。
1本百万円でも、喜んで買う人は多いと思う。
ま、あり得ないのだけど。

閑話休題。

今回のセンサの AI とやらは、
デモを見る限りなかなかに賢いようだった。

もちろん営業マンは
うまくいくようなデモを用意してくるものだが、
そこは こちらも新入社員の頃とは違う。

「こういうときはどうなの?」
「こんな条件だとキビしいんじゃない?」
とツッコミを次々に繰り出していく。

これがプライベートの交友だったら、
間違いなく私は「性格の悪い奴」の
烙印を押されることであろう。

一応 自己弁護しておくが、
これは仕事柄 必要な会話なのである。決して
「目の前の営業マンを論破して
 気持ち良くなっちゃおう」
などという邪心は微塵もない。
(でも、「痛いトコ突かれました」的な
 反応をされたら、ちょっとだけ
 「でしょう~?」なんて
 ドヤ顔になりそうになることは認める)

さて、私が気になる点も
軽々クリアしたこのセンサ、
価格は数十万円/セットとのことで
気軽に買うわけにはいかないが、
少なくとも私のメガネには適う商品である。

数十万円で「見れば分かる」

じゃあ 私が認めたそのセンサ、
果たしてどんなにすごいものなのか。

いろんなことはできるのだが、
感心点をひとつ挙げればズバリ
「『人間が見れば分かる』ことが分かる」
という点である。

工業系・テクノロジー系を専門としない方には、
イマイチ ピンと来ないかもしれない。

「人間が見れば分かる」ものを、
数十万円かけて分かることの
何がそんなにスゴイのか?

たとえば、ひとつの箱に
ネジが10個入っているとしよう。

パッケージにかかれた数量と違っていたら
クレームになるから、
箱の中のネジが9個でも11個でもいけない。
クレームを出すと大変だから、
ひと箱ずつ ネジが10個ピッタリ
入っているかを検査する必要がある。

一見すると自働化は簡単そうに思えるが、
これが意外と難しい。

箱のネジは向きがバラバラ、不揃い。
横向きのものがあれば、逆さまのものもある。
全て一様な向きで並んでいれば、
話は簡単なのだが。

あるいは箱そのものだって、
いつもピッタリまっすぐに並ぶわけじゃない。
位置がズレたりすることもある。

極みつけはこれを
画像で認識しようとしようものなら、
周囲の明るさひとつ変わるだけで
センサは正しく反応できなくなることも多い。
実際、私の職場では朝日や西日の影響を受けて
従来のセンサでは自働化できなかった事例がある。

これが人間であれば、多少 位置がズレたり
明るさが変わったりしたところで
10個程度であれば正しく数えられるだろう。
(もちろん眼が眩むほどの眩しさや
 漆黒の闇の中だったら無理だろうが)
しかも小学生レベルであっても、だ。

実は市井の人々が思っているより、
私たちが
「そんなもん見りゃ分かるだろ」
ということを
「見て正しく判断する」というのは
結構 難しいものなのだ。

もちろん上記のネジの話は、
あくまでひとつの例に過ぎない。

世の中には似たような
「人には簡単に分かるけど
 機械やセンサには分かりにくい」
ことが溢れているわけ。

それができるようになっちゃった!

今回の私の驚きは、
それが数十万円足らずで
できてしまうということにある。

第一感では、「人が見りゃ分かる」ことに
数十万円も出すのは
馬鹿らしいと思うかもしれない。

だが、冷静に考えてみよう。

その「人」は、
ボーっとしたり疲れたりして、
間違えたりすることはないだろうか?
24時間365日休みなく働くことができるだろうか?
24時間365日人を働かせると
いったい幾らかかるだろうか?
(我が国には最低賃金というものが
 定められている)

そう考えると、
あながち「高い」と
決めつけられるものではない。
会社によっては、
「すぐに欲しい!」ということもあるだろう。

AI 失業の脅威は着々と…

AI が流行りだした頃には よく
「AI の脅威」とか
「AI に仕事が奪われる」とか
騒ぐ人が出てきていた。
(今も騒いでいるかは知らぬが)

私は彼らに加勢するつもりはないのだが、
それでも今日のセンサを見たら
「仕事を奪われる人も出てくるのだろうな」
と感じた。

今は数十万円のセンサでも、
今後もう少しお手頃な価格になるかもしれない。
世に出た直後は高級品だった自動車が、
時間と共に大衆に普及していったように。

技術が進歩すればするほど、
人間には それと勝負するだけの
「価値」が求められる。

今までは
「『見りゃ分かること』が分かる」ことが、
人間のアドバンテージになっていた。

だが、この先 それはアドバンテージたりえない。
なぜなら、比較的 安価なテクノロジーで
代替可能となるのだから。

だから、我々 人間には
AI をはじめとするテクノロジーが投げかける
残酷な問いかけに
答えを用意しなければならない。

「あなたの『価値』は何ですか?」


お読みいただき、ありがとうございました。

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