ヒナドレミ

初めまして、ヒナドレミです。毎週土曜日にA4サイズの記事を更新しています。 文章を書く…

ヒナドレミ

初めまして、ヒナドレミです。毎週土曜日にA4サイズの記事を更新しています。 文章を書くことが大の苦手だった私が綴るnoteの世界へようこそ。

最近の記事

ヒナドレミのコーヒーブレイク    目には目を 歯には歯を

 静謐な空気が漂う中、私は思いを巡らせていた。「辞めるべきか、辞めないべきか・・・?」  最近、職場の人間の 私を見る目が 明らかに変わった。私を軽蔑するような、冷たい目で私を見るのだ。話はおろか、挨拶をしてもまともに返ってこない。緘口令でも敷かれているのか、と疑いたくなる。いや、実際 敷かれているのかもしれない。同期入社のハヤトでさえ、話をしてくれない。(以前は二人でよく冗談を言い合っていたのに)と思うと 、悲しくもあり 腹立たしくもあった。  一度 理由を尋ねてみたこ

    • ヒナドレミのコーヒーブレイク     一つ屋根の下

       その家は、もう何年も、何十年も前からそこにあったように その場所に溶け込んでいた、そして周りの景色とも。そこには70代の男性と就学前の女の子が住んでいた。普通に考えれば祖父と孫だが、それぞれがお互いを『さん付け』で呼び合っていた。そういう呼び方の祖父と孫がいないこともないだろうが、接し方がかなりよそよそしい。  「心夏(こなつ)さん、明日の予定 何かありますか?」「特にありませんよ、カンジさん」「たまには二人で何処かにスケッチにでも行きませんか?」「ええ、いいですね。行き

      • ヒナドレミのコーヒーブレイク      言葉のお化け

         息子の正臣(ただおみ)は、今年5歳。言葉をしゃべり始めたのが遅かったので「発達障害かも」と心配したが、特にそのようなこともなく 健やかに育っていった。そしてその反動なのか、3歳頃からは かなり良くしゃべる子どもになった。  何か分からないことがあると、すぐに「ねぇ、パパ。これは何?」と尋ねてくる。「どうやって使うの?」「この字は何て読むの?」「この人は誰?何をした人なの?」と続けざまに尋ねてくる。  4歳を過ぎた辺りから 難しい言葉も次々と覚え始めた。日本語、英語を問わ

        • ヒナドレミのコーヒーブレイク       夜の都会

           何処を見渡しても人、ひと、またヒト。その人ごみをかき分けるようにして、私は歩く。静寂が怖くて、私は夜の都会を徘徊していた。思った通り、街は喧噪に満ち溢れていた。  雑踏の中に身を置いていると 何故か心が落ち着く。孤独を味わうには もってこいの場所だった。真の孤独とは、雑踏の中にあるものなのか?と思ってしまう。誰も私のことなど目もくれない、それが有り難い。  暗闇に目が慣れてくると、色々なモノが見えてくる。見えなくてもいいモノ、見たくないモノまで、全てがハッキリと浮かび上

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク    ローカル線・レトロ旅

           重すぎる心を 少しでも軽くしたかった私は、久しぶりに旅に出ようと思った。会社には 急用が入ったと伝えただけだったが、それ以上は何も聞いてこなかったそして家族には出張と伝えたが、こちらも それで納得したようだった。   (さて)と私は考える。(どこへ行こうか?)出張で色々な地へ赴いている私にとっては、行きたい地が思い浮かばなかった。それならばローカル線に乗って、ガタゴトと揺られているだけでもいいと思った。のんびり、まったりとしたかった。  そうと決まれば、と 私はカバンに

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          正義感と勇気

           私は、とある中小企業に勤める 一(いち)サラリーマンである。わが社の社長は かなりやり手のワンマン社長として知られている。「要らないヤツは斬る」が口癖の、イケイケな社長だった。  ある時、その社長と二人で話をする機会があった。何の話をしていた時かは覚えていないが、社長が「ちょっと それはうる覚えでねぇ」と言った。多くの人が間違えて使っている言葉の一つ『うる覚え』。・・・正しくは『うろ覚え』だ。空洞を指す『うろ(空・虚・洞)』が語源なのだそうだ。  だが その時の私には、

          正義感と勇気

          ヒナドレミのコーヒーブレイク     自由と束縛

           私は、現在 六畳一間のボロアパートに住んでいる。束縛されるのが大嫌いな私は、何一つ不自由のない贅沢な暮らしよりは、狭くて多少汚くても 自由な暮らしの方が断然いいと思っている。  この 汗のしみ込んだせんべい布団やタバコの焼け焦げのある畳、タバコのヤニで茶色くなった壁、その全てに 今では愛着を感じる。『住めば都』とはこのことだろうか。負け惜しみなどではなく、心からそう思う。  そして一ヶ月に一度だけ、少し贅沢をするのが、私の楽しみでもある。贅沢と言っても、普通の人からすれ

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク        疑惑

           先日、ほぼ1ヶ月ぶりに夫の書斎に入った。単身赴任している夫から、書斎のデスクに入っている黒い革の手帳を郵送してくれと電話があったからだ。  私が夫の書斎に入るのは、掃除をする時だけだと決めていた。別に 夫に「入るな」と言われているわけではなかったが、気が引けるのは確かだった。  革の手帳は、すぐに見つかった。一番右上の 鍵のかかる引き出しにあった。引き出しの中はキレイに整理されており、几帳面な性格の夫らしかった。  手帳を見つけて すぐに部屋を出ようと思ったのだが、不

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク     ズボラ女子

           久しぶりに晴れたある日。楓(かえで)は、束の間の眠りから覚めたばかりで 多少のエネルギーを持て余していた。最近、片づけもろくにしていなくて、そこここにモノが散乱している。そこで楓は、片づけモノをすることにした。  左手側には、脱いだ洋服が何着も重なって 山のようになっていた。このまま、また下から順番に取って着ればいいか とも思ったが、洗濯もしたかった。重ねて置いてある洋服を ガバッと掴み 洗濯機まで持っていく。一歩 歩くごとに洋服が手から落ちていく。それを足で蹴飛ばしなが

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク      秘密基地

           幼少の頃、私は家具の隙間にマットレスを塀のように立て、小さな秘密基地を作って遊んでいた。そしてその中で、一人時間を満喫していた。時には、フィギュアで戦隊ごっこをしたり、ミニカーを走らせてみたりした。私が身を置いていたのは、このような狭い狭い世界だった。  玄関で来客を告げるインターホンが鳴ると、自然に体が硬くなった。見ず知らずの人間は苦手だった。その人が家に入って来ようものなら、私は我が家の一番奥まった部屋の隅っこで、震えるしかなかった。工事のおじさん、保険会社のお姉さん

          ヒナドレミのコーヒーブレイク      秘密基地

          ヒナドレミのコーヒーブレイク     宿命~夜の海へ

           窓からは 春を通り越して夏が来たような積乱雲が見え、にわか雨でも来そうだ。一雨ごとに暖かくなっていく今日この頃は、耳を澄ますと春の足音が聞こえてきそうだ。もうすぐ桜の花も開花し まもなく街は にぎやかな花見モードに入る。  だが、私はそんな気分にはなれなかった。何故なら、私の心の中には重苦しい何かが影を落としているからだ。それは具体的に『何』と言えるモノではなく、形や色を伴わない抽象的なモノだった。その何かが、私の心の中を占領している。鬱陶しい!煩わしい!何とかして払いの

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク       お友達 

           まだ3月の上旬だというのに、桜の蕾が膨らんでいる。(今年は暖かいのかな?)と奏美(かなみ)は思った。最近は、忙しくて季節を感じている暇もない。気づくと、春がもうそこまで来ていた。  春になったら、思いっきり春を満喫しに行こうか、友達を何人か誘って。近場でもいいが、リフレッシュ出来るような場所に行きたいと思った。だが そこまで考えて、奏美はふと思った。「お花見に行かない?」と誘って、一緒に行ってくれるような友達がいるだろうか?いや、いない。まずは 友達を作ることから始めない

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク    バンド『THE ROCKS』

           『THE ROCKS』というロックバンドを結成して、5年が経った。その間、音楽性の違いから 何度となく解散の話が持ち上がったが、何とか5年間 続けてきた。バンドの構成は、ボーカル兼ギターのヒビキ、ベースのマサシ、ドラムのアリトモ、そしてキーボードのケイタの4人。  3月に入って、ケイタから呼び出しがかかった。ケイタは「大事な話がある」とだけ言った。場所は、いつものレンタルスタジオの一室。ヒビキが入っていくと、3人はすでに来ていた。そしてヒビキが椅子に座った途端、ケイタは話

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク    タバコ屋の看板娘の恋

           その角を曲がると、昔ながらのタバコ屋があった。もう半世紀以上も前からそこにあるのか、古びた佇まいだった。そしてそこの店舗兼住宅には、一人の年配の女性がひっそりと暮らしていた。  その女性の名を『ともえ』と言う。彼女は愛する夫を戦禍で失い、女手一つで二人の娘を育てた。今、長女はアメリカ人男性と結婚して 向こうに住んでおり、もう何年も帰って来ない。そして次女は、仕事の関係で九州へ転勤になった。    次女は、お盆や暮れなどに 長期休暇を取り、ひょっこりと帰ってくる。そして帰

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク      あこがれ

           ついこの間、新年を迎えたと思っていたのに、もうすぐ3月だ。彼女と別れたのが去年の9月だから、あれからもう半年も経つのか・・・。この半年は私にとって とても早いようでもあり、ゆっくりのようでもあった。  彼女の残り香は薄れたが、私の心の中を締めつけている彼女の存在は、全くと言っていいほど薄れていない。それどころか、日を追うごとに強くなっていく。それほど、私にとって彼女の存在は大きかった。  彼女と別れた直後は、二人で暮らしていた部屋に一人でいるのが辛過ぎた。そして、毎晩の

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          ヒナドレミのコーヒーブレイク      洗濯物

           それは、梅の花がちらほらと咲き始めた2月の朝のことだった。私はこの日、何故か早く目が覚めてしまった。時計の針は5時を指している。(掃除や洗濯は、音が近所に聞こえるからまだダメだし・・・)窓の外はまだ暗かったが、天気は悪くなさそうだったので、散歩に行くことにした。  今日は、いつも通勤や買い物の際に通る道ではない道にしようと思った。我が家を出て、3回ほど右左折を繰り返して坂を上ると、そこには別荘風の家が建っていた。早朝だというのに、もう洗濯物が干してある。(あれは昨日 洗濯

          ヒナドレミのコーヒーブレイク      洗濯物