神宮寺玲

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神宮寺玲

小説家を目指してnoteを始めました。 もし気に入ったら、スキやフォローしてくれると嬉しいです。 よろしくお願いします。

最近の記事

黒く滲む⑥

七月二十一日 (土曜日) 夜 某居酒屋 「おつかれー」 「お疲れさま―」 「お疲れ様でした!」  とある居酒屋に「ちょーちん」のアルバイトスタッフが集まっていた。みんな顔はやつれて見えるが、表情は明るく開放感に満ちている。長い戦いを終えた戦士達が集まって、勝利の宴といった雰囲気で飲み会が始まった。  今回の飲み会は、長い試験期間を乗り切ったスタッフの慰労会と懇親会を兼ねて、森さんが企画してくれたものだ。  本当は今日も「ちょーちん」は開店中のため仕事が忙しいのだが

    • 黒く滲む⑤

      七月十五日 (日曜日) 14時頃 修也宅  試験前に瞳ねぇと一緒にDVDを見てから、その後は徐々に瞳ねぇとのメールの回数が増えていった。試験勉強の合間も、勉強の進み具合や試験の手応えなど、お互いのことをメールで報告していた。  以前まではただのバイト仲間だったが、今はメールのおかげで前よりもずっと近い距離に瞳ねぇを感じることができた。  僕が瞳ねぇの事を好きなのは、おそらく伝わっていると思う。この前、咄嗟に手を握ってしまったのだから。だが、僕の気持ちに気付いているはずな

      • 黒く滲む④

        七月七日(土曜日)23時 居酒屋「ちょーちん」  今夜も居酒屋「ちょーちん」は多くの客で賑わっていた。七月になって初めての土曜日。暑くなり始めた気温に反応したように、店内には多くのサラリーマンや学生が集い、笑い声が響き合う陽気な場所になっていた。だがそんな賑やかで愉快な時間も、そこで働くスタッフにとっては過酷な時間だ。店内のお客の数とスタッフの汗の量は比例し、スタッフの余裕は逆比例しスタッフは一様にピリピリしていた。そして今日も、僕と瞳ねぇ、智樹先輩そして貴子さんは出勤して

        • 黒く滲む③

          六月三十日 (土曜日) 20時頃 居酒屋「ちょーちん」  今日は週末。私、柏木瞳は居酒屋でバイトをしている。週末はひっきりなしに客が入り、店内は大賑わいだ。 「瞳ちゃん、これ二番テーブルね」  オーダーを伝えると、厨房の人に料理を渡された。「ありがとうございます」と言いながら、ドリンクのオーダーも伝えなければいけないし、四番テーブルに呼ばれていることも思い出す。やることを頭の中で整理し段取りを組んでいると、厨房を出た途端に、 「二番テーブルですよね、僕が持っていきます

          黒く滲む②

          六月二十日(水曜日) 21時頃 居酒屋「ちょーちん」 「ありがとうございました」  森さんの声が店内に響くと、僕も続けて「ありがとうございました」と声を上げた。平日の「ちょーちん」は、週末とは違う穏やかな雰囲気だった。開店時は結構客がいたが、8時を過ぎたあたりで少しずつ客は減ってきた。今はまばらにお客さんが入っているだけだ。  平日の「ちょーちん」は、三人のアルバイトで回すことが多い。今日は僕と瞳ねぇ、そしてもう一人の女性スタッフの三名だった。 「修也君、最近調子どう

          黒く滲む②

          黒く滲む①

          六月十六日(土曜日) 21時頃 居酒屋「ちょーちん」 「いらっしゃいませ!こんばんは!」  客が扉を開け店内に入った瞬間に、僕は大きな声をあげた。ここは駅前の居酒屋で、時刻は七時を過ぎた頃だ。入ってきた客の名前を確認した僕は、そのまま店内を案内する。店内は、間接照明の広がる少し落ち着いた雰囲気で、店に入ると左側にカウンター、右側に少人数用の個室がずらっと並んでいる。  客を席まで誘導する僕は、頭に赤いバンダナを巻き、背中に赤字の「ちょーちん」という文字の入った黒いTシャ

          黒く滲む①