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【インタビュー】念頭に置いているのは、近江商人の”三方よし”ーー随筆家になった元国語教師Emikoさんが「商品レビュー」に目覚めるまで

今回お話を伺ったのは、note公式コンテストで2回の受賞歴をもち、note公式マガジン入りする文章を書く実力派クリエイター、Emikoさんです。彼女のnoteライフについて詳しくお聞きしました。

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Emikoさんは3年前にnoteをはじめ、これまでにnote公式コンテストで2回受賞している。4月には、奈良の工芸品ブランド「中川政七商店」の展示会「大日本市」の「カタリベ」となり、商品を解説する役を引き受けた。

もともと、12年間、中学校の先生だったという。どんなきっかけでnoteを始め、どんなふうにnoteを使っているのだろう?

「noteを始めたのは、今から3年前です。400日連続更新をしたこともあるんですよ」

400日連続更新、それは偉業といってもいい。穏やかな笑みを見せるEmikoさんが400日も書き続けたその熱意は、いったいどこから来るのだろうか。

プロの編集者/ライターと肩を並べ、6月開催の展示会「大日本市」の「カタリベ」に選ばれた

Emikoさんはnoteでの活動に変化を感じている。彼女は、中川政七商店が開催するバイヤー限定の展示会「大日本市」の「カタリベ」の1人に選ばれた。「カタリベ」とはなにをするのだろう。

「6月23日~25日に『大日本市』という展示会が品川で開かれます。『カタリベ』の役目は、その展示会に出展される商品を先に使ってみて、その感想をnoteに書くことです。書いた記事は、展示会ブースにも掲載されます」

Emikoさんの記事がnoteを飛び出し、展示会で多くの人の目に触れることになる。彼女はどんなキッカケで「カタリベ」になったのか。

「中川政七商店さんのnoteアカウントで募集を知りました。応募はしたけれど、まさか自分が選ばれるとは思っていませんでした。『カタリベ』は10名ですが、他に選ばれたのはプロのライターや編集者の方がほとんどです。それとは別に『プロのカタリベ』が6名。『sio』のオーナーシェフ鳥羽周作さんや、スープ作家の有賀薫さんなど、有名な方ばかりで」

「自分が『カタリベ』に選ばれたと知ったとき、一瞬ひるみました。でもすごく興味があったし面白そうだったので、やってみようかなと。直感で決めましたね」

「カタリベ」の1人として書いた第1弾の記事は先日公開された。商品レビューとは思えない、とても楽しい記事だ。今回「カタリベ」になったことを機に、随筆家と名乗ることに決めたというEmikoさん。実は「カタリベ」をやってみようという決断を後押ししたものがある。それは、Emikoさんがnoteに書いた、ある1本の記事だった。

商品に対して愛情100%を注いで書いている

「昨年、木村石鹸さんのメガネクリーナーについて書いたんです。誰にも頼まれていないのに。そのメガネクリーナーがすごく良くて。だから『みんなに伝えたい!』って。写真も入れて数時間で書きあげ、木村石鹸さんに届けばいいなぁと思って投稿しました」

その記事はnote編集部の“注目記事”に入り、多くの人によってtwitterで拡散され、製造元の木村石鹸に届いたという。

「木村石鹸さんからメッセージをいただいたときは嬉しかったですね。まさか本当に届くなんて、と驚きました。その記事は、その後『noteの買ってよかったもの2020』に選ばれたんです。今まで商品レビューを何回か書いたけど、自分が商品レビューを書くのが得意だとは全く気づきませんでした」

「読むと幸せな気持ちになる」といわれるEmikoさんの商品レビュー。宣伝色の強い商品レビューの場合、読み手は離脱する可能性が高い。最後まで読んでもらうために、Emikoさんはどんな工夫をしているのだろう。

「自分で使ってみて、これはすごい、みんなに伝えたい!と思う商品だけをレビュー記事にします。商品に対して愛情100%を注いで書いていますね。イメージは、“ジャパネットたかた”さんかな」

「念頭においているのは、近江商人の“三方よし”です。商売の極意は、売り手、買い手、世間が満足すること。私が商品レビューを書くときは、書き手もよし、書いてもらった会社もよし、記事を読み商品を買ったお客さんもよし、これを意識しています

「商品を買わなくても、読み終わった後『楽しかった』『面白かった』と思ってもらえたらそれでOK。レビュー記事だけど、自分の中では1つの文章です。私の文章として楽しんでもらえれば、それでいい。多くの人に買ってもらいたい、と思って書いていません。この商品がすごく良かったから聞いて!という感じ。ヘンな下心がないのがいいのかもしれませんね。恋愛と一緒で、下心が見えると冷めちゃうので」

商品レビューを書いているときはすごく楽しい、と笑顔で語るEmikoさん。その楽しさや熱意が伝わり、彼女の商品レビューを読んだ人は幸せな気持ちになるのだろう。

コンテスト応募作品は、山田洋次監督の世界観を意識して書く感動巨編

5000字超えの長文でも、長さを全く感じさせないEmikoさんの文章。読み手は立ち止まることなく、文章に引き込まれていく。するする読める文章を書くEmikoさんは、書くときになにを心がけているのだろう。

「文章を書くとき、3つのことを心がけています。1つ目は、わかりやすい文章。中学生が読んでもわかる文章を目指しています。2つ目は、説得力のある文章。これは、書くのが上手というだけでは成り立たない。書き手の人生体験が大きく影響します。文章に説得力を持たせるためには、様々な経験が必要だからです。3つ目は、自分に正直な文章。誰よりもまず、自分に対して正直になることですね」

このEmikoさんの姿勢は多くの読み手の心を打ち、note公式コンテストで2回受賞した。2020年「私が応援する会社」審査員特別賞2021年「やさしさにふれて」Panasonic賞だ。コンテストに寄せる彼女の思いとは?

「募集要項に沿ってアイディアを練り上げ、構成を組み立てて書いていくのは、とても新鮮で面白いです」

「まず、募集要項を読んでテーマを理解します。そして、そのテーマに合うような体験があるかどうか自分の過去を思い出します。ネタを過去のひきだしから探してくる感じですね。ネタが見つかったら、そのネタを募集要項に合うように、どう料理するかを考えます」

「コンテストは自分の力試し。普段の記事よりも時間をかけて書き、丁寧に推敲します。5000~6000字の感動巨編を目指していて、書いているときには山田洋次監督の世界観を意識しています」

感動巨編の文章は、目指せば誰でも書けるものなのか。読み手を感動させるために、どんな工夫をしているのだろう。

「感動巨編を書くときに大事なのは、書き手が盛り上がりすぎないこと。書き手が盛り上がりすぎると、読み手はしらけてしまいます。読み手が情景をイメージできるように、ただ淡々と描写する。イメージが湧かないと、読み手は離脱するので。コンテストの応募作品では、抑えて書くこと・丁寧な描写、この2つを特に意識しています」

文章を書けたら楽しい

Emikoさんはコンテストで受賞したり、note編集部の“注目記事”に入ったり、という実力派。彼女が文章を書き始めたのは、いつからだろう。

「書くことの原点は、高1の国語の授業。当時の先生が論説文をテーマに、方向性を考えて文章を組み立てることを教えてくれました。学校の先生って、『感想文や作文を書きなさい』というけど、なにをどう書くのか教えてくれない。でもその先生は、書き方にもパターンやルールがあって、こんなふうにして書くんだよと教えてくれた。これは面白いなと思って、論文募集など何回か応募しました」

中学校の国語教師として12年間働いたEmikoさんは、生徒にも必ず文章を書かせたという。

「情景描写をして作文を書く、教科書の文章構成を真似して論説文を書くというように、文章の書き方を生徒に教えました。当時は読み取り授業が多かったんですが、私の直感で、文章の書き方を教えたほうがいいと思ったんです。文章を書けたら楽しいですから」

文章の楽しさを知ったEmikoさんは、書くだけでなく、地域の文芸誌で編集をしていたことも。noteで書き始める前、ブログなどを書いた経験はあったのだろうか。

「noteで書く前は、ライブドアブログ、はてなブログでスピリチュアル系の文章を書いて、カウンセラーをしていました。そこでは、他のブロガーさんとの交流はほとんどなかったですね。ただ書いているだけでした」

「その点、noteでは交流が活発。他のブログと違い、孤独を感じることがありません。私は『カタリベ』のほか、マレーシア在住文筆家&編集者の野本響子さんの執筆サークル、同年代のクリエイターさんのグループ『リュクス』にも入っています。いろんな方とのやりとりに刺激をもらっています」

noteライフにも通じるEmikoさんの生き方のエッセンス:“3年サイクル”と“直感”

noteを始めて丸3年のEmikoさんは、活動範囲を徐々に広げている。しかし、2018年にnoteを始めたときは、自分で書いた文章を読むのは自分だけだったという。そのころ、いまの自分の状況を予想していただろうか。

「コンテストで受賞したり、『カタリベ』に選ばれたり、執筆サークルに入ったり。こんな状況はまったく想像していませんでした。自分の人生を振り返ると、私の場合、なにか新しいことを始めると3年サイクルで結果が出るんです。直感で『これがいい』というものを選ぶと、その3年後に結果が出る。noteを始めたのが2018年3月なので、丸3年経ちました。今はちょうど結果が出る時期。『カタリベ』に選ばれたり、執筆サークルに入ったり。noteでの活動が広がっていますね」

インタビュー中、Emikoさんの口から何度も出てきた“直感”“インスピレーション”という言葉。これは、彼女の生き方になにか通じるものがあるのかもしれない。

「私は直感で生きてきたようなところがあります。明確な理由はないけれど今はこうしたほうがいい、今はこうしようと、そのときの直感で決めてきました。国語教師時代、生徒に文章の書き方を教えたのも直感、noteを始めたのも直感、執筆サークルに入ったのも直感です」

「生きるって、選択の連続ですよね。人に説明できないし理由は分からないけど、私はこれが気になるからこれをしたいとか、あれをやりたいとか。人の目を気にせずに、自分の心に正直に選びたい。やりたいという直感を信じて選びたいですね」

表現を通じて自分の可能性を見つけていく

自分の直感を信じて生きてきたというEmikoさん。今後はどんなことをしていきたいと思っているのだろう。

「もともと“表現したい、発信したい”タイプなので、文章に限らず、いろんな表現をしていきたいです。高校、大学では書道部で書道中心の生活を送っていたので、それも続けたいし、絵を描くのもいいなぁ。noteでは写真日記というのも書いているので、写真も続けたい。表現して自分の可能性を見つけていく感じかな」

「今は特に野本さんの執筆サークルで、書くことを究めたい。将来自分がなにを選ぶのかは分からないけど、書くことを究めたいと思っている今は、その気持ちを信じてやっていきたいですね」

Emikoさんの記事を読んで分かったことがある。それは、記事のテイストやテーマは様々だが、どの文章にも裏表がないということ。自分の思いと向き合い前に進むような、筋が1本スーッと通っているような、正直でまっすぐな文章ばかりだ。

多くの人は彼女のそんな文章に惹きつけられ、「読んでよかった」「読んでスーッと楽になった」と思うのだろう。

また、Emikoさんの記事を読むと、文章を書くのを楽しんでいることがよく伝わってくる。“好きこそ物の上手なれ”を体現しているのが、Emikoさんではないだろうか。

彼女は今後noteを飛び出し、もっと広い場所でますます活躍していくにちがいない。インタビューを終えて、そう感じた。


*展示会「大日本市」の「カタリベ」としてEmikoさんが書いた第2弾の記事はこちらです。

インタビュー・執筆: み・カミーノ


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