今日の自衛隊〜もはや戦後ではない〜
背景情報~日進月歩で悪化する安全保障環境~
前回までのあらすじ
覇権国家が弱り始めた上に中国・ロシア・北朝鮮がアップを始め、更に北朝鮮が核実験に成功し非常に不快。あと中国くんめっちゃ元気やん、もうちょっと寝ててよ。
『くぁ~っ! 対話でどうにかなったら良いなぁ~!』
……
どうにもなんねぇや! ハハハッ!
『対話』の失敗と悪意は身近にさえ溢れているといますが、国際社会もまた同じです。
国際社会に於いて対話が失敗した場合には当然紛争が発生しますが、紛争の最も極端な形、人類究極の悪意は侵略です。そしてその悪意の発露が21世紀になっても起こるという事は2022年に証明されてしまいました。
我々は、国家安全保障に於いて最低限『ブロック』を行える程度の能力を整備する必要に迫られているのです。
Twitterで訳わかんねぇ人に絡まれてもブロックすれば良いですが、国家安全保障だと自力でブロックを担保する必要があるというのはなんとなく分かっていただけるかと思います。
この記事はその為に四苦八苦する日本を防衛政策という側面から――主に2010年代から現在に至る日本の防衛政策についての概観と関連情報を紹介します。
飽くまで概観であるため煮詰まったオタクにはちょっと物足りないかもしれませんが、まぁアレよ。アレ。
JTF-TH~史上最大規模の『統合作戦』~
地震・津波・原子力災害
……冒頭では国家安全保障・外交の話をしましたが、まずは災害の話からさせて下さい。え? アレも災害みたいなモンだろって?
僕もそう思います。
さて、日本国は地震が多いことで知られています。阪神淡路大震災を始め、新潟県中越地震、元日を襲った能登半島地震、そして関東大震災……。
古典をあたれば『方丈記』や『平家物語』そして『日本書紀』に到るまで、地震の記述は多くが伝えられています。
平安時代に編纂された『日本三代実録』も、また地震を伝えています。概ね1000年前、869年に発生したこの地震で、津波と大きな揺れによって相当の被害が発生していた事が記述されています。
死者19,759人・行方不明者2,553人、経済被害25兆円程度。
千年間で爆発的な増加した人口と経済規模は、ほぼ同じ規模の地震で二十倍以上の被害を被ることを意味していました。その上、東日本大震災では地震・津波に加えて原子力災害まで発生し、『国難』と呼んで差し支えない状況が生起したのです。
しかし千年前とは違い、幸いにも我々は災害に対して迅速に対応できる組織と能力を持っていました。
阪神淡路大震災の反省を活かして自衛隊は災害対処訓練を繰り返しており、三陸でも2008年に東北方面総監が主催しての訓練が行われていたのです。
JTF-TH
東北方面総監を指揮官とするこの災統合任務部隊は、自然というおおよそ人類の力ではどうしようも無い存在に立ち向かい、人命救助と秩序、そして被災地の復興の為に全力を賭す事になりました。
えっ、自衛隊の半分を?<デキラァッ(出来た)
自衛隊が災害派遣に於いてその威力を発揮するのは、その装備・能力・動員力・自己完結性にあります。
つまるところ、行政から見ればホランティアと違って危険なところにも突っ込んでくれて、かつ呼んでもこっちの手間があんまり掛からないしいっぱい来るという非常にありがたい存在なのです。
まぁ行政だって避難所の運営やら遺体の識別やら何やらで忙しいので自衛隊に任せてなんにもやってないという事では決して無いのですが、自衛隊としてはココで大きな問題が生じます。
自衛隊の自己完結性を担保しているのは、自衛隊なのです。
一見小泉構文に見えるコレは、災害派遣を行う上での一番の障害として横たわりました。
被災地で必要とされる支援や救援は莫大な量であり、警察・消防は手一杯。ならば自衛隊がやるしか無いというのは分かっていたものの、任務と、それに伴う後段への負荷があまりに莫大だったのです。
避難所への物資輸送に加えて運用しているヘリや車両/重機などの整備、病院の運営、部隊が必要とする物資や陣地、そして当然ながら陸海空の調整……。
津波に襲われた被災地で行方不明者を捜索する勇敢な部隊の後段には、機体寿命が擦り切れるまで最後の奉公を果たしたYS-11と、血尿を流しながら調整を尽くした兵站幕僚が居たのです。
この大災害で、自衛隊は特に後段組織に於いて大量の『実戦』経験を積みました。
その結果、自衛隊は国民からの大きな信頼を勝ち取りました。創隊してから常に日陰者で、公然と罵っても社会正義に反しなかった存在が、やっと市民権を得たのです。
吹雪の中で行方不明者を捜索し、被災者にカレーを振る舞い、避難所に浴場を開設する。
自衛隊は、国民のためにあると。やっと広く理解して貰えたのです。
そして「トモダチ作戦」で協働した米国に対しても『ジエイタイはここまでやれるぞ』という能力を証明しました。
朝鮮半島有事に慌ててGHQが作った警察予備隊も、今やこんなに立派に……
……なったおかげでアテにされてる訳ですね。
JTF-THがやり遂げた『統合任務』は、侵略事態への対処に必要な動員・後段・民間防衛といったエッセンスを濃厚に含んでたという側面があります。
努力と犠牲という感動的な美談の裏で、軍事組織として蓄積すべき教訓が積み上がったのは確かです。それが良いことか悪いことかはここでは論じません。
しかし、自衛隊は実戦経験が無いから弱いという言説は今や時代遅れであるという指摘を特に強調したいと思います。
人員10万6000名と回転翼機210機、固定翼機326機、艦船50隻を同時運用し、一部を放射能汚染地域に展開させるような経験をしている『隊』は、世界を見渡しても見つける方が大変なのですから。
25大綱とNSS~大改革のはじまり~
国防の基本方針よさらば! 国家安全保障戦略堂々入場す!
さて、3.11を乗り越えた日本は自民党を政権に返り咲かせました。
そして自民党は公約通り、今まで使い古してきた『国防の基本方針』を改定して『国家安全保障戦略』とし、更に防衛大綱を改正しました。
国家安全保障戦略は日本の防衛政策の最上位文書……では無く『安全保障政策』の最上位文書です。
つまり外交や経済を含めた『国家』の総体としての安全保障へのあり方を示したというのが国家安全保障戦略の特徴であると言えるでしょう。
これを嚆矢として、自民党政権(特に第二次・第三次安倍内閣)に於いて我が国の防衛政策は国家安全保障会議の指示を受けてコロコロ変わることになります。
まぁ原因は自民党政権や防衛省じゃ無くてお隣さん達なんですが……。
25大綱の特徴としては国家安全保障戦略に基づく積極的平和主義の導入と、動的防衛力から統合機動防衛力への転向という大きく2つが挙げられます。
この2つは『自ら平和という環境を友好国と共に構築していく』というのと、『陸海空で協働し、機動して抑止力を上げていこう』と簡単に纏められます。
今まで説明していませんでしたが、我が国の防衛は『抑止』と『排除』によって成り立っています。
抑止と一言に言っても色々要素がありますが、その大きな所は相手に『勝てない』と考えさせ、かつ戦っても得る利益が少ないと相手国に信じさせる事です。
積極的平和主義では、我が国の力に依らない環境構築……つまり『日本に手を出したら助けてくれそうな国』を増やし、かつ『日本においそれと手を出せないような雰囲気』を情勢し、経済支援やPKO等によってそもそもの紛争の数を減らしてテロ等の発生を未然に抑止する事が目的となりました。
その基礎は『力による一方的な現状変更を許さない』という態度。そして『正義と秩序を貴重とする国際平和』である事は言うまでもありません。
一方統合機動防衛力では、我が国の力に依る抑止力の構築と侵攻事態が発生した際に迅速にコレを排除出来る能力の構築が目標とされました。
その場に配備されている部隊だけで無く、他の地域に配備されている部隊も侵略の排除にあたり、かつ陸海空が緊密に連携してこれを行う――
以降、自衛隊は統合部隊の構築を前提に様々を進めていく事になります。
因みにここでやっと、ソ連崩壊後からずっと人員を削減され続けていた陸上自衛隊の定員が増員されました。やっと海自と空自から予算・人員的に腹筋ボコボコにパンチされなくて済むようになったのです。
あと中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)で陸上総隊が朝霞らへんから生えてきました。
これは今まで防衛大臣の隷下に方面隊が直接くっついていたという編成から方面隊の上に総隊を作って中央の指揮統制を一元化しようというモノです。
今まで総隊を作ってこなかった理由は色々あるのですが、噂では『クーデターを避けるため』と言われています。ホントか?
しかし陸海空の統合運用をするならば総隊が無いと困るという事で生やしました。なお中の人からは市ヶ谷に並んで不夜城と呼ばれ恐れられています。
平和安全法制~集団的自衛権って何よ~
メチャクチャ騒いでたけど、結局アレは何だったんだ。
公式名を平和安全法制、通称安保法制と言われる法律群が国会を通過するまでに辿った道筋は、皆さん結構良く覚えてると思います。
具体的に中身を見ていくと、平和安全法制は2つの法――『我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成27年9月30日法律第76号)』と『国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律(平成27年9月30日法律第77号)』で構成されています。
前者は自衛隊法を始めとする10個の法律をまとめて改正する法律で、後者はいわゆる『駆けつけ警護』なんかを可能とする法律です。
ここで『平和安全法制』をある一つの作戦と見做してみましょう。この観点からその目標と手段について分解してみると、目標は『日本の平和を守る』であり、その手段は『自衛隊等の活動、権限の幅を広げて抑止力を拡大する』と解釈出来ます。
さて、さっき紹介しましたが抑止とは
であり、具体的には拒否的抑止とか懲罰的抑止とかに細分化が可能ですが概ねこのように表現できます。
ちょっと待ってくれ、日本を守るならば自衛隊の活動範囲は日本周辺に限定した方が良いんじゃないかと思われた方は割と鋭いのですが、この法制の目標とするところは『日本の平和を守る』事にあります。
つまるところ『そもそも戦争を発生させず、もし発生しても日本への影響を最小限にする』というのがこの法律の主眼なのです。
法律の中身を見ると、重要影響事態に於いて諸外国への後方支援、存立危機事態に於いて武力行使が可能になっています。
これは『自衛隊は日本を防衛するだけでは無く、諸外国と協働して関係する武力紛争に介入出来る』という意味であり、即ち『侵略を企図する国は、日本や米国等の介入を前提にしなければならない』という事を意味します。
分かりにくいので簡潔に表現すると『侵略者から見て、防衛側の戦力(能力)が増える』事によって抑止力を向上させて戦争の発生を防ぐ一方、もし事が起これば積極的に介入する事によって『戦争を他人の土地に抑え込む』事を可能にした法制であると言えます。
しかしながらこれは従来容認されてきた『個別的自衛権』の範疇を両津勘吉並みに逸脱している為、『集団的自衛権』という言葉が出てくる訳です。
個別的自衛権とは国家が自国に対しての攻撃等を防衛する権利のことを指し、集団的自衛権とは国家が自国の同盟国等の他国に対する攻撃等を防衛する権利を指します。根拠法は国連憲章第五十一条です。
この集団的自衛権のミソは『自国が攻撃を受けていない段階でも必要な武力行使が可能である』という点です。
日本は従来『個別的自衛権のみを保持している』としていましたが、これは自国が攻撃を受けなければ防衛行為を行えない――つまり『最初から本土決戦』である事を意味していました。
これが平和安全法制によって、存立危機事態に於いては新三要件に従って領域外でも武力行使が可能になった訳ですから、安全保障政策上の飛躍的進歩であると言えるでしょう。
FOIP~自由で開かれたインド太平洋~
Free and Open Indo-Pacific
軍事や外交、ひいては歴史に於いて『正当性』言い換えれば『物語』は重要な意味を持ちます。
まず国内向けに『我々はこういう経緯で今ココにおり、こういう事をしており、これを目指す』という説明がしやすくなりますし、国外向けも然りです。
要は国家というのは何をするにも『スジ』を通さなきゃいかんのです。
例えば『世界の平和に責任を持つ常任理事国が、主権国家に侵略する』なんて事やったら当然非難轟々になるわけであり、メンヘラちゃんがメンヘラちゃん足り得るのは『理解のある彼くん』がバッファーとして作用するからであって、バッファーとして機能すべき国連がWorld War Zしてる限りはヘラヘラせずに自立していなければならないのです。
それでは現在我が国が通す為に努力しているスジは何か、それはFOIP――Free and Open Indo-Pacificと表現されます。2016年にナイロビで安倍元総理が発表したこの言葉が、今日の外交・安全保障政策に重大な意味を持っている事は既にご存知かと思いますが、この項ではそんなFOIPについて少し掘り下げてみましょう。
上の画像を見ても分かる通り、インド洋から太平洋に掛けての海面は非常に海上交通が盛んであり、我が国にとって重要なシーレーンであると同時に世界経済にとっても極めて大きな意味を持っています。
そこで日本は『この地域が自由で開かれており、かつ法の支配が行き届いている事は重要であるから、国際公共財として発展させていこう』という当然の主張をする事にしました。
『芋女やオタクにヤンキーやギャルが惚れる事は無く、相応の努力と行動が必要である』並に当然の主張であるコレは、逆説的に『この地域を独占したり、力で支配しようとしてはいけない』という事を意味します。
つまりこれに反対する事は『この地域を独占したり、力で支配したい』という主張をする事になる為、表立って反対する事はかなり難しいのです。
ここで一旦整理すると、FOIPは国際的な利益と国連憲章の精神に合致した包括的な構想であって、ビジョンを共有するならば中国をも受け入れる事の出来る非常に普遍的な概念であると言えます。
だからこそ中国との対決を表明した米国から中国の顔色を伺うASEAN諸国までの幅広い国々で受け入れられたのです。
で、具体的に何するの?
FOIPの実現の為に必要な具体的要素を分解すると、概ね以下のように整理されます。即ち
①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着
②経済的繁栄の追求(連結性、EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化)
③平和と安定の確保(海上法執行能力の構築,人道支援・災害救援等)
の3つです。
これを『FOIPの三本柱』とか言ったりするらしいですがあまり普及していません。
日本は港や空港の整備、海上法執行機関への訓練や巡視船等の供与、テロ・災害対策、海賊対処、地雷除去等の施策を行っています。
防衛分野ではフィリピンへのTC-90の無償供与や警戒管制レーダーの輸出、パプアニューギニア軍楽隊への能力構築支援、その他ASEAN諸国との交流や支援の他、米国、豪州、インド及び英仏独等の欧州・NATO諸国や、カナダ、ニュージーランドと協働しての積極的な合同演習等を行っています。
FOIPにより、日本は『この方面で事を起こせば、これらの国々と戦う可能性がある』という見積もりを『誰か』に強要すると共に、将来もし有事に巻き込まれたとしてもこれだけの国々が支援してくれる(かもしれない)という立場を手に入れました。先程見たように平和安全法制により国外に於ける武力行使も可能な法的建付けは存在していますから、国内政治は兎も角仮想敵から見れば日本も当然見積もりに加算しなければなりません。勿論その同盟国や有志国もです。
それに、もし『正義』が対立したとしても我々はその正当性を堂々と主張できます。国連に加盟する主権国家でコレに対立するような奴は国連から出ていった方が良いぐらいの存在がFOIPであり、FOIPに反対するとは即ち自由と法秩序への挑戦を意味するからです。
まぁ何事にも本音と建前はあるわけで、今日の安全保障的観点から見ればFOIPは中国の『一帯一路』への事実上の当てつけであると言えます。しかし普遍的かつ『正しい』為に中国も真っ向から否定できず、かつ多くの国々をインド太平洋地域に関係させると同時に日本も積極的に行動する事が可能になりました。
また、FOIPで重要なのは『既存の秩序を強化し、それが広く利益になる』という概念を普及させたことにもあります。つまりFOIP対して力で対抗する主体に対して『負けなきゃ勝ち』であり、さらに言えば戦わずとも勝ちなのです。この優位は『勝てなければ負け』である一部国家に対して強大な抑止力として働きます。(ロシア連邦を参照)
このように日本の外交・安全保障は『FOIP前』と『FOIP後』で区別出来るほどに飛躍的発展を遂げたと言えます。策定当時はここまで使われる言葉になるとは思ってなかったみたいですが、今後もFOIPは日本と自由主義諸国の影響力を象徴し、国際法秩序の一側面として活用され続けるでしょう。
30大綱~短命でフワフワ~
統合機動防衛力よさらば! 多次元統合防衛力堂々入場す!
えっ、もう変わるの!?
びっくりした? 筆者もびっくりした。
ご存知の通り日本を取り囲む安全保障環境はリニア新幹線並の速度で悪化しており、尖閣諸島への中国公船の侵入の常態化から『赤い舌』の実効支配強化、北朝鮮の核・ミサイル技術の進歩、そしてロシア軍の近代化等、25大綱制定時から見てもビックリするぐらいのスピードと質・量で悪化しているとしか言いようが無い状態に陥りました。
そして宇宙・サイバー・電磁波(宇サ電)領域の軍事での活用が戦争の行方を左右する程になると(当時)考えられていました。
2014年にロシアがクリミア半島を併合した際、新領域をロシアが支配した結果ウクライナ軍は碌な抵抗が出来なかったという戦訓があった上、中国の爆発的な経済力による潤沢な軍事技術への投資は、将来我が国を従来領域から新領域にかけて圧倒するものと見積もられたのです。
そこで登場するのが『多次元統合防衛力』です。
死ぬほどフワフワしており地に足が着いていないと朝霞辺りから罵られるこの大綱辺りから、日本は具体的に『戦う』事を想定し始めます。
今までの大綱では能力の整備、維持と活用による『抑止』に重点を置いていたというのは、ここまで読んで頂いた諸君にはよく理解されていると思います。
しかし30大綱に於いては『排除』を特に重視しての記述が多く見受けれられます。つまるところ、戦後70年間維持し続けてきた『抑止』が破綻しつつあり、かつ周辺情勢、技術的趨勢が大きく変化しているという認識の下、25大綱を改正したのが30大綱であると言えるでしょう。
30大綱の具体的内容については方々で解説されておりますのであまり詳しくは触れませんが、16MCVの配備開始やそれに伴うRDRの設置、FFM、哨戒艦、スタンドオフ防衛能力の整備、技術開発ナドナド多次元統合防衛力の整備の為に様々な施策が講じられる事となりました。(実は04大綱で開発始めたやつが多かったりします。)
なお宇サ電でどうやったら優勢を確保できるか等は策定時点でほぼ決まっておらず、朝霞と横須賀辺りから罵声が上がったそうです。
ロシアによるウクライナ侵攻~こんなことが21世紀にあっていいのか~
2022年2月24日
国際連合と国際連盟の一番大きな違いは、その強制力にあります。
即ち、武力行使を含む強制措置を行うことが出来る為、平和をより強力に維持する事が出来るというのが国際連合の特徴なのです。
その中核は先の大戦の主要戦勝国である安全保障理事会の常任理事国であり、これらの大国は『世界の安全に責任を負う代わりに、拒否権という特権を持つ』のです。
冷戦に於いては、ソ連もアメリカもその自覚があったのか『責任ある超大国』としての振る舞いを続けました。ソ連に至っては崩壊してもなお、核兵器の管理を厳重に行って核拡散を防いだ程度には責任を持っていたのです。
だからこそ人類は滅亡せず、私はWBC決勝戦の中継を見ながらコレを書ける訳ですが、ソ連の後継国を標榜するロシア連邦は、残念ながら無責任でした。
2022年2月24日、主権国家に対する侵略という20世紀的な戦争が21世紀でも起こってしまったのです。
そして残念ながら国際社会はアナーキーであり、国際連合を基軸とした現在の国際社会には重大な不具合があるという事が証明されてしまいました。
当然、この戦争は我が国の防衛政策にも大きな影を落とす事になります。
新三文書~もはや戦後ではない~
戦後安全保障の寿命
2013年に策定された国家安全保障戦略は10年を期限とした戦略である為、その10年後である2023年までには新たな国家安全保障戦略を策定しなければなりませんでした。
安全保障環境は30大綱策定時から更に悪化して戦後最悪とまで呼ばれるようになり、またロシアによるウクライナ侵攻という戦後国際秩序の根幹を揺るがすような事態があった事もあり、大規模な改定となりました。
冷戦期、日本は『基盤的防衛力』という国力に対して全く不十分な防衛力整備の言い訳として上のようなロジックを用いました。
即ち、我が国を侵略するような意図を持つ国は無いし、あったとしても限定的であるからこれで十分である。そのように自己を洗脳して『存在による抑止』を志向する自衛隊を整備したのです。
しかし新三文書では、防衛力について以下のように記述しています。
この『相手の能力の限りの悪意を想定して備える』という国家安全保障戦略のあり方は、先に紹介した冷戦期の防衛政策よりも遥かに積極的である事は言うまでもありません。
それではここから、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画を順に見ていきましょう。
今日、そして明日の自衛隊の概観を掴んでいただければ幸いです。
国家安全保障戦略
まずは最上位政策文書である国家安全保障戦略から見ていきたいのですが、ここではこれまで見てきたような外交を含む安全保障政策……即ち積極的平和主義やFOIPを軸として、普遍的価値を維持・擁護する平和主義国家として遂行するとされています。
これを踏まえた上で、国家安全保障の目標を我が国の主権と独立、国内・外交に関する政策を自主的に決定出来る国であり続ける事であるとし、脅威が及ぶ場合も、これを排除し、かつ被害を最小化させつつ、有利な形で終結させる。と設定し、これを実現する為の政策群を規定しています。
この他にも経済安保とか経済的威圧への対抗とか技術的優位の確保とか色々書いてあるんですが、この記事では主に自衛隊のあり方を書いていきたいので端折ります。
新たに策定された国家安全保障戦略を概観すると国家の総力による『平和維持』と表現する事が出来るでしょう。
国家の総力をもって戦争の芽を摘みとり、もしも戦争が生起してしまったならば最終的な国家安全保障の担保である防衛力によってこれを早期かつ有利な形で終結させる……
戦後戦勝国によって非武装化され、その後の平和に事実上タダ乗りして発展してきた日本がこのような文書を策定しなければならないというのはなんとも皮肉なお話ですね。
国家防衛戦略
防衛大綱から装いを新たにしたモノである『国家防衛戦略』では、ご親切にも防衛目標が明示されています。
第一の目標についてはFOIPや積極的平和主義等で取り上げたので置いといて、第二、第三の目標について詳しくみていきましょう。
第二の目標では『他人の土地で戦争を押し留める』事を志向しています。要は日本がポーランドのような立ち位置になった時に、被侵略国を強力にバックアップし、或いは武力行使をも含めたあらゆる手段を用いる事によって日本に戦火が及ばないようにしようというモノであり、この積極的介入を実現する為の根拠として平和安全法制とFOIPが繋がってくる訳です。
防衛力整備で重要なのは第三の目標に掲げる『その態様に応じてシームレスに即応し、我が国が主たる責任をもって対処』という一節です。在日米軍や来援任せでは無く、可能な限り独力でなんとかしなければならないという覚悟をガンギマらせなきゃならんような状況になっちゃったんです。
先に述べたように、当然長らくお世話になってきた『存在による抑止』からは完全に決別し、動的防衛力以降続けてきた『活動による抑止』をもう一段階引き上げ『侵略の迅速な排除、強靭な抵抗を前提とした抑止』という形へと進化を遂げた訳です。
戦後警察予備隊が編成されてから使われてきた『抑止力を旨とし、戦争を未然に防ぐ』という方針は今や全く通用しなくなってしまったのです。
当然従来整備してきた防衛力ではこんな事出来ません。
だから『防衛力を抜本的に強化』するというのが我が国の防衛政策の組み立てであり、その上で重点とするのが以下に記載する7つの能力です。
下の方に書いてある能力が発揮されるような事態になる程、事態は苛烈化しているのがお分かりになるでしょうか。
実はコレ、整理するとこのように分類できます。
侵攻そのものを抑止する為の能力
1 スタンド・オフ防衛能力
2 統合防空ミサイル防衛能力
開戦後、上記に加えて非対称的かつ領域横断的な優勢を確保する為の能力
3 無人アセット防衛能力
4 領域横断作戦能力
5 指揮統制・情報関連機能
強靭かつ迅速に戦闘し続け、敵に侵攻継続を断念させる為の能力
6 機動展開能力・国民保護
7 持続性・強靱性
いわゆる『反撃能力』なんかが良く話題になりますがアレは本質的には『従来の防衛力整備の延長線上』の話――即ち『存在による抑止』の為の存在であって、かつもし抑止に失敗したら出来るだけ遠方でボッコボコにして日本に戦火が及ばないようにしよう。それも失敗したら嫌がらせし続けてやろうという能力であると言えます。
当然武力行使三要件に縛られて先制攻撃なんか出来ませんし、相手国を焦土にしてやろうなんてモノではありません。
この『反撃能力』と『統合防空ミサイル防衛能力』により、相手の見積もりを複雑化させ、かつ『武力行使により目的を達するのは容易では無い』と信じさせるのがこれらの能力であるという訳です。
不幸中の幸いとでも言うべきですが、実は自衛隊は5~7に掲げる能力の一部は既に相当高い水準にあります。
25大綱で掲げられた統合機動防衛力、30大綱で掲げられた多次元統合防衛力によって統合作戦と戦略的機動能力は相当高い水準で整備されてきましたし、JTF-THで高い後段能力や動員力、国民保護能力がある事は実証済みであり、今から新たに整備するのは弾薬庫やシェルターや空中給油機、そして大規模な国民保護計画や地方自治体との協力、インフラの整備、情報能力増強等で済むというシムシティ二周目状態にあるのがその理由です。
となると問題はスタンドオフ防衛能力・統合防空ミサイル防衛能力と無人アセット防衛能力、そして領域横断作戦能力をどうするかという所になります。
実はこういった政策で一番怖いのは『何やったら良いのかわかんない・コレが効果を発揮するかはわからない・どうしようもない、』なので、『抜本的な防衛力強化』はまだマシな方と言えるかもしれません。失敗したら日本がなくなるというだけです。
防衛力整備計画
耳馴染みのある『中期防衛力整備計画』を二個ガッチャンコして錬成したモノである防衛力整備計画は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略と併せて概ね10年後の自衛隊が整備すべき防衛力について記述しています。
しかしながら読者諸君もご存知の通り、可及的速やかに防衛力を整備しなければならない情勢である為、『今後五年間の最優先課題』も色々と書いてあります。中期防やんけ。
防衛力に対する具体的施策は大きく二部、『重視する能力に対する事業』と『自衛隊の体制』に分かれています。
『すっげぇ高速なミサイルを、衛星コンステレーションとか目標観測弾とかで誘導して、敵さん一方的にバチボコにしたんねんYEAH~!』みたいな話が前者で、『陸自は15BをDにして他全部機動運用するで、海自はイージス・アショア墓から掘り出して艦にするしイージス艦も純増するで、空自は航空宇宙自衛隊にするしアホほど空中給油機増やすで』みたいな話が後者です。
この他にも日米同盟、同志国との連携とか防衛産業に対する手当とか防衛産業とか色々書いてあるのですが、個人的に一番注目しているのは『衛生機能の変革』です。
これまで自衛隊の衛生機能とは隊の活動を円滑に行う為の基盤、壮健性を維持する存在としての能力を期待されていましたが、新たな防衛力の中に於いては『有事に於いて隊員の生命を救う』役割を担うと明記されました。
つまり『戦争で自衛隊員が殺傷される』事を前提とした体制へと変革していくと腹を括り、血液製剤を自衛隊が自前で製造・備蓄するなんて話が出てくるようになった訳です。
え? 軍靴の足音が聞こえる?
私にはF-35とGCAPの爆音が聞こえますね。
おわりに
冷戦と対テロ戦争は何を我々にもたらしたのか
冷戦に於いて我々西側は旧社会主義諸国に対して勝利し、自由・人権・民主主義が支配する平和で安価な世界が訪れると確信していました。
しかし21世紀は20世紀と同じく疫病と戦乱の世紀に陥りつつあり、そしてテレビジョンに加えスマートフォンとインターネットの普及は、21世紀を20世紀以上の『映像の世紀』にしました。
映像に急き立てられた米国は、アフガニスタン戦争を皮切りに、イラク戦争やシリア内線への介入、その他イスラームに対する武力介入を積極的に行いました。
イラン核武装問題やイスラエル問題、その他様々な問題が山積する西アジアですが、ただでさえややこしいこの地域をさらにややこしくしているという非難を免れる事は残念ながら出来ないでしょう。
純軍事的な評価をすると、米国軍とその同盟国軍は任務を達成し続けました。
シビリアン・コントロールの命ずるまま、アフガニスタンを占領してタリバーンを壊滅させ、イラク戦争ではサダム・フセインを絞首刑に処しました。
しかし対テロ戦争に我々は勝利したと言えるでしょうか?
結局のところ、我々は自由と豊かさを求めて輸送機にしがみつく人を振り落とし、この地域から撤退しました。
アフガニスタンに残ったのは激しい汚職と薬物汚染、そしてテロリズムの内ゲバ、荒廃した国土と前近代的な民族主義です。
残念ながら、西側的な正義である自由・人権・民主主義は、米海軍の艦載機が自由に飛び回れる所にしか存在し得ないモノだったのです。
我々は直近の戦争に負けました。
対テロ戦争に於ける我々自由主義諸国の敗北は、自由・人権・民主主義を始めとする価値観が正しいから冷戦や先の大戦に勝利したのでは無く、それらによって涵養された国力、経済力に担保された軍事力が強大であるから冷戦には勝利出来た。しかし、これからは違う。という示唆を我々の眼前に転がしました。
そして次の戦争に、2022年2月24日に巻き込まれたのです。
日本は自由主義諸国の一プレイヤーとしてこの戦争に参入する覚悟を決め、かつアジアに於ける旗振り役にまでなろうとしています。
そのために必要な犠牲が我々の家計で済むか、或いは我々の血肉で済むかは分かりませんが、『平和はタダではなかった』という事実をこれからは飲み込まなければなりません。
もし東アジアで有事が生起したとき、日本がポーランドになるか、或いはリヴィウになるか、はたまたキーウになるかは分かりません。
何れにせよ我々は隊に所属しているか否かを問わず『その時』が起こった時にはそれぞれの位置に於いて責務を全うしなければなりません。私と読者諸君、そして祖国日本が平和と勝利を謳歌できるその日が来ることを切に願います。
ここまでお読み頂きましてありがとうございました。このnoteは『自衛隊』について皆様の理解を深めて頂くため日本の防衛政策について大体三部作でお送りする予定でしたが、長くなったので四部作でお送りします。(自衛隊の誕生→冷戦期の自衛隊→90年代の自衛隊→自衛隊の現在)でお送りする予定です。あまりに2000年代以降が濃すぎる為五部作でお届けしました。クソ長かったですね。ごめんなさい。
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