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鹿児島旅行3日目

 松雲風呂は大庭園を眺めながら湯舟に浸かれるのがウリ。元禄風呂と比べて小ぶりという話だが、当然こっちにも入らんといかん。鹿児島旅行3日目の未明、我々夫婦はむくりと起き上がり件の風呂を訪れた。松雲風呂は四角い浴室に四角い浴槽が2つ並ぶ潔い作り。なるほど事前情報通り窓から大庭園が見える。その先には海も見える。海岸線沿いにヤシの木が並ぶのが南国らしい。面白かったのはカラーコーンが100個並んでいたこと。芝生養生のためとお見受けしたが、オイオイと言わせてください。お湯は無色透明。お客さんは3人程。ゆったりゆっくり温まって朝からぐんにゃりになった。
 「女湯から庭は見れなかったー」とお嫁さん。よくよく考えると、庭が見えるということは庭から見られるということ。女湯に景色を期待するのは難しいのかもしれない。カラーコーンのことをお嫁さんに話すとお嫁さんは大喜び。我々はカラーコーンに一家言持っている。

 部屋に戻ってビールを飲んでひと休憩。からの、元禄風呂リプライズ。昨日こってり入ったので露天とサウナを中心にさっくりと。

 素泊まりプランの我々は喫茶あこうで朝食。俺はサンドイッチとビール。お嫁さんはホットサンドとコーヒー。ゆでたまごを1個づつおまけしてもらった。うまかった。
 この喫茶店も庭園に面する。お嫁さんと共に再度カラーコーンを鑑賞。カラーコーンは黒子と同じ。使う側には美観という点で、そこにあるけどないものとして見てほしいという願望ある。都内にも同じようなカラーコーンが100個並ぶ公園がありバーには駐輪禁止の札が下がっている。そこで俺は「カラーコーンありますよ。見えてますよ」と隣のお嫁さんに講釈を垂れるのだけれど、その時、我々夫婦は自転車を引いているのだった。公園内のカフェレストランにモーニングをいただきに来ました。そうですね、自転車は駐輪所に停めましょう。

薩摩伝承館

 10時にチェックアウト。その足で白水館併設の薩摩伝承館に入る。昨夕、砂楽からタクシーが捕まらず白水館まで歩いた時、この館の横を通った。館内から漏れた金色の光に伝承館の姿が浮かび上がりその迫力に気圧された。
 館内に入っても受けた印象は昨日のまま。光量を抑えた館内はお昼時ながら夜の装い。壁の黒に光の金が美しい。中央吹き抜けの莫とした空間に西洋の大聖堂と共通する荘厳さを感じた。展示物は薩摩焼の壺が多い。あと西郷さんコーナーあり。鹿児島の人は本当に西郷さんが好きな。大久保はだめですか。入場チケットで喫茶部のコーヒーが一杯サービスされる。テラス席で庭園を見ながらの一杯は優雅な時間だった。

作家さんみたい


 一度、白水館に戻ってフロントにタクシーを呼んでもらう。昨日は捕まらなかったタクシーが今日は捕まる。ホテル優先の契約とかあるのかしらん。我々の行先は指宿よりもさらに薩摩半島の先っちょにあるヘルシーランド露天風呂たまて箱温泉。どんだけ温泉に入るねん!朝から温泉に2度浸かってからに!という話だが、たまて箱温泉では半島の先っちょならではの絶景が見られるらしい。
 タクシーの運転手さんに、昨日タクシーが捕まらなかった話をすると「でしょう」と返ってきた。運転手不足なのだそうだ。過疎なんでしょう。ガンバレ指宿。ガンバレ白水館。たまて箱温泉までは指宿駅から8キロ。雨でなければ自転車で行く予定だった。雨のバカ。


たまて箱温泉の公式イメージ

 たまて箱温泉は期待に違わぬ絶景。晴れていればもっとだったが、雨模様でもなかなか。温泉のすぐそばに立つ竹山の山肌が左手に迫る。正面に広がるのは東シナ海。その先に、見える時は見える屋久島と種子島があるのだが見えなかった。右手には遠く、薩摩富士の異名を持つ開聞岳が、望めない。晴れていればこちらも見える。小さく何か抒情的な音がする。耳を澄ませば、それが竹山の山裾の崖を打つ波音ということが分かる。良い。
 風呂上りにアイスを食う。うまかった。あと入浴料の安さは明記しておかなければならない。普通の銭湯ぐらい。

お嫁さんと撮ればよかった。


 帰りは指宿までバス。そこから指宿枕崎線で鹿児島中央駅に。電車にはご当地カップ焼酎を買って乗り込んだ。焼酎というと初日に買った焼酎900ml瓶がまだ俺と旅を共にしているが、車中でラッパするわけにはいかない。カップ焼酎は地元の漬物を合わせていただいた。
 電車は乗った車両が先頭だった。俺たちは図らずも運転手と同じ視界を得た。単線の両脇から迫る緑の木々をくぐって電車は走る。臨場感たっぷりで面白かった。

 鹿児島中央駅には15時に到着。飛行機の時間を考えると18時まで遊べるので3時間ある。我々の素晴らしいところは、朝のサンドイッチ以来、まとまった食事を取っていないこと。お腹に余裕がある。食うぞお。俺の希望は小金太でもう一回ラーメンを食べてから、山形屋のデパ地下鮮魚コーナーでお刺身を買うこと。電車の中でおずおずとこのプランをお嫁さんに打診したところイイネを貰っていた。とはいえ新規の場所ではないので、他に何かないか。飯以外の何か。観覧車があった。その観覧車は駅直結のアミュプラザ鹿児島(デパート)からニョッキリと生えている。市のランドマークであろう。これに乗ってみようじゃないか(この記事のタイトル写真)。
 観覧車の乗り場は6階。駅から乗り場に行くまで、アミュプラザ鹿児島(デパート)の真ん中を通る。大変な賑わいにこっちも嬉しくなる。自分の中でのデパートと言えば池袋西武。閑散としている。こっちはがんばってるねー。お嫁さんと言い合う。観覧車にも行列が出来ている。観覧車の乗り味はまあ普通。それは分かっていた。ただ「旅先で伴侶と共に観覧車に乗った」という字面は素敵だ。正しいことをした。
 観覧車が頂点に達する手前でお嫁さんが「あ」と声を上げた。

「あ」

 お嫁さんはスマホを見ている。どうしたの? 「小金太の営業が15時まで」 !!! 再開は18時からと言う。この時15時半。俺たちは18時に空港行きのバスに乗らなければならない。小金太行きが消えた。がっかりしつつアミュプラザ鹿児島の地下食品売り場を回って、優柔不断から何にも手を出さずどこにも入らず。
 館内から出ると雨が強くなっている。これでは2キロ離れている山形屋のお刺身もなし。この辺の居酒屋で飲んじゃおう。元々、地元の居酒屋で飲むという作戦はあったのだがここまで果たせていなかった。お嫁さんがグーグルマップさんにお伺いを立てて入った居酒屋が、大正解。じつに美味かった! えご家という居酒屋。
 お刺身の盛り合わせが美味かった。俺は石川県出身なので海の幸が自慢なのだが、お刺身の盛り合わせにおいては、鹿児島の方が上じゃないかなあ。石川県はエビ、イカ、カニ、ブリが得意。こっちはお刺身の盛り合わせで主戦を張るマグロ、カツオ、サーモンが得意の印象。ブリもうまい。鹿児島はブリ養殖のメッカだそうで。養殖ブリも地元じゃおいしいのね。
 俺が山形屋の地下食品売り場で絶対に買おうと思っていたキビナゴも食べられた。キビナゴは鹿児島でいっぱい獲れていっぱい食べられているけど、よそにはそんなに出回っていないお魚。お刺身のラインナップにも入っていたし、南蛮漬けでも食べた。美味い。他、鳥刺し、親子丼、大根の天ぷら、お通しの枝豆、うまかった。
 ここで打ち上がりたいところをグッと我慢して河岸を変える。鹿児島ラーメンで〆。豚とろ鹿児島中央駅前店。うまかった。スープは小金太よりうまかったかも。全部飲んだ。

あっさりとんこつ

 やることはやった。バスで鹿児島空港へ。余裕を持って到着のはずが、予約の飛行機が欠航の為、手続きの後、振替の飛行機に文字通り駆け込む。あせった。本日最終便だった。危なかった。もう一泊するところだった。もう一泊なら小金太に行けた。後日、ネット記事で、ご当地アーティストの長渕剛が帰省時必ず寄るという鹿児島ラーメンを知る。ざぼんラーメン。アミュプラザ鹿児島の地下を歩いた時に、この店の前を通っていた! 食べることができたのに! 痛恨。鹿児島はおいしかった。西郷さんだった。
 


この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。