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今週の全米アルバムチャート事情 #193- 2023/7/22付

オールスター終わって後半戦に入ったMLB大谷翔平はホームラン量産体制を維持する一方、エンジェルスは相変わらずブルペンの起用がまずく、大谷を含めて打撃陣の努力で何とか勝率5割付近を行ったり来たりするような試合が続いてます。このままではやはり大谷トレードなのか。一方連日殺人的な猛暑が続いてますが、皆さんも体調充分気をつけて元気でスポーツと音楽を楽しんで下さい。

"Speak Now (Taylor's Version)" by Taylor Swift

さて今週7月22日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は既に先週途中経過をお伝えしたように、テイラーの自己作品再レコーディング・プロジェクトの第3弾、『Speak Now (Taylor’s Version)』が716,000ポイント(うち実売が507,000枚)という相変わらずの桁違いな出力で完璧な初登場1位を決めてます。週間ポイント数は当然今年最大(これまでの最大は3月18日付、モーガン野郎の『One Thing At A Time』の501,000ポイント)でテイラー自身の去年11月の『Midnights』初週の1,578,000ポイント以来の記録。週間実売枚数も今年6月17日付のストレイ・キッズ5-Star』の235,000枚を抑えて今年最大(こちらも『Midnights』の1,140,000枚以来の記録)と、予想されてたとはいえやはりテイラー人気の凄まじさを感じます。今現在全米でErasツアーが進行中、というのもかなり大きな要因には違いありません。この再録シリーズがスタートした時には、自分の作品のカニバリにつながるから賢明な決断じゃない、なんていうコメントも耳にしましたが、この商業的な圧倒的成功ぶりに、そんな否定論はどっかに飛んでしまった感じですな。(テイラービッグ・マシーン時代の音源権を所有している)スクーター・ブラウンもさぞイラついていることでしょう。

2010年にリリースされたオリジナルの『Speak Now』には、「Mine」(3位)「Back To December」(6位)の2曲のトップ10を含む16曲が収録されてましたが、今回はそれに加えて6曲の蔵出し曲がボートラで追加されていて、その中にはフォール・アウト・ボーイズとのコラボ曲「Electric Touch」やパラモアヘイリーがフィーチャーされた「Castles Crumbling」など話題曲も満載。自身も含めてプロデュースもここ数作で一緒に仕事してるジャック・アントノフアーロン・デスナー、そして再録シリーズを手掛けてるクリストファー・ロウと、いわば鉄壁の布陣で固めてます。この通算12枚めのナンバーワンで、バーブラ・ストライザンドを抜いて女性アーティストでは史上最多のナンバー・ワン・アルバム保持者となったテイラー、まだまだビッグ・マシーン時代のアルバムも3枚残されているし、この記録は今後も積み上がって行くことは間違いなさそうです。

"S*x M*ney Dr*gs" by LUCKI

今週のトップ10内初登場はこのテイラーのみ。正にテイラー一色ですが、11位以下100位までの圏外には4枚のアルバムが初登場してます。その一番人気、15位に初登場してきたのは、昨年9月に前作『Flawless Like Me』がいきなり12位に初チャートインしてた、シカゴ出身の27歳のラッパー、LUCKI(本名:ラッキー・キャメルJr.)の3作目『S*x M*ney Dr*gs』。その『Flawless Like Me』の時同様、今回もフューチャーを思わせるマンブル・ラップをトラップ・ビートに乗せるというスタイル。その時も書きましたが、こういうある意味既に使い古されたスタイルが、ヒップホップ退潮のサイクルだと言ってるこのタイミングでこの順位にしっかり食い込んでくる理由がイマイチ理解できませんねえ。

ただ、アングラ・ラップ・シーンではそれなりに人気のあるヤツのようで、前作でブレイクするまでに2013年くらいからEPやミックステープで地道にファンベースを築いてきたんでしょうなあ。いやしかしホントに初期のフューチャーそのまんま、なんですけど。何言ってるかよくわからんあたり(笑)。

"Playa Saturno" by Rauw Alejandro

続いて29位に入ってきたのは、今年の正月にガールフレンドのロサリアと一緒に来日して渋谷あたりで遊んでた(笑)プエルトリコのレガトン・シンガー、ラウ・アレハンドロの4作目『Playa Saturno』。前作の『Saturno(土星)』(2022年25位)の続編っぽいタイトル(土星のビーチ、の意味)だけあって、全編今回もエレクトロな感じのレガトン・ビートのバウンシーな楽曲です。

しかし最近のラテンブームもスタイルが多様化してきてて、このレガトンとは対極にあるような(実際レガトンに対抗するスタイルを目指してるらしい)伝統性といなたさを内包したようなメキシコのコリドなんかがぐんぐん躍進してるのを見ると、ヒップホップにおけるトラップ同様このスタイルもいつまで人気を確保するのかなあ、と思ってしまいます。と言ってたら、ラウ君、この作品を最後に当分音楽活動は休むらしいです。当面はロサリアのヒモでもやる気かしら(笑)。

"Sunburn" by Dominic Fike

そのすぐ下の30位に登場したのはフロリダ出身の、ヒップホップやオルタナ・ロック、R&Bの要素なども渾然一体としたなかなかキャッチーなサウンドを展開するシンガーソングライター、ドミニク・ファイクのセカンド・アルバム『Sunburn』。もともとサウンドクラウドなどに作品をアップしていたのをレコード会社が耳にして争奪合戦の末、2018年にコロンビアと契約。リリースしたシングル「3 Nights」がUSよりもUKで3位の大ヒットとなってブレイクしたけど、ファーストアルバム『What Could Possibly Go Wrong』(2020)は全米41位を記録して一躍シーンの注目を集めてました。そのせいもあってか、サー・ポールのアルバム『McCartney III』のリミックス版アルバム『McCartney III Imagined』(2021)に、ベッククルアンビン、フィービー・ブリッジャーズらに並んで参加、シングルカットされた「The Kiss Of Venus」をリミックス・カバーしてました。自分が彼の名前を初めて聴いたのもこの時。なかなか面白いサウンドをやるヤツだなあ、という印象でした。

もともとアフリカ系アメリカ人と、フィリピノ、ハイチ系の血を引くドミニク、この出自だとブルーノ・マーズフージーズみたいにR&B系に行きそうなんですが、彼の幼少の頃からのお気に入りは何とジャック・ジョンソン、ブリンク182レッチリ、というかなりロック系に寄った指向なのがこのユニークなサウンドにつながってるんでしょうね。今回のアルバムには大ヒットアニメ映画『Spider-Man: Across The Spider-Verse』にフィーチャーされた「Mona Lisa」が収録されていて、アコギサウンドとエレクトロなサウンドがヒップホップ・マナーでミックスされてる、クルアンビン・ミーツ・サブライム、みたいな不思議な魅力のサウンドに、あーホントにジャック・ジョンソン入ってるよ!って感じの時々早口のドミニクのボーカルが絡む、というなかなか暑い午後に海沿いのバーで流れてくると気持ちいい感じのトラック。ちょっと注目です。

"Petrodragonic Apocalypse; Or, Dawn Of Eternal Night: An Annihilation Of Planet Earth And The Beginning Of Merciless Damnation" by King Gizzard & The Lizard Wizard

そして今週最後の100位までの初登場はぐーっと下がって85位にチャートインした、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードというオーストラリアのベテラン・バンド7人組の24作目になる『Petrodragonic Apocalypse; Or, Dawn Of Eternal Night: An Annihilation Of Planet Earth And The Beginning Of Merciless Damnation』という長い長いタイトルのアルバム(笑)。全米アルバムチャートではこれが4作目のチャートインで、前回チャートインしたのは9作前(!)の『Infest The Rats’ Nest』(2019)の64位でした。

一般的にはジャム・バンドやサイケデリック・ロック・バンドと呼ばれる彼らですが、フィッシュグレイトフル・デッドといったレイドバックなスタイルではなく、どちらかというとプログレ・メタルっぽい作風のバンド。以前から欧米のフェス等でよく名前を見るバンドでちょっと気にはなってましたが、ちゃんと音を聴くのは今回が初めてでした。で、聴いてみた感想としては、ジャム・バンドというより、正にトゥールとか、マーズ・ヴォルタといったハード目のプログレ・メタル系バンドに近い感じがしましたね。決して嫌いなタイプではないけど、長く聴いてると疲れるというタイプ(笑)。少なくともこのクソ暑い連日の猛暑日にはなかなか耳が向きそうもありません。フェスとかで野外で聴く分には気持ちいいんでしょうけど。

Taylor Swift is the first female artist in BB 200 history to place 4 albums simultaneously in the top 10.

ということで今週の100位までの初登場は合計5枚でした。すっかりテイラー祭りの様相を呈してる今週のチャートですが、今週のトップ10内には1位の『Speak Now (Taylor’s Version)』以外にも5位の『Midnights』、7位の『Lover』そして10位『Folklore』と4枚のアルバムを同時チャートインさせてて、2016年に急逝した直後トップ10に5枚アルバムをチャートインさせたプリンスを除くと、生きてるアーティストとしては、1966年4月2日付チャートで4作をチャートインさせたハーブ・アルパート以来の57年ぶりの記録でしかも女性アーティストとしては初の快挙を達成したことになります。いやいやこれは大谷翔平並みの規格外さですな。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <716,000 pt/507,000枚>
2 (2) (19) One Thing At A Time - Morgan Wallen <104,000 pt/4,248枚*>
3 (1) (2) Pink Tape - Lil Uzi Vert <61,000 pt/410枚*>
4 (3) (3) Génesis - Peso Pluma <59,000 pt/257枚*>
5 (4) (38) Midnights ▲2 - Taylor Swift <55,000 pt/18,000枚>
6 (5) (131) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <46,000 pt/874枚*>
*7 (8) (203) Lover ▲3 - Taylor Swift <45,000 pt/12,000枚>
8 (6) (31) SOS ▲2 - SZA <44,000 pt/4,064枚*>
9 (7) (4) A Gift & A Curse - Gunna <42,000 pt/134枚*>
*10 (13) (155) Folklore ▲2 - Taylor Swift <33,000 pt/13,000枚>

一気にチャート全体がテイラー色で一色に塗り替わってしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつものように来週1位の予想ですが(チャート集計対象期間:7/14~20)、来週もタイラー1位で間違いなく安泰でしょう。仮に3分の1にポイント減らしたとしても25万ポイント水準ですし、ことによるとそこまで減らさない可能性もありますからね。それ以外でトップ10に入ってきそうなのは、ラップの故キング・ヴォンリル・ティジェイくらいでしょうか。ではまた来週。


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