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今週の全米アルバムチャート事情 #234- 2024/5/4付

ゴールデンウィーク前半の最終日の29日の夜、最近リノベしてすっきりした自宅庭で久しぶりにバーベキューを楽しんでいた時、予測もしないニュースが飛び込んで来た。高校の同級生K君の急な訃報。日頃からテニスを楽しみ、いつもはにかんだような笑顔をたたえた彼、一緒に富士山をはじめここ7〜8年くらいの間にいくつか一緒に山登りもした彼の突然の悲しい知らせにただただショックを受けてます。そういえばここ最近会ってなかったK君のご冥福を心からお祈りすると共に、友人との交わりは絶やすことなく、自分も人生をフルに生きていかなければいかんな、と強く思った次第。皆さんもコロナ等でしばらく会ってなかった友人達との交流を是非積極的にやって下さいね。

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

さあ、気を取り直してゴールデンウィークの真っ只中、リラックスムードが漂う中の今週の全米アルバムチャート、5月4日付のBillboard 200の首位はもう先週の頭には既に大勢が決定していたように、当然のごとくテイラー・スウィフトの新作『The Tortured Poets Department』でした。問題はどのくらいの出力だったかですが、ポイント数としては261万ポイント、うち実売が191万4,000枚(既にセールスミリオン達成ということですね)、そしてその中でヴァイナルの売上が85万9,000枚。これを過去の記録と並べるとこのようになります。

* 261万ポイントは、2015年12月12日付のアデル25』の初週348万ポイント以来の記録で、2014年12月13日付ビルボード200がストリーミング・ポイントを加算開始してから歴代2位のポイント数。
* 実売の191万枚は、1991年5月25日付ビルボード200サウンドスキャン社(現ルミネート社)の売上データを使用し始めて以降(いわゆる「サウンド・スキャン時代」)上記のアデル25』初週(338万枚)、2000年4月8日付のイン・シンクNo String Attached』初週(241万5000枚)に続く、歴代3位の売上数。
* ヴァイナル週間売上の85万9,000枚は、サウンド・スキャン時代のこれまでの記録、テイラー自身の『1989 (Taylor’s Version)』の69万3,000枚を抜いて歴代1位の売上数。ちなみにこれでサウンド・スキャン時代の週間ヴァイナル売上ランキングの史上4位までテイラーが独占することになりました(3位は『Midnights』の57万5,000枚、4位は『Speak Now (Taylor’s Version)』の26万8,000枚)。

まあその他にもストリーミング数も凄くて、今週のこのアルバムのオンデマンド・ストリーミング回数は8億9,000万回相当で、これまでの記録だったドレイクの『Scorpion』の7億4,600万回を軽々と抜いて歴代1位になったとか、アルバム収録前31曲がHot 100にチャートインし、1〜14位までを独占してHot 100歴代の独占記録を更新したとか、今回山程の記録を樹立したり更新したりしてます。そしてこの状況について、必ずしも全ての人が両手を挙げて喜んでる訳ではなくて「基本の16曲に加えて15曲を追加したデラックス・バージョン(『Anthology』)を同日にすぐリリースするのはフェアじゃない」みたいなコメントもちらほら聴くんですが、膨大な曲数をアルバムでリリースしてストリーミングをとにかく稼ぐ、という手法は別にモーガン野郎の『Dangerous: Double Album』(2021年、30曲)と『One Thing At A Time』(2023年、36曲)を筆頭に、ドレイクの『For All The Dogs』(2023年、29曲)などヒップホップ系でもよく使われてる手法で、特に今回のテイラーのマーケティングを非難するようないわれはないんじゃないかと思います。要は世界中のテイラーファンが頑張ってアルバム買って、楽曲をストリーミングで聴いた結果だというだけで(笑)、構図的にはKポップのマーケティングとそれに呼応しているアーミー達の構図とよく似てる、ある意味良くも悪くも「今どきのヒット作の成功構図」というだけで、テイラー個人が責められるような話ではないかと。

それよりも肝心なのは内容。今回も『Folklore』以降の既定路線である、ミッドテンポのシンセとドラムマシーンを軸にオーガニックな楽器を絡めながら、浮遊感あふれるドリーミーな歌声を聴かせる楽曲集、というスタイルを、この路線の共作者であるジャック・アントノフアーロン・デスナーとの共同作業で作り上げてる訳ですが、正直この路線もそろそろ新鮮味が薄れてきたような感じが自分はしますね。何だかんだ言いながら自分もリリースに合わせて4種類あるヴァイナルの一つである「Manuscript」バージョン(基本の16曲に「Manuscript」がボートラで追加されているバージョン)を買って、週末から何度か繰り返し聴いてますが、明らかに最初『Folklore』や『Evermore』を聴いた時のようなインパクトというか新鮮味があんまり感じられないんですよね。歌詞の内容まではまだ掘り下げてないですが、今回も別れた男たちのことを歌っていると思しき「So Long, London」や「The Smallest Man Who Ever Lived」、ろくでもない前の恋人The 1975マット・ヒーリーのことを歌ったのではないかという「I Can Fix Him (No Really I Can)」など、相変わらず「傷つき苦しんだ詩人(Tortured Poet)」としてのテイラーの詩的創作意欲は全開のようなので、そちらに興味ある向きにはいいんでしょうけど。でも、とか言いながらテイラーのこと、楽曲サウンドについてもしっかり次の進化の方向性も考えているような気がします。

"Dark Matter" by Pearl Jam

さてテイラーのこのアルバム、まだ当分首位に居座るでしょうからネタ切れしないよう今週はこれくらいにして、全ての注目がテイラーに持っていかれてる今週のトップ10にもう一枚5位に初登場している、パール・ジャムの12作目にあたる新作『Dark Matter』に行きましょう(59,000ポイント、うち実売52,000枚)。前作7年ぶりの新作だった『Gigaton』(2020年5位)でのパール・ジャムが、何だかトーキング・ヘッズみたいな楽曲をやってて、正直「うーん、エディ・ヴェダー、こっからどこ行くんだ?」という感じだったのだけど、今回はご安心下さい(笑)、時速160キロのど真ん中高めのフォーシームをどんどん投げ込んでくるような、そんな久々に聴いてて血が湧き肉が踊るパール・ジャム!それもそのはず、今回バンドがプロデュース
を任せたのは、昨年80年代の『刺青の女(Tattoo You)』以来の傑作と言われたストーンズの『Hackney Diamond』を手掛けた、アンドリュー・ワット。実はアンドリューは、最近エディ・ヴェダーのソロ・アルバム『Earthling』(2022)をプロデュースして以来の付き合いで、今回の出来にはエディ自身が「これまででベストのアルバムに仕上がってるぜ!」と、今年の1月にロスのトルバドゥールでこのアルバムの曲のお披露目ライブをやった時にコメントしてるくらいだから、いやもう鉄板です。

冒頭の「Sacred Of Fear」から「React, Respond」ではいきなりやや歪んだギターサウンドでぶちかしながら、エディの力強いボーカルも往年の迫力としっかりとした円熟味を感じさせる、バランスの取れたハードロッカー。そこから一転してアメリカーナな雰囲気を感じさせるレイドバックなロック・ナンバー「Wreckage」を経て、再び「おおロイヤル・ブラッドか!」と思わせるような重厚ヘヴィーロッカーなタイトルナンバー、そしてまたトム・ペティの重厚バージョン的な「Won’tTell」、といったようにハード&ヘヴィ一辺倒ではなく、そこここにちょっと変化球(でもそれぞれに味がある)も交えた構成になってて、実にアンドリューがいい仕事してて、それにエディを始めバンドのメンバーが化学変化的に反応しているのが判る、そんなアルバムになってます。自分的には多分ロック系、それもメインストリーム系では今年これまで聴いたアルバムの中で一、二を争う内容ですね。一番いいのが楽曲もバンドの演奏も一つポーンと抜けていること。2000年代初頭の『Yield』とか『Binaural』の頃のやたら内省的でダークな感じのパール・ジャムから、自分たちのやりたいことが明確に定義できていてそこに向かって着実に進んでる、そんなイメージが想起されて、聴いてて元気になりますね。しばらくパワーローテしそうです。

"Rebel" by Anne Wilson

以上がトップ10ですが、圏外11〜100位の初登場は今週も2枚だけ。そのうちの1枚、59位に初登場しているのはアン・ウィルソン(といってもハートのお姉さんではなく、ケンタッキー出身のクリスチャン・ミュージックのシンガーソングライターです)のセカンド・アルバム『Rebel』。2021年にシングル「My Jesus」がクリスチャン・ミュージック・シーンで関係チャートの首位を総なめするなど一躍大ヒットしたことでブレイクした彼女、その「My Jesus」収録のファースト・アルバム『My Jesus』(2022年68位)に続くチャートインで、今回彼女のキャリア・ベストになってます。

ヒットした「My Jesus」も詞の内容はイエスを称えるクリスチャン・ソングながら、サウンドや楽曲スタイルとしてはカントリー・ポップ・バラードでしたが、今回の『Rebel』ではジャケではテンガロンハットは被ってるし、楽曲のスタイルもより一層ダイナミックな世界観のカントリー・ポップ路線バリバリ。音だけ聴いてると新しいカントリー系の新人か?と思ってしまうような内容です。楽曲もおしなべてクオリティが高く、今旬のカントリー・シンガーソングライターのレイニー・ウィルソンとのデュエット「Praying Woman」やこちらも新進気鋭のカントリー・アーティスト、ジョーダン・デイヴィスと共作して共演している「Country Gold」など、とっても王道のカントリー楽曲を聴かせてくれます。彼女の声質も独特の魅力を持っているので、結構アメリカーナ系お好きな方にはおすすめかも。自分も結構リピートして聴きそうです。

"How?" by BoyNextDoor

そして今週もう1枚の圏外初登場は、93位にチャートインしてきたKポップ6人組のボーイズ・バンド、ボーイネクストドア(BoyNextDoor)のセカンドEP『How?』。デビューEPの『Why…』(2023年162位)に続く全米チャートイン作品になりました。彼らはBTSTXTが所属するビッグ・ヒット・ミュージックと並ぶハイブ・コーポレーション傘下のレーベル、KOZエンターテインメント所属のアーティスト。楽曲スタイル等はおそらく今のKポップのボーイズバンドの中でも一番メインストリームなポップ路線ガチで、メンバー自らプロデューサーでKOZの設立者であるラッパーのZICOと書く楽曲はいずれもとってもキャッチーでポップです。

既に日本でも人気あるらしく、ビルボード・ジャパンのチャートでもこのEPは1位を獲得済み。それも不思議ない内容でジャスティン・ビーバー風の「Amnesia」とか、ポップでバウンシーなシングルの「Earth, Wind & Fire」とか、このまま英語で歌ったら(後者は英語バージョンも収録)今どきのUSメインストリーム・ポップ作品に引けを取らない内容だな、と思いました。まだまだアーミーを動員して全米トップ10、というフェーズではなさそうですが、間違いなく数年後にはそのあたりまで昇って行きそうな、ブレイク予備軍、といった感じですね。名前は覚えておきましょう。

ということで今週の100位までの初登場は都合4作でしたHot 100の方はと言えば、既に先ほどお伝えしたように、今回テイラーの『TTPD』からの31曲全曲がHot 100にチャートイン、そしてポスト・マローンとのデュエット曲「Fortnight」の初登場ナンバーワンを筆頭に、1位から14位まで全てテイラーが独占するという、1位からの独占の新記録を樹立してしまいました(これまでの記録は2022年11月5日付、テイラー自身『Midnights』からの10曲でトップ10独占)。テイラーは直近のヒットの「Cruel Summer」もまだHot 100にいるので(今週41位下降中)、全32曲、実にHot 100の3分の1をワンアーティストが独占するというまあちょっと異常な事態ではあります。これまでもテイラーの他にもドレイクモーガン野郎などの同様なドカ盛り現象があったし、メガアーティストのアルバム・ドロップの度にこんな現象が毎回起きるようだと、頑張ってHot 100に曲をチャートインさせてる他のアーティストの機会を奪ってしまうという意味ではこの現象は何とかビルボードのチャートルールを改正して規制してもいいんじゃないかなあ。UKのシングルチャートは確か同一アルバムからの同時チャートインは3曲だか5曲だかの制限があったはずなので、ビルボードもそろそろそういうこと考えたら?と思った次第。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <2,610,000 pt/1,914,000枚>
2 (3) (5) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <69,000 pt/244枚*>
3 (2) (4) Cowboy Carter - Beyonce <66,000 pt/11,284枚*>
4 (4) (60) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <64,000 pt/1,329枚*>
*5 (-) (1) Dark Matter - Pearl Jam <59,000 pt/52,000枚>
6 (1) (2) We Still Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <54,000 pt/240枚*>
7 (5) (74) Stick Season ▲ - Noah Kahan <45,000 pt/11,071枚*>
8 (7) (3) Fireworks & Rollerblades - Benson Boone <40,000 pt/918枚*>
9 (8) (72) SOS ▲3 - SZA <39,000 pt/2,103枚*>
10 (11) (244) Lover - Taylor Swift <37,000 pt/14,588枚*>

正にテイラー祭り状態となってる今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:4/26~5/3)ですが、テイラーは来週もまだまだ30~40万ポイントは下らないでしょうから2週目の首位は間違いないとして、それ以外にトップ10に入ってきそうなのはセント・ヴィンセントくらいですかねえ。ではまた来週。


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