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Boonzzyの「新旧お宝アルバム!」#164 『The Slow Rush』 Tame Impala (2020)

(この「新旧お宝アルバム!」のシリーズコラムは従来ブログで執筆していたものを今回よりnoteで発表することにしたものです。過去のバックナンバーにご興味のある方は下記のブログサイトをチェックしてみて下さい)

The Slow Rush』Tame Impala (Modular / Interscope, 2020)

皆さんお元気ですか。手をこまめに洗ったりうがいしたり、満員電車は避けて時差出退勤するなど、自分の感染と感染拡大を抑えるような日常行動してるでしょうか。これって毎年のインフル予防の行動と同じですよね。確かにコロナウィルスの治療薬がまだ用意されてないといった不安材料はあるのですが、実際に感染している方の数を考えるとインフルの方が遙かに危険なはずなんですが、この大騒ぎ、みんなどうしちゃったんでしょうか。
コロナウィルスのおかげで次々に海外ミュージシャンのライヴが中止になってて困ったな、と思っていたら今度は訳の分からないデマに右往左往する日本人の悪い癖でトイレット・ペーパーが払底してると聞いて正直めまいがしてます。
当の文科省も反対してたのに、何も考えずに一方的に全国休校の圧力をかけたアベシの相変わらずの愚行とリーダーシップのなさは今さら腹も立ちませんが、日本人ってこんなに民度に低い国民ではなかったはず。台湾の対応を是非見習いましょう。少なくとも病人や幼児、超高齢者など免疫力の低い方以外は、通常インフルに対するくらいの考えで皆冷静に行動しましょうね。

さて最近のこの騒動ぶりにあんまりがっかりしてしまったので前置きが長くなりましたが今週の「新旧お宝アルバム!」は、リリースされたばかりで早くも今年前半の洋楽ファンの話題をさらっているテイム・インパラの4枚目になる新作『The Slow Rush』(2020)を取り上げます。

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90年代以降のロック・シーンにあまり馴染みのない方(例えば僕くらいの世代で80年代くらいまでは洋楽大好きだったのに、いろんな理由で90年代以降新しい洋楽を聴かなくなってしまった方〜これについてはまた別の機会に考察しますね)のために解説しますと、テイム・インパラというアーティストは、実はオーストラリア出身のケヴィン・パーカーという男(まだ30台です)によるワンマン・プロジェクトです。
テイム・インパラの始まりは2007年、ケヴィンがオーストラリア西部のパース(自分の出身鹿児島市の姉妹都市なんですごい親近感w)で音楽活動をしてた頃、自分で曲書いて、楽器も全部やった宅録作品をマイスペースにアップしてたのがきっかけ。すぐにいろんなレーベルから契約のオファーがあったようですが、彼はインディ系のモジュラーというレーベルと契約(未だにそことの契約は続いているようです)。しばらくはライヴのために集めたバンドメンバーと共に地元オーストラリアのフェスや短期間のUKツアーなどで活動、次第に知名度を上げていったテイム・インパラがグローバルなランドスケープにその名を響かせ始めたのは、デビュー・アルバム『Innerspeaker』(2010)のリリースと、そのサポートのために2010年を通じて英米で何度もツアーを敢行してその存在をより多くのオーディエンスに知らしめたのが大きかったのです。

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そして満を持してリリースした2作目『Lonerism』(2012)。これは今でも2010年代を代表するアルバム百選、といった各音楽メディアの企画では必ず次作の『Currents』(2015)共々ランキングされる2010年代インディ・ロックの傑作といわれている作品です。その作風はよく「サイケデリック・インディ・ロック」と称されるように、ビートルズの「サージェント・ペッパーズ」にビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」とかの宅録な感じのエキスを振りかけて、オエイシスの最初の2枚と一緒にシェイクしたらこういう音になりそう、ってな感じのサウンドと楽曲群で多くの若いロックファンを魅了したもんです。
一気にシーンでその存在感を示したケヴィンは、次の『Currents』(2015)で今度は大きくエレクトロニック・サウンドにその作風をシフト、いやある意味進化させました。素敵でサイケデリックなインディ・ロックから一気にファンタスティックでゴージャスかつ時にダンサブルでファンキーなエレクトロニック・サウンドへの移行は、個人的にはちょうどその前年にそれまでのアヴァンギャルドなインディ・ロック的サウンドからシンセサイザーとキーボードを操って催眠性の高い音像作品『Morning Phase』(2014)をリリースして自分のキャリアを再定義したベックを想起したものでした。

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そして今年リリースされた最新作『The Slow Rush』。ジャケットからは70年代のプログレ・ロック・バンド的なイメージを想起させるこの作品、サウンド的には前作『Currents』でエレクトロの方向に切った舵を基本的にはそのままに、しかし楽曲表現的にはより多様で、先行シングルとなった「Borderline」や「Breathe Deeper」のようにエレクトロでダンス・フロアなナンバーだけでなく、ポリリズムの効いたファンキーな「Is It True」、アコギリフを印象的にフィーチャーした「Tomorrow's Dust」やエレピのフレーズがキャッチーな「It Might Be Time」のようにびっくりするほどAOR的なポップな楽曲まで、様々なスタイルが詰め込まれています。しかし各楽曲からわき上がってくるのは、全体的にムーディーでやや陰のある、そんなメッセージ。そのサウンドは、ケヴィン自身も影響を受けたと公言しているフリートウッド・マックスーパートランプといった70年代の、ポップでありながらポピュリズムに媚びないスタイルを持ったアーティスト達の意匠をまとっている部分もあり、そういった意味では冒頭に触れた90年代以降のロックに馴染みのない、シニアな洋楽ファンでも問題なくすっと入っていける作品といってもいいかも。そういう意味ではいわゆる「インディ感」は前作以上に希薄ですね。

アルバム冒頭、何のてらいもなく、自然にふわっと立ち上がるような感じのシンセサウンドに乗って始まる「One More Year」に始まって、最後の、教会の中で弾いているようなリヴァーヴ全開のエレピとアコースティックなピアノサウンドの催眠的な取り合わせが、次第にロック組曲風に壮大に盛り上がっていく最後「One More Hour」で終わる、言わば「時」を一つのテーマにしていると思われるこのアルバム。その間のアルバム全体を通してのケヴィンのドリーミーな感じのボーカルも、全体を包むキーボードやシンセサイザーの華やかな音像と相まって、この作品の魅力になっています。

テイム・インパラは『Currents』の発表後の昨年2019年は、今の先端を行くインディロックやヒップホップ、ポップ・アーティスト達が集まる、コーチェラ・フェスティヴァル(カリフォルニア州)のヘッドライナーも務めるまでにビッグになり、そうしたことも彼の楽曲指向をよりステージでパフォームできる、そして大きなサイズの聴衆が一体になってハイになれるタイプのものに向けている要因の一つかもしれません。そして今回のアルバムを聴く限り、彼のそうした指向性は間違いなく、アーティスト「テイム・インパラ」のバンドとしての魅力を一回りも二回りも大きくして進化させていると思います。

そしてケヴィンのサウンドの進化はそれだけではないかもしれないのです。彼は一昨年2018年頃からR&Bやヒップホップのアーティストともコラボすることが増えていて、既にNBCの人気番組『Saturday Night Live』に出演した今最重要のヒップホップ・サウンドメイカー、トラヴィス・スコットがパフォームした「Astrothunder」のバックにあのジョン・メイヤーと共に演奏で参加したり、こちらも今重要なR&Bシンガーの一人、SZA(シーザ)とコラボしたりしています。今回の『The Slow Rush』制作過程のインタビューでも確かトラヴィス・スコットのアプローチを参考にした、なんていうコメントがありましたが、実際の作品にはそれらしい影響は少なくともはっきりは出ていませんので、ひょっとすると次のテイム・インパラのアルバムは大きくR&B・ヒップホップの要素を取り入れたサウンドになるのかもしれません。またまた違う方向に進化しそうなテイム・インパラ、なんだかワクワクするではありませんか。

実は個人的に今年のフジロック・フェスティヴァルのヘッドライナーに、このテイム・インパラがブッキングされないかな、と密かに期待している自分。ちょうど3月からカリフォルニアを皮切りに、4月にオーストラリア・ニュージーランドを挟んで8月上旬までの全米ツアーをスタートするテイム・インパラ。その後のツアー予定が決まってないようなので、是非!スマッシュさんには頑張ってブッキングして頂きたいものです。

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<チャートデータ> 
ビルボード誌
全米アルバムチャート 最高位(今のところ)3位(2020/2/29付)
同全米ロック・アルバムチャート 最高位1位(2020/2/29付)
同全米オルタナティヴ・アルバムチャート 最高位1位(2020/2/29付)

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