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今週の全米アルバムチャート事情 #236- 2024/5/18付

風薫る5月本番になって、素晴らしい天気の日も増えてきた今週、突然届いたデヴィッド・サンボーンの訃報にショックを受けてます。自分の世代の洋楽ファンだと、イーグルスSad Cafe」、スティーリー・ダンTime Out Of Mind」、そして先日ジェームス・テイラーが来日公演でも演ってくれた「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」でのデヴィッドの印象的なサックスソロを思い出す人も多いと思うけど、個人的には初めて渡米した80年代後半に彼が『Night Music』という音楽番組のホストをしてるのを観た印象が強くて、様々なジャンルのミュージシャン達を紹介するキュレイターとしての存在感と、そこで披露するバンドとのエキサイティングな演奏が記憶に鮮明に残ってます。つい最近までライブ活動してて、2025年までツアースケジュールを入れてたとのこと。ジャズとポップ・ロックとをサックスで繋いだ彼のご冥福を心から祈らずにはいられません。

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

いろいろともの思う中、今週の全米アルバムチャート、5月18日付のBillboard 200の首位はやっぱり先週の予想通りテイラーの『The Tortured Poets Department』がチャートイン3週目ながら、282,000ポイント(うち実売51,000枚)と、半減するかと思いきや先週から僅か36%減という粘り強さで余裕の3週連続首位を決めてます。この実売51,000枚というのも今週2位のアルバムの実売にわずか500枚及ばないだけで、まだまだ実売出力も高い水準を維持し続けているテイラー。来週も10万ポイントの後半くらいの出力は維持するでしょうから、かなり強力な新譜がドロップされないとまたテイラーの天下は続くことになるんでしょう。加えてHot 100の独占状態も、旧ヒットの「Cruel Summer」を含めてリリース初週32曲チャートイン→2週目31曲チャートイン→今週3週目26曲チャートインとほとんど減衰しておらず、フィジカル売上だけでなくて根強いストリーミング人気にも支えられてることが判ります。

今週の1位で、アーティストとしてのBillboard 200チャートの1位滞在累積週数を72週に伸ばしたテイラー、もはやソロアーティストとしてはエルヴィスの67週をとっくに抜き去って歴代1位ですが、総合1位はビートルズの132週ですから、いかにテイラーがこれからガンガンにアルバム出し続けて1位を取り続けても、なかなかこれに追いつくことは難しそうですね。ここで今週現在のBillboard 200における1位滞在累積週数のランキングをおさらいしてみましょう(順位、アーティスト名、週数、1位アルバム枚数)。

1.The Beatles(132週、19枚)
2.Taylor Swift(72週*、14枚*)
3.Elvis Presley (67週、10枚)
4.Garth Brooks(52週、9枚)
5.Michael Jackson (51週、6枚)
6.Whitney Houston (46週、4枚)
6.The Kingston Trio (46週、5枚)
8.Adele (40週、4枚)
9.Elton John (39週、8枚)
10.Fleetwood Mac (38週、4枚)
10.The Rolling Stones (38週、9枚)

こうしてみるとテイラーに追いつく可能性があるのはもうアデルくらいですが、テイラーなみにアルバム量産しそうな雰囲気はないので無理ですかね。それにしてもホイットニー、アデル、マックの燃費の良さは際立ってますね。と、今週はテイラーのアルバムの内容については触れずに済ましちゃいましたが(笑)ご勘弁下さい。

"Radical Optimism" by Dua Lipa

そのテイラーの出力に唯一今週勝ったのは、実売で51,500枚を叩き出してわずかにテイラーの51,000枚を上回ったデュア・リパの新譜『Radical Optimism』。ただポイント数は83,000ポイントとやはり予想通り10万ポイントに届かず(まあ10万ポイントあっても今週のテイラーにはかないませんが、この83,000ポイントは彼女の週間ポイントとしてはキャリア最高ポイントです)2位初登場に終わってます。昨年11月には先行第一弾シングル「Houdini」(US 11位、UK 2位)をカット、今年2月にはグラミー授賞式のオープニング・パフォーマンスでも披露された「Training Season」(US 27位、UK 4位)、そして今回のアルバムリリースに合わせて「Illusion」 (US 43位、UK 9位)とかなり計画的にシングルリリースしてマーケティング・プランも怠りない感じなので、前作『Future Nostalgia』(2020年3位)の初週66,000ポイントを上回る今回の初週ポイントになったということでしょう。

全米でのリリース日翌日のNBCサタデイ・ナイト・ライブ』ではホストとミュージカル・ゲスト両方をこなしてコメディアンヌ的な才能もちょっと見せるなど、様々な面からのマーケティングに余念がないデュアですが、今回のアルバムの内容的には、先行シングル3作を聴く限り前作よりはちょっと地味めなのかなあ、というのが第一印象。シングル3曲のどれを取ってもよく出来たダンスポップ曲なんですが、あの大ヒット「Levitating」(2020年US 2位、UK 5位)のようなちょっといなたいレトロなキラキラ感みたいなものが今ひとつ感じられず、よりエレクトロなロック路線に寄せてきている気がしますね。おそらくこの要因としては、「Levitating」が売れっ子ポップ・ソングライティング・チームのモンスターズ&ストレンジャーズの一人、クラレンス・コフィーJr.が共作していて、前作アルバム全体でもイアン・カークパトリックジェイソン・デルーロの「Want To Want Me」の作者・プロデュースが一番有名かな)やジェフ・バスカー、アンドリュー・ワットらポップ系の今売れっ子のプロデューサー達を使ってたのに対し、今回はシングル3曲を含むアルバム7曲で何とテイム・インパラことケヴィン・パーカーを共作者・プロデューサーに起用してるというのが大きいような気がします。「Houdini」とか聴いた時に「何かどこかで聴いたことある」感が大きかったのはこれかなあと。もちろんアルバム収録の楽曲クオリティ自体は高いと思うし、映画『バービー』での仕事を経てデュア自身のアーティストとしてのオーラというか自信の度合いは聴いてて伝わってくるので、まずは自己最高成績の達成おめでとう、という感じでしょうかね。

"SEVENTEEN Best Album '17 Is Right Here'" by SEVENTEEN

今週トップ10にもう一つ初登場してきたのは、Kポップ13人組ボーイズ・バンド、セブチことセヴンティーン(SEVENTEEN)のデビュー以来の全ての韓国語のシングルと日本語シングルの韓国語版+シングル「Maestro」(最近のセブチの曲に比べて結構ハードエッジなヒップホップに振ってます)など未発表曲4曲を含む全32曲のベスト盤『SEVENTEEN Best Album ’17 Is Right Here’』(53,000ポイント、うち実売49,000枚)の5位初登場。でもねえ、このアルバム自分が毎回チェックしているリリース・スケジュールには掲載されてないんですよねえ。これって昨年11月にもスケジュールになかったストレイ・キッズの『ROCK-STAR』がいきなり20万枚を売り上げてブッチギリの1位を記録した、ということもあって、時々Kポップ作品ってこういうことがあるんですがどういう事情なんでしょうか

そして32曲も収録していながら、ポイントのほとんどはフィジカル(12種類の異なるフォトカードなど同梱のCDなど)売上で、ストリーミングの寄与度はほぼゼロに近い(笑)というのが、Kポップ・アーミー達の消費行動の(今の時代における)特異性を如実に表してますねえ。いずれにしても何しろベスト盤なのでファンにはたまらない企画でしょうけど、アーミーの皆さんはこれまでの作品も当然買ってるはずなので改めてベスト盤買う?と思うんですが、そこでアーミーの購入行動をプッシュしてるのが過去の日本語シングルの韓国語盤を収録してる、というあたりなんでしょうね。やはりこのあたりKポップ・マーケティングの抜け目なさを感じてしまいます。

"Vultures 1 (Vinyl Version)" by ¥$: Ye (Kanye West) & Ty Dolla $ign

あとトップ10では初登場ではないですが、イェことカニエ・ウェストタイ・ダラ・サインのコラボアルバム『Vultures 1』が先週52位→6位に急上昇(45,000ポイント、うち実売31,000枚)してトップ10に復帰してきてます。これ、初登場1位を決めていた今年2月のリリース時から「今年中にヴァイナル出すよー」とプリオーダーを受け付けていたそのヴァイナルが今回リリースされ、その売り上げがドカンとポイント加算されたというのが事情。
前回このアルバムが初登場1位になった時にも書きましたが、あれほど反ユダヤ主義的発言を繰り返していて、謝罪したかと思うとすぐにそれと真っ向から矛盾するようなインスタの写真をアップするようなカニエに対して、ヴァイナルが出たと同時にこんなに多くのファンが飛びつく(ヴァイナルの週間3万枚売り上げは通常であれば余裕で週間売り上げトップの数字です)ことに改めて暗澹たる気持ちにならざるを得ないですわ。モーガン野郎の件も含めて、こんなことに全く問題意識を持たないように見えるリスナーの多さに、改めて今のアメリカの闇を見た気がします(まあ、派閥裏金など数多くのスキャンダルやポンコツな政治・経済政策を繰り返す自民党を未だに指示する人が未だに24%もいる日本も人のことは言えないですが)。

"U Made Me A St4r" by 4Batz

以上、トップ10内初登場2枚を中心にお伝えしましたが、今週の圏外11〜100位には初登場がわずか1枚だけでした。先週は5枚と久々に賑やかだったんですがねえ。先週トップ10か?と思ったシーアは153位初登場、個人的に購入したコンテンポラリー・ジャズ・サックス奏者でケンドリック・ラマーサンダーキャットらと関係深いカマシ・ワシントンの新譜に至っては200位までにチャートインしてませんね(ジャズ・アルバム・チャートでは5位初登場)。さてその唯一の今週圏外初登場は、30位にチャートインしたR&Bシンガーソングライターの4バッツ(本名:ニーコ・ベネット)の初ミックステープ『U Made Me A St4r』。もちろんこれが彼に取っての初チャートイン作品になります。

4バッツといえば今ちょうどHot 100の方でTikTokでバズったのをきっかけに、浮遊感たっぷりでちょっとボーカルピッチを上げたような声で歌うチルなR&Bシングル「Act II: Date @ 8」がヒット中、3月にはドレイクをフィーチャーしたバージョンがリリースされて一気に最高位7位を記録してブレイクスルーヒットになっているというアーティストです。最近ポップ、ロック、R&B、ヒップホップなどジャンルを問わずTikTok経由でヒットにつながるパターンは多いですが、今回は更にTikTokでのバズ状況を知ったカニエが連絡してきて「君なかなかいいねえ」とサポートを表明したり、上記のとおり曲の途中からダウンテンポになってドレイクの鼻歌ラップが加えられたバージョンをドレイクOVOサウンド・レーベルからリリースし、最初のEPリリースの契約したりと、なかなか4バッツの前途は明るそうです。今回リリースしたこのミックステープにはそのヒット曲の続編になる「Act III: On Go? (She Like)」なんていう同じようなスタイルの曲が入ってて、こちらはカニエ・ウェストをフィーチャーしたリミックス・バージョンが存在するみたい。他の収録曲も基本同じラインのようなので、この人気がいつまで続くかは、次に予定されてるEPでどういう内容をぶち込んでくるかにかかってそうですね。取り敢えず聞き流すには悪くない内容です。

ということで今週の100位までの初登場は都合3枚でした。一方今週のHot 100ですが、先週の予想どおり大変なことになってます(笑)。まず、先週2位初登場、今週にも首位か?と思われたトミー・リッチマンMillion Dollar Baby」は★付ながら今週も2位で足踏み、代わりにテイラーポスティの「Fortnight」を蹴落として1位に立ったのは、何とケンドリック・ラマーの新曲「Not Like Us」、初登場1位です。先週こっちが1位かも?と言ってたケンドリックドレイクの「Push Ups」(今週17位)へのディス返し曲「Euphoria」も先週11位初登場から今週3位に上昇してますが、その後の2人がやり取りしたディス・トラック、ドレイクの「Family Matters」(今週7位初登場)とケンドリックの「Meet The Grahams」(今週12位初登場)の、後にケンドリックがリリースした5曲めのディストラックがこの「Not Like Us」というわけで、トップ10近辺は2人のディス・トラックだらけというもうかなりワヤくちゃな状態になってしまってます。2人の言い分も正直レベルの低いガキの喧嘩レベルの内容で、ドレイクが「ケンドリックはチビ」「ケンドリックの息子はレーベルの共同社長の子供」「ケンドリックより上のラッパーは掃いて捨てるほどいる」などと喧嘩を売ったのに対して、ケンドリックも「ドレイクは隠してるけど隠し子の娘がいる」「ドレイクとチームは少女達に売春させてる」などこっちもおいおいどうか、と思うような内容。結構他のラッパーたちもそれぞれどちらかの側に付いて結構大事になってきてる感じですが、ラップ界の争いは90年代に重要なアーティストが2人も死んでる訳だし、いい加減に双方とも収めてもらいたいものです。少なくともピューリッツァー賞までもらってるケンドリックがこんな程度の低いビーフを続けちゃいかんと思うんだけど。そして1位はディス・トラックじゃなくって、トミー・リッチマンとかベンソン・ブーンなど、ちゃんとした曲作って頑張ってる人に譲ってもらいたいね。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (3) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <282,000 pt/51,000枚>
*2 (-) (1) Radical Optimism - Dua Lipa <83,000 pt/51,500枚>

*3 (2) (62) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen 71,000 pt/1,483枚*>
4 (3) (7) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <61,000 pt/188枚*>
*5 (-) (1) SEVENTEEN Best Album ’17 Is Right Here’ - SEVENTEEN <53,000 pt/49,000枚>
*6 (52) (13) Vultures 1 - ¥$: Ye (Kanye West) & Ty Dolla $ign <45,000 pt/31,000枚>
*7 (6) (174) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen <42,000 pt/432枚*>
8 (4) (6) Cowboy Carter - Beyonce <41,000 pt/4,928枚*>
9 (5) (76) Stick Season ▲ - Noah Kahan <40,000 pt/3,588枚*>
10 (9) (74) SOS ▲3 - SZA <39,000 pt/1,948枚*>

テイラーが首位死守、デュア・リパがキャリアベストの出力を見せた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか?最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:5/10~16)ですが、テイラーは来週も10万ポイント台は維持すると思うので、10万ポイント出力可能な新譜があれば首位交代の可能性はありますが、その可能性があるのがガンナの新作。うちのヒップホップ・ヘッズの息子によると「なごみ系の優しいサウンドで、なかなかいい」とのことなので、来週はテイラーとのいい勝負になると思われます。ではまた来週。


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