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料理と科学の素敵な関係 - 「おいしさをつくる「熱」の科学」が紐解く調理の原理原則

料理と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。味や盛り付けの創意工夫、料理人の巧みな技、食材の持ち味を引き出す調理法など、料理にはアートとしての一面があります。その一方で、料理には科学的な側面もあるのをご存知でしょうか。佐藤秀美氏の著書「おいしさをつくる「熱」の科学」は、まさに料理の科学に光を当てた一冊です。

本書は加熱調理によって引き起こされる様々な現象を、科学の視点からわかりやすく解説しています。野菜を酢水でゆでるとかたくなるのはなぜか、揚げ物の油温で仕上がりが変わるのはどうしてか。私たちが普段何気なく行っている調理操作の裏側には、実は科学的な原理・原則が隠れているのです。

科学の目線が明かす調理の秘密

本書では、料理のコツや経験則に科学的根拠を与えてくれる事例が数多く紹介されています。たとえば肉は、ゆっくり煮込めば煮込むほどやわらかくなりますが、その理由は肉に含まれる「コラーゲン」の性質にあるそうです。コラーゲンは75℃以上の加熱で分解が進み、ゼラチン化することでやわらかくなるのだと著者は説明します。

またパイ生地が膨らむ仕組みや、ステーキの肉汁を閉じ込めるコツなども詳しく解説されており、読み進めるうちに思わず膝を打ちたくなるような発見の連続です。専門用語の使用は最小限に抑え、豊富なイラストや図表を使って視覚的にも理解しやすい構成になっているのも本書の特長だと感じました。

化学反応が生み出す味わいの妙

本書を読んで私が特に興味をそそられたのは、調理における化学反応の重要性です。例えばシチューに生クリームを加えるタイミングは、実は火を止める直前が理想的だそうです。牛乳や生クリームに長時間熱を加えると、含まれるタンパク質が変性して分離してしまい、味わいが損なわれる恐れがあるのだとか。

カラメルソースの甘さと香ばしさの秘密も化学反応によるものでした。砂糖に120℃前後の熱を加えると「カラメル化反応」が進行し、カラメル特有の色と香りが生まれるそうです。加熱のタイミングを誤ると苦くて真っ黒な物質になってしまうリスクもあり、料理人の経験と勘の鋭さが問われる難しい調理工程だと知り驚きました。

科学と寄り添う料理人の探求心

本書のすばらしさは、単なる知識の羅列にとどまらない、科学と料理に対する著者の探求心の深さにあります。 「腕の立つ料理人は、きのうも、きょうも、明日も、いつでも同じように料理を仕上げ、いつでも同じレベルのおいしさを維持できるものです」という言葉には、料理人への敬意と、その技術を支える科学的思考への共感が滲んでいます。

科学の視点を持つことで、先人の知恵と経験を正しく理解し、新たな創造につなげていく。本書はそんな真摯な姿勢に貫かれた、料理人にも科学者にも示唆に富む一冊だと感じました。

おわりに - 料理をもっと楽しむための科学的視点

「おいしさをつくる「熱」の科学」は、料理の不思議を科学の目線で解き明かしてくれる、ユニークで興味深い一冊です。全ての調理現象には必ず原理原則があり、それを知ることで料理の腕前も格段に上がるはずです。

うまくいった料理も、失敗に終わった料理も、全てが学びのタネ。科学的視点を持つことで、料理はもっと奥深く、もっと面白くなります。ぜひ本書を片手に、料理の不思議の扉を開いてみてください。新たな発見と驚きが、あなたを待っているはずです。


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