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呼吸法の極意を極める - 『呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと』

呼吸は私たちにとって当たり前の行為ですが、その奥深さに気づいている人は少ないのではないでしょうか。ヨーガの第一人者である成瀬雅春氏の著書『呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと』は、呼吸法のテクニックを通して心身のバランスを整え、人生をより豊かにする方法を伝えてくれる1冊です。

呼吸法の重要性に気づかせてくれる

本書の冒頭で著者は、呼吸法が単なる健康法ではなく、精神的な安定や集中力の向上、さらには解脱に至るための重要な修行法であることを力説します。私たちは無意識のうちに呼吸をしていますが、その呼吸に意識を向けることが呼吸法の第一歩だと著者は語ります。

呼吸は精神状態と深い関係にある。精神が安定しているときは、ゆっくりと規則的な呼吸になるが、不安定な精神状態のときには、早くて不規則な呼吸になる。

このように呼吸と精神状態の関係性を指摘し、呼吸をコントロールすることの重要性を説いています。スポーツ選手が試合中に呼吸を整えるのも、まさにこの理由からですね。

著者の経験から生まれた実践的な呼吸法

本書の大きな特徴は、著者自身の長年のヨーガ修行から生まれた実践的な呼吸法が数多く紹介されていることです。子役時代の経験から心臓の鼓動を止める呼吸法を編み出したり、プロのサックス奏者としてクラリネットの息継ぎから呼吸法のヒントを得たりと、著者ならではのエピソードが興味深いです。

また本書では、下部呼吸法、中部呼吸法、上部呼吸法など、身体の部位ごとの基本的な呼吸法から、カパーラパーティクリヤー(頭蓋光明浄化法)やバストリカープラーナーヤーマ(ふいご呼吸法)といった高度なテクニックまで、段階を追って丁寧に解説されています。

特に印象的だったのは、「ツンモ」と呼ばれるチベット密教の秘法です。これは雪山で瞑想する行者が体温を上げ、周囲の雪を溶かすほどの高度な呼吸法だそうです。著者自身もヒマラヤでの修行中に会得したと語っており、その凄まじさに圧倒されました。

今すぐ実践できる呼吸法のコツ

本書では、日常生活ですぐに取り入れられる呼吸法のコツも数多く紹介されています。例えば、「ゆっくりと息を吐く」という極めてシンプルな方法です。

まず肺の中に入っている中途半端な空気を吐き出さなければならない。汚れた空気をいったん吐き出してから、ゆっくりと新鮮な空気を肺の中に取り入れることで深い呼吸になる。その息を吸うときに、胸を広げるようにして、少し顔を上に向ければもっとよい。

著者によれば、吸うことよりも吐くことを意識することが深い呼吸のコツだそうです。普段の生活の中で、ゆっくりと息を吐くことを心がけるだけでも、呼吸は随分と変わってくるはずです。

また、ストレスを感じたときには「完全呼吸法」がおすすめだと著者は言います。これは下部呼吸法、中部呼吸法、上部呼吸法を組み合わせた呼吸法で、リラックス効果が高いそうです。

①ゆっくりと息を吐いていき自然に腹部が引っ込み、そのままさらに腹を引っ込ま せながら吐いていく。 ②吐き終わったら、瞬間的に腹の力を緩めてから、ゆっくりと息を吸っていき、少 し腹が膨らむくらいまで吸い込む。 ③そのままさらに胸を前に突き出す感じで胸郭を広げながら、吸い込んでいく。 ④胸郭が広がったら、続けて肩を上げながらもう少し吸い込む。

たった4ステップですが、これを意識的に行うだけで心身のバランスが整うそうです。ストレス社会と言われる現代だからこそ、呼吸法で自分を整えることが大切ですね。

呼吸法を通して見えてくる世界

本書を読み進めていくと、呼吸法が単なるテクニックではなく、私たち自身の在り方を問い直すきっかけにもなることに気づかされます。

呼吸法に限らず、テクニックを身に付けるには、習慣的に実践することが必要だ。難しい呼吸法ややりにくい呼吸法は、一、二回でやめてしまうことになる。そうすると身に付かない。まずは、呼吸に意識を向けること、ゆっくり吐くこと。

著者のこの言葉は、呼吸法だけでなく、何か新しいことを始めるときの心構えとしても示唆に富んでいます。難しいことでも、コツコツと積み重ねていくことが大切なのだと再認識させられました。

本書では呼吸法と食事の関係についても言及されており、菜食の重要性が説かれています。しかし著者は、いきなり菜食主義者になることは勧めていません。

健康法で自然食や菜食を実施するなら、せめて十年以上続ければ少しは菜食傾向の体質になるだろう。

無理のない範囲で食生活を見直し、徐々に自然の摂理に適った食事を心がけることが大切だと教えてくれます。

人生を変える呼吸法の可能性

終盤では、チャクラを開発することで得られる効果や、クンダリーニーを目覚めさせて解脱に至るプロセスなども解説されています。正直なところ、私にはまだピンと来ない部分も多いのですが、呼吸によって人生が大きく変わる可能性を感じずにはいられません。

プラーナーヤーマというプラーナをコントロールするテクニックの究極が、「プラーナが自由に流通している」ケーヴァラクンバカなのである。

ケーヴァラクンバカとは、究極の呼吸法の到達点とされる無呼吸の状態のことです。著者はヒマラヤでの修行中に、このケーヴァラクンバカを体感したそうです。プラーナ(生命エネルギー)が自由に流れる境地。私にはまだ想像もつきませんが、いつかそんな世界が見えたら素晴らしいだろうなと思いを馳せずにはいられません。

極意の先にあるもの

『呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと』は、呼吸法の入門書であると同時に、ヨーガの真髄に触れる道しるべのような1冊でした。著者の成瀬雅春氏は、自らの修行体験をもとに、誰にでも実践できる呼吸法を丁寧に伝えてくれています。

呼吸は生きていくために欠かせない行為ですが、その呼吸に意識を向けるだけで、人生が大きく変わる可能性を秘めているのです。本書を読んで、呼吸の奥深さに開眼するとともに、ゆっくりと息を吐くことの心地よさを改めて感じました。

難しい呼吸法に挑戦するのも良いですが、日常の中で呼吸に意識を向け、だんだんと深い呼吸を身につけていく。そんな呼吸法実践の第一歩を、ぜひ本書から始めてみてはいかがでしょうか。きっとあなたの人生に、新しい息吹が吹き込まれるはずです。


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