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レティシア書房店長日誌

「ジェーンとシャルロット」

 今年7月16日、女優で歌手でモデルでもあった、ジェーン・バーキンが77歳でなくなりました。1969年、当時の夫だったセルジュ・ゲンズブールとのデュエット曲「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」の喘ぎ声が問題になり発禁処分を受け、反逆的なカップルとして世界中で注目されました。この曲はともかく、繊細で美しい歌声に惹かれ、私に取ってフレンチポップスといえば、ジェーン・バーキンでした。ジェーンは、三度の結婚でそれぞれの夫との間に一人ずつ娘がいます。
 1971年生まれの、ゲンズブールとジェーンの娘シャルロット・ゲンズブールは、若い頃より映画界で活躍し、多彩な出演作品で高い評価を受けています。その一方で歌手としても素敵なアルバムを残しています。
 そんなシャルロットが初めてメガホンを取ったのは、年老いた母親ジェーンと自身のドキュメンタリー映画「ジェーンとシャルロット」でした。時系列的に母親の歴史を述べ、ヒット曲を散りばめるような凡庸な作り方はしないだろうと思っていた通り、即興的なカメラワークで母親に迫り、愛すること、老いること、苦悩、後悔、長女ケイトを自死で失ってからの長い間に蓄積された悲しみを、ともに見つめるという作品でした。

 映画は2018年、東京でのライブのバックステージからスタートします。ジェーンがセルジュと別れた後、父の元で育ったシャルロットとの間にある微妙な距離感。少しぎこちないまま、シャルロットは、遠慮なく母の老いた姿を捉え、ジェーンへのリスペクトや憧憬を込めて、そう簡単には口に出せないような複雑な感情をぶつけていきます。ラスト、二人が抱き合うところで終わるのですが、長い間に溜まったわだかまりを吹っ切ったようなシーンでした。たとえ親娘であっても、いやそれ故に分かり合えないことはたくさんあるけれど、大人になってお互いを知ろうとする二人の、優しさと愛に満ちた映画でした。
 今、店にはジェーンが1986年に発表したベストアルバム”Quoi"(CD1500円)と、シャルロットのデビューアルバム”Charlotte For Ever"( LP/フランスオリジナル盤2800円)があります。前者はセルジュが手がけた曲をジェーンが歌っています。後者はセルジュがどこまでプロデュースに関わったのかはわかりませんが、これぞロリータポップスの傑作です。大人びた目で見つめるシャルロットのジャケ写真も素敵です。


 ところで、セルジュ・ゲンズブールが亡くなった時、時の大統領ミッテランは「われらの時代のボオドレールにしてアポリネールであった」という追悼の言葉を言いました。忌野清志郎、坂本龍一が亡くなった時、こんな気の利いた発言をした日本の政治家はいませんでした。

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