見出し画像

レティシア書房店長日記

司修「絵本の魔法」
 
 画家、装幀家、作家の司修が、主に児童文学から、一人の芸術家が何を感じ、それに著者がどのような思いを抱いたかを綴ったのが本書です。(古書900円)

 「学校では、天皇陛下がいちばんありがたいと教えていますが、これは天皇をとりまく一部の人たちの都合の良い考えなのです。私は天皇陛下をとやかく言う気持ちは少しもありませんが、世の中が何かのきっかけで大きくかわると、天皇制などというものはガラガラと崩れていくものです。世界でいちばんありがたいものは太陽です。」
 これ、誰の言葉かお分かりですか。答えは宮沢賢治です。賢治の元に集まってきた農村の青年たちに、さらに「革命が起きたら、私はブルジョワの味方です」と言い切ったそうです。賢治の童話からは想像できないような言葉ですね。
 司修は、1969年「宮沢賢治童話集」の絵をスクラッチボードで描き、絵本による表現を切り開きました。ここから、多くの絵本を手がけるようになりました。本書でも賢治の童話について多くのページを費やしています。詩人宗左近が賢治の詩について書いた言葉を著者は引用しています。
 「この詩人は、誰よりも、そして何よりも、謎です。なぜか。他界から来た人だからです。当今の言葉でいえば、宇宙人。したがって、その言葉は、宇宙語の日本語訳なのです。極めて難しいのです。」
 私は賢治を長い間読んできて、何度も、これ童話なの?と思ったものもあります。もっとも有名な「銀河鉄道の夜」も恐ろしく多くの解釈があります。個人的には、日本初の臨死体験小説だと思っています。また、詩に至っては何度読み返してもその印象風景を想像すらできないものも沢山ありました。それを「宇宙人。したがって、その言葉は、宇宙語の日本語訳なのです。極めてむつかしいのです。」とズバリ言われると、そうだよな、彼は宇宙人だ、という考えに納得しました。賢治を取り上げた著者もそう思っていたのでしょう。
 素敵な出会いだなと思ったのが、著者と向田邦子との出会いでした。彼女の「眠る盃」を装幀することになって、彼女の自宅で打ち合わせした時の話です。突然、「わたしはアフリカに土地を持っているの。キリマンジャロの麓なのよ」と言い放ちました。「わたしの土地は一平方メートル」。
 「幸福っていうのはこういう表情なんだと思える笑顔で向田さんは『まだ一度も行ってないんですけどね』といった。」そして広げられた地図を見つめながら、著者はこんな想像をします。
 「見ていないから、一メートル四方の土地に雨が降り、草が芽生え、たまたまバオバブのように大きな木がにょきにょき育っているかも知れない、と思える。 その木の下にどうしても行きたくなった象がいて、向田さんの土地の周りをどしどし歩いているかも知れない。 ヒョウが夜のねぐらの樹上に横たわっているかも知れない。猟をして迷った少年がバオバブの木陰で休んで、つかの間の夢を見ているかもしれない。 猟をしていて迷った少年がバオバブの木かげで休んで、つかの間の夢を見ているかもしれない。 そこに行けない、ということがそもそも夢なんだ、と思った。」
 著者の想像力の広がり、美しさに心動かされました。エンデ、センダック、マグリット、ワイエスなど多様な作家、画家が登場します。それらの作品を通して、著者の思いを知る一冊です。

●レティシア書房ギャラリー案内
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進個展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
村松圭一郎「人類学者へのレンズ」(1760円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
上野千鶴子「八ヶ岳南麓から」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円著者サイン入り)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?