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レティシア書房店長日記

アン・テジン監督「梟フクロウ」

 一人の男が少年を背中に背負って、深夜の王宮を疾走する。門を開けた途端に朝日が昇ってくる。安心しきった男の顔。ここから映画は始まり、ラストシーンまで、何も考えることなく、雑念が湧くこともなく、緊張感あふれる2時間を過ごせてくれる”ありがたい”映画です。
 朝鮮王朝が長い間、宗属してきた明王朝が滅亡し、清が新しい覇者となった時代。清国から多額の賠償金を取られ、多くの人間が捕虜になり、王ソヒョンは心身ともに疲労していました。王朝が不安と猜疑心で揺れる渦中で、謎の死を迎える王。朝鮮王朝時代の記録物「仁祖録」(1645年)に数行の記述があるだけの史実を膨らませて、韓国映画人が見事なスリラー映画に仕上げました。
 冒頭の闇夜を疾走していたのが主人公で、盲目の鍼医ギヨンス。背中に背負っていたのは王子の息子です。ギヨンスは、その腕を買われて王宮で鍼灸師として働いていました。ある日、彼は醜い宮廷内の権力闘争を知ってしまいます。毒殺されたソヒョン、それに巻き込まれる妻や子供、密かに権力掌握を企む第三者等々、もう定番のストーリーなのです。映画は秘密を知ったギヨンスが陰謀に巻き込まれていく様を、新幹線並みのスピードで描いていきます。波乱万丈という使い古された言葉が、ドンピシャな映画でした。昨今の大味なハリウッド映画とは違い、緻密な構成と演出、そして撮影で観客を1分も飽きさせない力を持っています。

主人公ギヨンス

 これはぜひ映画館で見て欲しいと思います。後半、真っ暗な深夜の逃走劇が占めているので、暗闇の映画館で味わってこそハイクォリティーを味わうことができると思うのです。
 ところで、本作のタイトルは「梟」です。梟の視力は人間の100倍とも言われ、わずかな光があれば周囲を見ることができるそうです。その一方、感度が良すぎて、昼間は眩しくて視野が極端に下がるとか。そんな梟と同じなのが、主人公のギヨンスなのです。彼もまた暗いところでは目がわずかですが見えるのです。全く目の見えない人が活躍する、これまで見たことのある映画とは全く違う設定です。スリングな展開に引っ張り回され、ラストシーンでホッとして、あぁ〜美味しいコーヒーが飲みたいなぁ、という素敵な映画でした。

レティシア書房ギャラリー案内

3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)


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