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レティシア書房店長日誌

大滝ジュンコ「現代アートを続けていたらいつのまにかマタギの嫁になっていた」
 
 
長いタイトルにまず笑ってしまいます。著者は1977年埼玉生まれ、現代アート作家として国内外で活動し、様々な芸術振興に携わってきました。が、2014年新潟県の山奥の村、山熊田のマタギたちとの飲み会に参加してその魅力に取り憑かれ、移住を決意。さらにそこで結婚をして、シナノキなどの樹皮から作る「羽越しな布」の伝統が廃れてゆくことに危機を感じ、布作家として個人工房を作り上げたのです。
 飲み会で世話になった剛さん一家の暮らしに惹かれ、休日には可能な限り山熊田に通いだします。
 「剛さんのご両親に仕事を教えてもらい、彼らの生の暮らしに交ぜてもらう。そこで私は、電気がなくても生きていけるような、たくましい暮らしを見てしまった。日本のほとんどの地域で滅びてしまっただろう昔ながらの自然と調和した生き方が、今も息づいていたのだった。よくわからない言葉を話し、山から切り出した薪で煮炊きし、伝統的な狩猟をし、スケールでかく酒を飲む。水も薬も美味いご馳走も燃料も、工芸素材や心を奪われる絶景までも、全て山にある。私より体力たくましい爺や婆がいる。しかも皆オシャレで心も豊かだ。現代の日本とは思えないこの彼らの日常は、私には圧倒的非日常だった。」
 そして、彼女は剛さんの元に嫁ぎます。が、そこからが大変!怒涛のごとく押し寄せる仕事の山!!はぁ、はぁ、言いながらこなしてゆく様を著者はユーモア溢れる文章で綴っていきます。(新刊1760円)

 「全国的にはもう時代に取り残されていたような『山は財産』という意識が、山熊田ではいまだにとても強くて、恵みを得続けるための手入れを欠かさない。けれど、他の町や集落で熊がでた、猪がでたと聞くたび、人が山仕事の手を抜いたり山との関わりをやめたりすることで、人と森の関係をだんだんに弱め、そのなれの果てではないかと思える」
 昨今TVで報道される街中への熊出没は、まさに「なれの果て」ではないかと思います。前近代的な習慣や風習が数多い山での暮らしですが、著者はその一つ一つに納得のゆく答えを見出していきます。私たち都市生活者が身につけている行動指針やら論理が、必ずしも正解ではない、という思いが募ってきます。
 本書は春夏秋冬に分けて、それぞれの季節の仕事や、村の催事が丁寧に描かれていますが、私が好きな箇所は5月のゼンマイ採りの描写です。
 「一年で最も忙しいこの時期、この村の人々は皆、『山のエナジーを直接取り入れているのではないか』と疑うほど、急にパワフルになる。足が痛い、腰が痛いと家にこもっていたお年寄りたちは特に、山の息吹に負けじと躍動しだす。ややもすると山に登り出す。そうなったらもう超人なのか野生人なのか、私など後ろをついていくのがやっとだ。草木をつかんで崖を登り、沢を飛び越え、熟知したゼンマイ群生地へとまっしぐら。『ここは熊みたく這ってこい』『クラ(崖)では深追いするな』など死なないための術や、胞子を残すために男ゼンマイは獲るな、女ゼンマイは一本残せ、など、今風に言うと『サスティナブル』な採取方法を教わり、鉈で手入れしながら進む。」著者がお婆に教わりながら、一歩づつ山の暮らしに順応してゆく様がありありと見えてきます。

●レティシア書房ギャラリー案内
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進個展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
村松圭一郎「人類学者へのレンズ」(1760円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
上野千鶴子「八ヶ岳南麓から」(1760円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)

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