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レティシア書房店長日誌

山本英子「キミは文学を知らない」
 
 地元京都の一人出版社、灯光舎の新シリーズ「本と生」の第一弾「キミは文学を知らない」(新刊2200円)を入荷しました。著者の山本英子さんは、京都市出身の時代小説家山本兼一さんの妻。小説を書くことが大好きだった夫と暮らした長い時間、そして彼女自身も小説を書き、発表するようになった経緯を、飾らない文章で綴ったエッセイです。
 

 「小説を書くことが大好きだった。なのに仕事場のカレンダーは2013年12月で止まっている。この月に山本兼一は前年に発症した肺がんが悪化し、二度目の入院をした。体力のつづく限り病室で原稿を書き、推敲していた。そして翌2014年2月13日に旅立った。」
 2024年、彼の死から10年。仕事場に残っていたノートを手がかりに、彼女は書き始めます。それまで東京でライターとして働いていた二人が京都に戻ったのは、1992年。そして彼は小説家への道を歩み始め、1998年に短編小説でデビューします。
 「夫は『職業作家でありたい』そう言っていた。執筆開始まで小説の構成をじっくり考えていた。納得のいく取材をし、キャラクターをつくり込む。そして、読者にページをめくらせるフックをつけて書く。これを、とても意識していた。 彼は物語の入り口と出口を丁寧につくった。『広げた風呂敷は、キチンと閉じる』 ー 読後感を美しくすることを大切にしていた。そしていつも、楽しんで原稿を書いていた。」
 「広げた風呂敷は、キチンと閉じる」素敵な言葉です。およそ小説たるもの、こうあってほしい。ハッピーエンドで終わるという意味ではなく、読者が納得のいく幕切れを用意することだと思います。私が読んだ小説の多くは、悲しいにしろ、寂しいにしろ、嬉しいにしろ「きちんと閉じられた」小説だったと思います。
 やがて、「火天の城」で松本清張賞を受賞。その時、なぜ歴史・時代小説作家になったのかという質問にこう答えています。「広い世の中には、すごい人がいます。瞠目すべき日本人の生き方を、心踊る物語にからめ取りたくなったんです」その答えを彼女は忘れられないといいます。
 「この『からめ取る』という表現は、山本兼一の作風そのものだ。大胆にからめ、さりげなくからめ、読む人たちが楽しく、清々しい気持ちになってくれるように物語を書いていた。」
 常に小説のことしか考えていない夫を見ているうちに、「作家とは、こんなにも夢中になれる仕事なのか?自分も同じことをして、確かめてみよう。そう思ったのだ。必死で取り組んだら、夫を巻き込んだら、わたしも同じ場所に行ける。根拠のない自信があった。」そして、「つくもようこ」というペンネームで、多くの児童文学を書き、17年が経ちました。小説を書くことに無上の喜びを感じていた夫婦の、幸福な時間。
 いい本でした。


●レティシア書房ギャラリー案内
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円著者サイン入り)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)

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