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レティシア書房店長日誌

島田潤一郎「長い読書」
 
 「何度も、読み返される本を。」という理念のもと、出版社夏葉社を一人で切り盛りしている島田潤一郎さんの新刊が、みすず書房から出ました。(新刊2530円)「本を読むまで」「本と仕事」「本と家族」の三章で、著者の本への、時には音楽への深い思いが綴られています。
 

 「本を読み続けることでなにを得られるのか。いちばんわかりやすいこたえは、本を読む体力を得られるということだろう。」巻頭のこの文章、これ名言だと思いません?
 本を読めば深い世界を知ることができるとか、世界がわかってくるとかいうお定まりの文言ではなく、「体力を得られる」が、島田さんらしくていいですね。これは、音楽を聴くことで音楽を聴く体力がつく、映画を観ることで映画を観る体力を得られると、言い換えられると思いました。体力がなければ本も、音楽も、映画も続けられない。私も、若い頃から本を読み、吐くほど音楽を聴き映画を観てきたので、年寄りになっても、少しは新しい表現や作風に順応できているのかもしれません。
 「本を読むのを一日休むと、続きを読むのにおっくうになる。あらすじを思い出すのに、その著者の論旨を思い出すのに、倍の時間がかかるからだ。休んでいる期間があまりに長いと、自分の記憶のなかから、その本の思い出がきれいそっくり無くなっているということもある。 だから、本を読むコツというのがあるとすれば、それは毎日続けることなのだ。眠くてしかたない日も、仕事が忙しい日も、こころが乱れている日も、すこしでいいから本を開く。それが頭のなかに入ってこなくても、共感できるところがすくなくても、一ページでも、二ページでも読んでおく。そうすると、本を読む体力がつく。」本を読む体力をつけるために、実践したい教えですね。
 著者がそんな風に考えるようになったのは、大学時代、参加していた文芸研究会の OBのIさんでした。Iさんは著者にこう話しました。
 「月曜日から金曜日までめちゃくちゃ忙しいし、お昼もろくに食べられないこともあるんだけど、そういうときもぼくは、立ち食いそば屋でそばをかき込みながら、プルーストを読んだ。谷崎訳の『源氏物語』も全部読んだし、『カサノヴァ回想録』も全部読んだ。それがぼくのエネルギーになったし、いまも文学のことを考えることがぼくのよろこびだ。」
 著者は、Iさんのこの言葉を「人生を決定づける一言」と述べています。そして「Iさんはそれらの古典がいかにすばらしいかをぼくに伝えた。でも、ぼくにとっては作品の内容よりも、立ち食いそば屋でそばをかき込みながら、分厚い文庫本を読むIさんのイメージのほうが重要だった。そんなことが可能なんだ、と思った。」
 本書には、著者に影響を与えた本のこと、出会った人々のこと、彼に寄り添ってきた音楽のことなどがたくさん登場します。そしてそれらが、島田潤一郎という人物を形成していることがよくわかります。夏葉社の本が好きな方、文学を、小説を、こよなく愛する方は必読の書だと思いました。先日、営業で来店の時に、本にサインをしてもらいました!お早めにどうぞ。

●レティシア書房ギャラリー案内
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円著者サイン入り)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)

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