大滝ジュンコ「現代アートを続けていたらいつのまにかマタギの嫁になっていた」 長いタイトルにまず笑ってしまいます。著者は1977年埼玉生まれ、現代アート作家と…
映画「悪は存在しない」濱口竜介監督 「ドライブ・マイ・カー」から3年。濱口監督の新作が公開されました。本作は「ドライブ・マイ・カー」でも組んでいた石橋英子(…
朝比奈秋「あなたの燃える左手で」 著者は1981年京都生まれ。2021年「塩の道」で林芙美子文学賞を受賞しました。昨年発行された本作は泉鏡花文学賞、野間文芸…
司修「絵本の魔法」 画家、装幀家、作家の司修が、主に児童文学から、一人の芸術家が何を感じ、それに著者がどのような思いを抱いたかを綴ったのが本書です。(古書9…
橋本亮二「音と言葉の日々」 「十七時退勤社」という、ワークマンなら大賛成!という声が聞こえてきそうな名前の個人出版社があります。その代表の橋本亮二の本と出会…
福嶋智「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」 著者は、ジュンク堂書店グループの大型店舗の店長を歴任し、書店や書物についての本も数多く出している、…
ふくら恵展 「余恵なことかも知れませんが….」 待望のふくら恵さんの個展が始まりました。「余恵なことかも知れませんが….」と副題が付いています。「余恵」とは、直接…
島田虎之介「ロボ・サピエンス前史」 2020年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した「ロボ・サピエンス前史」(上下巻/古書絶版1100円)。以前から…
岸政彦「ビニール傘」 社会学者である岸政彦の初の小説作品で、芥川賞候補になった小説です。(古書950円) 全編大阪弁でのリアルな会話が聞こえてくるような、…
高砂淳二写真展 京都駅に隣接している伊勢丹7階、美術館『えき』KYOTOで開催中(5月19日まで)の「高砂淳二写真展ーこの惑星の声を聴く」は、期待以上に胸に染み…
山本英子「キミは文学を知らない」 地元京都の一人出版社、灯光舎の新シリーズ「本と生」の第一弾「キミは文学を知らない」(新刊2200円)を入荷しました。著者の山本…
島田潤一郎「長い読書」 「何度も、読み返される本を。」という理念のもと、出版社夏葉社を一人で切り盛りしている島田潤一郎さんの新刊が、みすず書房から出ました。…
長田弘「自分の時間へ」 詩人長田弘のエッセイー集です。(古書1400円)著者はわかりやすい言葉で、生と死、人生を見つめた素敵な詩集を沢山出しています。詩はち…
養老孟司&宮崎駿「虫眼とアニ眼」 虫好き解剖学者と映画監督の対談。面白くないわけがない!一冊です。お互いに本音で、言いたいことをドンドン発言しています。(古…
小川公代「世界文学をケアで読み解く」 断崖絶壁のはるか彼方に頂上の見える山にロープをかけて、登ったものの見事に落下。再度登るも、またまた落下……というような…
坂本麻人監督「ミルクの中のイワナ」 先週の「燃えるドレスを紡いで」に引き続いて、記録映画「ミルクの中のイワナ」を観ました(京都アップリングで上映中)。色々と…
大滝ジュンコ「現代アートを続けていたらいつのまにかマタギの嫁になっていた」 長いタイトルにまず笑ってしまいます。著者は1977年埼玉生まれ、現代アート作家として国内外で活動し、様々な芸術振興に携わってきました。が、2014年新潟県の山奥の村、山熊田のマタギたちとの飲み会に参加してその魅力に取り憑かれ、移住を決意。さらにそこで結婚をして、シナノキなどの樹皮から作る「羽越しな布」の伝統が廃れてゆくことに危機を感じ、布作家として個人工房を作り上げたのです。 飲み会で世話にな
映画「悪は存在しない」濱口竜介監督 「ドライブ・マイ・カー」から3年。濱口監督の新作が公開されました。本作は「ドライブ・マイ・カー」でも組んでいた石橋英子(音楽)から求められていたライブパフォーマンス用映像制作の過程で、一本の劇場映画を完成させるという企画からスタートしました。もちろん、石橋は音楽監督で参加。彼女の音楽がこの映画では重要です。 オープニング、俯瞰で捉えた林を徐々に移動しながら撮影して、そこに音楽がかぶさってきます。耳に心地よいメロディーは、樹木の映
朝比奈秋「あなたの燃える左手で」 著者は1981年京都生まれ。2021年「塩の道」で林芙美子文学賞を受賞しました。昨年発行された本作は泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞ダブル受賞した長編小説です。(新刊1760円) 麻酔から目覚めると、見知らぬ他人の手が移植されていた男の物語です。やたら医学用語や描写が出てくるので、著者の略歴を見てみると、なんと現役のお医者さんでした。じゃあ医学小説かというとそうではなく、極めて今日的なお話。翻訳家の岸本佐知子が「切断され、奪われ、接
司修「絵本の魔法」 画家、装幀家、作家の司修が、主に児童文学から、一人の芸術家が何を感じ、それに著者がどのような思いを抱いたかを綴ったのが本書です。(古書900円) 「学校では、天皇陛下がいちばんありがたいと教えていますが、これは天皇をとりまく一部の人たちの都合の良い考えなのです。私は天皇陛下をとやかく言う気持ちは少しもありませんが、世の中が何かのきっかけで大きくかわると、天皇制などというものはガラガラと崩れていくものです。世界でいちばんありがたいものは太陽です。」
橋本亮二「音と言葉の日々」 「十七時退勤社」という、ワークマンなら大賛成!という声が聞こえてきそうな名前の個人出版社があります。その代表の橋本亮二の本と出会ったのは、2019年に出された「うもれる日々」でした。本に、そして本とともに生きる人たちに対する、愛情に満ちた素敵なミニプレスでした。当店では笠井瑠美子著「製本と編集者vol1,2」、日野剛広著「本屋なんか好きじゃなかった」を同社から仕入れ、完売しました。そして2023年、「音と言葉の日々」(1210円)が出ました。
福嶋智「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」 著者は、ジュンク堂書店グループの大型店舗の店長を歴任し、書店や書物についての本も数多く出している、業界ではよく知られた方です。 さて本書は、一時、書店店頭に雨後のタケノコのごとく並んでいた、反韓を煽るような”ヘイト本”について、その本を店頭に置くべきか、否かを悩み続けた著者の思いからスタートして、国を覆う様々な誤った言説を見つめた力作です(新刊3300円)。私自身はその膨大な人文書の読書量には追いつけず、全部を
ふくら恵展 「余恵なことかも知れませんが….」 待望のふくら恵さんの個展が始まりました。「余恵なことかも知れませんが….」と副題が付いています。「余恵」とは、直接には関係のない他に及ぼす利益のことだそうです。ふくらさんの面白い発想が形になった作品は、きっと観る人の心を和やかにして、恵みをもたらしてくれると思います。 石粉粘土で形を作り、ペーパーで丁寧に表面を整えて、アクリル絵の具で着色した人形たち。ユニークなスタイルで、どこかとぼけていて、時間に急かされて暮らしている我々に
島田虎之介「ロボ・サピエンス前史」 2020年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した「ロボ・サピエンス前史」(上下巻/古書絶版1100円)。以前から読みたかった作品でした。 人知を超えた存在となっていくロボットたちの創世神話を、20万年以上の途方も無い時間軸で描いたSFです。SF漫画というと、精密な背景描写、こだわったキャラ設定の類と思われるかもしれませんが、その真逆をいくような作画です。おそろしく単純化された背景、シンプルな線で描かれるキャラ、詩的な余白。
岸政彦「ビニール傘」 社会学者である岸政彦の初の小説作品で、芥川賞候補になった小説です。(古書950円) 全編大阪弁でのリアルな会話が聞こえてくるような、その日暮しの景色が眼に浮かんでくるようです。 「実家に帰らんとあかんねん。あ、やっぱりそうなん。うん、どうしてもな、介護で。親の。お兄ちゃん、長男やねんけど、まだ独身やし、まだええかなと思ってたんやけど、転勤なるかもしれんし、帰ってきてほしいって。 大阪におってもしょうがないし。」と、彼女が云うと、「そうか、そう
高砂淳二写真展 京都駅に隣接している伊勢丹7階、美術館『えき』KYOTOで開催中(5月19日まで)の「高砂淳二写真展ーこの惑星の声を聴く」は、期待以上に胸に染み込む作品展でした。 高砂淳二は1962年石巻市生まれ。専門誌「月刊ダイビングワールド」の専属カメラマンを経て89年に独立し、ネイチャーフォトを中心に様々な写真を撮り続けています。展覧会は「海の声」「大地の声」「空の声」の3部で構成され、生きている惑星、地球の様々な姿を捉えた約100点の作品です。今まで星野道夫
山本英子「キミは文学を知らない」 地元京都の一人出版社、灯光舎の新シリーズ「本と生」の第一弾「キミは文学を知らない」(新刊2200円)を入荷しました。著者の山本英子さんは、京都市出身の時代小説家山本兼一さんの妻。小説を書くことが大好きだった夫と暮らした長い時間、そして彼女自身も小説を書き、発表するようになった経緯を、飾らない文章で綴ったエッセイです。 「小説を書くことが大好きだった。なのに仕事場のカレンダーは2013年12月で止まっている。この月に山本兼一は前年
島田潤一郎「長い読書」 「何度も、読み返される本を。」という理念のもと、出版社夏葉社を一人で切り盛りしている島田潤一郎さんの新刊が、みすず書房から出ました。(新刊2530円)「本を読むまで」「本と仕事」「本と家族」の三章で、著者の本への、時には音楽への深い思いが綴られています。 「本を読み続けることでなにを得られるのか。いちばんわかりやすいこたえは、本を読む体力を得られるということだろう。」巻頭のこの文章、これ名言だと思いません? 本を読めば深い世界を知ること
長田弘「自分の時間へ」 詩人長田弘のエッセイー集です。(古書1400円)著者はわかりやすい言葉で、生と死、人生を見つめた素敵な詩集を沢山出しています。詩はちょっと苦手という方にも、オススメです。一方で、エッセイや旅の記録、書評や絵本の紹介も出していて、こちらも詩人らしい瑞々しい言葉で、綴られています。 「古本屋には、本の声を『聴きに』いった。黙りこくっている本のあいだに、ここにいると、こちらに語りかけてくる本がある。ない本を探しにゆくのではなく、そこにある本の声を聴
養老孟司&宮崎駿「虫眼とアニ眼」 虫好き解剖学者と映画監督の対談。面白くないわけがない!一冊です。お互いに本音で、言いたいことをドンドン発言しています。(古書1050円) 1997年、98年、2001年の3回の対談に加えて、宮崎監督の養老先生の印象を描いた漫画「養老さんと話して、ぼくが思ったこと。」と、養老先生の宮崎アニメ論が、巻頭と巻末に収録されています。 「『となりのトトロ』で、妹がトトロを発見してジーッと見つめているシーンがありましたでしょう。ぼくは、あの女の子
小川公代「世界文学をケアで読み解く」 断崖絶壁のはるか彼方に頂上の見える山にロープをかけて、登ったものの見事に落下。再度登るも、またまた落下……というような本ですね、これは。 近年、文学の読み解きに「ケア」という語が使われています。ケアとは一般的に言えば、病人、高齢者の介護、子育て、家事労働等々、他人の面倒を全般的に見ること、またはその相手の立場に寄り添い思いやることを指す言葉です。 十八世紀イギリスの医学史の研究という社会学の分野から英文学に転向した著者は、「ケア
坂本麻人監督「ミルクの中のイワナ」 先週の「燃えるドレスを紡いで」に引き続いて、記録映画「ミルクの中のイワナ」を観ました(京都アップリングで上映中)。色々と考えさせれ、そして何度も驚きました。 イワナの命を森で支えていたのは、ハリガネムシという寄生虫だったという事実。ハリガネムシは、キリギリス、カマキリ、カマドウマらの昆虫に寄生し、やがて寄生した虫の脳みそを操り、水の中に飛び込ませるというSFもどきの活動をします。その虫をイワナが食べ、栄養をとっているのです。驚くべき