とりとめのないこと2024/04/20 追憶
俯く寒芍薬──尊厘と儚さを纏う控えめなその姿に見惚れていた。
花言葉は〈追憶〉だそうだ。
追憶と言えば、美しいひと、ロバート・レッドフォード主演で古い映画があったのを想い出す。
第二次世界大戦、反戦運動、青春の一時の恋から結婚し、離婚、それぞれ別々の人生を歩み、二十年という歳月の果てに再会するのだが──そのとき、そのときで精一杯だったことも、やがて記憶のひとつになり、その記憶には、塵となった時代の最後の名残りが含まれて……ここまで書いていて、筆を止め、往年の名俳優であり名監督がまだご存命と知る。
潮風に乗り、やがて別の地へと旅立つ渡り鳥のごとく花は季節の移ろいとともに、開き、散り行く。
過ぎ行く時代の面影が薫る風に思いをひそめればすべては無常なり、逝き行くのみかもしれない──鳥の声が、潮騒に紛れて聴こえ、円環の道を見る。
若緑の下でいつも俯きながら、静かに循環するあらゆる固有の生と死を賛美するわけでも悲嘆するわけでもなく、告げる庭の花。
水平線の彼方には、誰のでもない死が無数に生み落とされ、文明の罪業に蝕まれた、醜き虚飾の残り香を花は黙して戒める。
重き尊厘の雫に、はたと気づかされ、
醜世の業に思いを馳せた。
この記事が参加している募集
いただいたサポート費用は散文を書く活動費用(本の購入)やビール代にさせていただきます。