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ハードボイルド書店員日記【168】

「今年もよろしくね」
「いらっしゃいませ。よろしくお願いします」
「元日からびっくりしたわね」
「防災関連の本を注文しなきゃな、と同僚と話していたところです。心苦しい部分もありますが」
「あら、どうして?」「商売にしていいのかと」
「不安を感じたお客さんが本を読んで学ぼうと思って買えなかったら、さらに不安が増すんじゃない?」「……たしかに」
「ねえ、大きな地震が起きた時に政府や自治体のトップが取った行動について書かれた本、いま置いてる?」
「一般人やメディアじゃなくて政治家ですね」
「海外でもいいけど」「一冊思いつきました。レジへお持ちします」

「お待たせ致しました。こちらはいかがでしょうか」「小林よしのり?」「『ゴーマニズム宣言スペシャル 台湾論』2000年に出た本です」
「それぐらいの時期に台湾で大きな地震があったわね」
「921大地震と呼ばれています。1999年の9月21日に発生して、マグニチュードは7.3。当時の台湾総統・李登輝さんの話がこの辺りに……ありました。32ページ」

午前1時47分に地震が起きて、約1~2時間後にはもうすでに軍隊に命令が出ていて、朝の6時には部隊が定位置についている。

私は、2日目に国民を救いたい一心で緊急時のために用意していたお金を市町村長に一人ずつ200万元(800万円)あげた。

足らない分、大きい分は中央政府でまたやるから、今すぐ必要なことがあるでしょう。人を雇ってちょっと整理したり水を補給したりそういうのに使ってくれ。

「対応が速いわね。しかもダイレクトで」「李登輝さんご自身も朝9時ごろに飛行機で震源である南投県ヘ行き、以後も現地で直接被災者の話を聞いていたとか」「現地へ赴くことの是非は難しいテーマだけど」「そうですね」「仮設住宅とかはどうだったの?」「その辺のことも書かれていました。38ページ。10月9日に日本から着いたとか」

私は、この中にテレビをつけて冷蔵庫を置いて、洗濯機は2~3戸共同という形でつけて、中には絵を飾った。

周りには駐車場、医務室、児童公園、老人ホーム、スーパーマーケット、もう全部作らせた。6日間で軍の工兵隊を使って、作らせました。

「すごいわね。ここまでしてくれるなんて」「他の記事で読んだのですが、日本の派遣した救助隊は地震当日の夕方に台湾入りしたとか」「それでも仮設住宅が整うにはここまで時間がかかったのね」「作る場所の区画を調べ、見取り図を総理に見せたり。ただ25年前の話です」「現代の日本ならもっと迅速にできるかもね」「ただ急ぎ過ぎて事故とか起こしてほしくないので」「本当にそう」「大きな災害が起きた際、どこまでのことをどれぐらいのスピードで国がやってくれるのが一般的なのかわからないのですが」「私も。正直不安よね。国民が自発的に口にするのはいいけど、政府の側で自助とか言っちゃうし」

「そういえば台湾ってあれじゃない? オードリー・タンが数の限られたマスクを公平に行き渡らせるために、健康保険カードと買い物履歴を紐付けして購入制限を設けたんじゃなかった?」「みたいですね」「日本もマイナカードと保険証を一体化して、デジタルで諸々を管理される方がいい?」「たしかに給付金とかは、その方が迅速に届けられる気はします。しかしシステムの利便性を訴える前に、そもそも国に対する信用がいまどうなのか。台湾なら緊急時の対応に信頼があるからわかりますけど」「順番が違う?」「ええ」「今回政府がどういう対応をしてくれるかでまた変わってきそうね」「己の無力がもどかしいけど、せめてそこはしっかり注視します」「そうね」

一刻も早く支援が行き届きますように。

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