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本好き&本屋好き&書店員にオススメの「ほぼ哲学書」

暇な時間にレジで同僚と話をします。

基本的には本に関することだけ。ちょっとした一言が選書や仕事への取り組み方を見直すヒントに繋がります。

数年前、純文学好きの同僚と某作家の話をしました。好きだけど「面白い?」と訊かれて「面白い」と返せる本ではない。不遜にもそう伝えたら、彼は軽く笑ってこう返しました。

「それが文学のいいところじゃないですか?」

たとえばある書籍が「さほど売れそうにない」と評されたら否定的なニュアンスを感じますよね? しかしそうとは限らない。「さほど売れない」=「大衆に媚びていない」=「スラスラ読めない」=「辛抱した人の中に確実に何かが残る」という見方も成り立つからです。

リラックス、時間つぶし、ストレス解消。そんな読書も素晴らしい。ただもし己を研磨するための手段に用いるのなら、相応の負荷を求める一冊こそ望ましい。そういう本は得てして内容か外観(あるいはいずれも)に厚みがあり、立ち読みした瞬間に尻込みしがち。

「いまはいいかな」と棚へ戻すのもアリです。一瞬でも手で触れ、わずかでも頭へインプットしていれば、何かの機会に思い出すことがありますから。しかしどうしても気になる、離れ難いと感じたら、ぜひ一歩を踏み出してほしい。

そんな名著と出会いました。

著者は2023年に閉店した鳥取の町の本屋「定有堂書店」の店主。同店は全国の書店員や本好きの間で聖地として親しまれていたそうです(荻窪にある「Title」の店主・辻山良雄さんが帯で推薦しているので、同店のウェブショップのリンクを貼らせていただきました)。

著者のお人柄なのか、語彙や言い回しが独特です。一読しただけではすんなり呑み込めない。待望の初読本を手に取った際はとかく先を急ぎがち。ゆえに、その都度立ち止まって考えを巡らすのが若干もどかしい。

しかし途中からむしろこれでこそと思えてきました。キルケゴール「死に至る病」やニーチェ「ツァラトゥストラはこう言った」に挑んだ時みたいな一文字一行の咀嚼が滋養と化す実感を覚えたのです。

そして多くの哲学書がそうであるように、本書も名言の宝庫。ほんの一部を列挙させていただきます。

「本」の文化財と消費財という価値の二面性に応じて、本屋もそれをなぞる他ないという想いが強くあります。

奈良敏行「町の本屋という物語」作品社 37P

成長は止まるが、成熟には終わりがない、と思う。

同66P

なりわいをきちんとこなして、もう一つ背伸びして何かを付け加えざるをえない、一見余計な、無駄な力み方が好きなんだな、ととても興味をもった。

同81P

タイパやコスパを優先するなら、多くの人が高評価している話題書だけをネットで購入する方が賢いかもしれない。でもそれでは得られぬ何かが町の本屋にはある。非力非才の身ですが、私もイチ書店員として「一見余計な、無駄な力み方」を職場に留まらず、日々のnoteでも実践しています。

書店で働く人に、そして本屋と本を好きな人にも読んでいただきたい。自分のペースでのんびり味わってほしい。きっと想像を超えた稀有な体験が待っています。

お求めはぜひお近くの書店で。

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