父と子の時間 父ちゃんの料理教室 辻仁成
本日の本はこちらで紹介されていたもの。
美味しいものを沢山知っていて、ご自身でも料理をされる林真理子氏が、これだけ美味しそうを連発するからにはきっと素敵な料理が載っているに違いないと思い、読んでみた。
ちなみに林真理子氏はフランスでイベントに参加した際、コーディネートしてくれた辻氏に手料理をご馳走になったそうで、大変美味しかったとのこと。
期待して読んだが、期待以上に美味しそうで、添えられた文章も優しさに溢れた素敵な本だった。
いくつか、Amazonの商品ページに載っている写真も載せてみようと思う。
まさに飯テロ。林真理子氏が美味しそうを連発するのもわかる。この他にもラモンおじさんのスペイン風オムレツや鴨のくるみだれ蕎麦、ロティ・ド・ポーク等々、どれも胃袋を鷲掴みにしてくる写真付きエッセイだ。
特にスペイン風オムレツは目から鱗。ジャガイモなどの野菜を卵液に入れて焼き上げる、よく見かけるスパニッシュオムレツを想像していたら、茹でたジャガイモにネギを散らし、その上に揚げ焼きした2、3個の目玉焼きを油ごと乗っけてパプリカパウダーをかけるというレシピ。写メして掲載するのは控えるが、これが半熟の黄身がトロリと広がっていて暴力的にうまそうな見た目をしている。しっかりと焼きしめたスパニッシュオムレツも美味しいが、半熟卵好きなら断然ラモンおじさんのスパニッシュオムレツだ。
中華風蒸し魚のタレは簡単かつ何にでも応用できそうだし、魚のポワレに使うというオーブンで水気を飛ばしたオレンジピールを砕いて塩と混ぜ合わせるオレンジ塩もぜひ試してみたい。
煮込み料理やパスタも沢山登場するし、どれもそれほど難しいものではないので試してみたいと思わせる料理ばかりだ。
普通のレシピ本のように、工程を逐一載せているわけではないので、ある程度料理をする人向けかと思うが、息子への愛情がその料理のコツと繋がっていて、この一手間をかける愛情、というのがとても読む者を優しい気持ちにさせる。
父子家庭になり、不安定になった息子を抱えながら、自身も絶望を抱えながらも息子を守らねば、母親役もしなければ、と決意した作者がキッチンにぬくもりと希望を見出し、キッチンの火を消さぬように、息子との暖かい時間を食事を通して取り戻そうと奮闘した姿が窺い知れる、ぬくもりに溢れたレシピ&エッセイ集に仕上がっている。
食べることは生きることで、生きることは食べること。食べることを大切にすることで、大切に生きていくことを息子に語りかけているのだ。食べることを蔑ろにすることは、自分の体を作るものを蔑ろにすること、それはひいては生きることをぞんざいにすることだと教えているが、決して押し付けがましくはない。いずれ自分の手から巣立っていく息子が、自分の体と人生を愛おしみ、そしていずれできるかもしれないパートナーや子供を愛おしむことを料理を通して伝えているのだ。
17歳に成長した息子と父が、陽のさす男2人には少し小さいパリのアパルトマンのキッチンに立つ姿を想像すると、こちらも暖かい気持ちになる。母と娘とはまた少し違うそのやりとりがなんとも味わい深い。
どの項もしみじみと素敵な言葉が並んでいるが、メンチカツの項で人生の幸せについて書かれているのが1番印象に残った。
シングルファーザーとなってからの日々を振り返りながら息子に語りかけるこの幸せについての言葉は、いくつもの絶望感や不安を乗り越えてきた氏の強さと暖かさを感じる。明るさを取り戻し、成長していく息子を見守り続けた歳月が感じられるのだ。
この後に続く辻家の家訓も素敵だ。
綺麗事かもしれない。こんな風に考えられない日も人生にはきっとある。けれどそれを乗り越えてきた父からの力強く愛情に満ちた息子への言葉。小さな幸せをかき集めて息子との暖かな家庭をキッチンから作り上げた辻氏が言うからこそ、きっと伝わる言葉だろう。
生活を、健やかな命を育んできた8年間の重みを感じさせる言葉だ。この言葉と共に作られるのがメンチカツというのもまたいい。不恰好でも揚げたてを頬張れば、美味しい幸せで満たされる。幸せな瞬間を作るのが料理なのだ。
簡単でも一手間かけた、美味しいものを食べさせようという愛情に満ちた一冊。
自分が幸せに生きるために、そしてパートナーや子供が幸せに生きるために、キッチンに立とう、そう言われている気がした。
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