本屋発注百景vol.5 ROUTE BOOKS
コミュニケーションの道具としての本
BookCellarの取引先には本屋が専業の店もあれば中には兼業している店もある。兼業の内容はというと、デザイナーやライターなど表からは分からないこともあればカフェやギャラリーなど見てそれと分かるものもあり様々だ。東上野にあるROUTE BOOKSはその中でも特に変わり種の本屋である。
運営するのは住まいや店舗のリノベーション、リフォームを手掛ける工務店のYUKUIDO。事務所移転の際に現在の場所に移り、出会いのための場、学ぶための場をつくるために本屋+カフェを始めることにした。はじめは借りていたビルの4階だったのが、向かいのビルも借りることになり、本屋は一階に移転。グリーンショップやパン屋、誰でも利用できる工房もある。さらに、2階は陶芸工房があり、同じ2階のキッチンでは最近になって本格的なビリヤニを出すようにもなった。加えてシェアオフィスがあり古着屋もこの2棟のビルの中にあって、まるで小さな村のようなのである(全体でROUTE COMMONとも呼ぶ)。
コミュニケーションの道具のひとつとして本を考えたとき、「本はありとあらゆるものを扱うから、どんなこととも繋がれるはずだ」と話す人がいる。しかし、ROUTE BOOKS(あるいはROUTE COMMON)ほどそのことを身をもって実現している場所はないだろう。これほど多様な人びとが集まり、その場で継続的な活動をしている場というのは他にない。そして、それぞれの仕事の質の高さがまた素晴らしい。
編集・ライター業と本屋を兼業
今回、話を聞いたのはこの場所で選書を担当する石川歩さん。実は連載開始当初から話を聞いてみたかった人でもある。というのも、来るたびに見たことのない本を発見して嬉しくなるその選書にいつも驚かされてきたからだ。しかも、新刊でなく発売してから一年以上経っているような既刊で、である。そして、それらの本が狙いすましたかのような並びで並んでいる。棚を眺めているとぱっとライトが当たったように見える一冊と出会えるのだ。そんな体験をさせてくれる店なのである。
そんな棚をどうやって作っているのか。発注はどうしているのか。そもそも石川さんはどんな人なのか。聞いてみた。
――ROUTE BOOKSとの出会いはいつからですか?
石川 元々、出版社やIT企業でスポーツや不動産など様々なテーマのメディアに関わっていました。丸野さん(YUKUIDO代表・丸野信次郎氏)と出会ったのはまだ本屋が4階にあったときで、そろそろ独立しようと思っていた時期でした。そんなとき、ROUTE BOOKSにたまたま行ったんです。
「本が好きで……」と丸野さんと話していたら棚一本分の選書を任せてくれたんです。それが楽しかった。ちょうどそのとき選書を担当されていた方が辞めて、さらに本屋を向かいのビルの1階に移転するというタイミングでした。
私も、独立するにしても編集とライター以外で何かできないかな、と思っていた時でしたので「じゃあ……」ということで働くことになりました。
――ご縁ですね。
石川 本当にそうですね。それが2017年のことなので、それからずっと本に触れる仕事をできているのは感慨深いです。
ROUTE BOOKSの一日
――1日の流れを教えてください。
石川 編集・ライター業も続けながらなので、そちらの仕事の状況によって店に来る頻度が変わりますが、だいたい週に1日か2日来ています。その日はまず朝イチでROUTE COMMON全体のデータが入ったスマレジ(※)で売上や客数データを確認します。このときに本が思っていたよりも売れていたらいつもより早く店に行ったり、校了が近い場合は遅れて行くことにしたり、と予定を調整します。
だいたい7時から11時くらいまでは編集・ライターの仕事をしています。13時頃にはROUTE BOOKSに着いて、この机(店内中央の大きなテーブル)に届いた本を並べつつ品出ししたり、売れた本のスリップを確認したり、再発注が必要なものを確認したり、棚の並びを調整したり、SNS投稿もしますね。発注は家でしています。
レジではなく売り場で作業していますので、ときには欲しい本やいま読んでいる本をお客さんに直接聞くこともあります。
店を出るのは、編集・ライターの仕事次第ですが閉店の19時までいることもありますね。
店が私の本棚になってはいけない
――選書についてはどうしていますか?
石川 説明が難しいですがROUTE BOOKSにありそうな本をイメージして置いています。もう少し言うと「心身を開放する本」「縛られない本」「空気を読まない本」ですね。
ROUTE COMMONにそういう自由な人が多いのですが、私も会社員を辞めてから自分を開いていく感覚と言いますか、空気は読まないでいいんだ、と仕事や暮らしが気持ちよくなっていきました。
でも毎日タスクが決まっているのがいい人もいますし、あくまで私の場合は、ということです。
――他の仕事は選書に影響しているのでしょうか?
石川 あると思います。例えば、雑誌『Number』の仕事でプロバスケットボール選手の生原秀将さんにインタビューすることがありました。その準備として、脳の本やスポーツの価値に触れている本、怪我についての本などを読みました。
取材オファーを受けると、準備のために自分の思考の範囲外の分野の本を読む機会が増えるのですね。
店が私の本棚になってはいけないと思うんです。その点、編集・ライターの仕事は選書の幅を広げてくれていると思います。
最先端の多業種本屋に聞く「発注、どうしてる?」
石川 実はほぼFoyer(ホワイエ)(※)から仕入れています。あとはトランスビュー取引代行と、出版社や作り手の皆さんとの直接取引です。
――他の取次からは仕入れていないんですか?
石川 トーハンさんの本の特急便(※)を利用しようと申し込んだこともあったのですが、契約には至りませんでした。もしかしたら本を飾りとして置いていると思われているのかもしれません……。本気で選んでいるんですけどね。
なので発注にはいつも困っています。どうしても手に入らないときは、千駄木の往来堂書店(※)さんを通して仕入れています。
――BookCellar経由で八木書店さんと取引できます!
石川 本当ですか? お願いしてみますね!
(取材後、BookCellarを通して八木書店との口座を開いた)
――近刊情報はどこから取っていますか?
石川 X(旧Twitter)、メールマガジン、ブクログ、版元ドットコム、ポッドキャストといったメディア、郵送されてくるDM、あとは大型書店の新刊棚を見てまわります。Foyerでは新刊を発売日に入荷できることは少ないので、発売日はあまり気にせず、入荷したい新刊が溜まってきたら発注をしています。
――BookCellarに直してほしいところは?
石川 定期的に「■今週でた本 □来週でる本」を公開してメルマガでも配信されていますが、メルマガの中にももっと情報を載せてほしいですね。メルマガからクリックしてページに行ってから発注するというひと手間が惜しいです。
――メルマガから直接発注できたら良いということですか?
石川 その通りです。発注のコストはできる限り下げたいので。
BookCellarでこの本発注しました
――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本をお願いします。
石川 『つくる人になるために: 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)ですね。発売から今までに7冊くらい売っていますが、出版されたときに「この本はずっと置いておくんだろうな」と思わせてくれた本です。
――職人が集まったROUTE COMMONだからこそですね。
石川 『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)は10冊くらい売っています。最近は切らしていたかもしれないですが、よく聴いているポッドキャスト番組で触れられていまして、そこで「あっ!」と思い再発注しました。
『NEUTRAL COLORS』は好きな雑誌です。紙を無駄にしないようにレターセットなどのグッズとして販売したり、リソグラフ印刷で手で刷ってつくっていたり、とそのスタイルが好きなんです。「とんでもない雑誌がある!」と思わせてくれる存在感がありますよね。
BookCellar経由で仕入れたものではないですが雑誌『新百姓』(ている舎)の隣に置きたいです。
取材日:2023年10月20日
取材・文・写真 和氣正幸
ROUTE BOOKSで仕入れた本・売れた本
『つくる人になるために: 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)
『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)
『NEUTRAL COLORS』(NEUTRAL COLORS)
『新百姓』(ている舎)
BookCellarをご利用いただくと、ROUTE BOOKS、石川さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
本屋発注百景とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、独立書店、まちの本屋、本屋+αの業態、チェーン系書店まで、様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。取材は、独立書店ウォッチャーであり、ライター・書店主の顔をもつ、和氣正幸さんにお願いしました。「本を仕入れる」という単純なようで奥の深い営みを続ける6つの書店の風景をお伝えできますと幸いです。