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マルジャン・サトラピを芸術監督にイランの女性運動を描いたアンソロジー『FEMME, VIE, LIBERTÉ』【読んでみたい未邦訳海外マンガ】

何気な~くインスタグラムを眺めていたら目を惹く書影が投稿されていた。
表紙はマルジャン・サトラピ。

マルジャン・サトラピの新作!?!?!?!?!

いや、違う。サトラピはもうマンガは描かないはず。

ご存じマルジャン・サトラピは『ペルセポリス』でお馴染みのバンド・デシネ作家。
イラン出身。『ペルセポリス』は、1980年代にイラン革命が起きて生活が一変した少女時代の回想を描いた作品だ。

まだポッドキャスト「海外マンガの本棚」では取り上げてはいないものの、いつ取り上げてもおかしくないくらいの海外マンガの傑作中の傑作。海外マンガを読むなら一度は読んどけ案件だ。アニメ化もされた。

マルジャン・サトラピは他にも実写映画化した鶏のプラム煮(音楽家のこじらせおじさんが1週間後に死ぬ話)とか、刺繍(性や結婚観が赤裸々に語られる男性禁制マダムたちのお茶会)といった邦訳もあるが現在は絶版。どれも面白いのに残念極まりない。

ただ作品が面白いというだけでなく、彼女がフランスのマンガ業界に与えた影響も大きい。
それまで男性作家ばかりが占めていたなか、女性作家として評価の高い作品を生み出した。
フランス最大のマンガのフェスティバル、アングレーム国際漫画祭でもグランプリを取っておかしくないほどの功績。だが、いかんせんマンガを描くのをやめてしまった。

そんなマルジャン・サトラピのマンガに関する投稿なのだ。

どうやらサトラピはキュレーター(?)なる役割で参加しているようなのだが、その作品に名を連ねている漫画家たちがスゴイ。

  • ジョアン・スファール
    (やんちゃで可愛い星の王子さまやアニメ化もしたプチバンピ

  • パスカル・ラバテ
    (ゴキブリのようにしぶとく生きる男のはなしイビクス

  • パコ・ロカ
    (認知症のご老人たちのあたたか切ない老人ホームライフ、父親が残した家から思い出を紡ぐ

  • ルイス・トロンダイム
    ワイン知らず、マンガ知らずにもしっかりゲスト出演していたくちばしの人)

  • ヴィンシュルス
    (ブラックユーモアたっぶりのアングラ作品ピノキオ』『デス・クラブへようこそ

などなど日本でもお馴染みの邦訳もある作家も含めて17人の名前が連ねられている。

これは何やらすごいのでは……。

そのマンガのタイトルは

『FEMME, VIE, LIBERTÉ』(女性、命、自由)


Le Pointのフランス語の記事を見つけた。
発売日は2023年9月14日。ついこの間、フランスで発売されたばかりだ。

ちょうど1年前の2022年9月16日、ヒジャブを正しく着用しなかったという罪で逮捕され拘留中に亡くなったイラン人女性マフサ・アミニさん。この事件をきっかけに全世界で巻き起こった運動に敬意を表しているという。

ん?
このはなし、なんかつい最近みかけたばかりだぞ。

そうそうこのバズってた投稿で見かけたのだ。


なんとイランで女性たちがヒジャブを着用せずに外出しているという。


ペルセポリスで私は読んだ。
革命後のイランで、ヒジャブを強制的に着用させられ、学校は男女別に分けられる。
いままでの自由が奪われた少女マルジの姿を。

それから40年あまり。

アミニさんの理不尽な死をきっかけとした、女性たちの戦い。

スローガンは「女性、命、自由」!

まさしく今回発売された本のタイトル『FEMME, VIE, LIBERTÉ』ではないか!!


Le Pointの記事に戻ってみよう。

記事の見出しは

『女性、命、自由』
イラン人を支援する美しいグラフィック・ノベル

3人の専門家が参加し、17人のフランス、ヨーロッパ、イラン人漫画家たちがイランの女性たちの運動を描く。
マルジャン・サトラピは、このアンソロジーに一貫性を持たせるための芸術監督としての役割を担う。

1年前のアミニさんの死から、イラン国内で起きた女性たちの運動。
しかし同時にその運動は政府によって妨げられ、500人もの若者が命を落とした。
現在もアミニさんの遺族への弾圧は続けられ、世界各地で抗議デモがおこなわれている。

「Baraye Azadi(自由のために)」という歌も作られた。
イランで命をかけて政府と戦う人々。SNSに投稿された彼らが戦う理由を歌詞にしている。
下の動画には、この歌に、美しいグラフィックが添えられている。

何度でもずっと聞いていたくなるメローで物悲しい音楽。その音楽にあわせて、画面をずっと拡大していくなかで現れては過ぎ去っていく女性や貧しい人々、過酷な人生を背負わされている状況、そして…祈り。

ずっと眺めてられるわ……。

この動画のイラストを描いているShabnam Adibanさんも、今回のアンソロジーに参加しているという。

こうしたイランの状況を、17人のアーティストが美しい漫画作品として結晶させたアンソロジーFEMME, VIE, LIBERTÉ

Le pointの記事中にはパコ・ロカのマンガの一部も掲載されている。

これはぜひ読んでみたい…!!


出版社のページは以下のリンクから。

https://www.librairie-gallimard.com/livre/9782378803780-femme-vie-liberte-collectif/


参加されてる漫画家のひとりBahareh Akramiのインタビュー動画。
これは読んでみたいけどかなり文章量も多いので、どなたか…なにとぞ…翻訳してください………


【2023年9月19日追記】

どうやらフランスのパリ市立近代美術館を中心に、イランの女性を支援するポスター制作を世界のアーティストに募り、配布するという活動が2023年3月にすすめられていたよう。

今回のバンド・デシネFEMME, VIE, LIBERTÉの表紙を飾るマルジャン・サトラピのイラストもその活動の一環として描かれたもののようです。
以下のインスタグラムのアカウントから、さまざまなアーティストのポスター作品を見ることができます。

https://www.instagram.com/iranianwomenofgraphicdesign/

そして2023年9月30日から10月28日にわたって京都の関西日仏学館が主催するニュイ・ブランシュKYOTOという芸術イベントでそのポスターの展覧会を開かれるそうです。
これはちょっと見に行きたいですね。


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