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序文 私は小説家だ。と名乗るのはおこがましいか。まだ世に出てすらいない、孵るかも分か…
笛が鳴る。 彼女の手が、足が躍動して、一迅のオレンジの風のように走り抜けていく。その…
■まえがき今回の短編はタイトルの通り、ある日見た私の夢を元にした小説です。 以前アップし…
■前回のお話はこちら■本編 書店員の朝は早い。十時の開店に備えて、それまでにある程度の新…
■前回のお話はこちら■本編 私は再び老人の家の戸口に立っていた。 相変わらずその住まい…
智臣は走っていた。 真夏のアスファルトの上を、息を切らし、頬を伝って流れる汗を拭いな…
男は後ろをやけに気にしながら歩き、ある小路の入り口に立つと、殊更に警戒心を剝き出しにし、周囲を窺って見ている者がいないことを確かめて小路に入り込んだ。 うら寂しい小路は、夜の闇を凝縮したような影をそちこちに抱え、降りしきる雨の冷たさと臭いが充満していた。人気はないのに何かの気配で満ちていた。 切れかけたネオンの看板がじりじりと音をたてて明滅し、風が吹くと居酒屋の古い引き戸ががたがたと鳴る。看板の明かりの消えた店からも、人の笑い声が響いてくる。だが、響くのは笑い声だけでは
■前回のお話はこちら■本編 精霊の森のさらに奥にある霊峰、ストラ山。山の民の初代酋長の名…
病室の窓から外を眺める。青空に無数の魚影のような雲が泳いでいる。 午後のロードショー…
世界には空に穴の空く場所があって、その穴の中には空色をしたダイヤモンドが眠っている。 …
波打ち際に貝殻が転がっていた。押し寄せては引く波に弄ばれ、ころころ、ころころと転がった…
顧問の黒田しづねが文芸部の部室を覗き込むと、鷺橋美織だけがいて、彼女は机や椅子を雑巾で…
その家を選んだのはほんの偶然だった。 私はけちな空き巣だ。かといって、元々盗みで生計…
■前回までのお話はこちら■本編「椿、着替え終わったか」 ノックもせずに扉が開けられ、その向こうには着物姿で腕組みをした父が立っていた。椿はその無作法を咎め立てする元気もなく、ベッドに腰かけたまま、「まだだけど」と仏頂面で答えた。ベッドの上には過剰なまでにフリルのついたどぎついピンクのドレスワンピースが広げられていた。 父はため息を吐くと、「先方がお待ちだ。急ぎなさい」と言ってドアを閉めようとした。 「今のお父さんを見たら、お母さんは何て言うかな」 矢島家から贈って寄越し