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親譲りのホニャララ

 事の発端は友人との会話だったと思う。小説家の金原ひとみに娘がいるのだが、その娘が小説を読むのか、ひいては親の小説も読むのか、みたいな話をした。金原ひとみ自身も父親は翻訳家の金原瑞人氏で、父から村上龍や山田詠美の小説を薦めてもらっていたとどこかで読んだことがある。
 私も読書会へ足を運ぶことがあり、そこで読書のきっかけを聞くことがあるが、親が読書をする人だったという答えをたびたび聞く。なんとなく「読書のきっかけが親の影響という人はどのくらいいるのだろう」という旨をX(旧Twitter)で書いたら、「親が読書する人で興味を持った」とか「家に『日本の文学』というシリーズが置いてあった」とか「親は小説を読む人だったが、子供の読むものにも口を出すことあった」と複数の反応を頂いた。
 私個人の話をすると、うちの親は読書とは無縁の人で(そう言えば漫画すら読んでるのも見たことない)、特に母親はテレビ好きだった。その影響で私も立派なテレビっ子となり、漫画は読むが、小説とはほとんど無縁で育って来た。活字に触れる時と言えば教科書を開いた時くらいなものだ。学校の図書館で小説を借りたこともあるにはあるが、文章から場面を想像することが苦手で、中学生で『ハリーポッターと賢者の石』を読んだときは、映画を先に見て、それから原作を読み、「ここは映画のあの場画だな」と頭の中で照らし合わせながらでしか読めなかった。それでなんとか読み通せたとしても、原作にしかない場面に突き当たると、そこだけは途端に訳が分からなくなるのだった。
 二十代の半ば頃から本格的に読書の面白さを知った私としては、親の影響で幼い頃から読書と親しんでいた、という人を羨ましく思うことがある。しかしながら、もし親が読書をする人であって、自分が興味を持ったとしても、少し読んだだけで「分からない」とか「つまらない」と言って匙を投げていたのかもしれないし、それになかなかの飽き性なので、ハマったとしても何冊か読んですぐに飽きていたのかもしれない。結局親が読書をする環境にあっても、興味を持つことが出来るのか、そして飽きずに続けられるのかは自分次第でしかない。

 そこで思い出したのは、亡き祖父が趣味で油絵を描いていたことだ。私が物心ついた頃にはすでに油絵をやっていて、父から聞いた話だと、祖父は戦後に丁稚奉公で東京へ行ってそこで油絵を覚えたらしい。物心ついた頃にはすでに定年退職後の生活だったので、これは想像でしかないが、老後の趣味として若い頃に覚えた油絵をまた始めたのかもしれない。
 祖父の描く絵には風景画もあったのだが、私が一番記憶に残っているのが前衛的な抽象画で、祖父曰く「五次元宇宙の絵」と凡人の家族には理解出来ない絵を描いていた。

祖父の油絵。題名は不明。


 これはだいぶ前に実家に帰省した時に撮ったもので、ガラケーのミニSDに入っていたのを引っ張り出してきた。さまざまな色彩が混ざり合って、一歩間違えれば単なる落書きのようでもあるけれど、祖父には何か見えるもの、感じるものがありこの配色にしたのだろう。祖父の葬式で会場に油絵が何点か展示されたのだが、式場の係の人が「展示する際に油絵の上下が分からなくて困った」と聞いた時は笑ったものだ。私たち家族すら分からないのだから。この絵も祖父の亡き後に和室の床の間に置いてあったのを撮ったので、そもそもこれが正しい上下かは定かではない。
 ここで先の話に戻るのだが、私は祖父が油絵をやっているという環境に居ながらも、全く興味関心を持たなかった。油絵ではなくとも、何かしら絵を描こうとも思わなかった。それどころか心のどこかでは祖父のことを「何変なもの描いてるんだか」と思っていた。今になって思うと、どうしてこんな絵を描いたのか知りたいし、理解出来れば理解したい。こんな面白い人が近くにいたのに、ともったいなく思う。

 最近「ミーム」という言葉の本来の意味を知り、簡単に言うと「文化的な遺伝子」という事らしく、人の発言やアイディアが相手に影響して、真似されたり新たな変化が加わって拡がっていくことを指すそうだ。読書のきっかけが親の影響というのはまさしくミームであり、私の場合は母からテレビ好きミームを受け取り、祖父の油絵ミームは受け取らなかった、ということになる。だがいつの日か祖父の油絵ミームが私の中で発現することがあるかもしれないし、ないかもしれない。ちなみに私の読書ミームは元乃木坂46の高山一実さんが番組で湊かなえを紹介していたことが由来となる。

 友人との些細な会話からXでの反応も得て、自分なりに思ったことを書いていたら「ミーム」という考え方を思い出して、上手く腑に落ちたので良しとしよう。
 あとは他に引っ張り出してきた祖父の油絵展覧会でもどうぞ。

孔雀の羽のような模様ですね。


風景画。桜が咲いているので春の風景でしょうか。

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