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2023年の読書。

 今年読んだ小説(初読みに限る)の中で、印象的だったものを読んだのが近い順に紹介していきます。詳しい内容を忘れているものもあるので、その時の読了ツイートを添えておきます。


マルドロールの歌 ロートレアモン伯爵

 BOOKOFFの100円コーナーで見つけて、どこかで名前だけは知っていたので購入した本。(あとでギュヨタ『エデン・エデン・エデン』の解説だったことが分かった。)ジャンルで言えば散文詩で、初めての読書体験だった。残酷だったり狂気に満ちたイメージが並んでいて、一読して理解は出来なかったが、読んでいて不思議と活力が湧いてきた。読んだのは集英社文庫の前川嘉男訳で、他の訳も読んでみたいと思い、ちくま文庫の『ロートレアモン全集』(石井洋二郎訳)も後日BOOKOFFで購入した。

シンプルな情熱 アニー・エルノー

 2022年のノーベル文学賞を受賞した作家で、たまたま見つけたので何の気なしに購入し読んだら、物凄く面白かった。妻のある男を愛する女の心情が書かれているのだけれど、その細かさと豊かさには感服するしかなかった。普通の恋愛小説とは違った書かれ方で、それもある種勉強になった。

タタール人の砂漠 ディーノ・ブッツァーティ

 名前だけは知っていて、友人から面白いと紹介されて読んだ本。国境沿いのはずれにある砦に配備された若き主人公。その砦は戦局上あまり重要視されることもなく、何も起こらないと言われながら、それでも何かを待ち続けてしまう。残酷な結果を伴う大人の寓話とでもいう小説。

さかしま ジョリス=カルル・ユイスマンス

 読んでみたいと思いながらも、少し難しそうなイメージがあったが、ウエルベックの『服従』を読み、その主人公がユイスマンスの研究者であったことから興味が湧いて手に取った。『さかしま』のなかで言われている哲学や思想は難しい部分もあったが、金持ちのインテリ引きこもりが自分の思う世界を家の中で構築していくさまが面白かった。旅に出ようと決意し、少しは足を伸ばすのだが、途中で嫌になって帰ってくる場面が好きだった。

プラットフォーム ミシェル・ウエルベック

 久しぶりにウエルベックでも読もうと思って買った本。内容がタイへの売春ツアーを企画するというたいへんスキャンダラスな話。さえない主人公の前になぜか彼と良い感じになってくれる美女が現れるのはいつものことだが、現代社会のいわゆる性愛が行きついてしまった壁、そこにある虚無を上手く書いていて、小説に打ちのめされるとはこういうことかと思った。

少将滋幹の母 谷崎潤一郎

 五月くらいに個人的谷崎ブームが来て、その流れでまだ読んでない谷崎を読んで行こうと思って手に取った。谷崎の作品群の中でも、私が好きなのは『痴人の愛』や『春琴抄』と言った耽美でマゾヒズム的なものが多く、平安時代を舞台にした小説とあってわざと避けていた感じはあったのだが、この機に読んで本当に良かったと思った。喜劇チックな話の導入から、最後の美しい場面に読者を持って行く谷崎の手腕が凄い。

神曲 地獄篇 ダンテ・アリギエーリ

 このあと紹介する『懐かしい年への手紙』の中で、大きく引用されていたので気になって読んでみたのと、私の好きな映画「ハウス・ジャック・ビルド」で主人公が最後行く場所がまさに地獄篇の世界なので、今年手に取ってみた。読んだのは河出文庫の平川祐弘訳で、これは訳文も平易な文章で注釈も多く、とても助かった。ダンテとウェルギリウスの師弟関係が一種のバディものにも思えてきて面白かった。

懐かしい年への手紙 大江健三郎

 今年三月に大江健三郎が亡くなり、哀悼ということでもないが『万延元年のフットボール』を読み返した流れで手に入れて読んだ。以前に『燃え上がる緑の木』を読み始めたが挫折し、それが『懐かしい年への手紙』の後日談であると聞いて、これを先に読まなければと思った。これを書いた時点での大江健三郎の集大成とでも言えるような内容で、過去の小説に触れて添削したり、それでも未来へ書き続ける意志が最後に見られて、とても良かった。

ウォーク・ドント・ラン―村上龍vs村上春樹

 三月に珍しく図書館へ行き、蔵書の中から見つけたので読んだ。流通している古本は高価になっていて、なかなか手が出せなかったので助かった。村上龍が『コインロッカー・ベイビーズ』を出した前後くらいの時期に行われた対談をまとめたもので、小説のことに限らず、映画や音楽についても話がされている。今年両者が新刊を上梓したが、世間的な反応は春樹に大きく傾いていて、龍ファンの私としては少々寂しい部分もある。


 いかがでしょうか。気になるものがあったら、ぜひ読んでみてください。

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