見出し画像

【エッセイ】被害妄想のホットドッグ

 イチローは毎日朝食にカレーを食べていた、というのは有名な話である。私は飽き性である一方で、同じ事の繰り返し、いわばルーティーンのようなことをしがちである。イチローが毎日カレーを食べていた理由は分からないが、私に関して言えば、そこに私自身の「被害妄想癖」が大きく見えてくる。

 朝、職場へ向かう前に、職場の最寄り駅前のセブンイレブンで買い物をするのだが、買う物はほぼ毎回同じなのだ。まず、その日の昼食として、カップ麵とおにぎり、そして朝食にホットドッグとレッドブルを買う。
 とは言え、カップ麵は基本セブンのプライベートブランドの安いやつ、シーフードヌードル、醬油ヌードル、きつねうどんのローテーションで、おにぎりは基本ツナマヨだったが、最近はチャーハンと五目ご飯も買ったりする。さすがの私も昼食が毎回同じなのは飽きるようだ。
 しかし朝食のホットドッグとレッドブルは毎回変わらずに買う。よく飽きないね? と思われるだろうが、先に言った「被害妄想癖」に加え、「選択による面倒臭さ」というのも要因の一つである。朝飯はいちいち選ぶがめんどい人間なんだそうだ。それにセブンのホットドッグはそこまで不味くない。毎回その場で温めてもらって、レッドブルとともにコンビニの外で食う(お行儀悪い)。

 そしてこのホットドッグルーティーンは多分3、4年くらい繰り返している。こうなった大きな要因が私の「被害妄想癖」なのだ。こう長年買い続けていると「コイツ、いつもホットドッグ買ってるよ」と、朝番の店員にどうせ思われてるだろうし(あとで話すが実際そうだった)、私としてはそう思われてるのはまだ許せるのだ。
 しかし、もしここまで続けてきたルーティーンを崩し、私がホットドッグ以外のものを買ったとする。恐らく店員は「コイツ、いつもホットドッグなのに変えてきやがったな」と思うだろう。私にはなぜか、こう思われる方が耐えられないのだ。さらに私の被害妄想は加速する。「いつもホットドッグ買ってるって思われたくないから、たまには違うのも買いますって姿を見せたいのか?」って思ってんだろうなぁ、と。この一方的な心理戦の結果、私は自らにホットドッグの呪縛をかけていたのだった。

 そして先日こんなことがあった。朝セブンに寄っていつもの4点セットを買おうとしたが、いつもの売り場にホットドッグが置かれていなかった。私は朝の入荷が遅れてるのかなと思い、仕方なくツナサンドパンを手に取った。そしてレジへと向かうといつもの朝番の男性店員にこう言われたのだ。

「あれ?ホットドッグじゃないんですか?」

 私が「売り場に無かったので」と言いかけると、店員は「こっちに移動したんですよ。ややこしくてすみません」と、以前までは別商品の並んでいる棚を示した。そこにはきれいに陳列されたホットドッグの姿が。「あ、こっちにあったんですか」と、やはり「ホットドッグの人」と認識されている恥ずかしさと、しかしながら「いや今日はツナサンドパンで」と言えない愚かさとで、愛想笑いをしながらツナサンドパンを棚へ戻し、ホットドッグを手に取った。
 これからも私は被害妄想のホットドッグを食べ続ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?