鋤名彦名

読書好きの書き物晒し

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  • 東京彩ふ文芸部

    • 21本

    書くのは、楽しい。 あなたも何か書いてみませんか? 2024年1月より、彩ふ読書会は文芸部活動を行います。東京会場の読書会に過去一回以上参加経験のある方でしたらどなたでも部員になれます。入部・退部は自由です。 入部お待ちしております!

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固定された記事

【小説】ポルノグラフィー

まえがき小説「ポルノグラフィー」は、第127回文學界新人賞に応募し、予選落ちした作品です。原稿用紙換算で80枚ほどの短編になります。 縦書きで読みたい方用のPDFデータ…

鋤名彦名
2年前
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「文学フリマ東京38」にて

 二〇二四年五月十九日、東京流通センターにて行われた「文学フリマ東京38」に行ってきた。前回は彩ふ読書会メンバーとして出店側にも立っていたが、今回は純粋な来場者と…

鋤名彦名
7日前
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親譲りのホニャララ

 事の発端は友人との会話だったと思う。小説家の金原ひとみに娘がいるのだが、その娘が小説を読むのか、ひいては親の小説も読むのか、みたいな話をした。金原ひとみ自身も…

鋤名彦名
1か月前
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YOUは何しに読書会へ?

 ここ最近、読書会の新規開拓をしている。いつも行っている彩ふ読書会がここ数ヶ月間、東京での開催を休止しているので、せっかくだからこの期間に違う読書会へ行ってみよ…

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2か月前
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どん詰まり小説ハウツー

 突然ですが小説を書かれたことのある方にお聞きします。  あなたは小説の書き方をご存じですか?  私事ではありますが、私は何度か小説を書いたことがあります。読書…

鋤名彦名
3か月前
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【小説】朦朧

救急車のサイレンが聞こえてきたと思ったが 違った。実際には自分の頭が勝手に記憶のど こかから引っ張って来て鳴らしているサイレ ンの音だった。そう思っているとエンジ…

鋤名彦名
5か月前
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2023年の読書。

 今年読んだ小説(初読みに限る)の中で、印象的だったものを読んだのが近い順に紹介していきます。詳しい内容を忘れているものもあるので、その時の読了ツイートを添えて…

鋤名彦名
5か月前
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作り手、受け手としての文学フリマ東京37

はじめに  十一月十一日に行われた「文学フリマ東京37」について書いていこうと思う。作り手(出店者)としても、受け手(一般来場者)としても現場に居たので、その両…

鋤名彦名
6か月前
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『むらさきのスカートの女』に関する幾つかの考察

 先日参加した読書会の課題本が、今村夏子の『むらさきのスカートの女』だった。今回、参加に際して初めて読んだが、小説の持つ「奇妙さ」に引き込まれた。一読して感じた…

鋤名彦名
1年前
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2022年の読書。

 今年読んだ小説の中で、印象的だったもの10作品を紹介(順不同)。詳しい内容を忘れているものもあるので、その時の読了ツイートを添えておきます。 街と犬たち(都会と…

鋤名彦名
1年前
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本音(仮題)

noteの通知で「11月30日までに投稿すると、連続投稿を2ヶ月に伸ばせます」と言われたので、しょうがねえなと思いながら書いている。 結局なんていうか、コンプレックスな…

鋤名彦名
1年前
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お一人様限定バーに行った話

 西武新宿駅から線路沿いに歩いて行き、職安通りと交差するところにあるビルの7階、そこに「お一人様限定BAR ひとり」がある。その名の通り、客はお一人様でしか入店でき…

鋤名彦名
1年前
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『月と六ペンス』という不思議な小説

はじめに  いまでは、『月と六ペンス』の面白さを否定する人などまずいない。だが、白状すると、私は『月と六ペンス』を初めて読んだとき、この本にどこか普通と違うとこ…

鋤名彦名
1年前
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放置された文章と言い訳

―─昨年の今ごろは文學界新人賞に応募するための小説を書き始めていた。本当は応募するとかそんなつもりはなかった。何となく書き始めたものがそれなりの形になり、内容も…

鋤名彦名
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【エッセイ】被害妄想のホットドッグ

 イチローは毎日朝食にカレーを食べていた、というのは有名な話である。私は飽き性である一方で、同じ事の繰り返し、いわばルーティーンのようなことをしがちである。イチ…

鋤名彦名
2年前
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過去作の紹介 ~名刺代わりの自作四選~

はじめに  noteを始める前まで、私はある読書会で知り合った仲間と文芸部を立ち上げ、専用サイトで小説を公開していた。ここではそのサイトに載せていた過去作の中から、…

鋤名彦名
2年前
6
【小説】ポルノグラフィー

【小説】ポルノグラフィー

まえがき小説「ポルノグラフィー」は、第127回文學界新人賞に応募し、予選落ちした作品です。原稿用紙換算で80枚ほどの短編になります。

縦書きで読みたい方用のPDFデータはこちら。

本文 額の禿げあがった男が、薄汚れたシーツの敷かれたパイプベッドに仰向けになって横たわった。男の体重でパイプが軋み、音が鳴る。打ちっ放しのコンクリートの壁で冷やされた空気が、何も身に付けていない裸の身体に鳥肌を立てる

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「文学フリマ東京38」にて

「文学フリマ東京38」にて

 二〇二四年五月十九日、東京流通センターにて行われた「文学フリマ東京38」に行ってきた。前回は彩ふ読書会メンバーとして出店側にも立っていたが、今回は純粋な来場者として参加した。ちなみに前回のイベントレポはこちら。

 今回の文学フリマ東京には事前に出店を告知をしてた気になる参加者も居たため、前々から行くことはぼんやりと考えていたのだが、恐らく一人だと当日になって「やっぱり行くのめんど」となりかねな

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親譲りのホニャララ

親譲りのホニャララ

 事の発端は友人との会話だったと思う。小説家の金原ひとみに娘がいるのだが、その娘が小説を読むのか、ひいては親の小説も読むのか、みたいな話をした。金原ひとみ自身も父親は翻訳家の金原瑞人氏で、父から村上龍や山田詠美の小説を薦めてもらっていたとどこかで読んだことがある。
 私も読書会へ足を運ぶことがあり、そこで読書のきっかけを聞くことがあるが、親が読書をする人だったという答えをたびたび聞く。なんとなく「

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YOUは何しに読書会へ?

YOUは何しに読書会へ?

 ここ最近、読書会の新規開拓をしている。いつも行っている彩ふ読書会がここ数ヶ月間、東京での開催を休止しているので、せっかくだからこの期間に違う読書会へ行ってみようと思ったわけだ。
 そこで私が参加したのは、東京読書倶楽部が企画する「BOOK & BOOZE! 自称読書家達の飲み会」と、エンタメを語ろうの会が企画する「小説限定読書会」の二つだ。

「BOOK & BOOZE! 自称読書家達の飲み会」

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どん詰まり小説ハウツー

どん詰まり小説ハウツー

 突然ですが小説を書かれたことのある方にお聞きします。

 あなたは小説の書き方をご存じですか?

 私事ではありますが、私は何度か小説を書いたことがあります。読書会で知り合った仲間と文芸部を立ち上げ書いたものをネットで公開したり、その読書会が主導で始まった文学フリマ出店企画にも参加し、同人誌製作に関わったこともあります。そして公募の新人賞である文學界新人賞にも応募したことがあります。全くの素人で

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【小説】朦朧

【小説】朦朧

救急車のサイレンが聞こえてきたと思ったが
違った。実際には自分の頭が勝手に記憶のど
こかから引っ張って来て鳴らしているサイレ
ンの音だった。そう思っているとエンジンの
唸る音が聞こえてくる。これもまた幻聴かと
思うと、駐車場から聞えてくる実際のエンジ
ン音だった。どうも意識が浮ついてしまって
いる。これはすべてここ数日間私を悩ませて
いる高熱のせいである。遠ざかるエンジンを
聞くとは無しに寝返りを

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2023年の読書。

2023年の読書。

 今年読んだ小説(初読みに限る)の中で、印象的だったものを読んだのが近い順に紹介していきます。詳しい内容を忘れているものもあるので、その時の読了ツイートを添えておきます。

マルドロールの歌 ロートレアモン伯爵

 BOOKOFFの100円コーナーで見つけて、どこかで名前だけは知っていたので購入した本。(あとでギュヨタ『エデン・エデン・エデン』の解説だったことが分かった。)ジャンルで言えば散文詩で

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作り手、受け手としての文学フリマ東京37

作り手、受け手としての文学フリマ東京37


はじめに

 十一月十一日に行われた「文学フリマ東京37」について書いていこうと思う。作り手(出店者)としても、受け手(一般来場者)としても現場に居たので、その両方から思ったことや感じたことをまとめていきたい。

作り手としての文学フリマ東京37

 今回で作り手(出店者)としての参加は三度目となった。とは言え個人での参加というわけではなく、「彩ふ読書会」の文学フリマ出店企画を通じての参加という

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『むらさきのスカートの女』に関する幾つかの考察

『むらさきのスカートの女』に関する幾つかの考察

 先日参加した読書会の課題本が、今村夏子の『むらさきのスカートの女』だった。今回、参加に際して初めて読んだが、小説の持つ「奇妙さ」に引き込まれた。一読して感じたこと、その後考えたことを以下にまとめていきたい。

〈わたし〉と「むらさきのスカートの女」

 語り手である〈わたし〉は「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性の行動や顔の造形について事細かに観察しており、読み始めて思ったのは、〈わたし〉と

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2022年の読書。

2022年の読書。

 今年読んだ小説の中で、印象的だったもの10作品を紹介(順不同)。詳しい内容を忘れているものもあるので、その時の読了ツイートを添えておきます。

街と犬たち(都会と犬ども) マリオ・バルガス=リョサ

 バルガス=リョサにハマるきっかけとなった小説。光文社古典新訳文庫で『街と犬たち』(寺尾隆吉訳)が出たので読み、その後、新潮社版『都会と犬ども』(杉山晃訳)も読んだ。『緑の家』『世界終末戦争』も傑作

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本音(仮題)

本音(仮題)

noteの通知で「11月30日までに投稿すると、連続投稿を2ヶ月に伸ばせます」と言われたので、しょうがねえなと思いながら書いている。
結局なんていうか、コンプレックスなんだと、最近いろいろ考えてて思った。自分が読書、小説、文学に触れているのは。
そこそこの大学をバカみたいな理由で中退して、で結局バカみたいな理由も叶えられなくて、しがない仕事しかしてなくて、だから何かアイデンティティというか、唯一で

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お一人様限定バーに行った話

お一人様限定バーに行った話

 西武新宿駅から線路沿いに歩いて行き、職安通りと交差するところにあるビルの7階、そこに「お一人様限定BAR ひとり」がある。その名の通り、客はお一人様でしか入店できない。
 開店時間の19時にはビルの下にいたのだが、開店と同時に行くのは躊躇われたので、少し周辺をぶらつき、開店から20分ほど経って入店した。扉の前に立つと中の会話が漏れて聞こえ、開けるとそこにはもう何人かの先客が居て、楽しく談笑してい

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『月と六ペンス』という不思議な小説

『月と六ペンス』という不思議な小説

はじめに

 いまでは、『月と六ペンス』の面白さを否定する人などまずいない。だが、白状すると、私は『月と六ペンス』を初めて読んだとき、この本にどこか普通と違うところがあるとは少しも思わなかった。
 私は今「面白さ」と言った。そこには物語の起伏や魅力的な登場人物といった要素もあるだろう。しかし、この『月と六ペンス』には何層にも重ねられた「たくらみ」の面白さがある。

 この小説は、作家である語り手「

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放置された文章と言い訳

放置された文章と言い訳

―─昨年の今ごろは文學界新人賞に応募するための小説を書き始めていた。本当は応募するとかそんなつもりはなかった。何となく書き始めたものがそれなりの形になり、内容も極めて低俗、卑猥だったため、仲間うちでやってる文芸サイトにアップするのは躊躇われ、なら応募作として完成させようということにしたのだ。それがこのnoteに、最初にアップした小説、「ポルノグラフィー」だったわけだ。
 他の応募作とは一線を画す奇

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【エッセイ】被害妄想のホットドッグ

【エッセイ】被害妄想のホットドッグ

 イチローは毎日朝食にカレーを食べていた、というのは有名な話である。私は飽き性である一方で、同じ事の繰り返し、いわばルーティーンのようなことをしがちである。イチローが毎日カレーを食べていた理由は分からないが、私に関して言えば、そこに私自身の「被害妄想癖」が大きく見えてくる。

 朝、職場へ向かう前に、職場の最寄り駅前のセブンイレブンで買い物をするのだが、買う物はほぼ毎回同じなのだ。まず、その日の昼

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過去作の紹介 ~名刺代わりの自作四選~

過去作の紹介 ~名刺代わりの自作四選~

はじめに

 noteを始める前まで、私はある読書会で知り合った仲間と文芸部を立ち上げ、専用サイトで小説を公開していた。ここではそのサイトに載せていた過去作の中から、個人的にお気に入りの小説を、少々の解説を交えながら紹介したいと思う。リンクも張っておくので、気になる方にはぜひ読んでもらいたい。なお、紹介順は専用サイトへの投稿日時が新しい順となっている。

「瑠璃子の舌」

 この作品は谷崎潤一郎の

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