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「ははのれんあい」窪美澄

子供が生まれて初めて保育所に預けるって決めた時
何から始めればよいのかわからなかった。
今は子供を産んで、それに纏わることを経験したから
なんとなく「この機関に電話すればよいのかな」とか
「あの人に聞けばいいのかな」とか想像できるようになったけれど
その時は子供に関しては全くの「無」の状態だった。

ちなみに全くの「無」の状態と言えばお味噌汁。
結婚して初めてお味噌汁を作った。見事に家での手伝いをしないで育った私はかろうじてご飯をお鍋で炊くこととカレーが作れるぐらいで
お味噌汁は好きじゃなかったし作ろうとしたこともなかった。
で、夫に聞いた。「お味噌汁って一体どこからどういう風に作るのか」
まずできたお味噌汁は熱いお湯でみそ味で具も入っているけれど
まず水は沸かしてからお味噌をいれるのか。具はどのタイミングで入れるのか。え?ダシってなにそれ?
ダシって噂に聞く「カツオ」とか「にぼし」とか「昆布」とかそういうやつ?鰹節なんてカンナみたいのでギコギコ削ったりしてるけどあそこからやるの?煮干しがそのままお味噌汁に入ったのみたことないけど、あれをどうやっていつどこで入れるの?煮干しってどこに売ってるの?
ホンダシを使うと便利だよと聞いて「ああ!知ってる!見たことあるわ~
ここで使うんだ✨」と納得がいった。で、どの段階でどれぐらい入れるの?とお味噌汁の旅は始まるのだった・・・。

で、子供の話ですけれど、保育所に預けるにはどうしたらよいのか、ということがわからなかったので市役所の子育て課の若いお兄さんに伝えた。
お兄さんに質問されても答えはしどろもどろ。なんせ仕事も始めたばかりで
どれぐらいの収入になるのかどれぐらいの拘束時間になるのかも「やってみないとわからん」状態、でも子供と一緒には仕事ができないから預けたいと伝えた。
こちらがしどろもどろだからなのか「いかにも子育て初めてです」だから
なのか、そのお兄さんは言った。
「子供は親が育てるものですから」

今だったら言うわ。「知ってるっつーの。だけどあんた働くときに
側に赤子いながら働けるわけ?」
あの誇らしげに「これが真理です!」みたいな顔してえっらそうに言った若い兄ちゃんを探し出して説教してやりたい。何も言えなかった自分を叱ってやりたい。

とまあ保育所に預ける出だしからこんなんだったものだから
保育所に預ける、預けた途端「熱あります」の電話がかかってくる、
旦那役にたたねえ、患者さんに「子供連れてくんの?じゃあいいわ」と電話切られるなどの辛くも楽しい、楽しくも厳しい険しい道のりは必然だった。

ということを全部思い出しました。
窪美澄さんの「ははのれんあい」
ほぼ何も話さない、親の家業である洋服作り、ミシン作業が好きな夫。
その仲間に入り一緒にミシンを踏むことが大好きだった主人公由紀子。
ところが子供ができて保育所に預けて大好きなミシンの仕事に戻ろうと思ったけれどその家業が傾いてしまう。夫も不本意ながら違う仕事をするようになり由紀子は駅の売店で働くようになる。色々あったけどやっと軌道に乗り始めたら双子を妊娠。その頃から夫の不審な行動、話し合いたくても
仕事、家事、育児で一日が終わっていく由紀子。
この夫が「不器用ですから」の高倉健なみに何もしゃべらない。
うちの夫も「不器用=高倉健=話さないことがかっこいい」と思っているところがあって一時期「そういうテイ」でいたことがあったけど
「バカじゃないの?」と一蹴した。一心同体じゃあるまいし話さないでわかるわけないじゃん。話さないのはただのさぼりだわ。
だから未だに「話あるんだけど」と言うとあからさまにビクつき姿勢を正す。
由紀子は夫にそうやって言う時間も気力もないほど疲れ果てていたと思う。
そして時を経て長男は高校生、下の双子も中学生という話へ。

最初、今時のさらっとした小説かあと思うぐらいさくさく読めた。
窪さんの小説は好きで割と読んでいる。部屋の中が少し暗いような雰囲気が好きだ。「ははのれんあい」書評ではあまり良いことが書かれていなかったけど・・

初めて保育所に預けた長男のこと、二人目三人目を預けて、卒園したけど毎日保育所に行ってしまいそうになるぐらい習慣になったこと、犬の散歩がてら子供らと一緒に登校しながらしりとりをしたこと、寝る前に読んでいた本に出てきた果物がめっちゃ美味しそうだったこと、もう子供とは学校に行かないこと。そんなことが全部ぶわっと思い出されて最後は泣きました・・・。

「今時のさらっとしたやつじゃない」と読み終わったあと解説を読んでびっくりした。
「今の時代、エンタメ小説みたいな簡単に読める小説が多すぎる。みんな簡単に作家になりすぎだ。・・・窪さんは違う。この小説はそれらの小説や作家とは違うのだ」と言い切っていたのだ!
そんな解説書いていいの?????と驚いた。
随分上からだし笑。まあ私も同じ事思ったばっかりだったから
「やるねえ」と解説者につぶやいた。

※書棚に置いてある背表紙を撮って、写真に使おうとしたらはみ出てしまった・・はみ出たけど撮り直すのもめんどくさい・・・

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