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【毎週ショートショートnote】「秋の空」「時計」

秋は夕暮れ。
清少納言も言っていた。
空気の澄んだ秋の空はいつもより高く、いつもより綺麗に赤く染まる。

そして気のせいかいつもより長い。

気のせいじゃなかった。
壊れた空時計のせいで、この日から終わらない夕暮れが始まったのだ。
数日も経つと珍しさにカメラを構える人の数が減って、逆に大丈夫なのかと不安を唱える声が増えた。

この異常事態の中で今日も僕は彼女と海岸で赤い空を眺めている。
「一生続けばいいのに」
彼女は言う。
これはずっと夕暮れでいいのにという意味ではない。
ずっと一緒に居られればいいのにという意味である。

僕だってそうしたいけれど。
空時計職人の家に生まれた僕には空時計を直す使命がある。
太陽が微動だにしないこの壊れ方は修理に随分と時間を要するだろう。
彼女は待ってくれるだろうか。

目を落とすと、僕らの長く伸びた影はちょうど時計の短針と長針が重なっているようだった。

「大事な話があるんだ」

僕はこの時計の針を、動かさなければならない。

(410字)


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前回のお題「なるべく」「動物園」

以下、今回の本文作成に至るまでのアイディアめも。

アイディアの羅列
秋の空:夕暮れ、マジックアワー、
時計:進む、遅れる、止まる、歪む、砂、針、アラーム、

アイディアの組み合わせ
秋の空時計を引き延ばす話:彼女と一緒にいたいから時間を引き延ばしてしまう。
壊れた空時計を直す話:時間が止まって夕暮れが終わらない。夕陽に伸びる影が時計の針のよう。時計は直さなければならない。止まった時間を取り戻す。

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