見出し画像

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(2)

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(1)の続きです


人類が誕生して以来の組織の系譜

嘉村 ソース原理は、ピーター・カーニックが提唱したものなんですが、ティール組織は、ベルギーのフレディック・ラルーという、もともとマッキンゼーのコンサルタントだった人の「すでにお金を稼いでる人たちが、さらにお金を稼ぐことに、人生の大事な時間を使っていいんだろうか」という、ちょっとした問いからはじまっています。

彼は、マッキンゼーという会社から独立して、コーチとかファシリテーションという仕事をしてました。それもフレデリックにとっては天職のような、人が元気になるところに関われる、すごくやりがいのある仕事だったんです。でも、そもそも、人が病んでしまうような会社とか経済システムがあって、そして病んでしまってる人をコーチングして元気にしても、それって、そのしくみを存続応援してるようなもんじゃないかと気づいたわけです。

人が病んでしまうような組織とか経済システム自体をなんとかしないと意味はないんじゃないか、ということで、コーチとかファシリテーターという仕事を問い直そうと、世界中を旅して回った。そういうなかで、こういう組織だと自分自身も働きたいし、この世の次につながるんじゃないかっていう仮説ができて、実際にいろんな事例も見つけていった。それをまとめたのが『ティール組織』だと思っていただければと思います。

彼は世界中の組織を見ていくなかで、本当にいままでのやり方がぜんぜん違うということに気づきつつ、同時に、人類が誕生して以来の組織の系譜はどうなっているんだろうかっていうところを五段階で整理した。おもしろい切り口ですね。

簡単にお話しすると、人類が誕生して以来、いちばん古い形態は、「言うこと聞かなかったら殴るぞ、殺すぞ」の世界観です。脅せば人が動くわけですね。そうやって小集団を形成したっていうのがいちばん古い、レッドの段階。色で説明しています。

続いて、脅しだけではエジプトのピラミッドのような巨大建築物をつくるとか、宗教組織をつくるとか、何千人何万人の組織体はつくれない。話し合ってもなかなかつくれない。いちばん簡単なのは、「お前は身分が低いからやれ」です。人に上下関係をつくって動かすっていうのが発明だったわけです。そうやって、上意下達の指示命令系統、業務プロセスの明確化をすることによって、長期的展望を持って、大きなものを成し遂げる組織をつくった。これが次のアンバーという褐色のような色ですけども、そんな組織が現れてきました。

だんだんと村と村、組織と組織、国と国が出会うようになると、成長スピードを求められるようになった。相手の国よりもいち早く武器を増強しないと負けてしまうっていう段階ですね。成長スピードを上げるために何が必要だったかっていうと、「物差しで測る」ということなんです。

一時間当たりの生産量を測ることができれば、ある道具を使ったら一時間に一〇個つくれたコップが、違う道具を使ったら一二個作れた。それを大量に入れよう。さらに、プレッシャーを与えると一五個つくれた。プレッシャーってマネジメントに有効なんだ、と発見する。でも、三年それを続けたら、心が病んでしまって離れていってしまった。プレッシャーだけでは駄目なんだ。みたいなことが、物差しで測るからできるようになってきたわけです。

この段階を、科学的マネジメントの時代っていわれるんですけども、そうやって成長を続けていった。最大の発明が、実力主義、能力主義と呼ばれるもので、がんばれば出世できるという発明したら、奴隷の身分で生まれた人も、結果を出せば支配する側に回ることができる。こうなると、情熱を持って仕事をしはじめるので、生産性が飛躍的に高まった。これがオレンジの時代ですね。

[図1]組織の進化形態

焦って成長しなくても豊かに生きられるはず

嘉村 ただオレンジには大きな弊害があって、「これを生み出したら世の中に価値がある」っていう目的ではじまったものが、だんだん、シェア争いとか、出世レースとかっていう手段と目的が入れ替わってしまったり。

より勝つために、売るために、商品を高めるよりも、マーケティングメッセージのほうを洗練させていきます。いちばんわかりやすいのが、「お金持ちってこんなに幸せですよ」っていうメッセージ。あるいは「使わないとこんなこと起こっちゃいますよ」っていう危機感を煽るメッセージ。リスキリングの背景もそうかもしれないけど、本当は私たちは焦って成長しなくても豊かに生きられるはずじゃないですか。だけど、がんばって勉強しないと置いていかれそうな感じがするこの世の中って、本当にそうですかっていう……。

小山 図のなかに、PUBLIC UNIVERSITIES(オレンジ)って小さく書かれてるんですよね[図1]。大学組織が、まさに企業人を輩出するために組織されていった。もちろん戦前は軍隊もありましたけども、いまやその経済的な観点から、大学も「ちゃんと実業に役立つ人材をつくれ」というプレッシャーのなかにあります。

「リスキリング」も実はこのラインに乗ってるから、このタイトルでこの話をするのはどうかというところもあるんですけれども(苦笑)。でも、こうやってMBAもここに位置づけられて、科学的にこれをなんとかしていこうというところなんですよね。

嘉村 まさにそうですね。いま思い出した。昔、アメリカ先住民の人たちと話したときに、西洋文化は知識を隠すことによって価値を高めて、お金を取っていくんだって言ってましたね。本当は叡智なんてそこらじゅうに転がってるし、オープンでだれもが分かち合うべきものだから、知恵っていうものは別に焦らなくても、人生のなかで本当に必要としたときに現れてくるもんだよ、みたいな発想を教わったときに、自分もかなり染まっちゃってるなっていうのを感じた覚えがありますね。

小山 この場が染まってる感じが、ちょっとした後ろめたいですけどね。

嘉村 そういうのを疑っていくことも、もしかしたら本当の意味のリスキリングになっていくかもしれないですよね。

小山 あ、ありがとうございます(笑)。

嘉村 そういうメッセージで世界が揺さぶられ、「私」の生き方が揺さぶられちゃってる、競争主義のなかで、被害者になってる部分もありますね。

さらに言うと、「つくれ、つくれ」の世界で、この地球環境自体が持続不可能な社会に近づいてるのもこのオレンジの弊害かもしれません。

ちゃぶ台がえしを生み出す構造

嘉村 そんななかで次にグリーンの段階が現れてきます。オレンジ、アンバーまでは、働く人のことは従業員と呼びますね。「従う者」と。だけどグリーンの人たちはそう言いません。

パートナーとかメンバーとかキャストとか、働く人たちは仲間でしょ、家族でしょと。なにか意見があるときに稟議書をあげるってなんなんだと。もっとざっくばらんに話し合ったら楽しいし、知恵もあふれるし、やりがいも出るじゃないかっていうような、いわゆるカルチャーとか、対話とかワークショップとか、権限移譲とかそういう風通しのいい、多様性を認め合うような組織をつくっていこうというのがグリーンの特徴ですね。

こう聞くと、「いいじゃないですか。それこそが新しい姿だ」と思われるかもしれませんが、二つ難しさがあります。ひとつは船頭多くして船山上る現象ですね。小さな声も含めてちゃんと大事にするんですけど、そうすると、決まらない。会議が延々にかかるということですね。ふたつめが、とはいっても、グリーンまでって会社構造をけっこう緩やかに残してます。NPOだと理事長とかもそうですし、会社でも役員層ってやっぱりグリーン組織もあるんですね。

経営者って二四時間三六五日考えてます。どうしても視座は高くなってきますよね。現場からワークショップとかで出し合ったアイデアも、どうしてもぬるく感じちゃう。すると、なにが起こるか。

私がグリーン的な組織にコンサルに行くと、現場から「うちの社長はちゃぶ台返しが多いんだ」という、ネガティブな声が聞こえるんです。これは社長が悪いわけじゃなくて、この構造自体が、トップ層と現場の溝をつくるっていう構造になっていて、だれが悪いではなく仕方ない構造なのかなと思います。

小山 なるほど。イノベーションの領域を考えてみると、機械的に、科学的にはイノベーションは起きない。新規事業ってかなり試行錯誤が多いんだと。だから現場レベルで、いろんなトライアンドエラーしながら立ち上げていくべきだっていうことで、この領域っていうのは、家族的な草の根でいろんな情報を取ってきて立ち上げていこうということがあります。でも、提案すると、ぬるいって引っくり返される。これもほぼ、どの組織でも起こっている事象なんですよね。われわれはそこを乗り越えないといけないんだけども、実はそれを乗り越えるためにいい案をつくろうとしても、やっぱりなにかうまくいかないんですよね。そこにやっぱり構造的な問題があって、そもそもその構造を打破しないといけないですよね。

八割反対を打破しきれないイノベーティブなアイデア

嘉村 アイデア力とかイノベーションを生み出すアイデアプロセスだけ発明すればなんとかなるだろうと思いきや、本当にイノベーティブなものって、八割反対だったりするんですよね。いまの組織構造ってそういうところ、八割反対なものを結論を出せる胆力を持った経営層はそうそういないので、結局、安全圏のなんとなく収益が見込めそうなイノベーティブなアイデアというものを求めちゃってるっていうところありますよね。

小山 このグリーンのところをちょっと深く突っ込んでいくと、日本企業ってもともと家族経営なんて言われて、比較的トップダウンでやるよりも、ある程度現場の意見も吸い上げながら、意思決定を社長がしてるように見えて、実はすでに根回しがすんでいて社長は判押すだけみたいなパターンもあります。最終的な決断、大きなリスクを伴う決断のところでは、どうしても様子見になってしまう。

嘉村 たとえば昔のソニーとか、自由にやってた時代があって、だんだん世界のソニーブランドになってくると、やっぱりちょっと保守的になってきますよね。そういうときにどうしてもチャレンジできなくなってしまうっていうところはあるかもしれないですね。

まるで生命体のような組織

嘉村 そんななか、レッド、アンバー、オレンジ、グリーンにも属さないようなユニークなやり方が、世界中に生まれてきていると。フレデリックの観点からいうと、まるで生命体とか生態系のような組織で、上下関係で物事が動いてなくて、現場レベルでどんどん裁量権を持ちながら自由に意思決定してるけども、全体としても調和がとれて化学反応している。そんな組織がポコポコ生まれていて……

小山 いよいよここからティール組織の説明ですね。

嘉村 許されるのであれば五時間でも六時間でも話したいところです。

小山 実は、今日は、YouTubeとフェイスブックに無料配信をしているんですが、それはここまでとなります。ネイティブアメリカンからするとそれは違うよと言われてしまうところであるんですけども。ここからは、参加者のみ、そしてビジネスモデルイノベーション協会の会員になるとご覧いただけるというしくみで進めていきます。

嘉村 ここから醍醐味です。今日はティール組織に関する細かいところはやらないんですけども、今回見ていきたいのはオレンジとティールの違い、グリーンとティールの違いを見ることによって、なぜ日本でイノベーションが生まれにくいのかっていうところを見えやすくお話したいなと思っています。そのうえでソース原理の話にちょっとずつ移っていければなと思うんですが。

オレンジの大発明「管理職」と専門分化

嘉村 まずオレンジの特徴となぜオレンジでイノベーションが起こりにくいのかっていうところを探求していきます。簡単にオレンジってなんぞやっていうとですね、この図[図2]が象徴的にわかりやすいんですけども、オレンジの大発明っていろいろあるんですけども、いちばんの大発明は管理職をつくったことです。

図2 オレンジ組織との違いからティール組織を理解する

係長、課長、マネージャー、部長。彼らはなにをやってるか。彼らは結果責任と命令権限を持ってるんですよ。他の人たちはプログラミングしたら、これだけのお金をあげるとか、仕事内容が役割になっている。一方、管理職というのは、その部門で結果を出せば、出世したりとか、給料上げますよっていう「責任を果たしたら」っていう仕事の与えられ方で、それが特殊なんですね。それはさらに上から見るとめっちゃ楽なわけです。

「ちゃんと結果出したら出世させるけど、駄目だったら外すぞ」って言われたら、もう必死にやりますよね。マイクロマネジメントしてようが、放任主義だろうが、結果さえ出していればOKっていうので、さらに上がすごく楽なやり方なので、組織としては安定していくんですけども、実態としては人が幸せに働けてなかったり、その人本来の持ち味を発揮できないような組織であるかもしれない。

同時にオレンジって、科学的マネジメントのなかでいちばんは、専門分化。専門的部署をつくったほうが専門性が高まる。これは「代わりに」っていう発想なんですけど、現場の代わりに経営層がビジョン戦略を練った方がいいだろう、現場の代わりに採用部門、現場の代わりに法務部門、現場の代わりに財務というふうにつくっていったのがオレンジの発明。

その結果なにが起こったか。専門性は高まっていくんですけども、現場から見ると、上司との調整しないといけないし、管理部門から研修受けろとか、法務からこの書類を出せって言われるしって、自分のやりたいことをやってるというより、調整ばっかりしてるじゃないか、みたいなことですね。

あるいは営業でパフォーマンスを出してた人が、あるときに言われるんですよ。そろそろ管理職にならないかと。お前だったらいけるぞと。なんで営業が好きな人が、そもそも上がらないといけないのか。管理職になってお金が増えることがいいって当たり前のように私たち思ってるけど、ほんと? みたいな。ずっとプレイヤーでやり続けて楽しい人生を送ってもいいんじゃないか、というところが、このメカニズムにあるわけですね。これがオレンジの特徴です。

複数役割大歓迎のティール

嘉村 ティール組織を、「フラットで管理職がいない組織」を思ってる方々がいらっしゃるんですが、フレデリックの言葉で言うと、組織には、幅広い視野の役割と、現場専門の役割がないと成り立たないよということなんです。

管理職が全部いなくなったらみんな好き勝手やるだけになってしまいますよね。子どものサッカーって、みんなボールに集まってくるじゃないすか。フォーメーションを組んだチームにはすぐ負けてしまう。だから管理者をなくして現場だけだったら、それは弱いチームなりますよ。組織には幅広い視野の役割と現場の役割が大事なんだけども、そこに結果責任、命令権限を置かなくてもいいよねという発想です。

たとえば、Aさんが幅広い視野の役割を持っていて、Bさんが現場の役割を持ってるとしたら、そこに命令関係なんていらないじゃないかということです。あるいは、AさんBさんって分け方じゃなくて、幅広い視野の役割は、タスクフォースみたいな感じで、みんなが二割の時間で幅広い視野のことをやってもいいじゃないですか。そうすることによって、現場が主役であり続けることができるんですよ。

そうすると、変化にも素早く突入できたり、より柔軟で適応的な集団になっていきますよ。これがオレンジとティールの大きな違いです。

小山 『ティール組織』の本のなかでは事例がたくさんあって、たとえばビュートゾルフ。いままでの地域医療の仕組みを、本当に現場に移譲してっていうことで、例はあるんですが、他にぱっとわかりやすい例があるといいなといつも思うんですよね。

いま、サッカーの例を話していただいたんですけど、実際のサッカーはけっこう監督が命令するわけですよね。「このフォーメーションで行け」とか、「お前は交替」だとか「今日はお前を出す」みたいな。

だからそこには権力関係もあるとすると、こういうのがうまく動いてるところっていうのは、身近にはどんなところがありますか。

嘉村 身近ですか。そうですね。イメージとしては……。わかりやすく構造の話をすると、いままでの組織って「箱物組織」って言われて、入社すると、営業部門とか、開発部門とか、だいたい部門に入れられるじゃないですか。

小山 はい。

嘉村 ティール的に言うと、そういうことをしないんです。「営業サークル」とか「開発サークル」とか「広報サークル」みたいな、有機的な組織構造図があって、たとえば、Aさんが入社すると、「六割、開発サークルの仕事をして、三割は営業サークルの仕事をして、一割は社内保育所の保育サークルの仕事をする」みたいな複数役割大歓迎だったりするわけです。

そうするとなにが起こるかっていうと、よくある営業部VS開発部みたいな、いわゆる部門間の対立が起こらないですよ。「俺は開発部の人間だ」とだれも思ってないわけです。組織の目的に対して開発の役目も果たすし、営業の役目も果たすし、社内社内保育士の役目も果たすっていう。だから、常に目的に照らしてやるので、部分対立みたいなことが生まれない。ちょっとイメージがつけやすくなりますかね。

小山 これは本当にむずかしくて……、たとえばですよ、うまくいってないところもあるので、一概には言えないんですけども。

たとえば、PTA組織ってつくるときに、PTAの会長って決めるんですけども、会長が偉いとか、会長の命令にみんなが従うみたいなことはないわけですよね。PTAのなかでいろんな役割があって、うまくやるとPTAってティールっぽく、楽しくできるんだろうなとは思ってるんです。

ところがベルマーク集めとか、よくPTA疲れといわれる「(この活動に)なんの意味があるんだ」みたいなことになってうまくいかない。パーパスの問題があるのでPTAはうまくいかないケースが多いんですけれども。組織のあり方みたいなところでいうと、PTAなんかは、ぱっと見、近いところがあるなと思うんです。

嘉村 そういう意味でいうと、一昨日かな、終わったばかりですが、選挙活動とか、震災復興の現場とかもそうかもしれないですね。選挙事務所に行くとポスター貼りやってる人もいれば、はがきの宛名書きやってる人もいれば、地図の作成やってる人もいて、選挙に関するいろんなことやる人たちがいるわけですよ。そうすると、ある新しいボランティアスタッフが入ってきたときに、会場を見たら、どこに人が足りないのかすぐわかりますから、「あぁあっち手伝いますわ」みたいな感じで、ある程度やり終えたら、ほかから「ちょっとこっち足りないから来て」って言われる、という感じで縦横無尽に動きますよね。「あなたはポスター貼りの部署に入ったんだから、ポスター貼りだけやっときなさい」みたいなことないです。そんな光景が、ああいう臨時の選挙活動じゃなくて、日々の組織活動が全部そうなってるというと、ちょっとイメージつきやすいかな。

小山 重要なのは、その選挙対策のリーダーがいばってるわけじゃなくて、むしろ、ボランティアで来ていただいてるので、腰低く、ただ全体を見てると。まさに命令権限がそこにはなく、「あなたはこっちです」って言われることがない組織のあり方っていうことですね。

嘉村 そういうわけです。そんなところで見ていくと、オレンジでどんなことが起こっちゃってるのかっていうところが見えてくるんですが。

先ほど言いましたが、オレンジは箱型組織であるがために部分最適になりやすい。営業部はちゃんとやってるんだから、開発もちゃんとしてくれよみたいなことで、専門分化が起こってるんで、専門性は高まってるんですけど、専門性同士がギクシャクするんですよ。

なので、創発が起こりにくい。調整で終わっちゃいます。入社したてのアイデアを持ってる社員が、間接部門からもいろいろ言われるし、上司がいっぱいいるような状態のなかで自由度を発揮できないと。

これは、『天才を殺す凡人』(北野唯我著、日本経済新聞出版 、二〇一九年)っていう本がわかりやすいんですけど、組織のなかには、発想力豊かでアート思考的なものをもったすごい天才的人材と、実務能力というか説明責任を果たして調整して、段取りして、計画力があるみたいなそういう秀才的な人材と、人に共感することが得意で人が好きな凡才(ネーミングはすごくよくないと思ってるんですけど)、三つの価値がある。三つともすごく価値があります。

『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』日本経済新聞出版 (2019/1/17)

この秀才がオレンジ組織では大活躍するんですよ。要は、段取りよく着実に結果を出すっていう、戦略思考が得意な人。しかし、新しい発想が得意かというとそうではないっていう人が活躍しやすいんですよね。出世するのはそういう人たちなので、そういう人たちばかりが経営層で固まってると、新しいことにチャレンジするよりも、戦略的な議論ばっかりしちゃうことになる。

階層構造で新規事業アイデアをジャッジしない

嘉村 新規事業っていうのは、本当は説明できないものが多いんです。イノベーションは説明できないものが多いんですけど、秀才ばかりの集まりだと、「成功確率どれぐらいなんですか」っていう議論をされてしまい、天才的な人はシュンとして、「また理解されなかった」みたいな感じになっていく。

新規事業の意思決定が階層構造のなかで一回きりのチャンスであることが多いですよね。シリコンバレーとか見ると、なにか立ち上げる人は一回断られたぐらいではめげずに、違うベンチャーキャピタルとかエンジェルに行くわけですよ。一〇回も二〇回もやるうちに、だんだんアイデアも洗練されていって、三〇回、四〇回ぐらいでようやく投資家見つけて、やるぞっていう。こんな感じでベンチャーが育まれていくってのありますけど、大企業だと、一回、階層構造の役員会議とかで駄目だねってなったら、もうそれで終わり。このジャッジする役員会議が本当に新しいものを見抜けるかっていうと、そうでもない。

最近の海外のIBMの例ですが、階層構造上で新規事業の判定なんて不可能だっていうことが結論づけられていて、それよりも集合知を頼ったほうが断然いいということになっています。社員が全員、地域通貨をいくらか持ってるんですね。年に一回ぐらい三〇〇ぐらいのアイデアが出たら、全社員がそれに投票できるようになっていて、それでシードマネーが集まったものはプロトタイプまではつくれる。それである程度測って新規事業を決めていく。階層構造で新規事業を判断しないっていう文化を、いまIBMではつくり始めてますけども、それはオレンジの罠を抜けようとしている傾向かなと思います。

基本的にオレンジって標準化とか効率化が大得意な感じで、実験というものが推奨されにくいっていうのも特徴かもしれません。階層構造で方向性、ミッション、ビジョン、バリューみたいなものを定めたりとかですね、ランダムに物事をつくり出したりよりも、一定の方向性のなかから成功アイデアを出せ、みたいな、そういうようなことが生まれやすいので、この点からもイノベーションが起こりにくい構造がオレンジにはあるのかなとは思います。

小山 いわゆるステージゲート法が、一般的によく使われてるんですよね。ゲートキーパー(この名前もどうなのかな)がOKって言うと次にいける。まさに「門番」ですよね。そんなおどろおどろしいパラダイムのなかで、新規事業という、本人たちも不安で、自信を持っている反面、本当にウケるかどうかわからないなか、毎回門番にお伺いを立て、OKって言われて次に行く。こういう言葉遣いとかパラダイム自体が、どうしても管理的な色合いを強めてしまう。不確実な新規事業みたいなものを管理のパラダイムでやろうというのが、そもそもの、ボタンのかけ違いというか、難しいとこなのかな。

嘉村 本当にそうですよね。当初、これやったらおもしろいなっていう直感が、叩かれ続けるなかでだんだんと熱量が下がってしまったり、企画が丸くなっていく。尖ってたのがいろんな意見が吸収されていって、当初の尖り具合が全然なくなっていくみたいなことがしょっちゅう起こっちゃってますよね。これがオレンジの特徴になります。

(3)に続く


嘉村賢州 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?