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テレワークという経営戦略

2020年ごろから始まったコロナウィルス騒動も2023年ごろからようやく落ち着きを見せ始め、一旦は急激に広まりを見せたテレワークという考え方も、一部の企業を除いて徐々に下火になってきています。

テレワークにはメリットデメリット双方があるにせよ、多くの企業はデメリットを大きく捉え、仕事のかたちをコロナ前に"戻す"きらいが強くあります。

コロナ騒ぎが落ち着いてテレワークをする機会がなくなり、また、満員電車を避けたオフピーク通勤も下火になりました。そういった企業が多いのは朝の通勤電車を見れば一目瞭然です。
一方で戻らない部分もあります。急速に発展したインフラを享受し、例えば遠隔地との会議はほとんどオンラインが主流になりました。
私の勤めている企業では、採用選考も一次は基本的にオンラインのみでした。求職者側のみならず求人企業側の負担も減って極めて合理的でした。
ただ、やはり求職者に実際の職場を見せないままの雇用はミスマッチにつながると考え、最終面接では来社いただくことが多いです。特に新卒の場合は、多くの候補者がいるためできるだけ個別対応は避け、最終面接では一律来社していただいていました。また、最終面接は入社の意思を確認し、内定の予定数が限られた中で機会損失を避けるという性格が強く、これにはある種来社という行為をそのままフィルターとして活用しているという意味合いがあります。
これはあくまで会社の判断であって、私は個人的には別の方法で志望度を確認出来れば無理に来社させる必要はないと思います。そもそも本当にそれがフィルターとして機能しているかもあまり期待できませんし。また、職場見学という求職者への配慮でもありますのでなんとも言えないところですが、決して面接それ自体がオフラインである必要はないと考えます。

さて、こんな記事があります。(無断)

天下のGoogleがリモートワークを原則として禁止しています。
誤解しそうですが、この記事によると、全面的に出社というわけでなく、オフィスがあるところでない地方に住み、出社しない前提で働くことをリモートワークと呼んでいて、単にそれを禁止にしているだけのことです。
どうやらオンラインとオフラインのハイブリッドができるようにするというものでしたので、Googleの従業員は全員毎日出社しているというわけではないということのようです。
オフィスに出勤するメリットを享受しつつ、オンラインのメリットも活かすというのが同社の選択なのでしょう。

ただ、通勤というデメリットがなくならない限り、リモートワークから得られる効果は限定的です。リモートワークの最大のメリットは場所を選ばないということです。
オフィスの賃料だけとっても、一般的に粗利に対して平均10~20%程度らしいです。10%と仮定して、リモートワークによってオフィスを90%まで縮小しできれば、それだけで粗利の1%が営業利益まで落ちて、仮に粗利率40%の営利率4%なら、40%×1%=0.4%で、結果営利率が4.4%、つまり営業利益10%アップの計算になります。同じだけ稼ぐためには単純に110%の売り上げが必要だと考えるとなかなかバカにできません。(この計算あってますか…?)
とは言え、そんなちょうど良くオフィスの空きがあるか、とか、リモートワークに必要な設備投資の存在とか経費を無視しているので、文字通り机上の空論なんですけどね。

それでもオフィス賃料は一例に過ぎず、働く場所を選ばないことは大きなメリットです。紙、ゴミ、電気の他、通勤費を減らすといった経費に直接インパクトがあるものの他に、従業員の配転で生じるデメリットの減少、地方の住民や子育て世代の基幹労働力化、災害による稼働率低下の抑制といったいくつかのメリットがあります。
対してデメリットは労務管理や人事評価に加え、ネットワーク環境や業務管理などの、テレワーク環境にフィットする新たな仕組みの導入コストです。

世間のいうテレワークのメリットデメリットというものを見て回りましたが。そのうちいくつかは一過性のものであったり、曖昧なもの、工夫次第でどうにでもなるものだったりすると思いました。

従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下は相関関係に疑問の余地があり、同様に、コミュニケーションの減衰もテレワークであろうがなかろうが関係ありません。
元からコミュニケーションが得意な人はどんな環境でも得意なままです。かえってテキストでやり取りをする方がやりやすいという人もいるでしょう。なんならテレワークでコミュニケーションが減衰するという人と同じくらい、テレワークでコミュニケーションが増加する人がいてもなんら不思議はありません。どんな環境でもコミュニケーションができない人は環境が変わっても不得意なままです。

勤務実態の把握やネットワーク環境は、仕組みを変えることができればクリアできます。コロナ禍を経て様々な企業であらゆる側面から検討が繰り返されましたので、有効な事例は少なくありません。ですので、ここは金銭的なコストや、制度設計やセキュリティ構築を含むインフラ導入のハードルの高さに読み替えることができます。
たしかに現場が必要な業種ではそのハードルが一気にあがりますが、10か0かではないと思います。10は到底無理でも、1でも2でも導入できる範囲で部分的にやっていくこともできるでしょう。
導入コストと削減効果を天秤にかけて効果が見込まれなければ見送るわけですが、効果が期待できるなら、こんなに手軽な投資対象もありません。しかも、コロナ禍の影響で、ほとんどの企業はすでにその投資に片足を突っ込んでいます。

また、従業員が職場の地理に縛られず住居を構えられるということは、本人の選択次第では家賃の安い住宅に転居することで可処分所得を増加させることができます。また、通勤時間がありませんし交通機関の運行状況や道路の混雑に影響を受けませんので、可処分所得ならぬ可処分時間というべき時間が増えます。副業をするのもいいでしょうし、資格取得などの自己投資に当てて会社の要求に応えることで結果的に収入を増やすこともできると思います。

また、通勤時間は基本的に労働時間には含まれません。いくつか理由がありますが、労働時間としてカウントすると、通勤時間の違いが労働条件に影響してしまい公平性が確保できないから。また、本来自由時間であるはずの通勤時間が会社の指揮命令下に置かれることになり、その間にも仕事をしないといけなくなるからです。逆に指揮命令下にあると判断されるような状態なら、通勤時間も労働時間に含まれます。これは本当にケースバイケースで、なかなか判断に悩むこともあり、労働時間という概念は時に曖昧です。
これがテレワークなら、自宅がどこであっても会社のシステムにログインした瞬間から使用者の指揮命令下にあると言えるので、労働時間についてはむしろスッキリする側面も十分に考えられます。

自宅にいるのだから労働時間内に業務以外のことをする可能性があるという意見もありますが、それはオフィスにいても同じことです。
勤務中はPCに向かってさえいればいいというわけではないはずで、オフィスワークのほとんどは厳密には見た目で勤務実態を把握できません。ぼーっとしてリフレッシュしたり、飲み物や間食をしたり、トイレにだっていきますので、やはり労働時間というものはどこにいたって曖昧です。
これがテレワークなら、主にチャットでコミュニケーションをとることになり、チャットの状態表示がアクティブになっている時間は指揮命令を下すことができるものとして、それを労働時間とみなすこともできます。やはりかえってテレワークの方がスッキリすると考えられます。
それに、ちょっとした家事くらい、できるものならやればいいじゃないですか。仕事さえできればあとは極論なんだっていいと思います。

生産性を心配する声もありますが、やはり同じこと。オンラインであろうがなかろうが、できていなければ評価しなければいいだけですし、なぜできたのか、できなかったのかを管理職はヒアリングし、労働者は説明すれば良いだけ。テレワークかどうかは影響しません。
向き不向きがある?向いてない人が不当に低い評価を受ける?目の前のPCを操作して仕事をする以外のことがあれば話は別ですが、オフィスワークであればたいがいPCでできないことはありません。頑張ってください。PCが使えないなんて紙とペンが使えないくらいのレベルの話です。恥ずかしいです。

勤務実態の把握が難しいという部分は、実はテレワークであろうがなかろうが難しいし、テレワークを導入したほうが時に有利な側面さえあります。
これは業務管理にも全く同じことが言えます。そもそもオフラインでも効果的に管理できているとは言い難いので、やはり制度やシステムインフラの導入コストの問題に帰結すると考えることができます。

効果はいろいろ、あとはコストパフォーマンスを判断するということです。
導入コストには初期費用と維持費用がありますが、コロナ禍を経て、ほとんどの職場では片足を突っ込んでおり一部の初期費用投入が終わっています。
これは本当に重要なことで、効果的であると考えられる投資のうち、必要なコストが予め投入されているんですから、ここに乗っからないのはもったいない。もはやあとは運用コストだけ、といった部分も往々にしてあると思います。
もちろん効果が認められなければ即座に撤退すべきですが、効果がないと判断するには、私は時期尚早だと考えます。

Googleは、コロナ禍以前からリモートワークを実践していたと聞いています。ネットワーク環境や就業規則などの仕組みの整備はさることながら、おそらく業務管理もオンラインでオフラインと遜色なく管理できているでしょう。
そうなってはじめて、オフラインのメリットに立ち返ってリモートワークを原則禁止とする判断ができた、と私は考えます。そこでようやく、直接集まってこそ生み出せるイノベーションを享受できるのです。
なのでこのニュースを聞いた時、私はGoogleが旧来の体制に戻ったという印象を全く持ちませんでした。一度完全リモートができる体制にしたからこそ、前に進んで次の段階、というか周回先にいったんだな、と。

企業の戦略は環境によって大きく変化しますが、これが正解という戦略はありません。それはテレワークひとつとっても同じことで、確かにテレワークをすることが即座に正しいことなのではなく、あらゆる選択肢のうちのひとつに過ぎません。企業はひとつの選択肢に固執することなく、あらゆる戦略を効果的に使い分けることで柔軟に環境の変化に対応するものです。

Googleはどう判断したのでしょうか。「直接集まることに代わるものはない」とは、どういう判断だったのでしょうか。業務管理も労務管理もシステム構築もすでに克服されている中、おそらく社内でも反発はあったでしょう。定着した状態を引っ剥がすのはそれなりのリスクがあります。そのリスクも承知の上で、彼らの考えるオフラインのメリットとは一体何だったのでしょうか。

私はそのうちの一つが雑談だと思っています。オンラインのコミュニケーションはもはや高度に進化し、業務に直接関することならむしろ形の残るテキストでやり取りした方が断然効率的ですし、必要に応じてオンライン会議ツールを使用すれば、テキストで伝わらない業務内容のニュアンスも補完できます。業種や職種によっては、従業員は既存業務の遂行にはテレワークで全く不自由を感じていないという声もあります。
ただ、オンラインで圧倒的に減衰するものが一つあるとすれば、それは業務に直接関係のない雑談です。

業務に関係のある話であれば、テレワークでもチャットで気軽にチームに話題を投げかけることができるので問題になりません。ログが残るので、後からあれって何だっけ?が起きにくく、極端な話、業務引継ぎなどでは全てチャットでやり取りすればメモを取るという(この世で一番無駄な)時間を削減することができます。そのチャットのログを他のメンバーにも共有し、また、生成AIに突っ込んでおけば、口頭のコミュニケーションにはできない高度な展開を期待できます。
口頭のコミュニケーションであっても、オンライン会議ツールの音声認識機能をオンにしておけば、かんたんにテキストログが入手できます。
オフラインであることは今やそうしたログを入手する機会の喪失といいかえることができます。

一方、雑談は積極的にログから外されるものです。業務に関係ないので、ログに残してしまうことが憚られるものですから、テレワーク中にチャットで雑談することは少なくなります。オンラインでは口頭のコミュニケーションはデフォルトではなくオプションとなりますから、わざわざオンライン会議ツールを使って雑談ということもほとんどないでしょう。
これにはメリットもあり、当然雑談の時間が日常業務を圧迫するということもあるわけですから、無駄話に付き合わされて徒に長時間労働を助長することを防げます。
ただ、究極的なことを言えば、AIと人間の最大の違いは、雑談のようなノイズを発するか否かです。
ロウでハッシュなノイズは取り除くことはできますが、付け足すことは難しいと思います。
全くなんのためにもならない自慢話を延々と聞かせて部下の手を止める上司は論外ですが、自分の持っている周辺知識を雑談で共有することは意外なイノベーションを産む可能性があります。

イノベーションとはなんでしょうか。
いま、成長曲線がある程度緩やかな企業の中で、次なる成長ドライバーを求めて、アクセラレーションやオープンイノベーションなどといったプログラムで外部リソースとの協働によって、新たな事業展開を狙うトレンドがあります。社内外の垣根を超えたノウハウを持ち寄ることで新しい発明ができないかと、みなこぞって試行錯誤を繰り返しています。
これは言い換えれば、もはやオーガニックな成長は難しい段階にあり、M&Aを含む非連続な成長を、第二の創業ともいうべき画期的で思い切った変化を求めている、とも表現できます
つまり、自前のリソースによる成長はもはやたかが知れていて、本業以外からのリソースを利用した方が効果的、と考えているのです。非常に理にかなった考え方です。

しかし、外部リソースとは、果たして会社の外にしかないのでしょうか。例えば会社の中にも会社の持ち物でないものはたくさんあります。例えば設備のリース、公共インフラ、受入出向者や派遣社員などの外部人材、そしてそもそも、会社が自分のお金だけで運営されているということは稀で…。とまあ戯言は置いておいて、要は会社の中の最大の外部リソースは従業員の、仕事で直接使われない脳ミソの部分、つまり雑談だと言いたいわけです。

従業員の構成要素を因数分解してみると、仕事とプライベートに大きく分割でき、それが決して互いに素とはなっておらず、あらゆる側面で地続きになっています。プライベートの中には家庭や趣味、仕事に関係ない好きなことがありますが、社会人は往々にしてその境目を明確に持っておらず、趣味で得たスキルや家庭で得た考え方を仕事に活かし、そのまた逆も然り、という相関関係を持っています。プライベートは明確に会社の管理外であり、絶対に何人にも利用されるべきではありませんが、その線引きが明確でない以上、社会的通念の範囲内で個人自身の判断によってはその一部を会社に還元することで評価を得るという選択肢もあっていいと思います。
そしてそれをチームメイトと共有する、されるを繰り返すことで、小さくても重要なイノベーションを継続的に、かつ手軽に作り出すことができる、というわけです。

私はしかし、オフラインのコミュニケーションを全面には支持しません。テレワークの業務圧縮効果は絶大だと思います。だから多くの従業員が自分の業務に不自由せず、オフライン化に反対するのです。
Googleが選んだのは、オンラインの旨味は一部残しつつ、周回先の次の一手としての制度改革だと思います。それはテレワークへの対応を断念しての退却ではなく、一度導入を経過して次のステージに進んだのだと思っています。
私は、そこまで行けばテレワークを希望する人にはそれなりのポジションを用意しつつ足元の業務のスペシャリストとして、企業のオーガニックなオペレーションの維持を期待し、そうでない人には総合職として、コア人材としてハイブリッドなスタイルで次の成長ドライバーを創出するという活躍を期待するのが合理的だと思います。

それをたいがいの企業はろくすっぽ理解もせず、やれカルチャーがなんのと非合理不経済極まる言い訳で猿マネをするわけですな。
そんなの本当にもったいないです。コロナで突っ込んだ投資回収、まだ終わってませんよね?という話です。

という、最後の一文が私のごく私的主張かつ今回のテーマでした。今回も便所の落書きです。推敲はまた後日誰にも知られずにやります。悪しからず。






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