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ONE NIGHT ONLY IN JAPAN BILLY JOEL IN CONCERT 東京ドーム 2024.1.24.

この日を迎える前には、いくつかのオリジナル・アルバムはもちろんだけれど、特に3枚のベスト盤を聴いた。One Night Only。一夜限りの来日。日本で観られるのは最後かも知れないというスペシャル公演だから、確認できる事前情報からベスト・ヒット的選曲になると決めつけたのがその理由で、当日が近づくにつれて、この3枚のベスト盤は本当によく部屋に流したし、外出時にもヘッドホンから身体に流し込んでいた。

ビリー・ジョエルとの出会いは1977年。当時は欠かさず観ていた『ぎんざNOW』木曜日のポップティーンポップス。そこで流れた「ストレンジャー」だったはずだ。切ない口笛からギターになだれ込むイントロの印象は強烈だった。後の80年代に連発した大ヒット曲たちは、世の中における洋楽の存在や個人的環境から積極的に聴かずとも自然と自分の中に染みこむことになったけれど、アルバム『ストレンジャー』と、それに続く『ニューヨーク52番街』に接した時期は、まだ洋楽にのめり込み始めたばかりのティーンエイジャー。必死で音楽を聴いていたこともあり、音楽以外の要素…それこそ景色や空気など五感で感じたものも含めて僕の中に入っているので、とても思い入れが強い。だから、ベストな選曲を期待しながらも、この2枚からの曲をたくさん聴きたいと思っていた。はたして…それは最高の形で叶うことになる。

16年ぶり、一夜限り、12回目の来日

客電が落ちたら、心の準備をする間もなく、1曲目の「マイ・ライフ」が始まる。そして「ムーヴィン・アウト」が続いた。期待通り、聴きたかった2枚のアルバム収録曲がオープニングを飾ったのだから、僕のココロとカラダは、ここで既に持っていかれてしまう。とりわけ後者は『ストレンジャー』のA面1曲目。すなわちビリー・ジョエルとの出会いの曲になるわけだ。イントロから歌メロ後にあのサックスが鳴ることがわかっていても、いや、わかっているからこそ聴く前から涙腺が緩む。実際に鳴った瞬間、それはもちろん決壊した。

My Life

その後は夢のような展開だった。終演直後にも思ったが、今、振り返っても、ヒット・シングルしか収録されていない2時間半のベスト・アルバム完全再現コンサートを観た気分だ。世の中にはこんなセット・リストが本当に存在するんだ。

" 最上級の最高と表現しても足りないかもしれない " なんて陳腐な言葉だが、本音だ。本来は、この感想以外はあの場で25曲を浴びたことの体感だけがすべてなのだけれど、冷静にセット・リストを確認しなおしてみると、その圧倒的な凄さにあらためて驚かされる。だって演奏されたビリーのオリジナル24曲のうち、21曲が僕が事前に聴いていた3枚のベスト盤に収録されていて、残りの3曲のうち2曲は『ストレンジャー』と『ニューヨーク52番街』収録曲なのだ。" 夢のような展開だった " というのが、少なくとも僕にとってはまったく大袈裟ではないことがわかってもらえるだろうか。

ベスト・アルバムのCDをシャッフルしたような本編は、テンポもよくメリハリのある構成で、あいだにはローリング・ストーンズの「スタート・ミー・アップ」のカヴァーが挟まれるという楽しい瞬間もあり、どこをとっても笑顔と涙で感動的だった。

An Innocent Man

全曲がハイライトと言える中、それでもあえて印象に残った曲をあげるとしたら、冒頭に記したように個人的な思い入れからグッときた「ムーヴィン・アウト」。東京ドームという大会場の前後左右から包み込んでくれたコーラスで曲の良さが沁みてきた「ロンゲスト・タイム」。東京ドームの中がニューヨークになった「ニューヨークの想い」。まったく予想していなかったのでイントロのドラムを聴いた瞬間から全身が反応した「さよならハリウッド」。そしてコンサートを締めくくった「ガラスのニューヨーク」のロックン・ロール! こう書いていると、あらためて、しかもハッキリと興奮と感動がよみがえってくる。

Piano Man

1976年から1979年の4年間を個人的に表すとしたら " ぼくのミュージック・ライフ " と呼べる時代だ。この時期に夢中で聴いていた洋楽は特別で大切なものである。現在の自分がそれを熱心に聴いているかなんて関係ない。数字ではない。そんな次元は超えているので、僕にとっては単なる音楽ではない。音楽で感動することは、音楽だけでしか体験できない。だから感動的なのだ。約半世紀も前に体験したそれが、未だに解けない魔法として現在の自分、現代の自分にも有効である奇跡。音楽が好きで本当によかった。2024年にこのことを思わせてくれ、実際に体験させてくれたビリー・ジョエル。ありがとう。


〈セットリスト〉
※Rolling Stone Japan ビリー・ジョエル来日公演を総括 16年待ち続けた日本のファンへの「堪らないプレゼント」から転用

  1. My Life / マイ・ライフ(冒頭にベートーヴェン「交響曲第9番」を演奏)

  2. Movin’ Out (Anthony’s Song) / ムーヴィン・アウト

  3. The Entertainer / エンターテイナー

  4. Honesty / オネスティ

  5. Zanzibar / ザンジバル(冒頭に 「さくらさくら」 の一節)

  6. An Innocent Man / イノセント・マン(冒頭にザ・ローリングストーンズ 「Start Me Up」をビリーがモノマネ歌唱)

  7. The Longest Time / ロンゲスト・タイム(冒頭にトーケンズ「ライオンは寝ている」を歌唱)

  8. Don’t Ask Me Why / ドント・アスク・ミー・ホワイ

  9. Vienna / ウィーン

  10. Keeping The Faith / キーピン・ザ・フェイス

  11. Allentown / アレンタウン

  12. New York State of Mind / ニューヨークの想い

  13. The Stranger / ストレンジャー

  14. Say Goodbye to Hollywood / さよならハリウッド

  15. Sometimes a Fantasy / 真夜中のラブ・コール

  16. Only the Good Die Young / 若死にするのは善人だけ

  17. The River of Dreams / リヴァー・オブ・ドリームス(ブレイクにバンド・メンバーのクリスタル・ タリエフェロがアイク&ティナ・ターナーの「River Deep, Mountain High」 を歌唱)

  18. Nessun dorma / 誰も寝てはならぬ(バンド・メンバーのマイク・デルジュディスが歌唱)

  19. Scenes From an Italian Restaurant / イタリアン・レストランで

  20. Piano Man / ピアノ・マン
    (アンコール)

  21. We Didn’t Start the Fire / ハートにファイア

  22. Uptown Girl / アップタウン・ガール

  23. It’s Still Rock and Roll to Me / ロックン・ロールが最高さ

  24. Big Shot / ビッグ・ショット

  25. You May Be Right / ガラスのニューヨーク(アウトロにレッド・ツェッペリン「Rock and Roll」を演奏)


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